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紙の本
明治の文豪は、みな不良だった?
2002/07/09 15:15
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投稿者:越川芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
文庫本のカヴァーには、「異色温泉小説」とある。温泉小説だって? さて、そんなジャンル、あったっけ。まあ、小説の肩書きなんて、どうでもいいや。要は、読者をあきさせないだけの仕掛けと内容をそなえているかどうかだから。
ひなびた温泉地をひとり渡り歩くのを得意とする著者のことだ、夏目漱石、正岡子規、尾崎紅葉などの明治の文学者たちをダシにして、日本全国の温泉と旅館を巧みに紹介することぐらい朝飯前、いや、嵐山風にいえば、朝風呂前だ。
商業雑誌には、タイアップ記事というのがあって、それはいっけん特集記事のようにみせかけながら、実は宣伝記事であるというトンデモない代物だ。もし旅行雑誌が老舗の旅館のタイアップ記事を載せるとして、この小説のように手のこんだ仕掛けをほどこしていれば、それはそれで楽しいものになるだろうが、そんな楽しいタイアップ記事など読んだことがない。
それでも、嵐山のこの本には、到底タイアップ記事にならない温泉というか風呂がふたつでてくる。ひとつは、詩人の北原白秋が人妻との不倫で(明治時代にあった姦通罪で)つかまり、監獄ではいる汗と体臭にまみれた最悪の風呂のくだりであり、もうひとつは、有島武郎が軽井沢の別荘で愛人と心中をこころみる前に、一緒に入る水風呂のくだりである。
「温泉小説」と銘打っていながら(どうせ担当の編集者がそうしたキャッチをつくったのだろうけど)、こういう楽しくない風呂のエピソードをちゃっかり挿入するあたりが小説家・嵐山光三郎のこわいところだ。さらに、この本でも、嵐山のブラックなユーモアは健在であり、ウソかまことか、国木田独歩と田山花袋が一緒に奥日光の温泉にはいるエピソードのなかで、国木田に勃起したペニスをにぎられた田山が自分のペンネームを「汲古(きゅうこ)」から「カタイ」としたという話、うそっぽいけど、おもわず吹き出してしまった。
いまでは高校の教科書で偉い文豪として奉られている明治の作家・詩人連中、嵐山にいわせれば、当時はみな不良だったのだ。ただの女たらしの与謝野鉄幹にしろ、足指フェチの谷崎潤一郎にしろ……。もちろん、この本の著者も、超一流の女たらしの不良であることはいうまでもない(たぶん)。 (bk1ブックナビゲーター:越川芳明/ノマド文筆家 2002.07.10)
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