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紙の本
大河小説の利点をフルに生かした名作
2006/03/05 20:51
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
天の鎖シリーズ3部作の最終編である。このシリーズでは牛と呼ばれる人物が主役であるが、名前は同じでも世代を越えた別人3人の話である。今回は2作目の最後で登場した子供、赤麻呂が牛となった。奴の子供なので、10歳になると東寺へ行って奴とならなければならないという身の上である。
しかし、牛の師匠はどことなく風変わりな僧・唯空であった。東寺は現在でもそうであるが、東寺真言宗総本山である。一方で、1作目に登場した仏師の牛は高野山でついに力尽きた。この高野山も現在は高野山真言宗総本山である。真言宗を起こした空海、弘法大師は自分の宗教の総本山を決めていなかった。高雄山寺、東大寺真言院など拠点はいくつかあったが、全体の中心となる寺院は決めていなかった。
空海が唐から持ち帰った三十帖策子は、当初は東寺にあったが、高野山の要請によって貸したところが戻ってこない。院宣まで下されて東寺の長者は取り戻そうとする。真言宗の本家を東寺と高野山とで争う図である。唯空の奴である牛は指示によって高野山の座主を監視する。
3部作はいずれの作品も牛という主人公が活躍するが、その使命はまったく異なる。また世代も異なる。また、直接の関係がない点でストーリーがつながらず、3部作と題するには当たらないと思うかもしれない。
しかし、この3部作に一貫したストーリーは必要がない。3人の牛とその周囲の人々の生き方が面白いからだ。第1作の牛から登場する謎の僧が一貫して狂言回しを行うが、歳を取らないと言う設定など、童話のようであるが、そこが面白い。
子供だった牛がいつの間にか年齢を加え、一人前になる。しかし、一人前になっても生活はそれほど大きくは変わらない。初代の牛の頃に世話になった人の子孫が二代目、三代目の牛に恩返しをする。そして、商売で儲けた金を世に役立つように悲田院に喜捨する。何となく現在でも人々が共通に願っている社会規範に思われる。
大河小説、平安時代という時代背景、主人公の使命などその良い点を十分生かした作品で、こうして現在の日本があると思わしめる作品であった。
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