雑学的に読む忍者の実像
2001/06/23 11:07
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投稿者:sfこと古谷俊一 - この投稿者のレビュー一覧を見る
文献をもとに忍者の実像と事績を雑学的に解説したものです。後半は、忍者に関りがある呪術や芸事の話が、忍者への影響を絡めて語られています。日本武道館の月刊誌『武道』に連載された内容で、毎日新聞社より単行本化されたものが文庫落ちしたものです。
題名から想像されるような伝承上・創作上の忍術のようなものについての本ではありません。現実の忍者のありかたを解説しています。工兵として、スパイとして、ゲリラ戦の専門家としての忍者、ですね。世界のどの社会でも現実的な戦いに必要とされた専門家という感じです。
芸事関係などの記載や考察は甘いので、『大江戸奇術考』などと照らし合わせると、より面白いものが見えてくると思います。
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巷間に伝わる忍者とは何か?を体系的に解説した一冊。
忍者についての第一級の資料というのが少ないため、どうしても伝承からその実態を解き明かすしかないことがよくわかった。
忍者を知る上で重要な資料とされる「万川集海」や「伊乱記」にしても、戦国期に活躍した忍者について数十年後の人が書いたものしかない。
歴史の闇の部分であるからこそ、現代の我々はそこにロマンを感じるのではあるが・・・。
本書で扱っている人物は、服部半蔵や百地丹波・藤林長門。
戦国期に活躍した伊賀衆や甲賀衆の活躍の本質にも迫る。
かいつまんで説明すると、伊賀・甲賀の忍者と伝わる人々は、特殊技術の集団という側面と、日本全国に張り巡らされた裏ネットワークの集団ことが言える。
戦国期に全国の大名たちが戦の際に、伊賀・甲賀の者達を傭兵的に諜報活動や敵に対する謀略に積極的に使ったのもその表れである。
火薬の取り扱いや毒の取り扱いといった、専門性が重宝がられたらしい。
また、全国に張り巡らされたネットワークというのは、支配者にとっての「埒外」の者たち同士が結ぶ情報伝達の網の目を指す。
例えば、山伏や猿楽・傀儡師など漂泊する者達とのつながりである。
芸能と忍者というのは、つながりが深く、室町時代に能を大成させた世阿弥の母は伊賀の服部一族から出ている。
猿楽という浮遊する芸能集団から発生した能は、世阿弥によって体制にすり寄ったものの、それまで何百年と続いた芸能ネットワークはその後も続いて行ったのである。
ところが、江戸時代からは忍者や漂泊する芸能集団が幕藩体制に組み込まれていくことになる。
伊賀衆であれば、大奥の警備という呑気な仕事に就かされ、漂泊する芸能集団も各所に小屋を立てて客をよぶようになる。
そういう意味では、幕藩体制というのは緻密に計算された支配であり、それまであった「埒外」の土地や人を体制に取り入れることに成功したのではないかと言える。
忍者にまつわる断片的な資料を基に読みやすく解説しているので、伝奇的な話が好きな方にはオススメです。
本旨とは関係ないのですが、忍者の先祖をたどるとどうしても「秦氏」にたどり着くらしく、本書でも広隆寺や聖徳太子伝説とユダヤ人の関係について解説しています。
毎年9月に京都の広隆寺で行われる「牛祭り」はそれを連想させる奇祭であるといいます。
様々な憶測と興味をかき立てた一冊ではありました。
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以前図書館で借りて読んだんですけど、文庫版を発見したので再読。
忍術、というと煙出したり火を吹いたり消えたり、みたいなイメージもありますが、よくよく調べてみるとけっこう地味な仕事だったりするんですよね。大体情報戦て地味ですよね(地味じゃないといかんというか)。
しかし電話もテレビも早い移動手段もあんまりない時代、その地味な情報戦が大事を左右したと思うと興奮します。
しかし有名になった忍者に対して「術が未熟ゆえに有名になってしまったのだ」という万川集海の批判は面白い。忍びは忍ばないとな。