紙の本
創造する人のための本
2021/12/04 01:56
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Y - この投稿者のレビュー一覧を見る
推理小説ではない、しかもかなり分厚い。それでクリスティーを読み出してからもなかなか手に取らず置いていた。にも拘らず、読み出してからはすぐに読み切ってしまった。
この本は広告と解説を除いて643ページ。それだけの長い本文が、全て最後の1ページ、行にして3行のために書かれていた。
創造することに取り付かれた経験が有る人なら、最後3行に共感による安堵を覚えると思う。
紙の本
天才芸術家の愛と苦悩を描いた大河小説
2016/12/13 17:51
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投稿者:コスモス - この投稿者のレビュー一覧を見る
アガサ・クリスティーによる叙情小説。
ミステリーの女王による本作品には、ミステリー要素は含まれていません。
『愛の旋律』は二人の女性を愛し、音楽家としての野心に取りつかれた天才芸術家の愛と苦悩を描いた大河小説です。
裏表紙に書かれた紹介文を読んだだけだと、婚約者のいるヴァ―ノンが、オペラ歌手ジェーンに惹かれるという三角関係を描いた恋愛小説と思われるかもしれません。
しかし、紹介文に書かれているように、この作品は大河小説です。
主人公ヴァ―ノンが3歳の時から始まるこの物語は、天才芸術家がオペラ作品を作り上げる過程を描いています。婚約者とジェーンとの恋愛が、オペラ作品を完成させるのに重要な役割を果たしているので、本作品は「恋愛小説」以上に「芸術家小説」なのかもしれません。
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感受性が強いヴァーノンと男まさりの活発さが長所のジョーはいとこ同志で子供の頃から仲がよかった。ヴァーノンの家の隣に引っ越して来たユダヤ人家族の息子セバスチャンと幼な友達のネルを含めた四人は大人達の世界を垣間見ながら様々な体験をする。いつしか音楽に目覚めたヴァーノンはネルへの愛情を持ちながらも歌手ジェーンにあこがれていく。第一次世界大戦を挟んだ時代を四人はそれぞれの道を歩いて行く。
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「愛の旋律」……訳名つけた人、出てこい!!といいたくなりそうな題名ですね。
ミステリーじゃないクリスティです。もともと、アガサ・クリスティ名義ではなくて、メアリ・ウェストマコット名義で書いた作品だそうです。
展開は、ベタベタです。
2人の女性の間で揺れ動く、天才音楽家……みたいな。それを幼なじみたちを交えて、少年時代から書いていく。そしてもちろん(笑)、記憶喪失もあります。
もう、ここまでやるかというぐらいベタな展開なのですが、「マリンブルーの風に抱かれて」の時にも書いたのですが、クリスティや、矢沢 あいみたいな、話作りがうまい人がやると、すごい迫力になります。
若干、迫力過多な気もするぐらいです。
でも、650ページ弱、一気に読ませる小説です。
クリスティ文庫、表紙いいよな。うまいよな。……内容とは、あんまり関係なかったりするけれど。
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ちょいと前に読み終わっていたけれど、その衝撃はいまだ冷めやらず。
天才とは恐ろしいものだ。
才能はその人自身だけでなく、周りも食い尽くさずにはいられない。
なにもかも全てが才能の奴隷や生贄になってしまう。
しかし、そんな物語を戦慄する思いで読みつつ、どうしようもなく惹きつけられた結果、ボリュームがあるのにもかかわらず一晩で読んでしまった。
自分がこういうストーリーにこんなにも魅了されるとは思わなかった。
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アガサクリスティではなく、メアリウェストマコット名の作品。
英語の題名はGiant's Bread「巨人の糧」。
幼馴染と男女の友情、従姉妹兄弟と叔母・叔父。
母親と父親。戦争と平和。
イギリスとドイツ。ユダヤ人とロシア。
音楽と美術。ピアノとオペラ。
相対する様々な関係が織り成す物語。
主人公も、男からその妻。戦士したはずの夫と遷ろう。
未完の肖像、春にして君を離れ、マン島の黄金
など、ミステリでない作品の方が、好感が持てた。
ただし、アガサクリスティの作品だと知らなかったら、読まなかったかもしれない。
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人が才能を持って生まれるのか、才能が人を選ぶのか。偉大な音楽の才能を持って生まれた主人公の青年が、たったひとつの道のためにほかの全てを失うまでの物語。あるいは人のエゴと自己愛、欺瞞、その醜さについての物語。
ずいぶんと救いようのない話だった。つまらなかったというのではない。読み始めれば劇的な展開もないうちから引き込まれ、分厚い本にも関わらず短期間で読み終えてしまった。面白く、人間の業が描かれていて、そして意地の悪い話だった。見たくないものをつきつけられるようなところがある。悲劇なのだが、悲劇に浸って気持ちよく涙を流せるというようなカタルシスではない、皮肉な話だった。
クリスティは「春にして君を離れ」に続いてまだ二冊目なのだけれど、「春にして~」と共通するテーマが根底にあるような気がした。人がいかにして自分を誤魔化し、正当化し、己の正義を信じるために多くのことに目をつぶるかということ。愛と名付けられたものの欺瞞。
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アガサ・クリスティが別名義で発表した、ミステリではない小説。
クリスティの人生に波乱が起きた後に書かれた長編で、ドラマチックで面白い。
渾身の出来に、さまざまな思いが浮かびます。
原題は「巨人の糧」で、天才はすべてを捧げつくすといった意味合いが主で、さらに二重の意味も‥
オペラ劇場で画期的な新作「巨人」が公演され、評判となるプロローグ。
さかのぼって、作曲家ヴァーノン・デイアの子供時代から。
幼いヴァーノンは内気で、空想の友達と遊んでいた。
みごとな邸宅でナースと女中達に囲まれ、裕福に育ったのだが。
実は父は邸宅を維持するために結婚し、母は留守がちな父をなじり、喧嘩が絶えない。
生命力豊かで美しいが夫を理解しない、やや愚かしい母親。この母のイメージがいささか強烈ですが、この後に出てくる人たちも皆どこかで、愛しても思うようにならない葛藤を抱えることになるのです。
奔放な従妹のジョーと、隣人のセバスチャン・レヴィンが親友となり、3人の長い付き合いが続くことになります。
幼馴染のネルが美しく成長し、社交界で結婚相手を探していました。ヴァーノンと恋に落ちますが、母は借金を抱えていて‥
ヴァーノンは就職しましたが、それでは自分の実家を維持する費用もないのです。
子供の頃は音楽が苦手だったヴァーノンは、実は天才だった。
すべてを得ようとして得られず悩む彼の前に、ジェーンという年上の女性が現れます。
自由な生き方をしている才能ある歌手なのですが、オペラを歌うには声が細く、喉をつぶす危険を冒していました。
裕福な相手とヴァーノンの間で迷うネル。
ネルとジェーンの間で揺れる運命となるヴァーノン。
そして、第一次世界大戦が‥
行方不明になったヴァーノンは‥?
評判のテレビドラマ「ダウントン・アビー」と近い時代なので、似たモチーフもあり、服装は大体ああいう格好ですね。
アガサ・クリスティは、家庭でユニークな母(ただし夫婦仲はよい)に教育を受け、内気な子供だったよう。オペラ歌手を目指していた時期もあり、天才を目の当たりに見た経験もあるのでしょう。
夫の愛人発覚、自身の一時的記憶喪失、離婚、再婚という波乱を経て、登場人物のいろいろな面に経験を生かしているようです。
ミステリでは描ききれなかった思いがほとばしるよう。
あるいは、作家としての成功が夫との亀裂を招いたという思いもあるのかも‥
(ハンサムな最初の夫とはあまり共通点がなく、クリスティの作品ではハンサムな男性はたいてい悪党なのはそのせいかもしれません?!)
めでたく再婚した年に発表された小説ですが、書かれたのはもっと前でしょう。
ハッピーエンドとは言い切れないのですが。オーケストラのように盛り上がる構成に、苦難を乗り越えて生きていく力強さも感じられます。
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訳本は「クリスティー」名義だったので気が付かなったが、ミステリーではなかった。それで、この本がない処があったのか。しかし、意外と引き込まれた。幼馴染どうしの恋愛やすれ違いなどがスピーディに展開するが、ドロドロではない。音楽の才能とかが絡むからだろうか。なんか感想はうまく書けないが、面白かった。
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おもしろい。一気に読んでしまった。ミステリーではないが、5人の若い男女の織りなす愛の物語と、作曲に憑かれた男の創造意欲、そして第一次世界大戦をはさむ非常時に翻弄される運命が二転三転する様はまるでミステリーのようだ。
イギリスの何代も続くお屋敷に生まれたヴァーノン・ディア、従妹のジョー、隣に越してきたユダヤ人少年セバスチャン、そしてヴァーノンの幼友達ネル、オペラ歌手ジェーン。ヴァーノンとセバスチャンはケンブリッジ卒業後すぐに第一次世界大戦に召集なので、おそらくクリスティと同年代の設定。主人公ヴァーノンの音楽への創造意欲、友人セバスチャンの商売、奔放な愛に生きるジョー、男の経済力に頼るネル、声楽でも己の愛にも強い主張のある女性ジェーン、この5人すべてがクリスティの分身なのではないかと感じる。
冒頭の現代音楽とおぼしき音楽界の様子、「我々は戦争によって実に多くのものを失ったね」
一転、ヴァーノンが1歳の頃からのお屋敷での使用人との日々、折り合わぬ父と母、ひとり空想で遊ぶ日々が綴られる。けっこう長いのだが、これが主人公ヴァーノンという人物を理解する基礎となる。
長じてボーア戦争で戦死した父を残し実家近くに引っ越す母。息子が母を疎う気持がリアル。そして父のお屋敷の直系として屋敷を愛する気持ち。姻族とは所詮義理の関係なのだ、結局、人生の終盤には出自の血族に意識は戻るのか、といったあたり、還暦過ぎて読むとなかなかリアルだ。だがクリスティはこれを40歳の時に書いてるんだなあ。
1930発表
2004.2.15発行 2019.6.15第2刷
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巡りあい別れゆく運命の人たち。
お屋敷の少年ヴァーノン・デイアは、音楽が苦手だった。活発な従姉妹ジョー、隣のユダヤ人少年セバスチャン、大人しい美少女ネルと育っていくヴァーノン。彼が音楽に目覚め、オペラ歌手ジェーンと出会い、4人の幼馴染とジェーンをめぐる人間関係は変わっていき——財産、戦争、才能に翻弄される愛の大河小説。
ラストまで読んだら、必ずプロローグに戻りたくなる。そしてプロローグを読み返してため息をつくだろう。クリスティーはこういう話も書くんだ、というのが第一の感想。ロマンティックが濃厚に詰め込まれ、運命の波に一緒に翻弄された。翻弄され続け、失い続けたヴァーノンが、作り上げた《巨人》という賛否両論の楽曲。家も愛する人も名前も失った、一度は音楽も失った末に、彼がたどり着いたところ。芸術のエネルギーと狂気を感じた。
個人的にはネルの葛藤がわかりやすいというか、いくら女性の社会進出が進んでも、時代を超えて存在する人物像だと思う。貧しさに苦しんでも愛する人を選んで、けれどその夫は死んでしまった。だったら、手を差し伸べてくれた優しいお金のある人に身を委ねてもいいだろう。けれど、夫は実は生きていた。今更あの貧しい暮らしには戻る勇気が出ない。大抵の人が、ネルの立場ならネルと同じ選択をするのでは。ネルを好きだという人は少ないだろうけど、共感したりどきっとしたりする人は多いだろう。私はそうだ。
ジェーンのような人間は、あまりに理想的すぎて存在しないだろう。誰の理想か。ジェーンに愛されるヴァーノンの? クリスティーの? ネルのように男性に振り回されるのではなく、自分が男性を選び、動かしていく女性ジェーン。個人的にはネルくらい普通の人間なので、ジェーンがライバル側にいるのは怖い。ジェーンみたいに生きたいかというと、あまりそうも思えない。ジェーンの内側がよくわからないまま、彼女は去ってしまうから。
親友セバスチャン・レヴィンについて。ユダヤ人というコンプレックスがどれほどまでかは自分にはわかりえないが、自分のお金に対する才能を信じ、活かし、親友のために色々と尽力するところは好きだ。一定の成功は手に入れている。しかし、順風満帆ではもちろんないし、ずっと幸せかというとそうでもない。けれど、報われた、といってもいいのではないか。抱えた痛みは血を流し続けているのかもしれないが。彼を評価するのは難しい。
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愛の旋律
アガサ・クリスティ
メアリ・ウェストマコット名義のクリスティ小説①
*☼*―――――*☼*―――――
653pの長編。ヴァーノンの幼い頃の話が面白くて入り込みやすく、思わず没頭して読みました。
ジョーやセバスチャンとの出会い、両親との距離感、ネルとの恋、情熱的なジェーンへの揺れ動く想い。
ジェーンは神格で、でも実際はネルのような、ぬるま湯に浸かっていたい感覚、不利な時に正当化したい気持ちとか、幸せになって何が悪いんだって思う感情を持った人の方が多いんじゃないかな。
登場人物の中ではネルや母親のマイラはすごくイライラして嫌いなNo.1、2だったけど、この2人が自分に近いかも知れないからこそ、読んでて嫌な気持ちになるのかもって思った。
なのでジェーンの言葉は、その通りだと思うことが多くあったけど、あまりズバッと言うのでヴァーノンやネルの気持ちを考えると結構しんどい。
2022/07/02読了(図書館)