紙の本
作者の本分
2017/05/11 20:37
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投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
葉室氏の作品を何冊か読んだところです。戦国武将を書いた作品より こちらのような作品こそが本分だと思います。世に名前が知られている男よりも 地道に生きている男たちを書いた作品のほうが魅力的ですね。
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寛政期の架空の藩を舞台に、立場と身分が離れた幼馴染み三人の男たちの物語。
同作者の「乾山晩愁」でも思ったが作中の芸術品への描写が細かく、著者の美的な視線は他小説に類を見ないと思う。
本作もだが彼の書く時代小説は、渋い。
まず、主人公がヒーローではない。時代小説や歴史小説はやはり、それなりに主人公が格好良く読み手に、憧れと自己投影による陶酔感をもたらしていると思う…が、本作の中心人物たちは格好良くはない。否、違う格好よさがありヒーローのような格好よさは謳われない。
彼らは、リアルである。
まず年は50を越えていて人生も終盤に差し掛かる頃合。所謂、オジサマだ。それぞれに行き着いた社会的立場から、藩内の内紛に関わるのだが、小説と云うフィクションだからと云って彼らは輝かしい活躍をする訳では無い。目の前にある事を、こなす。そうして生きてる。それは現代社会の壮年期男性の姿そのもののように思える。
タイトルの銀漢とは、漢詩で天の川を差すそうだ。作中、主人公のひとり日下部源五は髪に白いものが混じり始めた我身や親友の松浦将監を指して、年を重ねた男も銀漢かもしれぬ、と思う。
わたしは「やられた!」と思う。
彼らの人生は藩や時代の流れの中では一瞬の些末なものだろう。それはかくも、天の川の中の星粒のひとつであるかの如く。しかし、星粒がなければ天の川は輝きを保てない。小さくても生いっぱい何かを賭した男こそ、銀漢と呼ぶに相応しい。
その輝きがさらに増すのは、描かれている友情の為であろう。かつて友の一人を失った一揆から二人は絶縁していたのだが、また言葉を交わすことになる。それをきっかけに友情が変わらずあることを知るのである。
失脚させられた元家老将監は、脱藩の峠越えで云う。
「夕斎は失脚した時、ただ一人だけだった。しかし、わしには友がいた」
この年だからこそぐっと来るせりふ。う〜ん渋い。
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文章が綺麗だが力強さもある。こういう文章はやはり男性作家ゆえか。
内容(「BOOK」データベースより)
寛政期、西国の小藩である月ヶ瀬藩の郡方・日下部源五と、名家老と謳われ、幕閣にまで名声が届いている松浦将監。幼なじみで、同じ剣術道場に通っていた二人は、ある出来事を境に、進む道が分かれ、絶縁状態となっていた。二人の路が再び交差する時、運命が激しく動き出す。第十四回松本清張賞受賞作。
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銀漢とは天の川のこと。幼少時に幼馴染との友情から別れ、決闘の場面と読み応えがあった。
周五郎作品の『樅の木は残った』に似ているな・・・と思いました。
読後感はさわやかで良かったです。
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「知っておるか、天の川のことを銀漢というのを。漢というのは男という意味ではなく大河のことだ。」十蔵、源五、小弥太3人の男たちの運命と友情を描いた骨太の時代小説。過去と現在を交互に物語は進み、3人の運命が絡み合い、老境をむかえた小弥太・源五の運命が再び絡みはじめる。
「銀漢とは天の川のことなのだろうが、頭に霜を置き、年齢を重ねた男も銀漢かもしれんな。」
余命を知った小弥太は「命を使い切ってやろうと思う」源五は「お主の命、使い切らせてやろう」と友のために自らを捨てる覚悟をする。そこにベタベタした馴れ合いも押し付けがましい感覚もないのが好ましい。覚悟と心映え。
葉室麟の一連の作品は、若い頃、司馬遼を読んだ衝撃、高橋克彦の魂、藤沢周平の清冽さ、北方謙三の高揚感、それに勝るとも劣らない。
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面白かった!
読み終えてこんなに清々しい気持ちになれた小説は久しぶり。
これから直木賞受賞作を読みますが、期待大です。
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後半になって、めまぐるしく状況が変転し、手に汗握る剣戟シーンなど、いっきに見せ場に変わります。潔く志に殉じた男、あくまでも志のために闘った男、思うままに信念を貫いた男、そんな3人の友情が魅力的でした。
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歴史小説は好きな分野ですが、藤沢周平さん以来のこの人の書いたものはすべて読んでおきたい!と思った作品でした。少年時代をともにした3人の男の友情と家族、藩の陰謀の話。その後ご身分や立場も異なり、一度は絶縁状態に陥りながらも、再び命をかけて陰謀と対峙する。歴史小説では割と取り上げられる題材だし、そんなに長編でもないのに、いろいろのところで心が揺さぶられました…、大人になり、地位が上がる者は正義感やきれいごとだけではおさめられない出来事を多く経験し、それらを3人の少年の目と、大人になってからの目の両方、そして複数の立場から描かれているところがとても新鮮でした。これらの対比を読むことで、より深くそれぞれの心情に触れることができたと思う。悔しかった。悲しかった。でもそれらを帳消しにするくらい無条件の友情と、クスクスっときてしまう家族関係がこの作品を救っていると思った。
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まっすぐな武士ばかりじゃない。人間臭い男の友情がとってもよかった。最後の終わり方もくすりと笑ってしまった。蜩の記を読んで興味がわいた葉室麟。時代小説を読み慣れていない自分にとっては、最初の方はちょっとつらかったが、読み進めるうちにのめりこめる。次は何をよもうか。
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銀漢 ってなに? 賦 ってなに?
と思いながら読み始めた。江戸時代の男(漢?)達の物語。
漢字が多い。漢詩もでてくる。男らしい男たちがでてくる。
しょうもない男もでてくるけれど、気にならない。主人公の三人の男たちに気が入ってしまうからだと思う。中でもへそ曲がりの源五が一番好きかな。
天気の良い夜に空を見上げたくなりました。できれば山の中、満天の星を見たくなりました。
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いやー。流石周平、周五郎の再来といわれるだけある。お勧めです!時は江戸時代中期、場所は九州のとある架空の小藩が舞台。身分が異なる三人の登場人物の友情の絆を真実の心の様を和歌や漢詩など場面場面にて的確に織り交ぜ見事に描ききっている。主人公である家老の母親の言葉「 花の美しさは形にあるが人の美しさは覚悟と心映え」と。あちこちに美しく清らかなフレーズが。ちなみに銀漢とは天の川との事。まあ読んでみなはれ!
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月ヶ瀬藩という架空の藩を舞台にした時代小説。
周りから軽んじられている下級武士の日下部源五。
江戸にまで名の知られた名家老の松浦将監。
ふたりは幼い頃同じ道場で剣術を学んだ仲であったが、
ある出来事を境に縁を切っていた。
すでに縁を切った状態のふたりが、あくまでも仕事で
一緒に領内の新田を視察するところから物語は始まる。
その際、源五は将監の身体の変調に気づき、
将監はまた源五にとあることを打ち明けるのだが…
ふたりのもうひとりの親友、百姓の十蔵とのことも含め、
物語は三人の幼少期、青年期の回想と現在を行き来し
少しずつ三人の運命について話が展開していく。
この時代ならではの友情の形。
何かを成し遂げようとする男たちの強さと孤独。
彼らを支える女たちの清廉さ。
クライマックスもあっさりとしてて、やや地味な印象。
だが、読後の余韻はなぜか力強い。
個人的には三人の幼少期から最期までを時系列に
描いてくれた方がもっと楽しめたかもなと感じた。
回想だとどうしても展開が読めてしまうし、
最初から暗い印象が根付いてしまった感じ。
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絶交していても、罰し罰せられる立場になっても、建前全てを取り払ったところでは分かり合えていた友人たち。
山本周五郎を思い起こさせる内容です。
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今年の直木賞を受賞した作家なのでとりあえず読んでみましたが「蝉しぐれ」とかが好きだった私としては、とっても面白かった。日本映画で役所広司と佐藤浩市とかで映画化してほしいかんじ。
年老いた元家老と不遇の武士である幼なじみ、そして一揆の首謀者として処刑されたもうひとりの幼なじみの百姓とのお話がからむ。確かに勧善懲悪で、本当の忠義とはなにか、という時代小説なのだが、おそらく40代から50代の男性にはうけるのでは。
最後の夕斎の幽霊のくだりはちょっと蛇足じゃないかな、と思うけれども、全体的に情景がうかぶ感じで面白かった!他の作品も読みたいとおもった。
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全1巻。
今年の直木賞とってた作家さん。
の、松本清張賞受賞作。
年取った男達の友情物語。
現在と過去の回想を行ったり来たりしながら
段々物語の背景が見えてくる構成。
現実の方で先にストーリーはどんどん進むのに、
いろいろな事情に触れないまま展開してくので、
最初はあまり意味が分からず、ちょっと複雑な感じ。
が、段々世界が見えてくると、
急に物語に引き込まれ、いろいろぐっとくる。
年とって、いろいろ積み重ねた上で味わい直す古い友情に、
目頭が熱くなった。
物語の最後に哀しさではなく
可笑しさを持ってきてるのも
個人的にはうまいと思った。
読み終わりの清涼感が気持ちいい。
構造の複雑さもあって、
改めて最初から読み直してみたくなる。
文章は少し硬質で、正統派な時代作家って印象。
ただ、しみるような愛しさや
可笑しさがちょいちょいちりばめられ、
堅苦しさはそんなにない。
緊迫感あるチャンバラに、少しのロマンス。
あとがきにあった「大人の時代小説」って言葉が
スゴく言い表してると思う。
いぶし銀。
もうちょい読んでみようと思った作家さん。
追記。
再読がおすすめ。