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今日、1人の独裁者が選挙で選ばれた。この作品では、しかし、その独裁者でさえ「システムの中の一つ」でしかないと述べている。
「自分たちのはめ込まれているシステムが複雑化して、さらにその効果が巨大になると、人からは全体を想像する力が見事に消える。仮にその、「巨大になった効果」が酷いことだとしよう。数百万人の人間をガス室で殺すような行為だとしよう。その場合、細分化された仕事を任された人間から消えるのは?」
「何だい?」
「『良心』だ」
「まさに、アドルフ・アイヒマンか、それが」岡本猛がストローで氷をまた、かき回し始めた。
「じゃあ、その仕組みを作った奴が、一番悪い奴だ」私は単純に言い切る。
「機械化を始めた奴が?誰だよそれは。それに仕組みを作った奴だって、たぶん部品の一つだ。動かしているのは、人というよりは目に見えない何かだ」(上巻P278-P279)
なんだかだんだんと伊坂幸太郎が芥川のように思えてきた。頭がよくて、社会の本質を見据えているのに、社会を斜(しゃ)に構えて書くことしかできなかった、そして自殺した人物。
この作品の中でも芥川の言葉が印象深く引用されている。
「危険思想とは、常識を実行に移そうとする思想である」
ところで、芥川の場合、「危険思想」とは「社会主義思想」のことであった。果たして伊坂の場合、どうなのか。「人というより目に見えない何かだ」というのが、私にはマルクスの「人間疎外論」のように思えて仕方ないのであるが。
そして「アリは賢くない。しかし、アリのコロニーは賢い」という「国家」というものに、斜(はす)から捉えた小説になった。
いつもの伊坂に比べて、伏線として使われる「名言」が嫌にひつこく使われていて、「切れが悪いな」と思っていたら、どうやら漫画週刊誌の「モーニング」に連載されていたらしい。その読者用に書かれたのだと思い、納得した。結果、同時期に作られた「コールデンスランバー」のような傑作とはなっていないが、「伊坂らしい」作品になった。
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いろんな要素がいっぺんに詰め込まれたような物語。
登場人物などは魅力的だし、心を揺さぶられるようなセリフも沢山あったけど、テーマとしては今更で少々くどいような気が・・・。
あまり自分の好みには合わない小説だった。
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'私は、私に相談もなく、そんなことまで言っている'
「目を逸らして、生きてるんだ」渡辺拓海
「勇気は彼女が。彼女が持っている。俺がなくしたりしないように」渡辺拓海
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忙しくてしばらく積ん読状態だったのですが、読みだすと期待を裏切らない展開の連続で、滝から落ちる水のようにあっという間に読みきってしまいました(^_^;)
社会の生臭い部分が文章になって目の前に現れたようで考えるところもあったりするけれど、そこに独特のユーモアが利いていて、とんでもない変化球のような印象。
途中「ゴールデンスランバー」を思い出すような節があったけれど、同時期に書かれたものと知り、納得しました。
すっかり忘れてしまったので、「魔王」を読み返したくなる今日この頃です。
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いつも文庫版になってから読むのだけれど、書かれた当時とのタイムラグを感じさせない、むしろ今だからこそ響く内容でした。
とくに下巻はおもしろい。伊坂さんの文章は本当に読んでいて楽しいです。たとえシリアスな内容でも、どこかに必ずユーモアがあって救いがあるなぁと思います。
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久しぶりに触れた伊坂ワールドはちょっとした違和感と登場人物への愛着を起こさせてくれました。伊坂作品の登場人物は冷めているんだけど嫌いになれないというか、感情移入できるというか。
伊坂さんだなぁとニヤニヤしながら読み終わった気がします。
下巻でやっと魔王の内容を思い出すという感じで、そういえば魔王ってこんな話だったなと繋がっていく内容。
種々様々な小さい疑問や不満は残るものの、やっぱり面白かったです。
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伊坂幸太郎らしく、さくさく読める。話運びも軽妙。
でもなんか話の進め方が無理矢理で、伊坂幸太郎らしくないなーと思いながらも、そのまま読了。
あとがき読んで、これが週間連載やったってことを知って、ちょっと納得。
砂漠とか魔王とかの方が面白いなーと。
強くて怖い嫁ちゃんはいいキャラ。
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【自分と向き合いながら読む、小難しい本】
文庫巻末の解説にも書いてありますが、この本は
「魔王」の続編、「ゴールデンスランバー」の兄弟のような1冊です。
まだ読んでいないものがある場合は、是非合わせて読むことをお勧めいたします。
読了感は、「すっきり爽快!」という感じではなく、
重~く、じんわりしたものが残りました。
伊坂さんのこういうタイプの本(スッキリ系ではないもの)を読むと、
見せかけの情報に惑わされない事、自分で考えること、知識・知恵を持つことの大切さ
…などをすごく考えさせられ、宿題を出されたような気分になります。
特に、「自分で考えること」は、様々な作品に出てくるキーワードだと思います。
この宿題から逃げ回っている私ですが、もうそろそろ観念して、向き合ってみるのも良いかなと思わされました。
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「そういうことになっている」「そういうシステムなんだ」
そういう雰囲気や流れは普段の生活でもなんとなく感じている。そして、わかりやすい「悪役」や「首謀者」というのは現実には存在しないのだ。伊坂さんが小説の中で繰り広げる国家論は非常にわかりやすいし、すっと腑に落ちるものがある。
日頃新聞やテレビなどで見かける「国や大企業悪玉論」についてなにか違和感を持っていた。現実世界でそんなに単純な善悪二元論や、勧善懲悪が存在するとは思えなかったからだ。
人はみな社会の歯車にすぎず、作業は細分化されて目に見えなくなっている。みなそれぞれ誠実に自分の仕事をこなしているだけなのに、いつのまにか大事故が起きたり不祥事が発生したりする。しかしその責任を追求していくといつの間にか対象が立ち消えになってしまうのだ。
そういう社会に対する漠然とした胡散臭さを、伊坂作品は明確に形にする。
単行本の時は「超能力」に対する比重がわりと大きくて、そこがこの話をよりいっそう非現実的なものにしていたと思うが、今回はその超能力すらも、人の認識のあやふやさを浮き彫りにする良い材料になっていた。
そして、最終的に明かされる事件の真相を書きなおしたことにより、中盤の安藤商会でのやりとりがすっきりしたし、さらなる無力感をも醸しだしていたと思う。
いやほんとに、けっこう現実の社会も真相はこんなもんじゃないのかな、と思ってしまう。
同時に執筆されていた「ゴールデンスランバー」も、世の中の仕組みって結局はこんなもんなんじゃないかと思わされるところがある。なぜ青柳が選ばれたのかについてはさほど深い意味があるわけではないが(おそらく適当な人材だといったところだろう)、青柳の置かれた状況そのものは、ある特定の人物にとって出現する必要のある状況だったということなのだ。
このあたりは、ネットでよく見かけるさまざまな「陰謀論」と構造が似ている。
ラストの渡辺の選択は、決して積極的な方法ではないけれども、しかし一つの方法であることは確かで、畢竟敵が確定できない戦いに勝つことなど誰にもできないのだ。
ゴールデンスランバーでは青柳は元の顔を捨てて徹底して逃げる。渡辺は関係を断ち切ることで生き延びようとしている。そうやって、勝たないけれども負けない生き方で生きていくというのもひとつの方法である。
それにしても、最後まで謎だったのは、渡辺の妻佳代子である。いったい彼女は何者なんだろう。やたら強いし、変なコネクションは持っているし、異常なまでのヤキモチやきである。なぜあそこまで執拗に夫の浮気を疑うのだろう。あの不可解ぶりは、もしかして作者の女性観が反映されているのだろうか。理屈が通じなくて、やたら強くて、でも可愛くて、みたいな。
あんなに嫉妬心の強い妻なのに嫌いにならない渡辺も不思議だった。
勇気を彼女に預けてしまったからなのかもしれない。
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解説にもあったが、「魔王」の50年後の物語というだけでなく、「ゴールデンスランバー」の雰囲気も合わせ持った作品だった。
圧倒的に巨大で得体の知れない力ーシステムーに対して、渡辺とその仲間たちが立ち向かっていく様子は、魔法のようにページをめくる手を止めさせない。
本作を読んで、伊坂幸太郎さんの作品が、決して軽妙なだけではないことを、改めて(新作を読むたびになんだが(笑))思い知らされた。
エンディングもとても気に入っている。
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ゴールデンスランバーに何となく似ている。何となく、というか、ある特定の個人が相手なのじゃなくて、もっととてつもなくでかくて強大なものを相手にするところが、と思いながらちょっぴり解説読んだら、ちょうど似たような時期に執筆してたんだってね。
そういえば、ゴールデンスランバーは昔のビートルズ、モダンタイムスは昔のチャップリン、ってことで、懐かしの名作からタイトルをもらってきたところも似てるといえば似ている。
そして、私がこの2つに出てくる主人公の朴訥とした感じが好き、という点も。
敵、と呼ばれるものが個人に特定できないから仕方ないのかもしれないけど、この主人公たちは、別に事件に積極的に関わる気は毛頭ないのにどうしてなのかわからないままなんとなく巻き込まれて行く、あれが世の中の本質なんじゃないかなー。この21世紀に、どこかの探偵みたいに、自分からなんらかの事件に首突っ込んで行く人は実在しないもんね。
それでも、勇気だけでなんとかしようとあがく、あの感じに飛んでもなく共感するわけです。
そして、伊坂小説に出てくる女子たちの勇敢さというのにも、私は激しく惹かれるわけです。やり過ぎ感は否めないけど、守るべきものをきっちり守る、あの清々しさに惹かれる。
途中、人間は何の目的のためにいきるのか、という深すぎる問いが展開されるのだけど、それを端的に表しているのが伊坂作品の女子たちなんだろうな、と思う。男っていうのはその点めんどくさく回り道をするのだ。国のため、コロニーのため、云々と。
その点この中の主人公の妻とかは、他人の幸せとかどうでもよくて、旦那、という小さくシンプルな目的のために生きている。
それがどんだけモラルから外れていて狂気じみているとしても。
…なんて私が回りくどいこという前に、まずは、この小説のプレリュードであるところの、「魔王」を読めってことだな。題名が怖すぎて今まで手を出せなかったのだけど。
「魔王を読む、勇気はあるか」ってことだね。この小説のテーマ的に言うと。ふん、あるよ、ありますよー、だ。
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一度読んだことがあるような気がすると思いつつも、上巻に引き続き下巻も読んでみた。
で、結論としてはやっぱり一度読んだことがある。娯楽小説としてとても楽しむことができた『ゴールデンスランバー』に比べて、説教臭さや思想性を濃密に感じてがっかりした記憶がある。ブックオフに買い取ってもらったので単行本が本棚になかったというわけ。
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大幅改稿ありとの宣伝どおり、随分前に単行本を読んだ記憶を頼りに脳内で比べても違うとわかるくらいの、大幅な加筆がされています。とはいえストーリーそのものに大きな変化があるわけではなく、物語をより面白くするための追加要素が増えた感じで、とても面白かった。伊坂節も炸裂で、久しぶりに伊坂さんを味わったなーって感じ。お元気でいらっしゃるようで、なによりだな、と違う意味でも安心しました。
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国家という社会システムがテーマ。伊坂作品だから全然堅苦しくないのだけどね!
こんな大きなモヤモヤとしたテーマをよくぞここまで面白くまとめたなーって思う。これは他の伊坂作品でも言えることだけど。相変わらず登場人物がいい味出してます☆ 佳代子のまっすぐさと潔さがが好き!五反田の嫌味も好き!
テーマがテーマなだけに、ちょっと前に読んだ『日米同盟の正体』とリンクして、興味深かった!
ゴールデンスランバー読み返そう、そして魔王買いにいこう!
巻末記載の参考文献もなかなか面白そう!
「大事なルールほど、法律では決まってないのよ。困った人に手を貸しなさい、とかね、そういうのは法律になってない。」
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モーニングで週刊連載されてた作品で、伊坂さん本人曰く、冒頭と終わりを意識したからか終始読みごたえがあり面白かった。
読んでいるときに感じていたが、『ゴールデンスランバー』と同時期に書いたものらしく、どこか雰囲気が似ている。本書のほうが私好み。
そして、何気ない会話にある言い回しだったり、小話だったりが相変わらず秀逸。