紙の本
『銃口』や『青い棘』を描いた三浦綾子氏の背景が分かる
2024/01/17 13:16
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
三浦綾子さんの自伝小説。
戦中に何の疑いも持たず教師として軍国主義教育を担った反省がにじむ。『氷点』や『ひつじが丘』など現代社会のひずみや人間のエゴや愛をテーマにした作品が知られるが、『青い棘』や最後の作品『銃口』では、戦争と何かを、銃後にいた人間の目から描いている。
こうした作品のバックグラウンドに、三浦さんの痛烈な悔恨があるのだと改めて実感した。
いくつか心に残った言葉を引く。
「平凡なる人間は、超越するどころかこの世の時流に巻き込まれ押し流されてしまう弱い存在なのだ」
「あなたもあの時期に生きていたら、この愚かな仲間の一人になっていなかったとはいえないのだ」
「与えられた仕事を国家のために忠実にすると言うだけなら、あのガス室の大量殺人の仕事を持たされても黙々と従うだけのことになりかねないのだ」
(本書をつづった動機として)「石ころもまた、歌う者であることを人々に知ってほしいが故に。そしてすべての石ころをおしつぶすブルドーザーのような権力の非常さを知ってほしいが故に」
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投稿者:MR1110 - この投稿者のレビュー一覧を見る
三浦綾子作品をきちんと読んだのは初めてでした。三浦さんの印象が変わりました。敬虔なクリスチャンになる前の三浦さんが赤裸々に描かれています。戦時下で何の疑問も持たずに情熱的に教鞭をとっていた時と終戦後の虚無感。戦時中に自分が三浦さんの立場であったらやはり同じような考え方になってしまうであろう恐怖。他の自伝も読んでみたいと思う作品です。
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共感。
同じ職業として、考えることがいっぱい。
にしても、興味深い人。
ほかの自伝も読んでみたい。
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石ころのように平凡の一少女であったわたしは、軍国主義のさなか、女学校を卒業して小学校の教師となり、天皇への忠誠を信念にすえ日々を過ごしていた。しかし敗戦による激しい衝撃を受け、わたしは深い自己不信に陥った。そして教育者としても人間としても、女性としても迷いの中に入り込んでしまったーー。
戦中、戦後という時代の波にもまれ悩み苦しんだ青春期を振り返る長編自伝小説。
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作家三浦綾子さんが,まだ,堀田綾子だった頃のことを綴った自伝です。
描かれている時代は,幼少から,年若くして教員となり戦前・戦中を皇国史観の中で教育し,敗戦を迎えた頃までです。
綾子は,全身全霊をかたむけて教育にあたり,子どもとともに成長していたからこそ,敗戦で受けた衝撃は大きなものでした。この生き方で間違いないと思っていたことが,脆くも崩れ去るとき,彼女は,教壇から去って行きます。たった7年の教師生活でした。
昨日まで教えていた教科書に墨をぬらせたということは,わたしをして,単に国家や政治への不信ばかりではなく,すべての人間への不信に追いやっていたのである。p.339
人間としても,どう生きていけば良いのか分からない状態になった綾子は,重い病気まで引き起こしてしまいます。
自分の過去を客観的にふり返る姿は,時に大変赤裸々です。さすが作家さんだと感心します。
遊女の意味も分からず,男女の関係も分からず,ただ純粋培養された娘が,どのように社会と交わって成長していくのか。現代では考えられない,10代前半から20代前半の少女の考え方が見えて,興味深いです。
なお,三浦さんには,この続編となる自伝『道ありき』『この土の器をも』というのもあるそうです。
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時代が違えば私も…と、改めて思わされる。この人にも、こんな軍国少女時代があったのだ。
同じく戦時中の自伝を書いた曾野綾子の本も、近々読んでみよう。
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とても熱心に教師をしていたことで、終戦のあとの反動が凄まじかったのでしょう。こういう形で自らが考えていたことを残せることって、羨ましくもあり、すごいことだと思う。
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三浦綾子の自伝小説だ。
彼女は、小学校の教師になり、皆から好かれた。だが、彼女はこの小説を書くにあたって、当時のことを思い出し、自分は全然教師として失格だったと悔悟している。たしかに、彼女のクラスの子たちは、成績は良い方だった。でも、今にして思うことは、全然、子供たちに必要なことを、大切なことを教えていなかったというのだ。真理を教えるべきであったと。愛することは何かを教えるべきであったと。実につまらぬことを口やかましく教えてきたことを後悔したという。キリスト教に帰依した彼女らしい反省で好感がもてる。彼女は、生徒をかわいいと思い、厳しく躾けることを使命と思い、1人の生徒も置き去りにしてはならぬと思い、働いていたのだ。それでも十分立派だと思うが、ダメなのだ。彼女は生徒たちに、大きくなったら、あなた方も御国のために死ぬのよ、と語っていたという。その一方で、生徒が可愛くてならなかったというのだから、戦争というものが世の中の思考に影響をあたえる異常さを本当に恐ろしくかんじる。それを彼女は、書く。
国家が戦争をはじめた場合、勝つという一つの目的に向かって強引に国民を引っ張っていく。たんに、特高警察や憲兵が脅し、すかすだけではない。自分みずからが、志願さえして命を落としていくほどに洗脳されてしまう。そして国民全体がそれを讃美し、戦争を肯定して疑わぬ心理になっていく。
彼女がカエリスになるまでは描かれていないが、本書の最後の方に書かれている言葉がある。
この世の中で絶対というものは何だろうかと。神でもないと。それは、自分は死ぬということだ。そして、彼も彼女もみな死ぬという事だ。それだけは絶対であるのだ。だから何ということまでは言われてない。ただその事実があるだけだ。
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読み終わったのが8/と原爆投下の日。偶然だけど、おぉっと思った。
三浦綾子さんは、予想を越えるいい意味で変わった方だった。裁縫お料理が得意な、勝手に女性っぽいイメージを持っていたので。
自伝ということで、どんな生涯を送ったのかな〜と思い読み始めたが、最後に思った事は戦争は二度と起こしたらいけないな。と感じた。
戦時中の話を聞く機会が減った中で、このタイミングでこの本に出会えて感謝です。
私の知らない戦時中のことを色々と知ることができた。
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作者の作品は「氷点」を高校生時代に読んだ以来でした。
作家になる前は戦時中は教師をされていた時のお話です。
彼女自身の若い頃の自伝小説です。
作者の人なり、戦時中の生活、炭鉱街で暮らす人々の生活が書かれています。
作者の戦争への思いを知る事が出来ます。