今にも通ずるものがある
2025/01/31 00:44
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投稿者:まさ - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史物を中心とした森鴎外の短編集。
馴染みのない言葉が多く、注釈を行ったり来たりしながら読み進めることに。
鴎外自身が軍医だった経験からか、安楽死や殉死など死に纏わるものが多々あり、「高瀬舟」はどうしょうもないやるせ無さを感じる。
最後の「阿部一族」は熊本に縁のある話で熊本県民には馴染みのある地名が多々出てくる。
殉死というと思い浮かぶのは乃木希典で、やはり鴎外もその影響を受けていたらしい。
今となっては理解しがたい殉死も、次々と忠臣が死に行く中残された阿部に対する周りからの圧力は今にも通ずるものがある。
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「山椒大夫・高瀬舟・阿部一族」森 鷗外
歴史文学。鉄色。
文章が難しかったです。でも、ゆっくり読めばストーリーは分かるし、時代時代の倫理観が読みどころなのかな、という読了感でした。
『阿部一族』で、次から次へと人が死にます。もちろん推理小説的な意味ではなくて、主君に殉ずる、家督に殉ずる、名誉に殉ずる。死を怖れず名を守ることをさも当たり前のように捉えて、描いている。でも、つまり鷗外がこれを主題に倫理観を捉えているということは、美意識として又は忌むべき旧態として、特筆すべき故事だということですよね。小説であるならなおさら。
他『山椒大夫』の悲劇にしても、『じいさんばあさん』の夫婦愛にしても、近代には既に廃れ始めている封建時代の美徳というのが、その100年後の今でも、美徳の形(形骸)として残っているのが興味深いなあ、と思います。
『阿部一族』のp156、殉死を前にして午睡をとる主人、各々物を思う母、よめ、弟。家人もひっそりとしているなか、微かに鳴る風鈴、手水鉢に伏せた柄杓といっぴきのやんまの風情。いやー、綺麗すぎる。。
『寒山拾得』はよく分かりませんでした。残念。
正直言って、現代作家でこういった風情のある作品を読みたいねえ。ただの回顧主義じゃなくて、今の日本に今の日本ながらに残っている、封建時代の情景というか、荒んでおらず軟体化もしていない日本人を読みたい。
(3)
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教科書に載っていた『舞姫』以来久しぶりの森鴎外作品。表紙がきれいで、見ていて飽きない。今回は以下の3作品を読みました。
『山椒大夫』…正直、なんだかよくわからなかった。当時の人買いの風習だとか、奴隷として働くくらいなら入水しようという考え方?信仰の大切さ?姉弟愛?いろいろあるだろうけど、その時々の生き方を書いているのだろうか。読む人次第なのかな。
『高瀬舟』…この中にある『附高瀬舟縁起』にも書いてあるけど、安楽死と、兄弟愛、財産に関する考えかたを描いている。特に、財産に関する考えかた(貰っている量が違うだけで、財産が残らないのなら変わりは無い。足りなくても、それで満足する心持)は勉強になった。あと、自分でも、兄弟に迷惑をかけるくらいなら死を選ぶことが出来るのだろうか。兄弟愛について考えさせられた。
『阿部一族』…殉死についてを書いている。殉死については、明治天皇が逝去したときの乃木希典のイメージしかなかったが、武士の時代には一般的な風習だったのか。これについては授業で使えそう。「武士は上が認めたことをしてこそ意義がある。そうでないなら犬死だ」という考え方は、面白く感じた。そして、急に話が展開し、阿部一族の話になる。面白かったが、最期の部分で何を描きたかったのだろうか。考えていく必要があると感じた。
今回はこの有名なこの3作品にしました。この人は歴史による倫理観の違いを読んでいくと面白いのかもしれない。意義として、昔の色々なエピソードを、読みやすく現代化したことに成果があるのかな。もっと勉強しなければ。
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大正元年から大正五年の間に発表された歴史小説9編を収めた本。
「山椒大夫」「じいさんばあさん」「高瀬舟」など、もはや説明不足と言うべきくらいに無駄がなく、重要な登場人物の心理描写が少ない。だがむしろその表現が観察者にとって畏敬すべき何かを強く感じさせる。
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この作品の時代は、平安時代だそうです。(作中には書かれていません)
僕らの時代(高校生頃まで)に、『舞姫』と共に現代国語の教材として使われていたそうなんです。もしかして、習ったかもしれません。でも、記憶がないのです。
何しろ現代国語の授業が大嫌いで、授業中は窓の外を眺めていたからです。(笑) だから何で今更って言う感じなのです。
この年になってこの作品を読んでいると、純文学と言うよりは歴史小説チックな感覚があります。
初出は大正四年で、『高瀬舟』は大正五年ですから時代背景から考えると近代日本の成長期ではなかったのかな・・・なるほど、時代を置き換えて読んでみると、この小説は国にとって成長期ではあったけれど、国民にとっては物造りの大量生産を強いられたかの様なイメージを連想するのです。
この作品が、何故学校の教材に選ばれたかについては、教育の思想的判断かもしれません。ネットで調べてみると、この作品の書評は数多くありますが、鴎外先生の伝えたかったものの真意は分かりません。
もしかしたら、辛いだろうなと思う時代の風刺なのかもしれません。
でも、その風刺が真意ならば検閲されていたでしょうね。
この作品の鴎外先生自身の解説本がありますか?
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青空文庫にて、高瀬舟を読んだのだが、読み終わってもぞくぞくとしたままである。森鴎外はやはり綺麗な文を書く。丁寧な言葉を使う登場人物が魅力的に感じた。喜助の弟の死への描写が、生々しく考えただけで身体がゾッとした。思わずゾッとする作品なんてそうない。ここが鴎外の凄いところか。
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山椒大夫・高瀬舟・阿部一族の3作のみ読み終えた。
さすが森鴎外。圧巻の語彙力である。
無駄が無く、私が過去に読んだ、近代文学作者の中で一番の優雅さが伺える。
ただ、情景描写しかしておらず、心理描写がないという点が、自然主義文学を中心に読み進めてきた私にとっては、物足りなさを感じた。
兎角、夏目漱石と並び称される、森鴎外とは一体どのような作家なのかを知るという目的で読み進めたため、それは十分に果たされた。
また時を置いて、他作も読もうと思う。
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山椒大夫 若い母が人売りに騙されて、幼い子供達と引き離される。安寿と厨子王は山椒大夫に買われ、奴隷となった。兄弟愛と幼い姉の覚悟が切ない。最後は良かった、と思うけれど、やはり悲しい。ありそうなお話。
高瀬舟 死にそうで苦しいから死にたい、と言う人を殺すことは、罪か。現代でも話題になる安楽死の問題。
罪人となった男は、むしろすっきりしているようだ。幸せになれるといいと思った。
阿部一族 読みづらく難しい。細川忠利の側近が生前に殉死を許されれば、忠利の死後に切腹できる。しかし後継の支えになって欲しいからと殉死を許されなければ、それはそれで周りの目が厳しいらしい。大変だなあ。
結局許されていないのに自ら切腹した父のために、阿部一族は日陰に追いやられることとなった。権勢衰えついにはお咎めを受け殺されることとなるも、阿部一族は一家揃って対抗し戦った。阿部一族が、落ちぶれた末に凄惨な最期を迎える様が異様に記憶に残った。
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渋い。
渋すぎます。
表紙の装丁が素敵な角川文庫版。(手ぬぐい屋「かまわぬ」とのコラボシリーズは、大好きです)
この1冊、面白かった。
レベル高い。さすが、森鴎外さん。有名なだけのことは、アルんですねえ。
「山椒大夫」
「じいさんばあさん」
「最後の一句」
「高瀬舟」
「魚玄機」
「寒山拾得」
「興津弥五右エ門の遺書」
「阿部一族」
「佐橋甚五郎」
というのが収録作品。
好みで言うと、「魚玄機」「興津弥五右エ門の遺書」あたりはそんなにでもなかったです。
「高瀬舟」も、安楽死の問題など有名ですが、改めて再読してみて、他ほど小説としての衝撃はなかったような。
●「山椒大夫」
安寿と厨子王、という別称?で知られる物語。平安時代かくらい。
簡単に言うと、中級貴族の子女が人買いに拉致監禁されて、長男だけが脱走して救われ出世する、というお話。
コレ、森鴎外さん、すごい。
日本語使いとして、わざとこの短編は平易で判りやすい文章。誰でも判ります。児童文学のような語り口。
それでいて、センチメンタルにならずに、悲劇をあおらずに、過酷な物語をザックザクと大根を切ってごろんごろん投げ出すように語ります。
それがまあ、なんともどっきり、なんともズキッと読み手の心を抉る効果になっています。
全体の、ややもするとおとぎ話になるところが、そのキワドイ語り口で、すごく味わいのレベルが高い読み物になっています。
※ちなみに、戦国時代や江戸時代まで、僕らの日本という国では平気で人身売買、拉致労働が行われていたんですね。
その辺りは全く学校の授業で教えませんが、とっても大切なことだと思います。善だ悪だという次元とはまた別に、「数百年まえまで、それが普通に行われていた」という認識。
※で、なんでこの話の題名が「山椒大夫」であるのか?それだけが不思議。「安寿と厨子王」でええやんか...。
「スター・ウォーズ」のタイトルが「ジャバザハット」だったと考えると、不可思議な思いを共感していただけるか...。
●「じいさんばあさん」
これ、渋すぎます。年老いても仲が良いじいさんばあさんの過ごした過酷な歳月、という話なんですけど。
とにかく、語り口が確信犯的に淡い。渋い。
「えっ」っていう呆気なさの向こうに、じわじわと味わい。
なんていうか…「大自然の素晴らしさ」というタイトルの絵画を見に行ったら、墨で淡く一本の曲線が書いてあって、それが山の稜線なのだった。そんな感じ。
すごい。
こういう地平線を見せられると、現代の挑戦的なブンガクなぞ、泣いて吹っ飛んでしまうような気がします。
●「寒山拾得」
これは更にその俳画的、水墨画的世界を推し進めたもの。ほとんど実験小説と言っても過言ではないというか。
禅問答が小説になったような...。
まあでも、謎なんて無いと言えば、無い。
中国を舞台に、俗物の高級官僚が、高名な禅僧の寒山と拾得を訪問したら...というだけのオハナシ。
これ��ほんとに、口あんぐりな終わり方(笑)。
●「最後の一句」は、さほどでもない罪で死罪になりそうな男がいて、その娘が「身代わりになりますから父を許して」と奉行所に行く話。
●「阿部一族」は、なんだかちょっとした不幸と偶然が重なって、一族で反逆者となってしまい、死を前提に戦って、やっぱり死んじゃった阿部一族。と、その周辺の武士たち。
乱暴に言うとどっちも、江戸時代の武家社会が官僚化していく中の悲劇をえぐっています。
そしてどちらも、大真面目に悲劇をえがきながら、奥の奥で喜劇だったりします。
官僚化して、実際的ではなくなった人間の組織の馬鹿馬鹿しさ。でもそれが実際に個人を支配していく怖さ。
そんなことでいうと、これは実はものすごく奥が深い。
きっと森鴎外さんも、言うに言えない明治大正の世の中の世知辛さ、あほらしさを反映させていると思います。
●「佐橋甚五郎」
徳川家康がまだ生きている、江戸時代初期。
朝鮮から外交使節が来た。家康が会った。その施設の中に、「かつて徳川家に仕えてた佐橋甚五郎がいた」と、家康。
佐橋甚五郎の履歴。
どうやら、つまり、現代風に言えば。
会社組織、好き嫌い、評価、人事、付き合い、不条理、理不尽、宮使え。
そんなことに嫌気が差して、徳川家を出奔。
国という枠組みまで超えて、自分なりの安息を掴みました。よかったね、という話が、これまた、渋く語られて。
ところがこれはこれで、微かな文のゆらぎの中に、後味としては、
「日本と言うナショナリズムまで含めた、こうあるべきだ、という国家や上層部が押し付ける人生モデルなんて、くそくらえ」
みたいなロック魂が香り立つんですよね。
うーん。ただそれがあまりにも渋く渋く包まれている。その微かさが、もう、快感。
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森鴎外さんは、明治の軍人官僚エリートの家に生まれたんですね。
(生まれたときは江戸時代でしたけど)
スーパーエリートでドイツに留学、そこでは、まあ今風に言えばストリッパーの少女とずぶずぶの恋愛になって、故国とエリートコースと血縁家族を捨てる寸前まで行った。
でもそこから挫折して戻ってきた。
それから、諦めたように黙々と、軍医として陸軍の官僚組織を生きて、見合い結婚して一家の家長として全うしました。
ただ、ずーっと兼業で小説家をやっていたんですね。
ドイツ語に堪能で、最先端のヨーロッパの文学を理解して。その上で様々な小説を書いた。
その語り口は、この本に納められているような、戦略的に素朴だったり、戦略的に江戸時代のような文語体だったり。
そして、表層から割れて微かに光芒がこぼれるようにほの見える、世間、俗、官僚、「お上」、「政府」、「国家」、へのロックな反骨精神。
この人は、この人なりに奥が深い。
また別の森鴎外さんを読むのが愉しみです。
まあただ...渋すぎますよ...鴎外さん...ほんと...。なんていうか...口当たりは悪いし、味は苦みとえぐみ。着色料も調味料もゼロ。味が薄い…。
お酒で���ファッションでも音楽でも、仕事上の技術でも...ここまで渋いとねえ...判りにくいというか、ほとんど魅力が分かんないだろうなあ...というくらいに渋い...。
根っこかじってるような、なんじゃこりゃ的な味が、どこかで ふわあぁっ! とほのかに深い味わいが広がるような...
これも、40過ぎて再読して良かったなあ、という。
多分、いくつかの短編は昔も読んだんだと思うんですが、記憶がほぼ消失していましたね。多分、当時の自分は、サッパリ面白くなかったんでしょう(笑)
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高瀬舟を読んで読書が大好きになりました。
ハッピーエンドの物語しか知らなかった頃に読んだ衝撃的な内容と世の中のままならさを教わったような気がします。
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役名:喜助役
弟を殺す場面の複雑な心情を、どう表現するのか観てみたい。
冒頭の舟上での語りもすごくいい表情で演じてくれそう。 あと和服キャラもっと見たい(ここ大事)
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歴史小説としてみれば、史実にそぐわないだろう点もあるが、当時の武士の心境が見事に現れていると感じています。
森鴎外の作品のなかでも特に好きなものが詰まっている一冊です。
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舞姫が旧かな使いで苦労したイメージばかりが強かった森鴎外。これに収められているのは晩年の作品だそうで、思いの外読みすかった。全体的に死の色が濃いい。解説によると明治天皇の崩御、乃木対象の死が影響しているとか。阿部一族の要領がいいんだか悪いんだかわからない阿部弥一右衛門。可愛げがなかったんだろうな。上司にも同僚にも認められず、意地を張りすぎた男とその一族。折れ所間違えるとろくなことが起きないわけで。
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高瀬舟だけのために購入。
この話、短いけど深い。
・お金の価値
・死への考え方
ぎゅっと凝縮していて考えさせられる。
安倍一族と、山椒大夫も読みたいのだけど、ふりがながふってあって、読みづらく。
別の本を購入しようと思う。
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たまたまだがアチェべの『崩れゆく絆』を読んだ後で、本書を読んだ。『崩れ行く絆』は、ナイジェリアの伝統的共同体が白人とキリスト教によって崩壊していく様を描いている。ナイジェリアの呪術が支配する村は、本書で描かれる、やたらと人の死ぬ、あるいはやたらと死にたがる、西洋的なものの考え方の入ってくる前の日本の姿とどこか通底している。作者は非西洋的な世界を近代の価値観を知った目で見ている。ことさらに懐古したり美化するのではなく、どこか突き放したように描いているでもあり、失われたものを嘆いているようで、同じところに立っているとは言えないか。