紙の本
著者は,将来の日本人が困らないようにと願っているのではあるまいか
2011/07/18 10:58
5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BCKT - この投稿者のレビュー一覧を見る
序章 二周目の挫折、三周目の破綻
第一章 「己」を知る謙虚さ
第二章 「宿命」を受け入れる潔さ
第三章 「不条理」を生きぬく図太さ
第四章 「日本人」であることの誇り
第五章 「大人」を取り戻すために
著者は大阪府(1960年)生まれ。本書執筆時点では東京都職員。中央大学法学部卒業。佛教大学大学院通信教育部教育学研究科修士課程修了。都内の小学校に転出(95年,35歳)。「影山ヒロノブや高崎晃とは中学校の同級生」(wiki)。評者未読の『偏差値は子どもを救う』,『授業の復権』など。本書が典拠となって,「小学校時代には低学力児童のための学級(小学校3~4年の時、促進学級)に[森口が]入っていた」とWikiには記載されているが,私にはその記述がどこにあったのか記憶にない。もういっぺん読み返す暇もないので,読者諸兄がご一読いただき,ご確認とご報告をお願いしたい。
本書題名の「戦後教育で失われたもの」が,目次に列挙されている「謙虚さ」「潔さ」「図太さ」「誇り」。要旨は(左傾していた)戦後教育批判,戦後の平等教育の弊害批判。著者の履歴も知らず,タイトルだけでどうせしょうもない本だろうと高を括って勢いで購入した。しかし,都庁勤務で小学校に出向し,通信教育で教職免許を取って,職員室の内情を観察し,観察言明を文書化したら,「学校から追い払われてしまいました」(158頁)という著者の議論には,教育現場で奮闘した跡が刻まれていた。右翼が左翼を批判する時に,「徒競争,全員両手を繋いでゴールイン」というのは,捏造された都市伝説だったらしい(すくなくとも,森口は見たことがないらしい)。私は本当かと思っていたよ。「白雪姫と7人の小人」で白雪姫が8人登場というのも,都市伝説なんだろうか? (ちなみに,給食費踏倒し保護者はどうもいるらしい。)
著者が子供は親の相同形だと言うのは,統計的に有意という意味で正しいと思う。生物学的にも環境的にも,遺伝的要素は否定できない。これを跳ね返せるのは,よほど資質に恵まれた(もしくは恵まれない)子だ。浅薄なメディアを妄信して教育批判をPTA総会で大声で賜る親の子は,十中八九,バカか不登校かしゃべるサルである。疑うむきがあれば,保護者のふりして学校に紛れ込めば,それはよくわかるだろう。
過激な,三浦展『下流大学が日本を滅ぼす!』,諏訪哲二『なぜ勉強させるのか?』,表現は温和だが主張内容的には三浦と諏訪に比肩する永谷敬三『経済学で読み解く教育問題』,荒井一博『学歴社会の法則』,学習意欲のない層には決して近寄らない和田秀樹『受験に強い子をつくる!』,井上修『私立中高一貫校しかない!』をつらつら読んできた評者としては,森口の憂鬱はよく理解できる。実際に,日本の普通の教育環境で教室にいただけの人材は役に立たない。その証拠に,ユニクロや楽天などの新興資本は大々的に,ローソンや日本的経営の取材先となっていたパナソニック(松下電器産業,当時)はこっそり,外国人採用枠を拡大している。相対的にだが,日本企業は日本人を雇わなくなっている。これから20年以内に,日本では非日本人による社会運営(と会社経営)が重みを増すだろう。政府は外国人を移民として歓迎するだろう。アメリカの80年代前半が日本国内で再現するだろう。
森口は,将来の(若き)日本人が困窮する事態を回避したいと願っているのではあるまいか。もしそうだとしたら,憂国の身の端くれとして私も同感だ。
(1405字)
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不条理に耐えうる大人になれる教育が、今ほど求められる時代はない。やりたいことをやりなさい、自分の興味に従って好きなことをやりなさいと、個人の価値観を奨励してきた戦後民主主義的教育の限界が露呈している。
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昨今の日本人に失われたと言われる謙虚さ、日本人としての誇り、などの元凶は戦後教育にあるとし、学校は「青年用保育園」に成り果てた、とする種々の分析を展開している。
「不条理があるから共同体」など、納得できる部分は多々ある。ただ、かなりデリケートな話題を扱っているので、筆者の趣旨を注意して読みとる必要がある。「○○を決して肯定しているわけではないが」と断り書きが随所に書かれているものの、やや感情的に書かれている部分も見受けられる。(08/09/24)
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[ 内容 ]
戦後日本はひたすら走り続け、空前の繁栄を実現した。
だが、今の社会は本当に我々が望んだ姿なのだろうか。
己の力を顧みず、夢を追うと言いながら親に寄生する。
努力せず不平等を嘆き、世の不条理にすぐに挫けてしまう。
気がつけば、そんな幼稚で情けない日本人が増えすぎてはいないか―。
日本人から常識と生きる力を奪った全ての元凶、「戦後教育」の罪を炙り出し、解決策を提言する警世の書。
[ 目次 ]
序章 二周目の挫折、三周目の破綻
第2章 「宿命」を受け入れる潔さ
第3章 「不条理」を生きぬく図太さ
第4章 「日本人」であることの誇り
第5章 「大人」を取り戻すために
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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森口は元東京都職員の教育評論家である。今のところ外れなし。どれもお勧めできる。実に頭の柔らかな人で左翼を昂然と批判しながらも、保守派の甘さを突くバランス感覚が好ましい。歴史認識についてもかなり慎重な姿勢で好感が持てる。中道を歩む人物と見た。
https://sessendo.blogspot.com/2020/01/blog-post_70.html
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私は物事を何も忖度なくズバズバ言う人(書く人)が好きだ。時には自分の考え方を否定されてカッとなる事はあるが、すぐに冷静になって何でそういった考えになるのか相手の心の中を探索してみたくなる。本書の筆者の書きっぷりも潔い。戦後教育に潜む問題点とその結果生み出された我儘自分勝手な日本人に鉄槌を下しているような見事な書きっぷりである。レビューを書くにあたりその全てが正しいとか、自分の考え方と一致するとは思えない記述も多いが、概ね私の考え方には近かった。だから余計にスカッとしたのも間違いではない。
私が幼い頃は先生は神のような存在だったと思う。今でも幼稚園の先生から大学の教授までほとんどの先生の顔も名前も言っていた事も多くが記憶に刻まれている。今の自分のものの考え方も、働き方も、日常の趣味でさえ、〇〇先生の影響があったとはっきり言える。そして特に小学校5、6年の時に担任を受け持ってくれた渡辺先生への感謝は今でも忘れないし、人間として何が大切でどう生きたら良いかはその先生が教えてくれたと信じている。まだご存命だろうか。兎に角私の学生時代などは何から何まで全て競争だった。運動も勉強も1番になればクラスの人気者になれたし、近隣の学校とのスポーツの交流試合にも(競技の経験など関係なく)学校の代表選手に選ばれるような時代だ。勿論、学校を背負って試合に出てるから絶対に負けられない、という信念も小学生ながら強く持っていた。高校時代は中間期末試験結果は全教科上位10名の名前と点数が張り出され、1位独占までは中々達成できずとも全て3位以内を目指せば卒業時にはかなりの有名大学への推薦の道も開けるような学校だった。死に物狂いで教科書ガイドに書き込んだ事を今でもよく覚えてる。競争に育てられ、助けられて生きてきたような物だから、確かに今の学生諸君のやり方や考え方は直ぐには理解できない事もある。会社組織で部下を持つようになって漸く自分との違いに気づく事も多くあった。凡そ管理職は同世代が多いから、相容れない考え方の若い子達を一括りに「ゆとり」と読んで新橋で酒のネタにしている(実際はどう対処するか真面目に話す事が多いが)程度である。その様な中でもキラリと光る人材も稀にいて、彼ら、彼女らは私が一々指図などしなくても担当プロジェクトを1人で上手に回してしまう(特に最近は女性が優秀と感じる)。大体そういう子達との1on1では話し方考え方に頭の良さが出ている。逆にできない子の典型は言い訳ばかりで他人のせいにばかりしてる。話し方もいかにも偉そうに政治家の様な喋り方をしながらも内容は常に世の中や会社組織への不満や、給料が安い事などを暗に?文句ばかり言うタイプだ。それなりの評価しかこちらもしないから、2、3年も経つと大きく差がついている。話はそれたが、要はどの程度真剣に勝負や競争をしてきたかではないかと感じる。勿論遺伝的な物で頑張り方や理解力も異なるだろうが、しっかり競争の中で勉強を重ねてきた子は強い。暇さえあれば本を読んでる子などもそうかもしれない。
本書は現在の教育が抱える問題について実例を挙げながら、本来どうあるべきか考えさせてくれる。このままでは日本が停滞していくという予想は、本書が書かれた2005年から今日までの20年を見れば、今の結果を見れば、残念ながら当たってしまったようだ。教育は時間がかかる。1人や2人を勉強のできる子にするなら容易ではあるが、日本を背負うような世代全体を勉強のできる世代にするには相当な努力と改革が必要だ。さらにその先にその子供達が大人になるまでの期間を考えたらあっという間に四半世紀、半世紀が過ぎてしまう。だからこうした書籍を読んで現実を知り、各々が教育について真剣に考える事が必要だ。