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これは児童文学、つまり童話である。
椎の木の天辺まで登った、木登りの上手なトノサマ蛙のブンナが、そこでの体験から悟りを得、地上へ降りてくるまでの物語であるが、大正時代に起きた児童文学改革である『赤い鳥運動』により、すっかり毒気を抜かれてしまった当世の童話からは決して学ぶことができない物語が展開されている。
元来、人々はお伽草子から派生したとも言われる童話を語り聞かせることで、道徳だけでは学べない、人智を超えた宿命や運命を踏まえた人生を学んできた。
そして、それらの物語の中には、妬み、裏切り、密告、強欲、時には性の暗示といった人間の裡に潜めた部分を、形を変えて表していたのだ。そうして語られる物語は、当時の子供たちにとって驚きでもあり、大人の世界を垣間見る瞬間でもあっただろう。つまり、圧倒的に面白かったはずだ。
本書の中でも、生きていくうえで避けることのできない “命を食べる” ことについて、蛙、雀、鼠などの姿を借りながら、あくまでも冷静な視点から物語を紡いでいる。