紙の本
アメリカ「草の根保守」の複雑さを描いた注目すべきルポ
2006/06/03 11:30
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:越知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
副題にあるように、アメリカの保守主義の実態を、主として中西部の住人たちに取材することにより明らかにしようとした本である。
アメリカに限らないが、外国の内実を把握するのは難しい。人間は物事を理解しようとするとき、複雑なものを単純化し図式化して捉えようとする。例えば、現在のアメリカなら、ブッシュ大統領を初めとするネオコンが支配権を握り、中東に軍隊を派遣すると同時に、いわゆるグローバル化によって世界の経済覇権をも握ろうとしている、などという理解がその最たるものだろう。しかし、現実はそれほど分かりやすくはない。
例えば宗教である。宗教原理主義というとイスラムを連想する人も多いだろうが、実はアメリカは先進諸国の中でも原理主義的な宗教の力が最も強い国なのである。毎週1回は教会に行く成人の比率は、英仏は20%台だが、アメリカは40%台に及ぶ。世論調査で宗教が「非常に重要」と答えた米国人は57%、「まあ重要」が28%で、合わせると85%に達するのだ。(本書は新書という制約もありこの点に深入りはしていないが、興味のある方は森孝一『宗教から読む「アメリカ」』〔講談社〕などを参照されたい。)
そうした宗教性は、進化論を学校で教えることの是非がいまだに論争の種になっているという驚くべき事実にもつながっている。ノーベル賞受賞者数や人工衛星を初めとする科学技術開発で世界に冠たるアメリカは、実は科学に対する抵抗の強さにおいても先進国に冠たる国なのである。
しかし、そうした蒙昧な米国人だからネオコンの政策や無神経なグローバル化に賛成するのだと考えると、間違えてしまう。むしろ事態が逆であるというところに、問題の複雑さがある。
保守かリベラルかは、社会政策と経済政策の二面から見て行かねばならない。社会政策においては弱者救済ならリベラル、自助努力を強調すれば保守だが、経済政策では地域重視が保守、グローバル化がリベラルとなる。この4つの要素の組み合わせは立場によって様々で、社会保守だから経済でも保守かというとそうではない。また、社会リベラルの立場がグローバル化を容認する経済リベラルと一致しないことは、日本人にも見やすいところだろう。アメリカ東部の高学歴エリートたちは、社会的にも経済的にもリベラル、つまり、グローバル化を支持している者が多いという。逆に中西部の「草の根保守」は、かつてはアメリカの伝統であったモンロー主義、つまり他国のことに介入しないとの立場から、グローバル化や中東への軍事介入にも反対する者が少なくない。ブッシュの政策を必ずしも支持してはいないのだ。
ではなぜブッシュは大統領選で勝利したのか。これは共和党と民主党の微妙な支持層の違いから、ということのようだ。民主党の社会リベラル的な主張は、自助努力を建前とする「草の根保守」にはどうしても容認できないので、消去法でブッシュに行った、ということらしい。今でも「草の根保守」が理想として尊敬するのはレーガンであり、ブッシュではないという記述には興味深いものがある。
「保守」や「リベラル」というレッテルは、ともすると価値判断に結びつきやすい。かつての日本では「リベラル=進歩的=善」という図式が通用しがちだった。だが本書を読めば分かるように、「保守」とは個々人の、それも社会的には必ずしもエリートではない一般人の生き方に関わる問題なのである。宗教性の強さもその表れだ。その意味で、本書は日本人の生き方を考える際にも大きなヒントを与えてくれるだろう。
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アメリカ中西部の旅を描いた本です。日本人がなじみの東部や西部と違って、保守の源流がある、真のアメリカ、の姿が垣間見れて面白かったです
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シカゴからロスまでをつなぐルート66。
通過する州のグラスルーツ的保守の雰囲気がよく描かれています。
日本人がほとんど訪れないであろう、このあたりにこそ
アメリカの本来の姿があるのでしょーか。
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サイトによると以下のとおり。
平成17年4月から半年間、産経新聞に連載された「ルート66 保守のアメリカ」が、大幅加筆され、「ルート66をゆく アメリカの『保守』を訪ねて」のタイトルで平成18年3月20日発売。
著者は産経新聞外信部の松尾理也記者。シカゴから西海岸まで3900キロを貫く「ルート66」を走り、これまで日本人の目に触れることの少なかった米中西部を主な舞台に、草の根に生きる「普通の人々」の暮らしを通して、超大国アメリカを動かす「保守」たちの知られざる素顔を明らかにしている。
<目 次>
まえがき
1 ハートランドとは何か=イリノイ州シカゴ
中西部人気質 米国社会の鏡 レーガンの生まれた土地 「赤と青」の二元論
2 心のすきま生める教会=ミズーリ州セントルイス
非教派教会 重み増す福音派 神との距離の近さ 分け与えられる「良い知らせ」
ジェネレーションX 神のコミュニティー
3 ひろがる進化論論争=カンザス州ガレーナ
足跡の化石 モンキー裁判 人間はサルから進化した、だって?
インテリジェント・デザイン論 文化戦争のひとつ
4 最前線担う市民兵=オクラホマ州オクラホマシティー
ホーム・カミング シチズン・ソルジャー 黄色いリボン オクラホマからアフガンへ 幻の取引
5 草の根保守の群像=オクラホマ州オクラホマシティー
四半世紀前、変化が芽生えた ブッシュはリベラル 気乗りしないサポーター
「草の根」共和党大会 十代の論客 ホームスクールを選ぶ理由
反体制運動としての保守主義 三つの円 「悪」としての政府 源流は公民権運動
ジョージ・ウオーレスが蒔いた種 ブッシュは無慈悲
6 ノスタルジック・ルート=メキシコ州・アルバカーキ
あの輝きを取り戻したい ふたつのモーテル グリーンチリとレッドチ リ
60年代は本当に楽しかった
7 燃える国境線=アリゾナ州ダグラス
ゲーティッド・コミュニティー 君に降りかかったら、どうする?
奴らは福祉と仕事を奪いにくる ドライブ・スルー ワイルド・ウェスト的冒険主義
移民問題は人種問題 新たな争点として
8 「アメリカ」の争奪戦=テキサス州アマリロ
ウディ・ガスリーの肖像画 割りきれない両義性 「アメリカ」の殿堂
あとがき
主要参考文献
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[ 内容 ]
五大湖のほとりシカゴから西海岸サンタモニカまで全長三千九百キロ、米国の真ん中を横断する「ルート66」。
イリノイ、ミズーリなど中西部を貫くこのルート上は、米国内の典型的「保守」層が多く占める地である。
進化論も否定するキリスト教原理主義、中絶や同性婚を忌み嫌い、子供は公立学校に通わせず、小さな政府を熱望する…。
ニューヨークでもロスでもない、“敬虔で頑迷な彼ら”こそ大国の根幹を成す実像であった。
[ 目次 ]
1 ハートランドとは何か=イリノイ州シカゴ
2 心のすきま埋める教会=ミズーリ州セントルイス
3 ひろがる進化論論争=カンザス州ガレーナ
4 最前線担う市民兵=オクラホマ州オクラホマシティー
5 草の根保守の群像=オクラホマ州オクラホマシティー
6 ノスタルジック・ルート=ニューメキシコ州アルバカーキ
7 燃える国境線=アリゾナ州ダグラス
8 「アメリカ」の争奪戦=テキサス州アマリロ
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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日本人の思う保守とリベラルとは違うアメリカの思想の対立が見えます。ゲーテッド・コミュニティと移民推進派の対立は非常に興味深いですね。ただ日本人は確固たるアイデンティティを持っていますが、もともと他民族なアメリカだと「自分たちは何者なのか」という答えも多様化して保守もリベラルもまたさらに多様になっていくのでしょうね。この本が書かれてから5年、政権交代して一期目を終えようとするアメリカ民主党はまた姿を変えています。アメリカの分裂は加速しているようです。
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保守とは何か?リベラルとは何か?アメリカの「保守地域」を横断するルート66を旅しながら考える本。・・・日本のそれとは全く違う側面が見えてきた良書でした。
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【コメント】
著者は産経新聞外信部記者だそうで、彼の目から
見えるアメリカの風景/保守がどんなものか、
というのは興味深い。
日本でステレオタイプにイメージされる
アメリカと、実際にアメリカに暮らす大半
(少なくとも[西海岸、東海岸、五大湖周辺]以外)
のアメリカ人の考えが違うことを初めて知った。
面白いのがアメリカの保守は、宗教上の理由で
進化論には否定的だったりするトピック。
移民に対するトピックでは、(より右の?)保守派は
強く反対を主張している。政府の推進策は、企業の
金儲けを後押しして移民を合法的に低賃金で奴隷の
ように扱う。そして、自国の労働者は職を失うとい
うことだ。
単純に共和党だから保守、民主党だからリベラル、
ではないという指摘は言われてみれば納得。
【内容】
五大湖のほとりシカゴから西海岸サンタモニカ
まで米国の真ん中を横断するルート66。
中西部を貫くこのルート上には、米国の典型的
な保守層が多くを占めている地域を、「ぶらり
途中下車」よろしく各地域で取材してアメリカ
の保守がどんなものなのか、アメリカが抱える
問題などをうかび上がらせていく。