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村井設計事務所に入所した坂西徹は良き先輩に恵まれ順調に技術を身に付ける.東京の青山から夏の間だけ「夏の家」に移動して仕事をこなす.村井先生が包容力を持って坂西を見守り、井口・小林・河原崎・内田なども坂西をうまく育てる.先生の姪の麻里子と良い所まで行くが、先生が脳梗塞で倒れ頓挫する.浅間山のふもとでの出来事が淡々と綴られていくが、377ページがあっという間に終わった感じだ.
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読み終えてしまった。
こうした小説に出会うために、本を読むのだ。
耳をすませるようにしてかすかな脈動を読み取る読書だった。
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キレイな小説。
時間をかけて少しずつ読んだ。
若い建築家の仕事と恋を通して長い”季節”が描かれる。
あまりに自然でふんわりとした空気感。
心地よく浸れる実に気持ちのいい小説。
描かれているのが図書館の設計だったりするので、非常に親近感をもった。自分も新規で本屋の設計に関わったりするので。 そんな時にやりとりする設計事務所の人たちもこんな風に仕事してるんだろうなぁ。きっと。
ともあれ、本当にキレイで心地いい読書だった。
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上手いよ。人物描写も情景描写も、それから立ち現れる物語と抒情も言うことないよ。
しかし、上手いな~凄いな~と思うだけで特に感動はないんだな(私だけかもしれないが)。建築家を志す青年と、「先生」と呼ばれる老建築家。建築事務所の先輩たち。青年と恋仲になる先生の姪。
師弟関係も「先生」といえば漱石の「こころ」だけど、そんなに深くもなく(先生の恋愛は描かれているが)、恋愛もどろどろは全くなくてスタイリッシュで、ちっとも切なくない。
有名建築家についての薀蓄、避暑地の自然、集う文化人、乗ってる車は皆外車、音楽も食べ物も洗練されていて、まことにおしゃれなんだけど、魂の深みに降りてくるようなところはあまりない。
なんだか成功したインテリが褒めそうな小説だった。
書評は皆べた褒めだけど、いいの?これ。ホントに?
純文学ってもっと魂を揺さぶるものであってほしい。
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良かった。風景の描写がとても細かく丁寧。恋模様の展開がいまいちだったけど、そこに流れる人間関係が、建築というモチーフを上手に使って描いてある。
そういえば建築やってたなぁと改めて実感。アスプルンドって久々に聞いたよ。
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久しぶりに小説らしい小説を読んだような気がします。
タイトルにしろ、装丁にしろ、ちょっとダサすぎて、本屋の店頭では私が手にもしないであろう代物ではあります。
著者の名前もどう読むのかわからないような漢字だし。「まついえまさし」と読みます。
著者は、新潮社という出版社で雑誌の編集をずっとやっていた方のようです。(ばかやろう、新潮社といえば、出版社に決まってるだろうが!あれだ、あれ、週刊新潮とかな、昔はFOCUSなんて写真週刊誌も出していたな、そういう出版社なんだが、小説とか文学の本なんかもけっこう出しているぞ、新潮文庫なんかも有名だ)
1980年代のお話で、その時代といえば、雑誌ポパイが全盛期で、とにかくウエストコーストと物欲の時代でありました。私なんかも広告代理店にいて、とにかく面白おかしく仕事をしていた時代です。そんな時代の話なのですが、私とは全く違う世界で生きていた方々のお話であります。
ですが、この小説と同じ時代に生きていたので、初っ端の方で出てくる、ライカ、とか、ステッドラーというブランドに対して、びりびりと私のガイガーカウンターは反応してしまいます。自動車に乗っていてブラック・コンテンポラリーだAORだの音楽を流すなどという情景は、ああ、カーステレオといえばカセットテープだったよなあ、と思い起こしたり(私はこの手の音楽は一切聴きませんでしたが)、圧巻は自動車どもの名前を一つ一つ語るところ。ボルボ240ステーションワゴン(クリーム)、メルセデスステーションワゴン300TD(ダークグレイ)、シトロエンDS21(メタリックブルー)、プジョー305W(濃紺)、ルノー5(黒)が勢ぞろい。あったよなあ、NAVIって雑誌。ていう感じですね。ヨーロッパ車が大好きな雑誌だったよな、NAVI。ああいう雑誌が生き残れない日本てちょっと悲しい。
だから、あの時代に学校を卒業して仕事を始めたような世代の連中には面白い小説だと思います。
話の内容は建築事務所で働きだした若者の話なのですが、薀蓄が多すぎてうんざりみたいなところは、小説の登場人物である年長者に語らせるようにして、そのうんざりさをうまくかわしています。
小説の中盤くらいに来ると、最初からわかってはいたものの、とにかく登場人物すべてがかっこよすぎで、鼻持ちならなくなるのですが、それらすべてが小説を読む楽しみであるのではないだろうかと、私は思いました。ゆっくりゆっくり一章ずつ読み進む楽しさのある読み物でした。たぶん、作者の松家さんもゆっくりゆっくり書き進んだのだろうな、と思います。(ブログから抜粋転載)
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昭和の終わりの匂いを中心とした背景に、丁寧に綴られた若き建築家の日々。 ゆっくりと生きていく人々がみな好ましくて、読めてよかった!
大学を出たばかりのぼく・坂西は憧れの建築家・村井俊介の設計事務所で社会人のスタートを切る。
彼がなぜ、村井の建築物が好きなのか。彼の目線で村井の設計した建物を撫でるように語り、私のような素人でも、どんなに優しい光が流れ込む空間なのか、どんなに穏やかな空気が漂う場なのか、がよくわかる。
村井設計事務所は夏になると毎年、浅間山の麓に「夏の家」として移転。
蒸し暑い東京を避けて涼しい高原で仕事をする、というスタンスからして、
浮世離れした設定なのだけど、村井先生を始めとして、事務所の人々が皆、それを当たり前のことのように分担で食事を作ったり、薪を割ったり、夜にはクラシック音楽を流しながら語り合ったり。
実績があるわけでもない彼が人気の事務所になぜ採用されたのか。
読んでいるとおいおいわかってくるのだけど、
なんていうか、ぼくも村井先生も、また、事務所の人々、浅間山の集落の人々も含めて、
同じ落ち着いた匂いのする好ましい人たちで、
私も、心静かにゆっくり読書を楽しむことができました。
薪のはぜる音、美味しく入ったコーヒーの香り、朝の高原の靄や鳥のさえずりなど、
言ってみれば平凡な道具立てなのに、
どれも、どこかで見たような描かれ方、ではないような
愛おしい描写に思わせられてしまうのは、
新人ながら手練れとまで言いたくなる松家仁之さん、という人なんですね。
以下、ちょっとネタばれかも。
ただ、一番新人の彼が、
先輩である女性スタッフ、また、先生の姪で夏の間だけお手伝いに来ている女性を
終始、ファーストネームで呼び捨てにしているのが気にかかって(とうか、感じがよくなくて)いたのだけど、
それも、着地点が用意されていた、という仕掛けにも、うん、そうだったのか、なんて。
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図書館建築のお話も興味深いが、ブラックバードの声が聞きたくなり、随所でお腹が鳴り、五感を刺激された。妄想力で夏の家に住んでいる気分を味わう。静かなお話なのにハッとさせられる言葉が多数、読み終えるのが惜しくてたまらなかった。
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「小説家という名の建築家」
「ぼく」坂西徹は村井設計事務所に入所して初めての夏を、北浅間の古い別荘地にある「夏の家」で過ごす。そこで「ぼく」は建築家・村井俊輔を中心に彼を支える少数の所員たちとともに、国立現代図書館のコンペに向けて準備に入った。浅間山のふもと清冽な空気の中で語られる建築家たちの物語。
決して感情的になることなく、常にある一定のトーンを以って語られる若き「ぼく」の経験。その確かで何より繊細な描写には心を奪われる。建築についての知識が挿し込まれ、それらが村井俊輔の建築や所員のチームワークにも反映してゆくのを見るうちに、何かこの小説世界そのものが「夏の家」という建築のように思われてくる。
浅間山のふもと、大きく取った一面のガラス窓から、木々の緑さえ透き通して夏の家に射し込む光。「サリサリ」と鉛筆を削る音、淹れたてのコーヒーの香り、「ぼく」の聴き取っていく種々の小鳥たちの声もこの「建築」のディテールとしてもちろん見逃せない。
ひとつの空間を構築するという意味において、建築と小説を書くことには非常に共通するところがあるのではないか。建築家・村井俊輔と著者・松家仁之が重なってゆく。決して声を大にして主張し人の意表を突くものではないものの、選び抜かれた用材や細部へのこだわりが、唯一無二の居心地の良い「建築」をここに完成させている。
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噴火する浅間山。夏の間の仕事場となる別荘。国立現代図書館の建築設計をめぐるセッション。現代建築の名匠の秘話。謎めいた女性の大邸宅。そして、一夏の仕事の合間に展開する密かな恋…。翻訳小説のような文体に、贅沢で豊かなムードをはらんだ物語が進行する。重厚でもなく軽薄でもなく、懐かしくもあり斬新でもあり。ジャンル分けが難しい、まさにこれが小説である、としか言えない。
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1982年、設計事務所で働くこととなった主人公。夏の間、軽井沢の別荘地に移転する事務所機能。自然の中で組み立てられる「国立現代図書館」設計コンペ案。建築と家具をめぐる考察。静かな恋。印象的なラスト。全てが完璧に、心地よく構築された傑作。
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読後感が最高の小説。話しの流れは淡々として起伏はあまりないが、描写がうまくて、場面場面の情景が鮮明にうかぶ。
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一貫して、読む人に静かに語りかけてくるようなタッチで、ゆっくりと動き出すこの物語は、村井設計事務所の夏だけの別荘「夏の家」の建物そのものを中心に据えながら、主人公の新入所員のひと夏をたどるという物語だ。
その、積み重ねられてゆく静かな時間の流れを共に追ううちに、建物の内部やその造り、窓辺に広がる光景、夏の間だけの生活の細々としたことや秋へと移ろう季節の彩りなど、なぜだか不思議に懐かしく、まるで過去に自分に起こった出来事をなぞってでもいるかのような錯覚を覚えたり、または、忘れられない経験でもしているような気分で読み進んでいた。
建築そのものに対する「先生」という人の姿勢や考え方、そしてそれを新鮮な驚きとともに心に刻む若き主人公。読んでいて、この私もまた主人公に等しい目線で、いつの間にかひっそりと「夏の家」の書庫に入り込み、北欧の建築家グンナール・アスプルント(ストックホルム市立図書館や森の墓地を設計)の書物を垣間見たり、建築というものが持つ意味を再確認している。
この静かな本を手にしたときはいつも(満員電車の中でも)、「読んでいる」というよりは、むしろ、「かけがえのない時間を共有している」といった表現で表わされるような、稀有な体験の中に身を置くことができたので、まさしく、手にとるのが待ち遠しいと思わせてくれるような一冊であった。
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本書の表紙裏に書かれた通り、一行一頁読むごとに小説を読む喜びに浸れる。
この本の素晴らしさと、この本と出会えた幸運を多くの人と分かち合いたい、と強く思う。
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「夏の家」では、先生がいちばんの早起きだった。―物語は、1982年、およそ10年ぶりに噴火した浅間山のふもとの山荘で始まる。「ぼく」が入所した村井設計事務所は、夏になると、軽井沢の別荘地に事務所機能を移転するのが慣わしだった。所長は、大戦前のアメリカでフランク・ロイド・ライトに師事し、時代に左右されない質実でうつくしい建物を生みだしてきた寡黙な老建築家。秋に控えた「国立現代図書館」設計コンペに向けて、所員たちの仕事は佳境を迎え、その一方、先生の姪と「ぼく」とのひそやかな恋が、ただいちどの夏に刻まれてゆく―。