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紙の本
労働貴族と呼ばれた塩路天皇を追ったドキュメント
2005/02/18 18:33
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投稿者:まさぴゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
1980年代に日産自動車グループの労働組合の集合体である自動車労連の会長であった塩路一郎を描いた小説。塩路一郎氏とは、会社の発展を目指すのは社長以上で労働者の代表でありながら豪華クルーザーを所有し愛人を囲い夜な夜な銀座で飲み歩き、労働者に「天皇」と呼ばれた男だ。「労働貴族」と呼ばれた男。90年代以降の組合の力・集客力の低下からすると信じられないが、かつては貴族のような生活をしていた労働運動家がたくさんいたのだ。僕はリアルタイムで彼のことを知らなかったが、シンプルに云うと労使協調路線のバランスの中で、ファシストのような絶大な権力を日産内部に持っていた男を描いたドキュメントです。また労使というだけに、この談合的圧政統治は、組合の委員長である塩路一郎と同時に「破滅への疾走」で描かれた川又克二元会長と二人三脚でなされたものです。
日産自動車中興の祖カルロスゴーンのインタヴューや劇的なV字回復のニュースを読むと、その隔世の感は凄まじい。ほとんど同じ企業体とは信じられないくらいだ。いかに、組織というものがリーダーのキャラクターと経営能力に左右されるかの好例だ。ぜひ「破滅への疾走」「労働貴族」とカルロスゴーンの著作を同時に読んでみることをお薦めする。日本社会の構造的欠陥の縮図と「それを変えるために必要なこと」が大きなスパンで観察することができて、興味い深い。
さて僕はこの労働貴族を読んで、山本七平が著書「日本人と中国人」で日本社会には「権威」と「大衆」VS「権力」というバランスが作られやすいと指摘しているのを思い出した。というのは、労働者=大衆と権威=組合委員長と、権力=経営者という形がそのまま当てはまるからだ。考えてみれば、当時は弱者と見られていた労働者の代表である委員長が、なぜ経営者に個人的プライドだけで喧嘩を売り、人事権を掌握して現場の意見を封殺し、経営のリーダーシップを骨抜きにすることができたのか。時がたった外部から見ると、不思議で不可解な現象だ。外国人が日本を見ると、非常に奇異な感じがするといわれると同じ感覚が味わえます。企業内組合が、経営自体に踏み込むことを誰も不思議に思わないし、自浄できないというのは、あきらかに意味が分からない。この小説では描かれきってはいないが、塩路一郎が「なぜ権力を握るにいたったのか?」というのは、日本人と日本の企業統治のあり方を考える上で、重要な命題だと思う。
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