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まさぴゃんさんのレビュー一覧

投稿者:まさぴゃん

105 件中 1 件~ 15 件を表示
電波男

電波男

2005/04/23 23:49

自由洗脳社会におけるオタクたちの反旗

13人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

僕は今を岡田斗司夫さんが『ぼくたちの洗脳社会』で主張する自由洗脳社会と考えています。それは資本主義的に「価値観」がマーケットによって選別される社会です。またインターネットの存在により、一般社会では社会では生き残れないようなニッチな価値観が凄まじい多様性で維持される世界です。だから同じ事実からどのような解釈(=価値観)を導き出し宣伝するかが重要な社会です。この本は恋愛資本主義の上層部に位置する女性たちの価値観(いわゆる酒井順子の負け犬論や倉田真由美の『だめんずうぉーかー』)に対する最下層(苦笑)男性側からの反旗ですね。基本的に消費マーケットは、女性の側の価値観に支配されてきました。それは消費の先導者が長年女性だったからです。マーケティング対象は、女子高生や少女をターゲットにすることが慣習化しています。
本田透さんが主張するように80年代バブル以降は「恋愛資本主義」である主張は事実でしょう。昨今の電車男のブームの予想はまさにドンピシャで、世のなかの原理が本田さんの主張する仕組みで動いているという仮説を補強します。なぜならば、これは「典型的な女性」を対象に消費をドライブする戦略だから、当然といえば当然ですが。この事実に対して本田氏は、「人格を売買の対象にすること」に対して拒否を宣言します。そして、無自覚にそれを肯定する「いわゆる典型的な女性層(酒井順子や倉田真由美の意見)」に対して、反旗を翻します。
最終的な結論は、これは天才・岡田斗司夫先生の議論の展開であって、現状分析はほぼ僕も同意見です。ただし、唯一彼から抜けているのは、同じ解釈で女性や少女から見た視点が抜け落ちていて、男性側の論理で完結してしまっている点です。消費や人格の売買を肯定する社会が、腐っていると看破するならば、オタクのように女性も「二次元の対象」を見つけてナルシシズムに陥ればいいのか? マンガの『ルサンチマン』や多くのサブカルチャーが夢見たように、オンラインコンピューター発達と感覚刺激のための大脳システムの解明とインターフェイスの開発により、SEXまでできる異性の相手を得ることができるゲームは、あと10〜20年で開発されるのは、資本主義のスピードから行って間違いあるまい。だから時代は止められないとは思う。しかし実際この部分は、男性よりも社会的な搾取の対象である少女の方が強烈に敏感で80年代に中島梓がボーイズラブにハマル少女の分析として『コミュニケーション不全症候群』『タナトスの子供たち』を分析しています。彼女たち(つまりは十代の少女で恋愛市場にエントリーさえできない女性たち)を、無視するのは議論が雑と思う。本田氏の議論は、ちょっと男性のキモメンオタク側に偏っていると思う。この議論の本質は、人格を金による評価をしている現実にはじかれた層が、どうやって生きていくかという部分に論点があり、それは男女や階層、地域を問わない議論なはずだからです。
僕自身かなりオタクな人であるし、本田透の魂の叫びには、非常に同感する。わかる人には、死ぬほどわかる議論だ。3次元の現実に対する否定は、よくわかる。基本的に、3次元は腐っているのはいつの時代も変わらない。ニーチェもドストエフスキーも『アウトサイダー』のコリンウィルソンも、二次元に極まって後、行動至上主義へ転化を象徴しているが、そこにはネチャーエフや都井のような現実社会への復讐で大量殺人や大問題を引き起こす可能性も常に存在している。時代の流れは止められないにしても、こうした二次元の対象に対して強烈にコミットするナルシシズムを肯定して、テクノロジーでそれを維持する社会が、社会制度設計としてあるべき姿なのかは、僕にはまだなんともいえない。ただ、現状分析の正しさと、流れの不可避は確実だと思う。

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人間の土地 改版

人間の土地 改版

2005/01/02 05:08

「かっこいい」というのは、こういうこと

12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

フランスの紙幣に描かれていたアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは、第二次世界大戦で地中海に偵察に飛び立ち、地中海の藻屑と消えたという伝説をもつフランスの国民的英雄です。同時に航空郵便のパイロットとしての体験を書いた「南方郵便機」「夜間飛行」はあまりに有名です。「星の王子さま」の印象があまりに強すぎて、彼の他の作品を読んだことがない人も多いと思います。また初めて読んだ時に、堀口大学さんの訳が読みにくくて間口狭くしているやもしれず、それは残念なことです。読むに足る素晴らしい作品です。評価が難しいですが堀口訳も慣れると、意味を取るのに読み返さなければならず、逆に「さらっ」と理解するのを拒む代わりに、深く文章を味わうという良さも、僕には逆にありました。ただし最初はたしかにとっつきにくすぎましたが。

僕が読むきっかけとなったのは、宮崎駿監督のアニメ「紅の豚」です。宮崎監督は親が飛行機メーカーを営んでいた経緯もあり子供の頃から飛行機が死ぬほど好きだそうで、その趣味が高じてこの作品が作られました。どこかでインタヴューを読んで、彼がサン=テグジュペリの「人間の土地」を手放しの賞賛をしていたので、読んだのです。その後、その高潔で内省的な素晴らしさに魅せられ何度も読み返し、あまりにパイロットという職業に憧れた為、趣味ではありますが米国でプロペラ機のライセンスまで取得することにまでなりました。

文章で読んでも素晴らしいですが、もし一度でもソロで飛行機を操縦した経験があれば、自分が異星人になった気がしてしまうような高度数千フィートから見える人間の営みの小ささ、夜間に見える光の切ないまでの温かさ、空中で頼るものが何一つない絶対的な孤独感と、同時に全てが自分の意思だけで動ける強烈な自尊心…、これが「人間の土地」に書いてあった感覚なんだな、と十全に納得できると思います。彼が愛したサハラ砂漠の上空から見る世界の美しさが、なぜ「別の惑星のように」見えて、星の王子さまのような視点を生み出すにいたったかが、よくわかります。空を独りで飛んでいる、全世界に自分だけ一人になったような不思議な感覚が訪れるからです。

ゼロ戦のエースパイロットであった坂井三郎さんの著作を読むと分かりますが、昔のパイロットという職業の属性は、非常に内省的で高潔で、自己規律と鍛錬に向いているようです。いまのレーダーと機械に支配された計器飛行ではなく、あくまで有視界飛行をベースにした機械と人間とのコミュニケーションがスムーズであった古きよき時代では、自然とそうなったようですね。有視界飛行のプロペラ機は、事実上機械というよりは、風の力によって飛んでいるほうがイメージと実感に近いですからね。そもそもプロペラ機の構造自体が、揚力による浮力で飛ぶものですし。基本は変わらないにしても、ジェットエンジンの爆発的なエネルギーで飛ぶものとは次元が違うものだと思います。

僕にとって座右の書で、「かっこいい」ってこういうことなんだな、と思わせるすばらしい男たちのお話です。こんな素晴らしい作品に、学生の時点で出会えたのは、僕の人生の幸せの一つです。

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彼氏彼女の事情 21 (花とゆめCOMICS)

彼氏彼女の事情 21 (花とゆめCOMICS)

2005/11/17 22:43

繰り返すものからの脱却

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作者は元々、雪野と総一郎の二人の立場から物語を書き分けたかったようです。にしても、総一郎は暗い。この生い立ちの暗さは、古い文豪の文学作品を見ているような感触があります。この連綿と続く「家」と「血」による縛りは、日本の文学作品にはよく見るテーマで、少女マンガでも陰りのある美少年(笑)は、大抵この手の生い立ちの暗さをもっています。昔話や古典で言うと、貴種流離譚ですね。ただ、背中からヒタヒタと迫ってきて精神を追い詰める、生まれる前からの刻印への恐怖・苛立ちそして解放への作者のテーマの展開力は群を抜いています。こうした自意識の恐怖を描いてので、エヴァンゲリオンで似たテーマを追っていたガイナックスの庵野秀明監督が、アニメ化したのは、当時なるほど!と思ったものです。また雪野の性格に代表されるように、女性の作家の方が、自意識からの解放を描くのはうまい。ちなみに最終的に最もうまいと思っていた漫画家の安野モヨコさんと、結婚!!したときは、さすがに驚いた、が納得もした。僕が津田雅美さん(全作品を所有!!)を好きなのは、人間のドロドロに暗い側面と、同時に解放されたときの聖性を帯びた美しさ静謐さを「同時に見てしまう」人だからです。主人公たちはのた打ち回りながらも、永遠に反復する業の輪を断ち切ろうと、もがいています。この手の作品は、庵野監督のエヴァンゲリオンで頂点を見た、過剰な自意識を支えきれない弱さのみをクローズアップする視点から、やや踏み出しています。そこは、すごく好感が持てる。この手の感覚は、最近だと栗本薫の『絃の聖域』『大道寺一族の滅亡』や京極夏彦『うぶめの夏』や古くは森鴎外や田山花袋、夏目漱石などの明治の文豪の香りがする気がします。なぜだろう?。たぶん、こういう親や家の長く連続して繰り返される「業」に縛られるというのは、近代日本の大土地所有制度のもとの地主や、地方の名家や芸事とに縛られる家元等の日本的『家』の連続性に絡む発想だからでしょうね。ある意味、そういったドロドロ複雑に絡まった歴史的なヘリテージを否定するところからはじまった米国などでは、ありえない発想でしょうね。だから有馬の父親が、米国に旅立つのはすごく象徴的です。ちなみに、19巻で大病院の院長にして、江戸時代から続く名家有馬家の当主が、雪野の「あの病院ももらえますか?」というある種のジョークを言ったときの反応が、僕には、戦慄するほど深い感慨を感じさせた。たぶん、物凄くほっとしたと思う。これは、家の血の呪縛の断ち切りを意味するからです。

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噓つきアーニャの真っ赤な真実

噓つきアーニャの真っ赤な真実

2005/07/23 22:24

ヨーロッパ的なモノ

8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

はっきりいって、かなりの名作です。この作品は、1960〜5年(5年間)プラハでのソビエト学校(共産党幹部の子弟が集うインターナショナルスクール/いまでいうアメリカンスクールのロシア版)での体験記。小学生であったマリは、父親が日本共産党の代表として(事実上の大使のようなもの)プラハに駐在し、そこのソビエト学校で個性的な友だちに囲まれていた。男の見極め方を教えてくれるギリシア人のリッツァ。嘘つきでもみなに愛されているルーマニア人のアーニャ。クラス1の優等生、ユーゴスラビア人のヤスミンカ。それから三十年、激動の東欧で音信が途絶えた三人を捜し当てたマリは、少女時代には知り得なかった友人たちの背景に出会うというものです。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作ですが、素晴らしい作品です。
なによりも、僕がこの作品を読んでいて感じたのは、「ヨーロッパ的なモノ」が濃い香りとして漂ってきたことです。
『ローマ人の物語』の著者である塩野七生さんが、あるインタヴューで、彼女の好きなCMの製作者(電通のCMプランナー)に会わせてもらい、その人の作品を連続で見たところ、一度もヨーロッパに行ったこともないその人の作品があまりに完璧に「ヨーロッパ的なモノ」を再現していて、驚いたと感じた云っているのを読みました。
僕自身は、そのヨーロッパ的とはなにか?ってのは、はっきりとはわかりません。
ただ、毎回いろんなもの物語や美術を観たりしていると、ふっと「これかな?」と思うときがあります。物語で、もっとも見事にヨーロッパ的な感覚を再現しているの最近の作品は、僕は実は浦沢直樹さんの『マスターキートン』だと思うのです。日本とイギリス人のハーフの考古学者の半生を追ったマンガです。もちろんフィクションです。多分原作者の才能と膨大な知識量だと思うのですが、ココで描かれるヨーロッパの複雑な設定や登場人物(たくさんの宗教や人種が入り乱れる)のありようは、ほぼ均一で他国に蹂躙されたことのない(by村上龍)日本の島国意識では理解できない、複雑な他民族と大陸意識(国境が海ではなく陸地)があるように感じます。もう一つは、曽田正人さんです。このマンガ家は大好きなので、別途書評書きますが、この人の作品は、スポーツに関するものが多い。自転車(ツール・ド・フランスですね!)とバレエ(パリのガルニエ宮殿)、それにいま連載しているのはF1ドライバーを描く作品です。このどれにも共通するのが、日本人の才能ある少年少女が、スポーツの才能を突き詰めて突き詰めて極限まで来ると
『なぜかヨーロッパが見えるのです』。
これは、絵でもハッキリ分かる場面がありますから、ぜひ読んでみてください。なぜそうなのかは、近代スポーツの発祥がヨーロッパであることから来ているのだと思います。彼らにとって、モータースポーツもラグビーもポロもサッカーもサイクリングも、すべては、数百年の歴史を持つ伝統文化だからだと思います。日本の能や歌舞伎のようなものなのです。その計り知れない伝統の果てに、近代スポーツの仕組みは出来上がりました。これは有名な話ですね。さて話がそれましたが、この作品にも「ヨーロッパの香り」が強く匂います。日本にありながらこの匂いを出せるのは、著者がヨーロッパ的なモノを深く理解していなければなりません。そういう意味では、プラハのソビエト学校での体験記(日本でいう戦前の旧制高校の寮生活のイメージで見るといい)は、当時の世界中のコミュニストの子が集まる共産主義者のエリート子弟養成学校という性格からも、特異で興味深い体験です。僕は、なんとなく旧制高校をモデルにしたマンガを思い出しました。

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星を継ぐもの

星を継ぐもの

2005/04/10 23:49

ハードSFの最高傑作

9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『星を継ぐもの』を初めて知ったのは、アニメ製作会社GAINAXの庵野秀明監督の『不思議の海のナディア』の最終話のタイトルだった。今思うと、なるほどというタイトルだ。あの古代も含め地球上のすべての生物を保管した博物館の映像が、この小説を読んでいてまじまじと思い浮かんだ。この作品も、SFとしてはもう完璧な古典ですね。世界中のSF作品に影響を与えている大傑作です。僕は、どちらかというとファンタジー系のSFが好きな方ですが、この作品はまるで傑作の推理小説を読むような謎解きを味わえ、作者の想像・創造力に眩暈がするほどくらくらさせられました。まぁこのレベルになると、多分読む人を選ばないのではないかと思います。それほどの傑作です。ぜひご一読を。
誰かが、いまのCG技術ならば、映像に表現できる、と云っていたのを聞いたことがありますが、ぜひ映画化して欲しい。月から地球を眺める・・・・コリエルの映像をぜひ見てみたいです。なぜ、こんな素晴らしい作品がまだ映画化されていないのだろう。権利が複雑なのかな?。ハリウッドは馬鹿としか思えない。絶対売れるもの。
人類の起源という謎を、まるで推理小説の本格ミステリーのような緊迫感とスリルに、読みやすいエンターテイメント性が混じっている見事な作品。もちろん科学の厳密性から言えば、いろいろ穴があるのかもしれないが、一流のストーリーテリングは、そうした細かい厳密性をぶっ飛ばす見事な世界観と納得性を作り出してしまう。人類とはいったいどこから来たのか?。この究極の問に、物凄い超ど級の直球で答える作者の見事なヴィジョンに感動しました。もう脱帽です。

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攻殻機動隊 1 (ヤングマガジンKCDX)

攻殻機動隊 1 (ヤングマガジンKCDX)

2005/04/10 23:54

踏みとどまる体制派

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

押井守監督作品「GHOST IN THE SHELL」の原作。押井守監督がジャパニメーションを世界に知らしめた作品として有名だが、それ以前に士郎正宗さんは、知る人ぞ知る有名な方。
マンガはアニメとは違ったテーマを追っているような気がする。士郎さんは『ドミニオン』なんか典型的だけど、『踊る大捜査線』『機動警察パトレイバー』と似てる。腐った世の中やりきれない管理社会の中で、馬鹿な反体制派になることもなく、正義面して流されたて汚職に手を染める体制派になるでもなく、ギリギリのところで正道を歩もうとする話が描かれている。この人の作品って警察官や公安と一貫して『体制派』の組織の人間を描いているんですよね。大体において、体制派=権力を使う悪者なんだけど、そこをギリギリ踏みとどまって正義の味方をやっちゃうところに、この人の作品のスカッとした部分があると思う。BSマンガ夜話で、岡田斗司夫さんの受け売りですが(笑)。あーそうそう!と思ったんです。
あと永野護『ファイブスター物語』と似て、欄外の膨大な説明がある。普通のマンガの文脈から言えば、欄外で説明するのは邪道だが、それが魅力をより一層高めている稀有な例。深すぎる世界観を何度も読んで散策するSF 好きの僕にはたまりません。
基本的僕は、何度も何度も読み返す『読み方』をします。同じくBSマンガ夜話言っていましたが、ビデオで何度も巻き戻すように、そのコマの意味や格闘技の複雑な動きをトレースしていると、「あっそーいうふうに繋がっているのかぁ!!」と感動する瞬間があります。

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A マスコミが報道しなかったオウムの素顔

A マスコミが報道しなかったオウムの素顔

2005/04/10 23:40

見事な補強

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

時系列的にはほぼ同じ素材を扱っていますが、ドキュメンタリーとは、まったく異なる印象を受けました。というのは映像作品の『A』はオウムの側という視点から描く映像として、オウムにシンパシーを感じさせせるもので、実際に僕も圧倒的な社会権力である世間と報道に恐怖を感じる弱者側にシンパシーを強く感じました。だからこの本とドキュメンタリー作家森達也の凄みは、ドキュメンタリーである『A』という映像作品を見比べなければ分からない。映像作品には、日本社会が異端者や弱者に向ける強烈な排除の力を告発する視点が描かれており、素直にあの作品を見れば、絶対にオウム真理教に感情移入してしまいます。
けれど、この森監督の文章を読むと「組織従属的なメンタリティ」は、「社会のこちら側」にせよ「あちら側」にせよ、同じ位相であり、どちらがわも「わけのわからなさ」にはかわりがないと言っているように感じました。この「どちら側にも組しない立場」をつらぬく森監督のドキュメンタリー作家としての資質は、物凄く見事だと思いました。普通ああいう映像作品を、異端者の立場からドキュメンタリーに構成した監督が、実は「どちらの視点も信じていないんだ」というスタンスに立つのはありえない。しかし、実際にはこの立場しかありえないですよね、こういうギリギリのラインを扱う作品では。スタンスが素晴らしかった。
個人的に興味深かったのは、信者が情愛を切断しようとしているところ。宗教にはつきものですが、たとえばキリスト教の隣人愛の概念なんかは、家族や民族を切り離して考える可能性を作り出すもので、僕はその概念を「殺し合いを続ける民族や氏族のセクト争い」から脱出させるものというイメージで理解していました。情愛や「目には目を」の復讐法に縛られるからこそ、物凄い殺し合いが起こるのですからね。しかし考えてみれば情愛から切り離された人間ほど、極端な虐殺行為をも平気で行えるのですよね。うーん、この部分はいろいろ考えさせられました。
あと、大江健三郎の作品が奇妙なほどリアル感を感じた。というのは、大江さんの作品は、宗教共同体に自ら選んで入る人や、共同体の内部の世界を描いているからで、今までは「物語」として読んでいたが、日本のいま、この瞬間に同世代のやつらで、同じようなこと現実に生きている人々がいるんだ、というのを突きつけられた気がして、少し背筋が寒くなった。想像力さえあれば、自分の友人や「まかり間違えば自分が」その「立場」であっても不思議はないのです。とにかく、日常でリーマンしている自分を、いろいろ考えさせられる作品ですした。

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大空のサムライ 上 死闘の果てに悔いなし

大空のサムライ 上 死闘の果てに悔いなし

2005/03/21 17:59

サムライという道徳律

8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

私は、何かの連載マンガでこの坂井三郎さんの伝記を初めて読んで感動して、本のほうも読むようになりました。もともと飛行機が好きで、飛行機を操縦するパイロットという職業とのその内面に興味があり、その類の本はたくさん読んでいます。一言で感想をいうと、坂井三郎さんは一人の個人としてきちっととした「大人」であったんだと思います。彼の生き様・覚悟は、軍人でなくても見習うべき誇り高い個人ですね。かっこいいです。特に地べたを這いつくばる陸軍に比べて、海と空の誇り高い男たちが集う海軍は、どうしてもスマートに見えてしまいます。純白の制服も、最高にカッコいいし。

彼は、戦時中という時代の制約の中で、見事に努力して「生ききって」います。この作品は、大日本帝国海軍の零戦パイロットの戦記にして坂井三郎さんの青春の伝記ですが、戦争の「善し悪し」は抜きにして、どんな理不尽な状況下でも責任を全うし、仲間を思い、リーダーとして命を懸け、個人だけではなく大義のためにも生き、なおかつ人間的理性も失わない、そういう生き方ができるもんなんだなぁ、とビックリした事があります。学生の頃までは、戦争中はみんな逃げ出すことばかり考えている卑屈で臆病な人か狂信的なファシストかりだと思っていましたから。よく戦後教育を自虐史観といいますが、その言葉はよく理解できます。確かに日本の戦後教育は、ナショナリティへのコミット意識を脆弱にさせています。右翼が、愛国心、愛郷心の部分でのマーケティングを誤ったのだなぁとは思います。それが良いか悪いかは微妙な問題ですが。

話を坂井三郎さんに戻すと、フランスの国民的英雄のサンデクジュペリ『夜間飛行』などの作品や様々な国のパイロットの伝記を読むと、坂井三郎さんが戦場で行っていた超人的な修練・努力に、高潔な態度などと、どれにも共通しています。パイロットという「職業」がもたらす属性なのかもしれませんね。僕も趣味で飛行機の免許を持っていますが、たしかに高度1万フィートとかでひとりぼっちで操縦する、恐怖、爽快感、孤独、自尊の感覚は、不思議なものがあります。そして、個人的なものがどうでもよくなってしまうほど、世界は圧倒的にでかいですしね。ちょっと空にあがると、雲がラピュタくらいデカいんですよ、本当に(笑)。地平線も丸く見えるし、一つの都市ぐらいなんか、手ですくえそうなほど小さく見えます。

宇宙飛行士が、宇宙へ行って地上に戻ると神を見たといって、宗教に入ったり創ったりする気持ちがよく分かります。ある特定の高度を超えた世界は、たとえ最新鋭の機器に囲まれていても、ある種人類の手の届かない神の空間なんでしょうね。その世界で、坂井さんら海軍パイロットは、そこで全世界を相手に補給もなく戦ったんですね。単純にすごいと思います。青春時代に、もし自分自身が、戦争に出会っていたらあそこまで気高く生き抜けただろうか、と疑問にも思います。時代には時代の歴史状況があり、彼のような一般戦闘員には、戦局や歴史時代を変える力はありません。「その限られた選択肢」の中で、高潔に生き抜けることこそ、人の生きる本分なのだろうと、感じました。

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裕仁天皇の昭和史 平成への遺訓−そのとき、なぜそう動いたのか

裕仁天皇の昭和史 平成への遺訓−そのとき、なぜそう動いたのか

2005/03/21 16:15

英明で啓蒙的独裁君主を望んだ戦前の日本

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

天皇制を考えるのにあたって、昭和天皇自身が「自らをどのように自己規定」していたかを追求した本です。なるほど、「天皇に戦争責任はあるか?」という問いを発するためには、まず昭和天皇自身が自分をどのような存在と定義したかは重要な問いです。

この本の結論は、非常に納得のいくものでした。昭和天皇自身は、自らを『明治大帝が定めた五箇条のご誓文と明治憲法に従う立憲君主』として位置づけています。天皇自身が、当時大英帝国の立憲君主ジョージ5世を敬愛していたのは有名な話です。しかし日本の民衆は天皇に対して『英明で啓蒙的な独裁的君主』を望んでいました。そして憲法上・時代上そのどちらの存在としても昭和天皇は振舞うことが可能でした。このねじれが、様々な軋轢を生んでいきます。

理論的には、アジアにおける当時の唯一の憲法に対して徹底的に自らの大権を制御し続けた昭和天皇は、見事としかいいようのない英明な君主であったと思います。しかし戦前日本のあまりに悲惨な貧困状況に対して、明らかに無力無能な政府や軍部を、憲法の命令という形で回避し、啓蒙独裁的に混乱を収拾しなかった非積極性は、糾弾されても仕方がない部分があります。まぁ最も誰が一番悪かったかと問えば、「輔弼の責任」をまっとうできなかった政治家だと思いますが。とはいえ、政治家の能力は民度に比例します。当時最高に民主的であったワイマール憲法が独裁者ヒトラーを生んだように、民主主義のシステムは独裁制との親和性がありすぎるのでしょう。ましてアングロサクソンのようにもともと植民地収奪によるストックが社会に幅広く行き渡り、民度が高く維持できる社会システムでなければ、運営しにくいのかもしれません。

本来ヨーロッパの史学を学んだものは、国家を統治する君主の強大な権力をどうやって押さえるかということが、歴史の根本をなしています。そのための民衆・貴族からの制限装置が憲法です。ですからヨーロッパ的常識から言えば「憲法に従わない強力な国王を、どう従わせるか?」が根本命題でした。ところが、昭和の日本は逆です。昭和天皇自体が、自らを憲法の命令に服す存在として、頑固に踏み出すことを拒否しました。この点はよほどよく日本を知らない外国人には理解できないでしょう。一般の常識とは逆なのですから。

当時の東条・近衛内閣から226事件の首謀者磯部浅一らの一連の動きは、当時の民意を背景に、「憲法停止・御親政」により天皇の独裁的権力で、日本改造計画(そのコアは貧困の解決だった)を成し遂げようとしました。時代はソ連による計画経済の成功、アメリカによるニューディール政策、なによりもナチスドイツの経済的・政治的大成功が前提な社会でした。貧困や失業率を一掃したナチスドイツのヒットラーへの憧れは、戦後では考えられない輝きをはなっていたのは間違いありません。ましてや日本の主要メディアとりわけ大新聞が、こうした革新改革の文句に弱く、積極的に国民に対してプロパガダ的啓蒙宣伝活動を繰り広げたわけですから。

こう考えてくると、戦前の狂気の時代において、憲法による命令という統治システム(天皇機関説!!)を、理解し実践していたのが、唯一自らを立憲君主として定めた昭和天皇であったことになります。同時に最も理解していなかったのは、大メディア・政治家・軍部と何よりも国民の民意でしょう。しかし、時代背景的に世界大恐慌が発生し語ることも出来な悲惨な貧困に打ちのめされている人々が、絶対権力を行使しする全体主義的啓蒙君主を期待するのは、ヒトラーという身近な大成功が例にあっただけに、無理がないことといえるでしょう。

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ルサンチマン 1 (ビッグコミックス)

ルサンチマン 1 (ビッグコミックス)

2005/04/03 01:20

アンリアルしか生きることのできないダメ男たち魂の叫び!

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

濃い。濃いよこの設定(苦笑)。とくに、ダメ男の本音の部分は、同じ男性としてマジに涙なしには語れない。これで泣けない男は、まずいないはずだ。現実世界で圧倒的な敗者になってしまったら、それこそゲームの世界に逃げるしかないだろう。だって、夢も希望もない腐った現実から、「逃げ」そして「癒し」を求めるのは、人間の権利だもん。そうすると働かない集団が(=引きこもり)増えてしまうので、時の権力からは嫌われてしまうかもしれないが。既に4巻で完結した同作品。最初の一巻のインパクトは、すごかった。それは現実の敗者となったダメ男のルサンチマン(=恨み)が、映像とともにまさに見事に表現されているからだ。

もう一点秀逸な点はオンラインゲームの世界観のつくり込み。ここでは恋愛系も格闘系などのアクションゲームもRPGも全てのプレイヤーが一緒くたにごっちゃになっている。「第九帝国」という格闘系の集団をまとめ上げている人物が、このオンライン上の帝国はサイバーテロで米国から仮想敵国に認定されている。そして恋愛系のプレイヤーがよくPK(プレイヤーキラー)に殺されるという現象もおきている。巻末の設定から議会制度もある。そしてなによりもNPC(ノンプレイヤーキャラクター)は、一度死んだら二度と再生できないという「死」の観念までも存在する。このオンラインの世界は今でこそマンガだが、FFやリネージュなどで知られるオンライゲームの究極目指すところは、これなのだ。

つまり仮想現実が「もう一つの現実」となること。

これはこれまでのオンラインゲームについて表現されてきたどのマンガにも小説にも、それほど大きく取り上げられなかったテーマ(富樫さんの『幽遊白書』や『ハンターハンター』にその萌芽はあるが)。現実に敗北して美少女ゲームに逃げてきているプレイヤーの「この世界が破壊されたら…」と涙するシーンは、ぐっときた。これは現実との区別が全くつかない世界だ。さらっとエンターテイメントしているが、その設定はものすごく濃い。最終的な終わらせ方は、僕的にはなかなか微妙だった。が、是非読んで判断して欲しい。それだけのパワーのある作品だ。こういう作品を読むと、『電車男』もニートの増加も、凄くつながっている気がしてくるなぁ。

ちなみに仮想現実空間での「神」のデザインは、なかなかにいい。パワーがあって、僕は凄く好きでした。

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マリア様がみてる 1

マリア様がみてる 1

2005/03/21 15:20

学校空間での擬似子弟制度

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アニメ化もマンガ化もされた「マリみて」。話題モノは、押さえようと手にとって見ました。といいつつも、男性の僕にとってはかなり勇気のいる行為でしたが、決死の覚悟で買いました(笑)。「ごきげんよう」という会話は、あるミッション系の女子高で毎日校舎を出るときに挨拶しているのを見たことがあったので、そんなに違和感がありませんでした。この作者の他の作品を読んだことないのですが、この作品の魅力に限っていえば、祐己という平凡な子が、学園憧れのお姉さまである「赤薔薇のつぼみ」(この学園の生徒会にはそういう称号がある)祥子という存在への「あこがれ」をバネに成長しようとするビルドゥングス浪漫ととれて、とても清清しい気持ちになりました。なんとなく大正浪漫的な匂いを感じました。

魅力の核は、学校という閉じ込められた共同社会での雰囲気を、きちっと再現できているところだと思う。これは、たぶん匂いみたいなもので、論理的説明ができない。例えば、祥子たちの先輩である水野蓉子、佐藤聖、鳥居江利子お姉さま方の卒業シーズンを描いた「いとしき日々」などが特徴的でしたが、読んでいて作者の今野緒雪さんって上手だな〜と思ったのは、ロサ・キネンシス(当時の水野蓉子)の視点から描いた章です。高校3年生が卒業式に後輩を思い、自分の思い出の詰まっている空間を旅立っていくせつなさ、甘酸っぱさがとても伝わってきます。なんだか、自分が学生時代の卒業式に感じた独特の感覚を、思い出させられました。僕自身、あんなに楽しい学園生活を送っていませんが、それでも、部活の後輩たちになにかを託していく、寂しいような、なにか心残りのような、そして温かい感覚がふっと、思い出させられました。ある種の雰囲気というか空気を、思い起こさせたり感じさせたりできるっていうのは、とてもいい作品ですよね。

とてもシンプルなティーン向けのライトノベルですが、この『憧れ』によって自己を高めるというモティーフは、年代を超えて素晴らしいものだと思います。ターゲットからしてはジュブナイルやライトノベルに当たるので、それなりの大人はまず読まないとは思うが、感受性が鈍磨していなければ、読んで悪くない作品だと思います。表紙の絵や中身などは、読む人間を限定してしまう嫌いはありますが、万人受けする作品ではないので、それもまたよしかもしれません。とはいえ、あの表紙(僕は個人的に凄い好きだが)をレジに持って行く勇気のある男性は少ないとは思う。

この作品のとても面白い点は、ロザリオの授受にはじまる擬似子弟制度です。それが百合風の独特の魅力的な人間関係を作り出しています。低年齢向けでかつフィールドが学校空間ということもあり、この関係が性愛的に進んだり心理的にも強烈に踏み込んだりはしません。しかし、そういった条件がついている故に、相手の心を重視した複雑な関係が出来上がります。こういう学校などの閉じ込められた階級世界における上下をくるんだ『守るもの』『守られるもの』の絆の関係というのは、魅力的なもので、昔の村社会や古代の軍隊にはまず欠かせないものでした。普通は、戦争のおいて死を共有するギリシャのポリスや武士などの男社会に典型的なものですけどね(それも怖い気がするが…(笑))。まぁ、とはいえ、山百合会とかロザリオの授受などのアイテムで形作る世界観は、見事だと思います。この小道具による設定がなければ、魅力が激減することは間違いないからです。そういう意味で、どこでヒントを得たのか知りたい気がします。

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魔法先生ネギま!(週刊少年マガジンコミックス) 38巻セット

魔法先生ネギま!(週刊少年マガジンコミックス) 38巻セット

2005/02/18 12:23

永遠に続く無害な共同体と日常

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

連載初期に「ラブひな」で確立した典型的パターンだけでなく、考えているじゃん赤松健さん(偉そうでスミマセン)と思った。アニメやPS2のソフトを見ると分かるが、男性オタク層を対象にした「たくさんの可愛い女の子と少しのH」というパターンに堕している。メディア戦略としては妥当だが、原作マンガの仕掛けや品性が抜け落ちているのは、残念。元を取るためには、原作の潜在力を取り入れるのは難しいとは思いますが。

僕は「永遠の日常もの」と呼んでいますが、いわゆるこの作品は「落もの」と同じで、空から女の子が降ってきて一緒に暮らす等という男の子にとって夢の世界の典型です。原点は「うる星やつら」「究極超人あ〜る」で最近だと「ああっ女神さま」や「ラブひな」などですが、付き合うか付き合わないか微妙な関係で、ハーレム状態での日常が淡々と続きます。ほんとに無害な共同体です。ナルシシズムの極地ですね(笑)。目的意識のない緩い日常と人間関係のみにフレームアップした平和な空間で、多分これが男の子の欲望の最終形態なんではないかな、と思います。

恋愛コミュニケーションに習熟し、深い恋愛を経験すると、男女共に「飽き」てきます。人間は日常の退屈に取り込まれる生き物ですから、より強い刺激を求める方向に行きますが、逆によくゲイの世界なんかではバニラになるといって遊びまくった後は今度は逆にとても普通の関係がよくなったりします。そういう意味で、大多数の日本マザコンヲタク男性の圧倒的支持を得る「うる星やつら」のような「永遠に女の子と戯れている恋愛以上恋愛未満」は、一番安心できる「いい」ポイントなのかもしれません。全編おあずけプレイ状態。「ここ」を巫女のように救い上げる元祖高橋留美子さんは、超がつく天才ですね。赤松健作品は、その正統な末裔という感じがします。

設定は、麻帆良学園中等部3-Aの女子中学生31名との「永遠の日常」ものであるが、その戯れる日常を破る仕掛けとして「血の宿命と出生の謎」という目的意識をストーリーの中に仕掛けてあるところが秀逸。永遠の日常は、パターンが出尽くしてしまいやすく早い巻数で終わってしまうが、目的意識が紡ぎだす直線的時間感覚をスパイスのように入れると、相当長く持たせかつ読者に飽きられない構造を作れる可能性が強い。練った脚本だ。

ここはイギリスのファンタジー「ハリーポッター」の筋書きのパクリです。ハリーの本質は血の宿命と出生の謎ですからね。作家には「下品なパクリをする人(しかもつまらない)」と「オリジナルのプロットを見事に展開させる」二者がいると思います。赤松さんは後者。8巻ではついに「僕だけのスーパーマン」で、10歳の子供にもかかわらず強い影と目的意識を持つネギ君の過去の一端が明かされる。永遠の日常はだるいのだが、そのだるさを謎という緊張状態で縛るのは、凄く好き。

長くマンガやゲームを見ている人には、元ネタが思い浮かぶのだが、それがまたおもしろい。また主人公ネギ・スプリングフィールドが10歳と低年齢で究極のところ恋愛対象になっていないことも、ベタに堕さない上品さがいい。永遠の日常は「恋愛以上恋愛未満」であればいいので、必ずしも恋愛が進行する必要がないからだ。それに、うまく行くと男だけではなくショタコンの女の子を取り込める可能性も大きいかも。同時代性が強すぎるので、アーカイブに残る傑作とはいえないが、僕は物凄く好き。ちなみに僕はゆえっちの大ファン(笑)です。やべーくらいかわいいっすよ。

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7SEEDS 1 (flowersフラワーコミックスα)

7SEEDS 1 (flowersフラワーコミックスα)

2004/12/19 23:19

世界が滅びた後で、どう生きるか?

7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

世界が滅びるかもしれない推測に当たり、各国政府が、未来に人間の種を残そうとするために実施された「7SEESPROJECTS」。その被験者となった子供たちの物語です。僕は、「世界が滅びた後」という設定のマンガやSFが非常に好きで、探しまわっています。いわゆる終末観の世界ですね。アニメだと宮崎駿の「風の谷のナウシカ」や大友克洋「AKIRA」やマンガなら、ひらまつつとむ「飛ぶ教室」望月峯太郎「ドラゴンヘッド」さいとうたかを「サバイバル」萩原一至「バスタード」岩原裕二「いばらの王」等などあげればきりがない。あの「北斗の拳」も設定は、核戦争後の世界なんですよね。映画でも、名作「ゾンビ」や「28日後」などや「バイオハザード」なんかもこの手の世界観ですね。この終末的世界観というのは、サブカルチャーでは人をひきつけてやまないテーマのようです。

なぜ好きなのか、と問われたら、

1.なぜ、世界が滅びてしまったのか、誰が滅ぼしたのか?という推理小説のようなハードSF的な謎解きの側面

2.そして滅び去った世界という極限状態に取り残される登場人物たちの切迫感と「これしかない」と思いつめた緊張感が、

好きだからです。そして、過去の作品の全ての登場人物が「これしかない」と思いつめた切迫感を持っている田村由美さんの人間観は、もうたまらなく好きでした。彼女の作品は、1の側面に偏っていますが、実際名作「BASARA」も世界が滅びた後の舞台設定で、この作品と同じなんですね。彼女のような人間観では、こんなだれて肥え太った欲望社会は、唾棄すべき世界なんでしょうねぇ(笑)。ある意味出てくる主人公達は、もうテロリストにでもなるしかないという純粋さに満ちています。実際彼女の短編には、テロリストがモチーフでよく出ますしね。ただ、そうした見境のなさ、純粋さ、周りの見えない視野の狭さは、世界が滅びた後のギリギリの環境では、輝きを増します。だって、生きるか死ぬかの世界では、「なんのために生きるか?」「生きるために生きる」というシンプルな問いや原則が、それこそ毎日突きつけられるからです。それは、過酷であると同時に、とても美しい。生物のとしての基本に戻っているからだと思います。普段の日常生活では、逆にそういった「本当に大事なものを」を覆い隠すベールばかりが話題になってしまいがちですが、世界が滅びたあとのような「何もなさ」はそれを切実に思い出させてくれます。田村由美さんは、そういう世界を描かせたら右に出るものがいない物語作家だと思います。まだ完結していませんが(04後半時点)既に、名作となるのはほぼ間違いないのではないでしょうか。

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オリガ・モリソヴナの反語法

オリガ・モリソヴナの反語法

2005/07/23 22:32

収容所文学としてのオリガ・モリソヴナ

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

<<オリジナルはどちらか?>>
作品の完成度として、オリジナル性としては、『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』こそが、米原万理さんのオリジンであって、この作品も脚本構造は全く同じものである。作品としては、二番煎じだと思う。やはり、最初に読むならば、傑作『嘘つきアーニャ〜』をお薦めする。
しかしそれを越えて、この実体験のの中にある「物語性」を十全に引き出したのが、この『オリガ・モリソヴナの反語法』といえるだろう。ともすれば、実体験であるがゆえに、劇的に(いや普通から比べれば異様な劇的さだが(笑))展開しない『嘘つきアーニャ〜』の背後にあったはずの可能性、思い出が、物語の中に最高の形で展開されている。
分析的に言うと、米原さんはプラハの春の直前のソビエト学校に幼少の頃に通っており、コミュニストのエリートを育てるこの英才学校は、きわめてユニークで、幼い彼女にとても深い印象と思い出を残した。時は数十年たち、ペレストロイカが過ぎ去ったロシアに、かつての旧友達を探しにマリという女性が、旅立つところから『嘘つきアーニャ〜』ははじまります。共産党一党独裁のソビエト社会主義人民共和国では、ほぼ友人の連絡は、途絶えてしまって、日本での忙しい人生を送るマリは、過去を忘れています。しかし、自由化の進む今なら、探せるかも、と彼女は幼き日々の親友たちを訪ね歩きます。
そこで、幼少時の彼女には分からなかった様々な背景や謎が、解き明かされます。ここでは、
1)過去の自分との出会い
2)過去の子供でわからなかった深い政治的な背景の謎
3)現在の友人たちの行方という謎
といったいくつもの謎を重層的に追いかけるという、推理小説のようなミステリー仕掛けの仕組みに脚本は構築されています。たとえば、なぜ、大親友が手紙をくれなくなったのか?。また、凄く仲良かった親友が、なぜか、一度も自宅には遊びに来てくれなかった(とても来たがっていたのに)。・・・・こういった当時の小さな謎が、実は、とんでもない深い政治的背景があって、それが、数十年後に出会ったときに初めて解き明かされていく様は、まるでミステリーです。プラハの春やソビエトの東欧への弾圧など、背景的知識があればあるほど面白いかもしれませんが、それがなくても、非常に分かりやすく書かれているので、ふつうの頭があれば、まず感情移入できるものです。作品の構造は、全く同じです。それだけ、完成され、洗練された形式ということもあります。
あるロシアの通訳者が、子供の頃に通ったソビエト学校の友人に会おうとするところから、物語は始まります。そこでは、すばらしい踊りを踊るオリガ・モリゾウナといういったい何歳かわからないかなり年齢がいった老婆のダンス教師がおり、その素晴らしい人を魅了するダンスは、主人公の彼女が若い頃ダンスを目指すきっかけを与えたほどでした。程なく挫折して、離婚した彼女は、子供を育てるために、使えるロシア語の通訳者となります。人物設定は、結婚こそしていないもののまさに米原さんまんま。そして、彼女は、自分の過去を追うと同時に、この不思議なオリガ・モリソヴナとエレオノーラ・ミハイロヴナ、ジーナらの信じられない劇的で数奇な運命を辿っていくことになります。ぜひ、ご一読を!!。こんなに面白い小説を読んだのは、久さしぶりです。ちなみに、必要はありませんが、ソルジェニーツィン『収容所群島』や映画『シンドラーのリスト』などを読んで、スターリンの恐怖政治や収容所について知見があると、もっともっと感情移入できるかもしれません。また、浦沢直樹さんの『MONSTER』に凄く印象や作品の臭いが似ている気がしました。

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大事なことはみんなリクルートから教わった

大事なことはみんなリクルートから教わった

2005/04/17 22:56

人事の神様

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

採用活動に少し携わったことがある。リクルーターも、もう三桁は会っているんじゃないかなぁ。面接というのは、とても勉強になる体験だ。するのもされるのもね。
そのとき人事の担当者が、ぼそっと
「リクルートってスゴイんだよね。人事システムが、これでもかって会社の都合の良いようにできている。なのに、若くして会社を辞める(辞めさせられる?)人とか、期限限定付きでかなり過酷な条件であっても、「リクルートという場所で勉強させてもらった!、卒業したんだ(辞めたんじゃなくて!)」って、みんなが思っているんだよね。
「リクルートに入って、社長を目指そうぜ(=若くして辞め(笑))」って、口説かれると、優秀で自負のある学生は、みんなそっちに流れてしまうんだよね」って。
商品が情報であり編集であるというマーケットの特徴もあるのだろうけど、これだけ
1.信じられない労力とお金を採用にかけて、
2.しかも入った社員がものすごく競争的に駆り立てる仕掛け
がある会社はないだろうねぇ(過労死はなかったのだろうか?)。ただし、やる気と体力に溢れる若者にとっては、これほど最高にすばらしい会社は、たしかにないだろう。共同体社会のなあなあ企業が多い日本社会の中でも、これほど自由競争的な仕組みを維持している組織があるのは、すごいことだと思う。ちなみに、新卒採用にお金をかけて、若い力が自由に競争的に働ける仕組みをつくるという江副リクルート社が作り出した社風は、その後のリクルート出身者のビジネス界でのブランドとなり、なによりも宇野秀康さんが創設したインテリジェンスと、その社風をさらに受け継ぐIT系のサイバーエージェント(藤田晋社長が創設)が、その社風を色濃く受け継いでいる。ちなみに宇野さんは、リクルートコスモスの営業出身。差異化が困難な若い競争市場では、この社風は見事なビジネスモデルとして機能するようです。
でも、この採用システムは、ここでインタヴューを受けているリクルート出身者の若かりし頃のものです。今は時代も違う。ダイエーの資本もなくなりましたし。逆に言うと、これからのリクルート社がどこに向かうのかで、このような新卒採用にお金と力をかけて、安い給料で強烈な競争主義に駆り立てる代わりに、強大な自由裁量と権限を与えるビジネスモデルがどこに向かうかを知れるかもしれません。

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