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主人公の画工が都から離れた先での話。風景の描写が素晴らしいと感じました。情景が想像しやすい。あと最後、そうやって終わるんだ…という感じ。
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有名な智に働けば角が立つから始まる作品。俳句的な文体、漢文調で書かれているので、ややとっつきにくいが、ならてくればその独特の文体の世界を味わうことができる。新潮文庫解説の柄谷行人によれば、過去を切り捨てた近代文学に対しあくまでもそれらとともにあろうとした漱石。何かを表現しようとするのではなく、文体そのものを味わうことを求めた。筋自体も何かを表現しようとした刹那、宙ぶらりんのまま別の話に推移しており、独特な感覚を覚える。
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夏目漱石の代表作の一つです。
冒頭の一文、「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」と、「吾輩は猫である」の脱稿から約2週間ほどで完成させたということで有名な作品。
夏目漱石の初期の作品の一つで、本作発表時はまだ職業作家ではなく、夏目漱石は教職の傍ら執筆活動を行っていました。
氏の初期の名作と名高く、エンタメ色の強かった全2作(「吾輩は猫である」、「坊っちゃん」)と違い、芸術に対する考え、存在意義や、西洋文化と日本の世の中のあり方に関する考えが滔々と論じられており、比較的読みにくい作品となっています。
人の世に嫌気がさすも人以外の世に暮らすこともできず、絵描きを生業とする主人公は、単身熊本まで「非人情」の旅に出る。
立ち寄った茶屋で宿の場所を聞くのですが、その宿には嫁ぎ先から出戻った娘がいて、その娘には悪い噂が立っていることを聞く。
宿にたどり着いて最初の晩、寝付けない主人公は宿の湯殿で不思議な女性に出会う。
この女性は結論として、この宿の娘「那美」であったことがわかるのですが、主人公はこの女性と、以前、身投げをしてこの世を去ったという別の女性をハムレットのオフィーリアの姿に重ね合わせます。
度重なる不幸な出来事に気が狂い溺死したオフィーリアを静物然とした姿で水にある儘の姿でミレーは絵画にしているのですが、そのミレーのオフィーリアと、画題としての那美の対比、そして芸術の有り様を、主に独白する形で書かれたものになっています。
物語として筋と呼べるものはあるにはありますが、この独白がメインで、ストーリーはその呼び水のようなものだと感じました。
つまりは作者の論説を呼ぶためのダシとして、オフィーリアを彷彿させる背景を持つ那美と、非人情の旅をする主人公が設定されており、ストーリーを楽しむというよりは、山奥の温泉旅館という幻想めいた舞台設定と主人公の芸術論、難解ですが卓越した文章を楽しむ小説だと思います。
ちゃんと読めば面白いですが、楽しめない人はダメなんだろうなと思いました。
主人公は結構おとぼけで、芸術について意識の高い論述を一人ブツブツ唱えながら、いざ実践しようとすると素っ頓狂な出来となるシーンが多々有り、そういう意味でも楽しめました。
個人的には夏目漱石は肩肘を張って読むものではなく、文豪では親しみやすい作品だらけなので、本作もラフに読むのが良いと思います。
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夏目漱石の本をちゃんと読んだのはこれが初めて。人里離れた旅館で画家が出会った人とのやりとりや妄想めいた話が淡々と描かれていて大きな事件がある訳ではないが、語彙なのか表現力なのか、難解な言葉ながら情景が目に浮かぶのがすごいなと。
夏休みに田舎で蝉の泣き声を聞きながら読むのにピッタリな本だと思った。
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智に働けば角が立つ。情に竿させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
昔も今も俗世間は変わらない。つくづく感じた文章だ。
あらすじには、「いやな奴」で埋っている俗界を脱して非人情の世界に遊ぼうとする画工の物語。とある。
ここでいう非人情とは、薄情とか情が無いという事では無い。ザックリ言えば、他者に煩わされないという事。
湯泉(ゆ)のなかで、湯泉(ゆ)と同化してしまう。流れるものほど生きるに苦は入(い)らぬ。
主人公が湯槽に浸かっているシーンだが、この文章は「本当にそうだなぁ。」と、深くうなづいた。
抗おうとすればする程、ストレスは溜まり苦しくなる。
湯水に流されるままに生きられたら、どんなに気楽か…。
本書は生き辛い世の中を如何に気楽に渡って行くか、その勉強になる事ばかりで、いつもは本に付箋を貼ることが無い私も貼りまくった(笑)
気になったフレーズも過去一だ。
漱石の作品の中でも、二番目に好きな作品で、唯一難点なのが読み難さ。特に漢詩の部分。
今度は、漢詩の部分に焦点を当てて、漱石の心中にお邪魔できたら…と、思う。
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ちゃんとした純文学を久々に読んだ。冒頭の「山道を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹せば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」はあまりにも有名。
想像と妄想を重ねながら芸術を追い求める絵描きの話。芸術は自由の開放である…みたいな話はモームのサミングアップに準ずる。夏目漱石の漢文、英語など各文学への造詣の深さが窺える