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紙の本
この本を手引きにして人生を考えることで、少しだけ、でも確実に強くなれた。
2003/12/09 03:05
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:すなねずみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「人生論」というものが、とても野暮ったく感じたり、ただ(屁)理屈を捏ねくりまわしているだけのように見えてしまったり、あまりに道徳くさくて強靭さに欠けたものに思えてしまったり……「現状肯定の甘言」や「人生変革の技術論」(両者は同じ穴の狢だと思う)への拒絶反応に見舞われてしまったり。
でもこの本は違う。
「死について」に始まる23の短い文章(長くても8ページ)をゆっくり読み進めながら、一日に一個、それぞれのテーマについて自分なりの言葉を(過去を振り返りながら)書いてみる。一日の初めに刻み込むように書いたその言葉を、その日の生活のなかで出来る限り誠実に生きてみる。そして一日の終わりに再びそのテーマについて考えて、三木清さんの文章を手引きにしながら、もう一度自分の言葉にしてみる。
僕はそんなふうにして、この本を一ヶ月ほどかけて読み返してみた。
そして少しだけではあるけれど、でも確実に強くなれたと感じている。
「個性について」という最後の文章に書かれていた言葉が特に強く印象に残っている(「後記」によればこの文章だけは三木さんが大学卒業前に<哲学研究>という雑誌に発表したものだという)。
「理知の技巧を離れて純粋な学問的思索に耽るとき、感情の放蕩を去って純粋な芸術的制作に従うとき、欲望の打算を退けて純粋な道徳的行為を行うとき、私はかような無限を体験する。思惟することができずただ体験されることができる無限は、つねに価値に充ちたもの即ち永遠なものである。それは意識されるにせよ意識されぬにせよ、規範意識によって一つの過程から次の過程へと必然的に導かれる限りなき創造的活動である。かような必然性はもとより因果律の必然性ではなく、超時間的で個性的な内面的必然性である」。
それまでの22のテーマについての、ある種「穏やかさ」さえ感じさせる文章とはかなり異質で、非常に生硬な文章である。しかしそこには生への情熱が迸っている。
治安維持法違反で二度に渡って検挙され、敗戦後に獄死した三木清という哲学者が、「虚無」を見据えながら、「虚無」と格闘しながら書き上げた本が「人生論ノート」である。
その出発点には、上の文章にハッキリと刻印されている若き日の彼の熱い情熱がある。そして、おそらく何より大切なのは、彼がその情熱を昭和十六年六月二日(この本の「後記」の日付。彼は44歳)の時点でも失うことなく、強く持ちつづけ、高めつづけていたということであると思う。
「人生論」は、いつまでもそこに留まっていて良いものではない。
人生を旅に喩えることが、すでに手垢のついた幾分自堕落な匂いのするものであることを承知で、最後にもうひとつ三木さんの言葉を引用しておこう。
「旅はつねに遠くて同時につねに近いものである。そしてこれは旅が過程であるということを意味するであろう。旅は過程であるゆえに漂白である」。
紙の本
すごく短い本だけれど。
2003/08/14 17:21
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中堅 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は哲学的であるというより、文学的。
哲学の思索を書き記した論文というより、メッセージ性の強いエッセーです。
また、思考と同時に感情を働かしてこそ本当に自分のためになる本だと思います。
(感情を働かすと言う表現は正しくないですが。)
そういった意味で、書かれている言葉を自分に還元するのが本当に難しい、とも感じました。
独立した23題のテーマのうち、人生の中で一度も考えないようなものは(「瞑想」は分かりませんが)
含まれておらず、非常に無駄のないものとなっています。
電子書籍
私たちの近くにある哲学
2021/11/08 19:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:めっき - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本史を学ぶ中で三木清の名を知り、『哲学入門』とともに本書を手に取った。西田幾多郎に始まる京都学派の潮流を受け継ぐ哲学者である。
ページが薄く一項一項の記述も重くないため、空き時間でも気軽に読み進めることができる。内容は、比較的日常生活にまとわりつくテーマが多く、生きることを内省する機会となり、よい涵養を得た。
ひょんな拍子に、思慮に耽る癖を開花してしまった人に薦めたい。
紙の本
おすすめします
2015/10/09 16:30
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:いぬねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
高校の教科書に一部抜粋で掲載されていた。気になったので、後日本屋で購入。
正直、使い慣れない言葉が多く、(語彙の少ない自分としては)辞書がなければ理解できない。けれど、辞書を引きながらでも読みたい本。そのため、傍線を引き、辞書を調べ、本に書き込みをして、まるで英語の本を読むときのように読んでいる。三木氏の文章自体は率直でわかりやすく、読みやすい。
幸福についての項目は、特に強く感じ入る。
紙の本
時間とともに
2002/06/25 18:10
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アセローラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
死、幸福、孤独、希望などについて23題が納められているこの本は、難しいと感じました。初めて読んだときは、三木清という人が言いたかったことの半分も理解できていないような気がしました。時がたって、また読み返すと以前より何か吸収できている実感がありました。私にとっては、自分がどれだけ成長できているのかを量るひとつの目安になっている本です。