- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
紙の本
なんとも言えない「哀しさ」が漂う。
2010/10/17 15:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『GOTH 夜の章』の続編になるのかな?
『GOTH 夜の章』は森野「夜」に焦点を当てた三篇だったけれど、本書には「僕」に焦点を当てた三篇がおさめられている。
ただ面白いことに「夜の章」では「夜」に焦点を当てはお話を語るのは「僕」の役目だったのに、「僕の章」では語り部は「僕」の他にでもない第三者が務めている。「焦点を当てる」ことと「主人公になる」ということは必ずしもイコールではないのだな、と新たな発見をした。
残酷な事件や現象に興味をかきたてられて止まない森野と僕。ふたりの出会いは、ちょっとした偶然の産物。ある日の放課後、森野が僕に話しかけてきた。
「私にも、その表情のつくりかたを教えてくれる?」
僕はたいてい、だれかと話をするときは微笑みを絶やさなかった。しかし、内心ではまったくの無表情であることを、森野はなぜか気づいていたらしい。だれにも見破られなかった演技を、彼女の嗅覚はかぎとったのだ。
森野と僕は似たもの同士…でも、少し違う。
『GOTH 夜の章』に比べると本書のほうが幾分読みやすかった。登場する事件の「犯人」たちはひと言でいえば「異常」であることに変わりはないのだけれど、嫌悪感は覚えない。このあたりが乙一作品の魅力でもあり、異様な点でもある。
なんなんだろう。この捉えどころのない世界観。しかし相変わらず「哀しい」という気持ちは抱いてしまう。ただ『GOTH 夜の章』と違って、気分は滅入らない。
それはきっと、ところどころに「人間ぽさ」を感じられるから。
百メートル先に自販機があるから、そこでジュースを買ってきてもらえないでしょうかと丁寧に頼んだ。
「目の前にコンビニがあるけど、ぜひ遠くにある自動販売機のジュースが飲みたいと思うのです。もちろん、きみに話を聞かれないよう追い払う目的でそうしているのではないよ」。
無言で森野は戻ってきた。よく見ると彼女の手には、柑橘系のジュースが一本、握られているだけである。三人いるのだから三本買ってこなければいけなかったのではないかと僕が指摘すると、あまりに待ち時間が長くて二本は飲み干してしまったのだと彼女は言う。なおかつ、その柑橘系のジュースはだれにも渡さないと主張した。外見からはよくわからなかったが、彼女の機嫌は悪いようだった。
作中、僕がある人からこう問われる場面がある。
「やっぱりそうなのね。森野さんに愛情を抱いているから?」
それに僕は心の中でこう答える。
愛情ではありません、これは執着というのですよ、(後略)。
執着と愛情の境目はよくわからない。でも、その執着がいつか愛情に転化することもあるのでは、と邪推してしまう。
森野と僕の「人間ぽさ」が垣間見られる『声』が一番好きだなぁ。
さて余談だが、乙一のことをずっと「おといち」と思っていた。
(正しくは「おついち」)
思い込みって恐ろしい。そしてごめんなさい。
『暗いところで待ち合わせ』をもう長いこと積みっぱなしにしているのでそれを読んで、乙一ワールドからは卒業することにする。
『GOTH 僕の章』収録作品
・リストカット事件
・土
・声