紙の本
生き生き生きて、死に死に死んで。
2011/08/25 10:39
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語は1950年代の山陰地方、地元の名家赤朽葉家が舞台となって始まる。読み口は何ともおどろおどろしく、世界観も独特な物を感じる。登場人物の様相や奇妙な名前や一種異様な描写から、少々オカルトチックな物を感じてしまうが、それは決してコケ脅しの世界で終始せず、重厚な物語展開と作者の類まれなる筆致ががっちりと支えている。あえて言うなら文豪と言われた作家の作品に感覚が似ているだろうか。例えば芥川龍之介の「鼻」や「羅生門」を彷彿とさせないでもない。そこに独特の世界観やSF的なエッセンスを加えてあると表現したら、この作品のテイストを想像頂けるであろうか。
紅緑村という名の村落に、一人の少女が置き去りにされる。浅黒い肌をしたその少女は「辺境の人」と呼ばれる、山奥に住む人々に置き去りにされたらしい。良心的な夫婦に引き取られたその少女は万葉と名付けられ成長し、やがて村一番の名家、赤朽葉家に嫁ぐことになるのだが。そこで生まれる命、出会う命別れる命。そして去りゆく命、消える命。たくさんの命の物語が展開される。どの命も大変な存在感を持ち輝いて、そしてロウソクの火がふと消えるように、消えて行ってしまう。でもそこから立ち上る白い煙がまた後の世界に影響を及ぼし、命の物語は過去から近代、現代へと親子3代の物語へ連綿と続いていくのだ。そして物語終盤には、悲しいひとごろしのエピソードが、展開される。
非常に読みごたえがあり、最近出会っていなかった感じの文体・物語に読書心をリフレッシュさせられた。本好き物語好きには堪らない一冊ではなかろうか。でも少々読み手を選ぶかもしれない。中学生が「夏休みに読む一冊」にはちょっとオススメ出来ないけれど、どんな本好きもうなずく、力作である事は間違いないと思います。
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私は多くの場合、歴史に関心がない。日本史だろうが世界史だろうが興味がない。
自分の過去には関心がある。家族の歴史にも興味はある。
身近な人間のそのものにも同様に。
赤朽葉家の歴史には関心がない。でも「赤朽葉家の伝説」には興味がある。
著者がこの小説を書いたことがなにより面白い。
良くできているし、私には粗がみつからなかった。
惜しむらくは著者と私が同世代ではなかったことだろう。
もし同郷で同級生だったならば、もっと正しい角度で見ることができたかもしれない。
そういったことでより楽しめる、そういう小説だろうと思う。
余談。文庫版の発売を待ちに待っとりました、私。
のめりこみました。突き破るかと思った、表紙。
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文句なしに面白い。
山陰の旧家を舞台とする、女三代記であるが、戦後の日本史がかぶっており、いろんなブームや校内暴力・イジメ、バブル発生とその発生などのムーブメントが、当時の(地方の)若者たちや社会にどのような影響を与えたかが描かれて興味深い。まさに、「懐かしの70年代」・「懐かしの80年代」なのである。
山の民出身の千里眼・祖母万葉、レディースを率いたその娘・毛毬は売れっ子の漫画家、そして個性派の中でなぜか生まれた凡人・瞳子。彼女達がそれぞれの個性を現わす。
第三章の推理小説がちょっと余計な気もして、4ツ星かなと思うが、まさに桜庭一樹さんの「初期の代表作」であり、この作家の今後の代表作を期待
したくなるような出来のいい作品である。
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カテゴリをミステリにしちゃうと肩すかし。というかミステリとしては正直何程もないなと。むしろミステリってしちゃうと勿体ないですね。
あと『ビューティフル・ワールド』って三章の終りでいきなり。…結局テーマはそれなのでしょうか?そういう小説には読めなかったんですが…どうもしっくりこない。
佐々木丸美著作へのオマージュ、という意見を何かで見て文庫化を楽しみにしていたのですが。期待は外れたかな、という印象です。
装丁は創元社としては破格に(笑)素晴らしい。
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桜庭一樹作品では一番のヒット。
こういう年代記っぽいのは元々上手い気がするが、こった構成ではなく普通に三代記にしているので取っつきやすい。
「ブルー・スカイ」とか「私の男」みたいに凝ったプロットで迷子になる感じはない。
そうかとおもったら、最後いきなりまさかのミステリ展開で、解決編までついてくるあたり、まんまとしてやられた。
素直に面白いといえる桜庭一樹作品は珍しいかも?
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三話とも毛色が違う。
それぞれ桜庭一樹っぽさが出てる。二話がラノベっぽい。
空を飛んでるのか、地上に落ちてるのか。
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鳥取の旧家に生きる女三代の物語。
ストーリーとしては面白いが、もっと掘り下げて描いてくれたら、もっと面白かったかも。
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http://takotakora.at.webry.info/201009/article_13.html
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桜庭一樹さんの本は何冊か読んだけどその中でダントツで好きな本。
スピンオフの製鉄天使も読んでみたい。
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山陰の旧家を舞台に、祖母、母、娘の三代にわたる物語。
面白かった。
続きが気になって気になって、手をとめることができなかった。
祖母は千里眼、母は漫画家、そして何者でもない孫、と孫は語るが、ようするに時代がそういう人物を望んでいたのだろうと、感じた。
そう、ただ女たちの三代を描いたのではなく、そこ根底には戦後から現代にいたるまでの社会があり、山陰の旧家であってもその荒波は容赦なく押し寄せてくるのだ。
と、同時に、祖母の悲しいまでに純粋な心の物語なのだと思った。
飛ぶ男を幻視したのが始まりで、結局は物語はそこに着地していく。
自分の気持ちも、相手の気持ちにも、気づくことも察することもできない程に純粋だった恋だったからこそ、祖母は孫娘にその結末を託したのだろう。
孫娘が自分で歩き始められるように…。
薄ら怖くて、優しくて、美しい物語だった。
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これは良い小説。
桜庭一樹さんの作品は「わたしの男」で知り、これが二作目になるわけですが、もう一気にファンになりました。
家族三代に渡る物語ですが、飽きることなく全部読めます。いつかまた読む日が来そうな作品です。
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時代と、人。描ききってる。
「寝取りの百夜」とか表現も面白くて、不思議と痛快。
これだけ女を描いて、あっけらかんとした雰囲気なのが良い。
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時代、家族、女としての生きかた。大きな、多様なテーマを孕んでいてお腹いっぱいになるかと思いきや、始めに投げかけられる『謎』が、最後の最後に切なく解かれ…。色々印象的なエピソードもあったけれど、やっぱり万葉さんの心情というか、世の見方、人の見方が作品通して一番印象的。
赤は一族の色で、血の色で、滾る思いの色なのかなぁ。どっぷり赤朽葉一族の世界にはまってしまった!
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桜庭一樹、本当に最近はまっとうなもの書く方なんだなぁとか思う。女系家族親子3代の家族物語。これがまた、とんでもない家のとんでもない女達。
割と時代描写が律儀にきちんと描かれていて、そういうとこは若干読むのが難儀だったり。。また読み飛ばす病が出てしまいました。
でも最後に空を飛ぶ男の謎が悲しく解けるのが、良かった。
最後の瞳子は自分くらいかなぁと思ったら、不思議な感じだった。
描写を読むのが面倒臭くさえなければ、なかなか重厚で面白かったと思う。
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淡々とした語り口なのに、壮大な流れや空気感が肌で感じられる。切なくなるし、嬉しくもなるし、ぞっともする。