制度は変えられる、しかし容易には変わらない
2015/10/25 00:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:okadata - この投稿者のレビュー一覧を見る
「世界には四種類の国がある。先進国、発展途上国、日本、アルゼンチンだ。」ノーベル賞経済学者のサイモン・クズネッツの有名な言葉だそうだ。1914年のアルゼンチンは50年ほどの経済成長を達成し世界で最も裕福な国の一つだった。しかしその後は独裁主義と民主主義の間を行ったり来たりした。民主主義と言ってもペロンの正義党は巨大な集票組織による利益供与の賜物で権力は著しく集中していた。そして2001年には経済危機を迎え先進国から果て得ん途上国へと滑り落ちていった。
日本は逆に19世紀中頃までは中国とともに鎖国政策の元で停滞していたが完全な中央集権の中国とは違い、薩摩藩が琉球を通じた交易で密かに力を蓄えていた。日本の明治維新が成功しより包括的な政治制度へと踏み出したのに対し、なぜ太平天国の乱や辛亥革命は収奪的な制度を維持してしまったのか。藩の独立性が高かったことで説明しているのだが藩内部の構造は収奪的で独裁的だったのではないのか。明治維新後は中央集権制の下で少なくとも民主化が進んでいる。徳川家を打倒した後薩長内戦が起こり、薩摩独裁政権が生まれても不思議ではない。しかし現実は坂本龍馬の船中八策と言う当時の常識ではかなり急進的な政策が採用され政治制度が生まれ変わった。
歴史的な記録は近代化が必ずしも包括的な制度に結びつかないことを示している。20世紀初頭豊かな工業国として発展したドイツと日本でナチスドイツや日本の軍国主義の拡大を防げず弾圧的独裁政権と収奪的制度に屈し工業化はそれを支えてしまった。敗戦後の日本がアメリカ主導で民主化に一機に向かったのはアメリカ国内の例をみると必然だったとも言えない。そのアメリカの収奪的な制度の名残は今でもまだある。1901年に書き直されたアラバマ州憲法256条は現在でもこう述べている。「議会は、公立学校制度、公立学校の資金の割当制度、白人の子供用と有色人種の子供用の別々の学校を創設し、維持する義務を負う。(中略)どちらの人種の子供も、もう一方の人種用の学校に通ってはならない。」この憲法を削除する修正案は2004年に州議会で僅差で否決された。南部ではプランテーション農業は存続し、差別的な法律がいくつも成立した。これらの制度が崩壊しだしたのは1950年代からの公民権運動によるものだ。
アフリカの植民地の大半では奴隷制は20世紀になっても存続した。しかしアフリカにも包括的な制度を導入できた国がある。ツワナ人の国ボツワナは南アの北にあり、西はドイツ支配下のナミビア、東にボーア人支配のトランスヴァール(現南ア)やセシル・ローズのローデシア(ジンバブエ)に挟まれていた。これらの勢力の拡大を防ぐためにイギリスが支配したが植民地化には値せず出来るだけ手をかけない方針だったがツワナの三人の首長はよりましな方、イギリス人の支配の強化を求めた。1895年チェンバレンの言質を取りイングランドを遊説し庶民の支持を得た。またコットゥラと言う集会所では成人男子の総会が開かれ誰でも発言が出来る。そして実力が認められれば誰でも首長になれる。
ここで得られた結論は制度は変えられると言う楽観論でもあり、しかし容易には変わらないと言う悲観的な見方でもある。現在の中国のように収奪的な制度化であっても一定期間の経済成長は歴史上多く見られた。包括的な制度が永遠に続く保証はなくメディアや国民の監視によってなんとか続けていくものなのだろう。そして収奪的な独裁制の下での持続的な発展が続いた例は歴史上ない。
投稿元:
レビューを見る
本書自体は膨大な歴史実証の本で大変素晴らしい内容であるが、上巻に比べると、ケーススタディばかり書いてあって上巻に加えた純な付加価値はほとんどなかった(つまり、オチが一緒だった)ので、読んでいて正直退屈であった。従って、本書を読む際は新たな理論的枠組みを知ろうという目的で読むと期待外れな結果になってしまうので、上巻の理論的枠組みの事例紹介の続きを読むような心持ちで読んだ方が良いと思った。言い換えれば、経済成長史の本として読むのが適切であろうということである。
個人的に付加価値があるなと思ったのは最終章(15章)で、ここでは本書の締めくくりのみならず開発経済学の観点から見て興味深いポイントがいくつかあった。この章のみは熟読する価値があると思う。
投稿元:
レビューを見る
内容は、大変興味深い。
国家の繁栄は、『包括的政治制度』からに根差す創造的破壊に
あるとし、衰退を『収奪的政治制度』にあるとした視点は新鮮だった。
ただ難点は、豊富な事例との裏返しだが、やや冗長な感がある点、
導き出される結論はすでに上巻で主張され、下巻の意味合いが
薄い点である。
15章の結論を読めば、大概の内容は把握できてしまう内容である。
個人的には、15章の中国の未来が、筆者の理論をベースに解説
されている部分が、興味深い。今後の中国を見るうえでの指針と
なる内容だった。
投稿元:
レビューを見る
包括的制度を打ち立てた欧州がアフリカで、南米でいかに収奪的に利益を得て来たか、それが現地の独裁的体制にまるまる引き継がれてきたか、胸が苦しくなる事例のオンパレード。上巻は一気読みでしたが、下巻はページをめくるのが遅くなりました。上巻でちょっと感じた「新自由主義」を賞賛するのかな?という裏読みも、それは開発独裁の変型であるとの毅然としたスタンスでした。そういう意味では一党独裁の資本主義国、中国も成長は続かないと言い切ります。ちょうど天安門事件から25年目、黙殺の6月。
投稿元:
レビューを見る
下巻では、ヨーロッパに植民地にされた南米やアフリカの国々が、その遺産の制度にどのように対処したかによって、今日の貧困などの状況へと至る道筋を歴史的に見ることができます。また、先見の明のあるリーダー達によってそれを回避できた事実も教えてくれます。
収奪的な制度、包括的な制度という2つの選択肢から、いかに一方に変わりにくいかということを、それぞれに固有のインセンティブに原因が見出されています。これは今日の我々の社会でも重要な視点ではないかと思います。
投稿元:
レビューを見る
18世紀のグレートブリテン 犯罪者は厄介払い アメリカにはあまり歓迎されなかったのでオーストラリアへ
1770 ジェームズ・クック オーストラリアの湾 ボタニー湾
シドニーコーブに基地 植民地をニュー・サウス・ウェールズ
投稿元:
レビューを見る
開発経済についてはトダロくらいしか読んだことがなくて詳しく知らなかったのですが、この本はその方面というよりも、人類学的な視点で読むべきかと思われました
面白さは折り紙つきであるといえるでしょう
投稿元:
レビューを見る
確かに評判通り面白いんだけど....
説得力はあるんだけれど,ちょっと冗長かな.同じような話,事例が繰り返されて,もうちょっとコンパクトにできんかな?と思いました.
自分は以前は発展の初期段階では社会主義が効率よくって,その後は上手く資本主義に移行することが出来れば(そんなことを達成出来た国は未だかつてないんだけど),最も早く発展が可能である,なんて考えていたけど,筆者らの理論によれば無理なんですね,それは.我々の(日本の)今の幸せは,極めて危うい綱渡りの末に達成できており,紙一重で成功があることを痛感.
投稿元:
レビューを見る
国家が繁栄するのか、貧困したままでいるのかを分ける原因を国家統治体制に求める大著の下巻。最終章である15章にこれまでの議論がおおよそまとめられている。
主張のポイントは、収奪的制度の下では一時的には成功したように見えることがあるが、その成功は大きく二つの理由から持続的でないということである。一つは、創造的破壊に伴う変化を嫌うためにイノベーションが発生しないことと、二つ目は支配層が持つ特権をめぐって争いが生じるための不安定さである。
そして、収奪的制度から包括制度には自然には発展しないということも強く主張する。日本やイングランドを含むいくつかの事例があるが、中国やロシアやアフリカ、中南米の貧困国が包括的制度の元で発展したような経済成長を現在のままの制度のもとで持続的に実現することは難しい、というのが著者の見立てだ。
人類の繁栄はなぜもたらせれたのかという興味深いテーマだが、ジャレッド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』、ウィリアム・バーンスタイン『「豊かさ」の誕生』、マット・リドレー『繁栄』と合わせて読むとよいだろう。この3つの方がお勧めではあるが。
---
本書の中でも非常に重要なキーワードとなっている包括的制度と収奪的制度という対比される二つの制度原理が規定されているが、原文では次のようにきちんと対比された語となっている。
包括的 = inclusive
収奪的 = exclusive
これを直感的に日本語で理解できるようにするためには、今回採用した訳語は完全ではないが適切であったかとは思われる。ただ、原語ではワードとしても自然に対比させられていることを頭に置いて読み進められるべきであろう。しかし、この訳語の選定には相当に悩んだだろうな。
投稿元:
レビューを見る
第9章 後退する発展
第10章 繁栄の広がり
第11章 好循環
第12章 悪循環
第13章 こんにち国家はなぜ衰退するのか
第14章 旧弊を打破する
第15章 繁栄と貧困を理解する
投稿元:
レビューを見る
本書を読みながら、グローバルヒストリーという言葉が浮かんだ。
著者の、収奪的制度はインセンティブを起こさず、発展を阻むという理論の例証に、数々の国が登場する。日本も多くのページ数が割かれているわけでは無いが、ペリーの黒船が来航して以降、明治維新への流れが触れられている。ペルーでは、侵略者に対し、なぜ同じように抵抗し、打ち勝つことが不可能だったのか。もし、成功していればペルーは現在よりも豊かな国家となっていたのではないか。
それは、小さな相違と偶然性という言葉で表される。そして歴史の形態の一部であると。
横断的展開は、アフリカのシエラレオネやツワナのダイヤモンドへの対応、中国共産党の独裁制など幅広く及んでいく。
制度とは、繁栄とは、民主主義とは。本書は、考える種を与えてくれる好著だと思う。
投稿元:
レビューを見る
非常に刺激的な内容の本であり、著者達の理論には説得力があるように感じた。膨大かつ詳細な事例は、その理論を裏付けるために実に手際よく叙述されている。
今回、同書を電子書籍で読んだのだが、紙媒体の本で読むべきだったとちょっと後悔。というのも、線を引いたり、ページを折ったり、付箋を貼ったり、メモを書き込んだりするのは、やっぱり紙媒体の本が便利。上記のアクションは電子書籍でもすべて可能なのだが、やはり違うね。
投稿元:
レビューを見る
国家の繁栄は包括的な政治制度、包括的な経済制度が必要であること。今までどのように主に西洋諸国でこれらが形成されたか、またこれらが主にアフリカ地域如何に阻害されてきたかを書かれており、今後包括的な政治制度、経済制度を持たない国に域渡せることの課題等が書かれている。
もともと当たり前だと感じていた(学校教育によりそう教えてもらっていた)ことを史実に基づき解説している本。
投稿元:
レビューを見る
経済の発展には包括的な政治体制、多元的な経済体制が必要という筆者の主張を裏付けるために多くの事例を呈示されているが、例証がくどいように思われた。多元的といいながら、ある程度の中央集権が必要であるという例示を繰り返しているので、経済が発展/衰退する中央集権の度合いがどの程度なのか詳細に説明されていれば、さらによかった。
投稿元:
レビューを見る
国家間の経済発展の違いについて分析された一冊。結論は単純明快で「制度の違い」だ。
隣の国、北朝鮮と韓国を例に挙げるとわかりやすいかもしれないが、収奪的な政治・経済制度と包括的な政治・経済制度のちがいによって、片や経済発展のインセンティブが阻害され、片や経済制度と政治制度が好循環に機能し、経済発展が進んでいく。結局は民主化バンザイってことなんだろう。
ただ、包括的な制度をとっている国においても、諸手を挙げてハッピーかといえば決してそうではない。貧富の差の拡大なんかもあって、包括的な制度と一括りにしても、細部に目を向けるとまだまだ課題は多い気がする。