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企画コーナー「追悼- Steve Jobs・北杜夫」(2Fカウンター前)にて展示中です。どうぞご覧下さい。
展示期間中の貸出利用は本学在学生および教職員に限られます。【展示期間:2011/11/1-12/22まで】
湘南OPAC : http://sopac.lib.bunkyo.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1604136
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完結編の第3部ではアメリカと開戦直後から日本の敗戦と同様に楡病院も消滅していく様子が書かれています。関東大震災の後に失火から甚大な被害を受け、間もなく初代の院長が病死。衰退の道を辿りながらも一度は再興した楡病院でしたが、戦争という国家同士の争いが民間の精神病院の存続を難しくさせていきました。病院の職員はもとより一家の壮年の男たちもことごとく戦場に駆り出され、そして女たちも子供や兄弟、想う人から否応なく引き裂かれる現実が描かれます。戦争という非日常がこれまでの楡家の人びとのささいな当たり前の毎日やちょっぴり贅沢な生活そして願いまでも奪い去り、時には人格までも変容させてしまう悲しい出来事を引き起こしてしまうのでした。戦争が激化して空襲があったあとの町の様子は、今回の大震災の津波の被害地の様子と重なって見えてしまいました。それでも、一家には誰かしらその血筋を一番濃く受け継ぐものが残っていることが救いに思えました。
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「戦後に書かれたもっとも重要な小説の一つである。この小説の出現によつて、日本文学は、真に市民的な作品をはじめて持ち」「これほど巨大で、しかも不健全な観念性を見事に脱却した小説を、今までわれわれは夢想することも出来なかった」
ー三島由紀夫
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この三島の批評も、大好きで。
市井の人の普通の生活をみずみずしく。
本当に傑作。
楡家ほど個性的ではないけれど、北さんの家族への思い、共感できる気がします。家族って近すぎたり知りすぎたり。憎たらしく思うこと、呆れたりすることもあるけれど、そこも含めて家族愛。
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北杜夫氏が亡くなって、それを機に(っていうのも失礼かもしれないけど)読んでおかねばと思いつつ、今になってしまったのだが。
まず、文章がなぜだかものすっごく読みやすくてびっくり。リズムがいいのか、けっこう文語調だったりするのに、あるいはそのせいなのか、するする読めて気持ちがいいくらい。
精神科の大病院を経営する一族が、関東大震災や太平洋戦争を経てだんだん没落していく大河ドラマのようなストーリーなのだけれど、登場人物が実に個性的というか変わった人びとばかり。考えてみると、みんな変な人っていうだけで家族仲も悪いし、いい人も魅力的な人な人もいないし、だれかに共感するとか応援するとかって気持ちにまーったくならない。だけど、なぜだか引き込まれてどんどんどんどん読んでしまう。なんでだろうーとなんだかずっと不思議だった。
第二部の戦争の話がこわかった。城木が海軍軍医として戦艦に乗って外洋での戦いを目のあたりにするところで、海上での戦争ってこういうことなんだー、とわかるような、すごく臨場感があって。それから、楡俊一が南洋の島に出征して餓死しそうになるところでは、食べものがないってこういうことなんだー、と実感するほどの感じ。これは本当にこわくて、今のこんなグルメブームの日本でもし食糧難とかなったらどうなるんだろう、だとか、食べものに執着するのは恐ろしいことかも、だとか、なんだかいろいろ考えてしまったくらい。
大病院を引き継いだけれどうまくいかず、孤独に研究に打ち込んで、ドイツで身を削って集めて持ち帰った膨大な文献は火災で焼失し、また研究成果をこれまた身を削ってまとめた原稿が紛失し、結局、虚しい思いばかりで死んでいく徹吉に、激しく同情するというか、心打たれた。なんということだ、と。これはやっぱり共感なのかも。人は愚かで、なにもなしえず、孤独で、ただ生まれて虚しく死んでいく、っていうような。
そして、辻邦夫の解説がすばらしかった。なぜこの小説に引き込まれてどんどん読んでしまうのかわかった。愚かで虚しい人間の姿を肯定してくれる小説なのだ。それが解説ではっきりわかって、いとおしくなったような感じ。
最後の、発奮する龍子の姿で、ああ続きが読みたいーと思った。龍子の話が読みたい。(ので、「猛女と呼ばれた淑女」を読もうかな)。
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ある精神科をめぐる人間関係を関東大震災前から太平洋戦争終結まで追った小説。それぞれの人物の生き様が著されており、非常に面白い。
特に戦争末期の記述が臨場感があって印象深かった。
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Masterpiece、そう呟かずにいられない。
どう考えても今までに★5つを付けた作品の中で群を抜く(ということはブクログを始めてから読んだ本の中で最高ということ)。
第一・二部の奇妙なリズムと不穏な空気が、第三部での様々な形の生と死の衝撃的な描写において昇華している。
本当に今まで未読であったことを恥じ入るばかり。
最後にもう一回、「傑作」。
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5日で読了。読み易い。
楡家の人々のなんと個性的で魅力的な日常か。長々と読んでも、永遠に続きを読みたくなった。基一郎や桃子や藍子のドラマチックな浮き沈み、その他市井の人々の日常を鮮やかに描き出した傑作。
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いよいよ戦争へ突入。ここへきて、いきなりページを繰るスピードがにぶる。なんとなれば、少し読んでは横道にぞれるというか、違う本を開いたりネットで調べたり。そのくらい戦争というのは謎に満ちているし、知らないことが多いし、また学ばねばならないことが多いのだ。
最後、強い女の物語として幕を閉める。
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楡家を本当に没落させたのは「楡家の人々」ではなく戦争でした。空襲の後の焼け野原で、それでも長女の龍子なら、また楡病院を再興できるかもしれません。
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難しい小説でした。成人間近な息子達を自分のモノサシのみで測っていたこてに気付かされたことが収穫。ただ気付いたから少し気楽になったが、人生が暗澹とした五里霧中であることには変わりはなさそう。
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下巻は、もはやその殆どが戦争小説でした。反論はあるだろうけど、昭和時代、一番大きな事件はあの戦争だと思うし、その時代を生き抜いた一家を描く以上、頁数を割くのもむべなるかなと思ったけど、(今となっては)それほど目新しい描写がないこともあって、ちょっと冗長に思えてしまいました。影も形もなくなってしまった病院。一家離散してしまった家族。栄枯盛衰が見事に描かれた物語。後日談も知りたいと思わせられながらの閉幕。未読ながら、”どくとるマンボウ”ってタイトルで、なんとなくユーモラスなイメージを抱いていたけど、こういう作家さんだったんですね。機会があれば他の作品も、って思わされる力作でした。
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勝手な人々が生き生きと生活し、そして、戦争に飲み込まれていく。
感動ではない。何か真実のようなものが含まれている。
三部作といっても、短い作品なのに、北杜夫は「長すぎはないだろうか」とたずねたそうだ。でも、この内容をこの短さで書くというのは今の時代にはありえないかもしれない。
何かを伝えるのには長ければいいわけじゃない。当たり前のことを再確認した。
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アパートの図書コーナーに「楡家の人びと」を見つけました。たまたま、12月24日の日経に紹介記事があり、これも出会いだと思って読み始めたところ、夢中になってしまいました。
本書は楡脳病院を舞台に、大正7年から昭和22年までの約30年の中で、市井の人びとが何を考え、何を食べ、何に喜び、何で生計を立て、何を娯楽として、何に期待し、何に落胆したのかを、生き生きと描きます。
この30年は、軍縮会議、昭和恐慌、関東大震災、226事件、日中戦争、太平洋戦争、そして敗戦と激動の時代です。読み終わった後、本書の扱っているのがたった30年であることを不思議に思いました。それだけ、この作品の扱う時代は変化の激しい時代であることが実感できます。
苦難の時代を描きますが、ユーモアに溢れた描写もあります。特に楡脳病院を創設した前半の主人公である楡基一郎の俗物ぶりには、笑えます。また、当時の都市伝説もちらほらと紹介されています。「赤いマント」は東洋英和がルーツであると、初めて知りました。
三島由紀夫は本書を「戦後に書かれたもっとも重要な小説のひとつ」と評価しています。そんなことよりも、苦難の中で日本人はどうやって生きてきたかを知るために、本書は必読と思います。★★★★★
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第三部の舞台は第二次世界大戦である。登場人物のそれぞれが戦争の波の中で翻弄されていく。そして、ある人は死に、ある人は戦後を大きく生きていく。楡家もまた新しい時代にのって話も終わりになる。実に深い話であった。
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「小説を飲食物にたとえると」『楡家の人々』は「山海の珍味が入った豪華な鍋料理に当たります。」
評したのは倉橋由美子(『偏愛文学館』)さん。
そう
豪華な食事、いえ読み応えのある小説でした。
歌人斎藤茂吉の息子北杜夫がご自分の実家「青山脳病院」をモデルにして
祖父母、叔父叔母、父母の生き生きした姿を明治大正昭和と描き切ったのですから。
脳病院!これだけでも尋常じゃありませんよ。
呼称は時代的でもちろん、今や精神科病院でしょうけど。
個人医師の経営するそういう病院・入院者もいろいろありそうですが、
明治期「脳病院」を創設する祖父基一郎(きいちろう!)さんをはじめ
経営する家族・人々の模様も尋常でなく、悩ましいというわけで
なんでこんなに楽しく面白く描けるのか、ユーモアの秘訣とはこれか、です。
こうなると人間、尋常の人とはどういう人なのか、案外つまらない人なのに違いありませんよ。
時代経過にそったストーリーは知らず知らずのうちに戦前史を辿ります。
例えば1941年(わたしの生まれた年ですが)真珠湾攻撃に至る生々しい経過が迫真。
「ああ、そうだったのか!」と、とても興奮しました。
倉橋さんは「無人島に持っていく一冊の有力候補」「何度食べても飽きない」
だそうです。