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紙の本
中公新書らしい手堅い一冊
2010/11/19 21:18
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者はアメリカ史が専門の埼玉大学教養学部教授。2002年刊。
私は常々、岩波新書、講談社現代新書、そして中公新書がクォリティの高い3大新書であると考えてきました。特に中公新書は、岩波新書が時に陥りがちな硬質な日本語による衒学主義からは距離をとり、一方で講談社現代新書ほど砕けすぎることもない、極めてバランスの良い表現と構成立てが魅力だと思います。この『アメリカの20世紀〈上〉』は中公新書らしく、私の期待を全く裏切ることのない、大変手堅い一冊であるといえます。
上巻はアメリカの20世紀史の前半1945年までを短時間で概観できる200頁強の新書となっています。
アメリカが20世紀に築いてきた価値観と社会システムとして著者が強調するのは「革新主義」という言葉です。
1920年代、信仰と形容してもいいほどの強い科学への信頼をバックボーンとし、企業・政府・学界が一体となって社会の発展を推進していく政治・経済・社会システムの構築、それが「革新主義」です。それはまた、人種や性による差別の問題や、外交問題にも強い影響を与えて行くことになります。
少し時代が下ってニュー・ディールを推進したローズヴェルト大統領のブレーンたちもまさにこの「革新主義」を継承した「知的探求体制」であったと著者は言います。
このキーワードは現代アメリカを今後見つめる上で常に立ち返る必要がありそうです。
また、第二次大戦中のアメリカで市民の高級品消費が盛んだったという点は興味深く読みました。同時期の日本人が食うや食わずの困窮生活であった一方、戦場にならなかったアメリカでこうした物質生活が進んでいたとは。考えてみれば想像がつかないというほどのことでもありませんが、この本で改めてその彼我の差を思った次第です。
高校生以上の読者で、アメリカの現代史をおさらいしてみようと考える人にはうってつけの一冊だと思います。
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