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紙の本
美術学芸員の未来形と女性作家の感性のみずみずしさを味わえる作品
2004/03/15 14:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:san - この投稿者のレビュー一覧を見る
SFのジャンルの中で、こういった惑星間博物館を取り上げ、
人類の歴史とかを振り返るという作品があります。
いずこかの惑星で、朽ちかけた博物館に入ると、全盛を極め
た人類なんかの作品群や情報にあい、侘しさを感じさせつつ、
その状況を説明していく...という形ですね。
ところが、どっこい!
本書は全然違うカテゴリの作品なんです。
そう、博物館惑星ではなく、美術館の学芸員さんのお話です。
コンピュータを脳内接続し、イメージで扱える美術品DBシス
テムを自由に扱える主人公が、美術のさまざまなカテゴリ単位
のアクセス権しか持たない各学芸員の間に入って調整役に徹し、
持ち込まれる色々な芸術品(これがとっぴも無く面白い)に
対して、調整役をこなしつつ探っていくというもので、美術品
単位の短編を集めて1冊としたものです。
筆者が女性と言うことで、文章に女性的な感性が満ち溢れてい
る作品で、久々に女性のSF作家としてほれ込みたい作者に遭え
たという喜びを得られた作品です。
内容的にも感性的にも、文学的にも
星雲賞に輝くだけはあるすばらしい作品です。
久々に栗本薫さんレベルの感性や瑞々しさを感じさせる新しい
女性作家であり、是非、お奨めの作品です。
紙の本
美しくゆったりとした空間を想像できる物語
2021/07/22 21:34
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投稿者:えなか - この投稿者のレビュー一覧を見る
未来の世界の博物館学芸員の話。日々の業務の中で起きる出来事に対応する主人公。勢いがあるわけでなく際立つ頭脳があるわけでもない主人公ですが、人望があります。作品の謎解きをしたり、関わる人の気持ちに触れたりと穏やかに進む話。ズバーン!ビシーっという展開はありませんが穏やかな美しい未来空間を味わえます。
ただ、漢字表記の名詞にカタカナルビがふられているのですが、漢字表記で覚えたのに漢字表記なしでカタカナだけで出てきたりして読みにくかったり、未来世界の芸術が想像力の乏しい私にはハッキリとは見えにくかったりなどし、前半は少々苦戦しました。3話目あたりからグイグイ集中できました。控えめにキラキラしている…そんなお話でした。
紙の本
美を巡る優しい物語
2017/08/05 23:14
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投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の作品の中で一番のお気に入りです。SFでここまで人と人の間に通い合う優しい想いを描いた作品は無いのでは?
紙の本
美にまつわる九つのミステリー
2004/06/06 07:37
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投稿者:Okawa@風の十二方位 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『宇宙に浮かぶオーストラリア大陸サイズのアステロイド。マイクロブラックホールによって生み出された重力により、その表面には地球の様々な環境が再現され、自然と人の生み出したあらゆる美が集められていた。人の歴史の中で最も壮大なミュージアム、博物館惑星「アフロディーテ」。
そんな博物館で、コンピューターへの直接接続により全てのデータベースへ瞬時にアクセスできる学芸員田代は、美への探求を静かに続けている…はずだった。しかし、アポロンの名を冠する総合管轄課の彼に押し寄せるのは、美術品、芸術家、学芸員達が複雑にもつれ合った厄介ごとばかり。そして彼の前に今日も一つ、美にまつわる謎が現われる。
美に対する切なく優しい、時にほろ苦い想いの九つの物語。』
宇宙(そら)に浮かぶ博物館という設定と、美にまつわるミステリータッチのストーリーとこれだけでも魅力的ですが、菅さんらしい優しさと美意識に彩られて、とても美しいストーリーに仕上がっています。組織の雑事に忙殺される主人公・田代のぼやきぶりや、妻・美和子とのすれ違いぶりもなかなか身につまされて良いです(笑)。作中にはとても美しいシーンが多く、文庫で想像するのも楽しいですが、豪華な挿絵付きで読んでみたいなあとも思わせられました。強いて一言付け加えるならば、隠しヒロイン美和子の姿がもう少しはっきりと描かれていたら、物語のほろ苦さがよりピリッとしたような気がします。
日常的でありながら幻想的な、魅力あふれる連作短編集です。