井上ひさし全著作レヴュー22
2010/09/26 08:52
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:稲葉 芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「朝日新聞」に1975年7月28日から76年4月17日まで連載。
主人公があることを契機に大いなる野望/目的/使命を抱き、途中仲間を加えていって冒険の旅に繰り出すが、志半ばにしてその旅を終える――井上ひさしはこの物語パターンが好きで、戯曲『十一匹のネコ』や長編『ドン松五郎の生活』、あるいはこの作品の2年前に連載していた『おれたちと大砲』もこの「物語枠」を用いていた。3人の小学5年生が、我が子の東大入学を熱望する教育ママに塾や家庭教師を一方的かつ強圧に押し付けられ、親や世間に一矢報いギャフンと言わせてやろうと様々な「反乱」を起こす本作も、その系譜に連なっている。
だが、正直言って出来はさほど芳しいとは言えない。冒険モノとしてはスケール感に欠けるし、所詮コップの中の嵐というか読者を巻き込んでいくワクワク感が無い。題材が題材だけに色々な人が色々な場面で「教育」に関して意見を述べるが(その典型が「大脱走」の章で展開される議論)、これとて「教育論」としては生煮えというか青臭い。つまり何か中途半端なのである。実際には絶対起こり得ない奇想天外な着想をそれでもそれなりに納得させた『ドン松五郎』の天衣無縫さ、あるいは『十一匹のネコ』が内包していた冒険譚ならではの爽快感――この両方の要素が共に欠けているのである。
『おれたちと大砲』のように、世間(体制)とズレたままになった人間の悲哀を描くのが意図だったのかもしれないが、それでもやはり不完全燃焼感(カタルシスの欠如)は残る。大ファンだからこそ敢えて偉そうなことを言わせて貰うと、井上ひさし自身、この長編では思うようなストーリー展開が出来なかったのではないか、という気がしてならないのである。
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時代がちょっと古いけど、とっても味のある1冊です。勉強に対して、親と子供のすれ違いは今も昔もあるよね。
主人公の小学生3人組は、勉強は出来なくても面白い子供たちです。暗号作りとか、どうやって大金を手に入れるかとか、頭のひねり方が面白い!
精神病についても触れています。最後のオチというか、終わり方が「えぇっ!本当に??」ってカンヂで、読後感がそこはかとなく面白い。
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小学校高学年で読んだ本。確か誰か母親の知り合いに貰ったものだと思う。
当初興味がなかったが、後に夜中まで貪る様に読んだことを覚えている。物語は半ば忘れてしまったが、ガス管を加えて自殺しようとした先生、その先生を追い込んだ親、そして本当に精神を病んでしまったかのようなラストはとても印象に残っている。
調べるとかなり古い作品のようだが、現代を舞台としても違和感のない作品になるだろう。実家に帰った折、また改めて読みたい本である。
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読書って楽しいなぁ、ページを捲る手が止まらないなぁ、と実感して井上ひさし氏の本ばっかり読んでた頃がありました。中でもこれは面白かった。親や家庭教師=権力と果敢に戦う3人の小学生達。
中で、僕はホントに喜劇作家か作詞家になりたいと思ってるんだ、ていう様なシーンが出てきます。そこで、親は小椋桂みたいになりなさい(東大出身だから)、というと子供が阿久悠のがスゴイんだ!ていう所があって何故か印象に残ってます。
でもいま読み返してみると、ラストシーンとかもかなり切ないです。しかしながらやっぱり井上ひさし氏の本には人への温かみをいつも感じます。
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この物語は泣く話ではないのだけど、私はこみあげてくるものがありました。
親の過剰の期待を疎々しく感じて、自由になろうとあがく、その姿。小学生の話だけど、その過程は大人になっていく青春そのもの。
教育に対して一過言ある井上ひさしさんらしく、大学信仰のある大人に対してものすごくアイロニーを込めて描いています。
そう、大学なんて行かなくても道を究めることはできるのだ。
ご本人は慶応も早稲田も合格していたのに、経済的な理由で行けなかったとか。悔しかったでしょうね。頭のいい方だから。
「受験の神様」、ガス自殺しようとした容子先生、東大命のお母さんたち、キンキラキンの詩人のおじさん(しかも東大卒)、すごいキャラ。
この一週間はニセが多い。偽の受領証、偽の果たし状、偽の誘拐、偽原始人……。
ここで私は泣きましたよ。
大人が読んでも子どもが読んでも面白いというすごい作品。
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高校生の頃読んでとても悲しくなり、不快な気分になったことをよく憶えている。
作品的にはよく出来ているが、受験生には薦められない一冊。
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小学5年の頃、朝日新聞の連載時に読んだ印象では、受験狂の母親や、家庭教師を出し抜く主人公の少年たちの知略ぶりに快哉を送っていたのだけど、今読み返してみると、何か閉塞した翳りのようなものが底に流れているように感じた。
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絶版。
池田東大(とうしん)、高橋庄平、大泉明の三人が親から受験勉強へのプレッシャーをかけられたり、好きな担任の先生を親に責められたりする。
そもそも名前が東大とか、東大入れなかったらどうすんだよって感じで中学生の頃読んでいた。
今もたまに読みたくなる。
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子どもらしい発想と行動、そして児童文学に特有の語り口を以って描かれる、チンケで壮大な社会構造への批判。主人公・東大の自我の目覚めと心の動きが胸に迫る。
東大たちは、母親への思慕と不信感という相反する感情に振り回されてしまう。この小説において、母親たちの愛の発現形としての学歴信仰は、ヒステリックなまでに誇張されている。しかし多かれ少なかれこの葛藤は親子の間で必ず経験されるもの。それを経て、東大が悟った母親との結びつきの強さは、憎悪を諦めの感情に変化させた。
親と子どもがわかりあえるまで、どれだけの年月がかかるだろう、いずれ両者が折り合いをつける日が来たとしても、本当にわかりあえる日はやってこないんやで、とラストでは言われている気がした。
もし、この本を10代の頃に読んでいたら、と考えると面白いけど恐ろしい。。