紙の本
森幽く叢深き淵から
2009/08/18 00:56
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
幻想的な9編の物語集なのだけど、実にポップでキュート。因業とか怨念とか、そういう要素は満載なのだけど、それだけに淫しない、そういった粘っこく奔放な空想をすること自体が愉しげである。
「白峯」讃岐に旅した西行が恨みを抱いて死んで行った崇徳院の亡霊に出会う話で、その呪いで平家が滅亡していくというストーリー。理屈で追いつめられても強引に押し切るのがよい。「菊花の約」兄弟の契りを結んだ二人の男が、1年後の再会の約束をする。友情の話なのだが、その裏側に友情に縋る孤独な魂の嘆きがある。「浅芽が宿」下克上の時代、下総国の一人の男が一旗揚げようと妻を残して京に上る。「夢応の鯉魚」たいそう絵のうまい僧がいて特に鯉を描くのが好きだったが、鯉になっている夢を見る。「仏法僧」高野山に参拝した町人が、関白秀次の一行に出会う。無論亡霊の一行であるが、ひょいと出て来てひょいと帰っていくところが軽い。「吉備津の釜」釜の占いに反した結婚の結果、夫は女を作って逃げてしまう。「蛇性の淫」蛇の化身の女に見込まれた男の話。何度でも騙される情けなさがおかしい。「青頭巾」秀麗な童児を愛したあまり、その死後に鬼となってしまった僧の話。おぞましい設定と、清々とした結末の対比が不可思議。「貧富論」蒲生氏郷の家臣の一人の家にふいに黄金の精が訪ねて来るが、意気投合して様々なことを語り合う。
かように作品の題材はバラエティに富んでおり、登場する怪異も怨霊、幽霊、鬼、妖怪など様々。それぞれに、畏れ、嘆き、嗤いといった要素が詰まっていて、感応するツボもまた様々だ。古今のどこからでも寄ってらっしゃい、まさにこの国は怪異列島である。旅のつれづれにも、あるいは隣の村へ、隣の家へ行くだけの空間にも、月を眺めた空にさえ、深い森、草むらが密生し、清流のこだま、古い柱木、黴と苔の匂い、怪しの影の息吹が充満しているのだ。
作者の筆致は、そんな世界を乗りに乗って謳い上げるような名調子だ。僕らの棲処がそういう常世なのだということを改めて確認できるのが悦ばしい。
そこで怪しの論理は、世間の常識、人間の論理とは別の次元で進行して、悪びれるところがない。彼らは浮世の義理やしがらみから解き放たれて自由だ。たとえ祈伏されようと、封じ込められようとも、それぞれ貫いたもので、満願成就の趣き。そういう態度は体制批判につながって危ないのではないかと心配させておいて、ラストで黄金の精の語る中に徳川家康へのオベンチャラをちゃっかり混ぜ込んで、これでごまかせたのだろうか。
訳書としての構成は、一編ごとにあらすじ、現代語訳、原文、脚注が付いて、非常に読みやすい。分かりよすぎて申し訳ないぐらい。だけどこの妖美の世界へすぅっと一体化し得るのは、やはり僕らの血がそうさせるのではなかろうか。
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短編集。ホラーを読むのであればまずコレから。上田秋成の雨月物語です。現代語訳本はいくつか出ているようですが、これが一番わかりやすいかなぁと。幽霊や妖怪の話もありますが、人の二面性、そして多重人格性についても描かれており、高い文学性によって現代においてもその恐怖は決して古臭さを感じさせないでしょう。特に物語の中に登場する女性、「磯良(いそら)」の恐ろしさは現代にも通じるものとされ、作家・貴志祐介は「十三番目の人格(ペルソナ)」という小説のサブタイトルとして「ISOLA」の名前を使っています。純粋に文学としておもしろいので、是非。
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高校の国語の先生に、「読みやすくて面白い古文を教えて下さい」と聞いたら勧めてくれたのがこれ。
しばらくいろいろな所で本を探していたけれど、結局現代語訳を手に取ってしまいました・・・。
怪奇小説、なんだけど、綺麗な印象。
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端正な和漢混交文。迫真の情景描写。全編にあふれる人間の愚かさや情への慈しみを込めたまなざし。日本発の怪奇小説の元祖という枠を超えた、奇跡の古典。このような書物を原語で読み味わえることの幸せ。
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一度は読んでほしい一冊。
吸い込まれるような世界に耽溺してください。
そして秋成スキーになってください。
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日本・中国の古典をベースに上田秋成が著した怪奇・怪異小説9編がまとまったもの。心温まる話があったり、教訓に満ちた話があったりと、ただ怖いだけではないホラー小説集。
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高2の選択古典の授業でハマった作品。
吉備津の釜の思い出が強くて忘れられない。
物語は、少しゾクゾクする場面があって面白くて、次へ次へとページをめくっちゃう♪
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はじめてまともに読んだ古典。注釈を見つつ食らいついた。
幻想的な雰囲気を出すという点では、現代日本語は古語には敵わないなぁと思った。
無骨にして優雅、淫靡にして純粋。
何百年たっても強烈に匂いたつんものは消えないんだな、これが。
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原文が後半、訳文が前半にあります。切り離してしまっているところに編者の工夫があります。臆することなく原文に飛びこみましょう。注を頼りに、秋成のリズム感を愉しみましょう。訳文の冒頭にはあらすじがあります。なかなかよくできているので、それをヒントにするのもよいでしょう。解説はいまいちです…。
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巷に跋扈する異界の者たちを呼び寄せる深い闇の世界を、卓越した筆致をもって描ききった秋成の本格怪異小説の数々。
崇徳院が眠る白峯の御陵を訪ねた西行法師の前に現れたその人は(白峯)。
男同士の真の友情は互いの危機において試された(菊花の約)。
戦乱の世に7年もの間、家を留守にした男が故郷に帰って見たものは(浅茅が宿)。
男が出会った世にも美しい女の正体は蛇であった(蛇性の婬)など、珠玉の全九編。
貴志さんの『ISOLA』を読み、雨月物語の中の『吉備津の釜』が気になり読んでみました。
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吉備津の釜は怖い^q^
蛇性の婬は個人的に好きです。
異類婚姻譚の一つですが真女児がいじらしくていい。結婚してくれ
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古文の原文に必死に食らいついてなんとか読了。
怪奇文学としての雰囲気を出すうえでは、現代の文よりも古文の方が圧倒的に上だと感じたので、現代語訳だけでなく原文の方でもぜひこの話を味わってほしいです。
おススメは『吉備津の釜』収録されている話の中では一番おどろおどろしく恐ろしい…
現代の文で書かれたホラーとはまた違った味わいのある恐ろしさです。
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(現代語訳しか読んでませんが)原文、注釈、現代語訳と揃っていて、何より原文と現代語訳がそれぞれ独立しているのが読みやすくていいですね。他にも代表的な古典作品がこのシリーズで出ているみたいなので、また読んでみたい。一口で言えば怪談物なのだけれど、なかなか面白い。特に「貧福論」などは金が好きで何が悪い!という態度に妙に斬新味を感じてしまった。
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ホラーというか怪談ものということしか
知識はありませんでした…。
短編集だということも初めて知った愚か者です…。
古典というものはやはり人を惹きつけるものを
持っているので、長年愛されているのだな~と
読みながら感心しました。
愛欲に溺れる豊雄の話が一番夢中になりました。
名作、いろいろ読んでみよっかな~。
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前半に現代文(冒頭で簡潔にあらすじを紹介してある)、後半に原文、というかたちで収録されている。
現代語の方がすらすら読めるだろうが、やはりどうしても原文のもつ不気味さ、妖艶さは劣ってしまう。
したがって、まず最初はぜひとも原文で読むことをおすすめしたい。
『源氏物語』など平安時代の作品を原文で読むことと較べれば、この『雨月物語』は圧倒的に読みやすい。
しかも脚注がかなり詳しいので、おそらくさほどの困難を感じずとも原文で読めるのではないかと思う。
また、そのように読みながら意味が取りにくいような箇所だけ、前に載っている現代語訳を参照されると良いだろう。
全九作品のうち、
不気味といえば「吉備津の釜」
そこに妖艶さを加えるなら「蛇性の淫」
切ないのは「菊花の約」
そこに不気味さを加えたら「青頭巾」
この四作品はとりわけ面白かった。
「菊花の約」なんかはベタな話なのに、思わずほろり。