紙の本
児童文学。平城京の片隅で。
2017/12/27 18:25
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投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
奈良の大仏が作られる少し前のことです。
都では天然痘がはやり、多くの人が死んでいきました。
疱瘡(もがさ)と呼ばれ、際限なく広がっていたのです。
千広の父親は役人で、遣唐使船に乗って唐に渡り、
一年で帰る約束でした。しかし長期滞在の留学生に
欠員が出ると、父は希望して唐に残ってしまったのです。
生きているのか死んでいるのか、連絡もままならない時代です。
奈良では千広が母親と一緒に留守を預かっていましたが、
その母がもがさで命を落とし、千広は誰の庇護も
受けられなくなるのです。
本当は、伯父の息子の八尋が気にかけてくれていました。
しかし父に嫉妬する伯父の狭量に耐えかね、
千広と母は伯父との同居をあきらめて家を出ていたのです。
たとえ母がいなくなっても、千広はそれを受け継いで、
市場で怪しげなもの売りをしながら糊口をしのいでいます。
ルンペン一歩手前の千広ですが、父がいた頃はまがりなりにも
役人の息子であり、ちょっとした勉学にも励んでいたのです。
手習いの記憶を使い、木簡に字を書きつけて護符にしたことが
きっかけで、千広の運命は動き出します。
急々如律令。
律令に沿うがごとく絶対に従い、何にもまして速やかに。
陰陽師が使う言葉ですね。実際の木簡でも残っていて、
呪符のなかに組み込まれているのです。
なんとなくしか知らなかった言葉を、少しずつ理解していく千広。
懸命に生きる少年の物語です。時代考証がしっかりしている
とのことで、それが物語の良さになっていると思います。
氷石の使われ方もいいです。好感の持てる一冊でした。
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どうしても「水底の棺」と比べてしまう(一昨日狭山池博物館に行ってきたせいもあるかも)し、
そちらに軍配を上げてしまう。
「水底…」のほうが、主人公の境遇や、物語の起伏に、より深みを感じる。
しかし、解説にもあったように木簡を扱った歴史小説という点では面白い。
また、表現の面白さを感じたところは、時代性を超えた人と人のやり取り部分だったりする。
そこが作家として、現代物も期待できるととるのか、時代物を書くための力量に疑問を感じる、
ととるのか。判断は難しい。
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平城京の都、遣唐使船に乗り込んだ父の影を払えず
ささくれた心のまま一人生きようとする少年。
やがて周囲の人々によって再び夢を取り戻す…
遷都1200年の奈良の都にふさわしく、
施薬院や光明皇后も登場。
一気に読める一冊。
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天平9(737)年の平城京。父は遣唐使船で唐に渡っていったきり、母は伯父に家を追い出された上もがさ(天然痘)で亡くなり、傷つき孤独のうちに荒んだ気持ちの少年千広が、様々な人たちと出会い支えられながら希望を取り戻して成長していく物語。時代考証をよくされていて細かく描写されているので知るよしもない平城京での暮しが目に浮かぶようでした。物語の構成もしっかりしていて丁寧さを感じる作品です。
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図書館で書名が気になって手に取った作品。天然痘が蔓延していた天平九年の日本(奈良時代?)を背景に、千広という少年の生き抜く日々を描く。疫病で母や従兄弟を失い、天涯孤独になる千広は深い絶望に苛まれつつも、新たな出会いとそこから生きる希望を見出だしていく。ふわりと香る恋もあり。個人的には安都(あと)のキャラクターが大好き。実際に発見された、その時代の木簡(木の札)や書かれた文字も小説に盛り込まれていて設定に深みを与えている。この物語自体はフィクションでも遠い昔の時代に実際に存在した木簡があるのだと思うだけで、どこか繋がっている気分がする。
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55点。期待はずれ。可もなく不可もなく。
これ読むなら「鬼の橋」とか「えんの松原」とか読んだほうがよっぽどおもしろいし、歴史に興味がわくと思う。
スイーツ寄りの子なら荻原規子のシリーズとか。
(気は乗らないがつづきはまた今度)
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久保田香里さんは、いつも難しい(資料があまりなさそうな)時代を舞台に子ども向けの小説を書く人だが、これも天然痘のエピメディックが起こっている天平九年(737年)の平城京を舞台にしている。
父は遣唐使となって唐に行ったまま戻らず、母を天然痘で亡くした少年千広が、生き抜く姿を描く。
コロナの流行で疫病を描いた小説が注目されたんだから、これもそうなればいいのに。
虐待されながら藤原家で働く少女宿奈との交流は、傷ついた心を持つもの同士が惹かれ合う切なさに胸が熱くなる。
今のような医療もなく、もちろんワクチンなどもなかった時代、それでも生き延びた人々がいたからこそ、今の私たちがあるのだ。
遣唐使とか平城京とか、歴史の教科書で覚えただけの知識が、この物語を読むことで血肉を伴った人間の営みとして感じられるようになるのも、久保田さんの作品のいいところ。
巻末の研究者の解説もとても良い。
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「これがほしいの」宿奈がさしだした手の上に、千広が売った小石がのっていた。「疫病に効くとか大神のご加護とか、全部、空言なんだぜ」「知ってる。それでもかまわない。つるつるしていて、まるで水晶みたいでしょう。水晶のこと、氷石ともいうのだって…」ひたむきさを失いかけた少年に訪れる、天平九年の夏の出会い。
(『あなたもブックトーク』京都ブックトークの会にて紹介)
奈良の都にい疫病が流行っていた。疫病除けの霊験あらたかな石、といって、河原で拾った小石を売る。千尋の考えた金儲け法だ。坊さんの薬草とどっちが効くのだろう?
(『キラキラ子どもブックガイド』玉川大学出版部より紹介)
「これがほしいの」宿奈がさしだした手の上に、千広が売った小石がのっていた。「疫病に効くとか大神のご加護とか、全部、空言なんだぜ」「知ってる。それでもかまわない。つるつるしていて、まるで水晶みたいでしょう。水晶のこと、氷石ともいうのだって…」ひたむきさを失いかけた少年に訪れる、天平九年の夏の出会い。
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過去の恨み辛みを力にして生き抜く千広と、現在をめいっぱい感じきる宿奈。
心地よい時も、命が消えそうなときも、宿命にあらがわず身を委ねる宿奈がとても印象的でした。
そんな宿奈に出会って、千広も世界の見方が変わってきます。
とっても素敵なお話でした。二人には末永く幸せでいてほしいです。