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舟を編む みんなのレビュー

    一般書 2012年本屋大賞 受賞作品

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    みんなのレビュー2,963件

    みんなの評価4.3

    評価内訳

    2,963 件中 1 件~ 15 件を表示

    紙の本

    ことばへのこだわりは辞書への愛に変わる

    2012/02/09 14:51

    21人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:桜李 - この投稿者のレビュー一覧を見る

    タイトルからは何の話だかさっぱり想像がつかず。
    今回、本屋大賞の候補作品ということで興味を持ち、あらすじを見てみると辞書編纂の話だという。
    今までに出会ったことのないテーマの物語だと思い、早速購入しました。

    辞書編集部に異動してきた風変わりな若者・馬締を中心に、チャラ男っぽいが実は繊細で生真面目な西岡、ことばを愛する学者の松本先生や、無愛想な佐々木さん・・・数人の変人に囲まれて、新しい国語辞典『大渡海』は創られていく。

    中学生の頃、父親から買ってもらった"広辞苑"が私にとって初めての大型辞書でした。
    片手に収まる持ち運びやすい、軽くて使いやすい辞書を放置して、いちいち両手で抱えなければならない上に、机の半分くらいのスペースを必要とする広辞苑でいろんなことばの意味を追いかけた学生時代。
    どうしてあんなに魅了されたのか自分でも不思議でしたが、この本の登場人物たちのことばへの執着だけでなく、装丁や、紙質のことを読んで、あの感覚はぬめり感というのか。確かに裏写りしてないぞ。と納得。
    わからなくて意味を調べてるのに全く意味が解説されてない項目があることも思いだし、笑ってしまいます。
    ひとつの言葉に対して複数の意味があって、辞書によって書き方や挿絵も違っていて。

    ああ、そうか。
    私は辞書のそういうところが好きだったんだね。
    と、今更ながら具体的な魅力に気付かされました。

    辞書一冊を世に送り出すのって、すごいことなんだと思いました。
    更に、その作業に関わり、達成できたらどんなに素敵だろう。
    辞書をめくりたい。編集部で、辞書部門で働いてみたいと思わせる一冊。


    今は電子辞書が主流と聞きます。便利でいいと思いますが、辞書の魅力も知ってほしい。
    その"とっかかり"として、是非学生さんたちに本書を読んでもらいたい。

    今晩にでも、広辞苑をめくってみよう。

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    紙の本

    辞書編纂にまつわる人々のおかしみ

    2011/10/05 19:41

    13人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る

    この電子辞書の時代に、紙の辞書を編む話を
    堂々と、ひと言も電子辞書には触れずに描きます。
    その開き直りとも思える書きっぷりに快感を覚えます。

    大手総合出版社玄武書房の辞書編集部では
    中型の新しい辞書「大渡海(だいとかい)」の編纂が
    進められています。とはいっても、
    これがスイスイとは行かないのが辞書編纂の世界。

    辞書編纂には何年も、時には20年、30年かかるのは
    知っていますが、ここまで緻密な作業とは。

    登場人物の言葉に対する細やかさと
    整理整頓好きという癖のような体質のようなものには
    ことごとく感心するやら、あきれるやら。

    定年間際の荒木、
    営業部から配属されてくる馬締(まじめ)、
    渉外担当に能力を発揮する西岡、
    ファッション誌編集から転属される岸辺と
    語り手を変えながら、「大渡海」は編まれていきます。

    特にまじめは言葉に対して、よくいえば鋭い感性、
    でも執着ともいえる変な人。浮世離れしすぎ。
    それに美人の奥さんが現れるんだ。
    世の中の不思議のひとつ「美女と変人カップル」が
    出来上がります。

    西岡も、岸辺も恋をして……。
    辞書が本当に完成するかどうかよりも
    この人間模様が気になります。
    そして、最後はグッときます。

    紙の辞書が時代遅れなんて思ってしまい、すみません。
    そういえば私も、広辞苑の、あの手触りを愛しています。

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    紙の本

    この本の帯につられて軽い感じで読み始めた若い人に、仕事の何たるかを、それぞれの心で感じてほしい

    2011/11/14 20:43

    7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:mieko - この投稿者のレビュー一覧を見る

     私が高校生の頃、流行りの心理テストか何か忘れましたが「無人島に何か一つ持っていけるとしたら何を持っていく?」なんていう話で盛り上がったことがあります。私は本を1冊持っていきたいと思い、何の本にしようかと思案したあげく「私、国語の辞書を1冊持って行く~」と言ったのでした。漫画の本はあっという間に読み終わってしまうし、小説だってどんなに長編だとしても1度読んだら終わりだし。辞書ならあの薄っぺらな紙のおかげでページ数が多い上に、どこから読んでも何度読んでも飽きないだろうと思ったんですね。
     最近の学生のほとんどは電子辞書を使っているようですが、手に持った時のずしっとした存在感や、ぺらっとしているわりにシャリっとしていて手に馴染むあの紙の感触を味わうことなく人生過ごすのはホントにもったいないと思ってしまいます。

     そんな私ですが、今まで辞書を作るということがどんなことなのか、まったく想像したことがありませんでした。ですからこの本を読んで、辞書一冊を世に送り出すということは、こんなにも大変で凄い仕事なんだと、頭が下がる思いです。

     出版社の営業部にいる若い社員・馬締(まじめ)を、辞書編集部の定年間近の男性・荒木がスカウトします。馬締はちょっとばかり変わり種で、営業部では彼をいささかもてあまし気味の模様。荒木は営業部に出向き、馬締を呼び出して彼と話をするのですが、荒木の質問に対する彼の反応が、普通の感覚からすると若干調子っぱずれなんですね。でもそのはずれ具合こそが辞書編集部には必要なのだと、彼の能力を高く評価し、めでたく荒木は馬締を獲得します。

     若者の仕事に対する能力を見るとき、専門性の高い研究職などは別として、営業部的視点から仕事ぶりを評価することが多いような気がします。気がきくとか、アンテナが高いとか、仕事が早いとか、コミュニケーションが上手い、などなど。
     馬締はなんだかダメダメ感を漂わせた冴えない若者で、営業部的視点では到底評価されそうにないのですが、とにかく言葉に対しての執着というかこだわりが凄い。しかもその言葉を、物理的にきちんと整理整頓できるのです。生活していく中で出会う言葉を、次々と書き留め、調べ、考え、整理整頓していくという、極めて地味で変化の乏しい仕事を、「言葉」好きな彼は黙々とやり続けます。馬締はそんな地味な仕事と真摯に向き合い、一人前の辞書編集者に成長していきます。馬締を含む辞書編集部の人たちは何年も何年もかけて、一冊の辞書を編み上げるのです。

     この本は、帯と、カバーをはずした本体の表紙裏表紙に漫画が描かれてあります。これって若い読者を意識しているのでしょうか。辞書編集なんて堅苦しそうだから若い人は手に取りにくいかもしれないけれど、漫画が描かれていることで「なんか面白そう」と思うかもしれません。特に高校生くらいだと、この装丁は興味をそそるでしょう。読み始めてみれば読みやすくて面白いし、仕事をするということへのメッセージも説教臭くない。同年代同士で一つのことを成し遂げる、たとえば「生徒会活動」や「部活動」と違って、仕事というのは年代の違う人たちと一緒に何かを成し遂げなければなりません。そんなことも若い読者に伝わればいいなと思います。
     辞書編集という仕事を垣間見ることで「言葉」というものにあらためて興味を持ちましたが、「お仕事小説」としても感じ入る部分が沢山ありました。

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    紙の本

    ケレン味のない、編むように書かれた小説

    2012/02/02 23:58

    7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る

    僕は三浦しをんのことはあまりよく知らない。何しろ『風が強く吹いている』一作しか読んでいないのだから(まあ、映画で『まほろ駅前多田便利軒』は観たが…)。ただ、その一作から受けた印象は、「設定と筋運びの人」であって、あまり言葉そのものに切れのある人ではなかった。その人が辞書編纂者を扱った小説を書くというのがなんとも面白そうで取り寄せたのである。

    ただ、読む前に想像したような、言葉や辞書の非常に深い薀蓄に分け入って組み立てた文章ではなく、やはりここでも彼女は設定と筋運びの人だった。

    主人公は馬締光也という、名前の通り真面目な、しかし、どう見ても冴えない出版社勤務の男である。むしろ変人である。他の作家が書いたなら、多分このまじめ君の性格や行いを思いっきりデフォルメした上で、誰も知らないような語彙や語釈を繰り広げて、とりあえず読者をあっと言わせながらストーリーを進めて行くだろう。しかし、三浦しをんには全然そういうケレン味がない。淡々と進む。いや、もちろん山も谷もある。だが、テーマは人間の暖かさみたいなところからあまりぶれずに展開する。辞書は完成に向かってのろのろと進んで行く。奥手のまじめ君は理想の女性としっかりと結ばれる。

    この辺、話がうますぎるのではないかという気がするのだが、軽薄な西岡という登場人物と比較しながら、まじめ君のような、こういう男こそが女性の愛を勝ち得るのだと言われると(言っているのが女流作家であるということもあって)、はあ、そんなもんなのかなあと納得させられてしまう。

    最初から最後まで、そういう良いお話なのである。僕としてはもう少し難易度の高い言葉遊びを見せてほしかったのだが、しかし、こういう何の衒いもない良いお話には敵わない気がしてくるから不思議である。

    そんな中で「舟を編む」というタイトルが秀逸である。この小説においては、言葉で遊ぶのはこのタイトルだけで充分なのかもしれない。

    まさに編むように書かれた小説である。そして、読み終わったら、大海に漕ぎ出す勇気が湧いてくる小説である。

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    紙の本

    辞書を愛する人たちの物語

    2011/10/21 10:47

    4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:こぶた - この投稿者のレビュー一覧を見る

    言葉という大海原を航海する舟としての辞書、その船を編むためにこれほどの労力と時間が必要だということをこの小説を読むことで知り、
    子供時代、「わからないことは辞書を引いて調べましょう」と先生に言われて使っていた辞書、我が家に会った数々の百科事典、大漢和、広辞苑などに対する気持ちが変わった一冊になった。
    物語は辞書作り一筋37年の荒木が定年を前に入社3年目の馬締光也を後継者に選ぶところから始まる。
    変わり者だが言葉に対する鋭いセンスを持つ馬締は営業部では浮いた存在だった
    新しい辞書『大渡海』の編纂に向けて動きだした編集部にさまざまな出来事が。。。
    荒木が長年コンビを組んできた監修者の松本先生と思い出を語りあう1章と言葉以外には全く長けていない馬締の恋を知る2章と、同じ編集部で働くいまどきの青年西岡が主人公
    。軽薄で軽いと思われた西岡の心の中の葛藤や鬱屈した思いなどが描かれ
    4章はそれから何と時間が15年も経過しているのだ
    紆余曲折しながら完成にこぎつけるまでの
    辞書を扱う紙の素材をめぐるやり取りや
    監修者松本先生のこと、新しい編集者のことなどが描かれている。
    最終章では・・・

    辞書が辞書として出来上がるまでには監修者、担当する学者、編集者だけでなく製紙会社やデザイナーなど様々な人たちによって作られていることが実感として伝わってきて
    久しぶりの三浦しをん作品をそれこそ何度も隅々まで読み返し
    良い作品だと思った
    登場人物一人一人をいとしいと思うこともでき
    きっとまた辞書を引くときに思い出すだろう
    この本丸ごと辞書愛があふれている

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    紙の本

    愛しさが溢れます

    2011/10/14 22:26

    4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:栗太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る

     言葉に、辞書に、そして人に対する愛おしさが胸に溢れてくる一冊でした。

     素人が想像しても、辞書編纂作業は気が遠くなるほど膨大で緻密で、忍耐と情熱、言葉に対する感性、知識、そして愛情がなければ務まらないものでしょう。これは、そういう物語です。

     大手総合出版社玄武書房の中で、時に冷遇され金食い虫と囁かれる辞書編集部に集う個性的な面々は、数多の問題を乗り越えて新しい辞書『大渡海』完成に向けて突き進みます。年齢も経歴もバラバラで、もちろん性格も違う人々の人生が、「言葉」を核に編み上げられていく。

     辞書の編纂にかかった時間はおよそ、15年。読み手は途中で、ぽんっと10年ほどワープするのですが、彼らはその間も黙々と言葉を格闘しているわけです。その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも。

     三浦しをんの小説を読むと、いつでも人物造形がファンタジーだと思うのです。
     色々と事件は起こるけれど、振り返ってみれば、味のある良い人ばかり出てきて、様々な形で想いは報われる。「そんな上手くいくもんか」と思うけれど、それでも心掴まれて、号泣しました。

     言葉を大切にしよう。言葉の力を借りて、人を大切にしよう。
     久々の星5つ、至福の時でした。小説って、本当に良いですね。

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    紙の本

    楽しい仕掛けがいっぱいあるぞ。ライトノベル風で一気読みはできるのだが、それではあまりにもったいない。辞書を片手に寄り道しながら、言葉の世界を逍遥しましょう。

    2011/12/04 16:37

    4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

    玄武書房に勤める馬締光也。営業部では変人として持て余されていたが、人とは違う点で言葉を捉える馬締は、辞書編纂部に迎えられる。新しい辞書『大渡海』を編む仲間として。定年間近のベテラン編集者、日本語研究に人生を捧げる老学者、徐々に辞書に愛情を持ち始めるチャラ男、そして出会った運命の女性。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。言葉という絆を得て。彼らの人生が優しく編みあがられていく………。しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか………。」

    「辞書」あるいは「辞典」とのつきあいは本を読み始めたときから現在までだから相当に古い。最近では三省堂・電子辞書版「スーパー大辞林」をもっぱら愛用している。百科辞典もパソコン用の日立デジタル社製「世界大百科事典」。類語辞典もちょっとした言葉ならシソーラスのデジタルが便利だが、電子辞書ではない書籍のものなら講談社の「類語大辞典」はよく使っている。最近の「てにをは辞典」もアイデア賞もので、なるほどと感心しながらの使い道がある。

    三省堂「新明解国語辞典」が発売された時に宣伝が上手だった。それにつられて買って、見た。「恋愛」の語釈を「特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒にいたい、できるなら合体したいという気持ちをもちながら、それが常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態」と表していた。辞書とは論理的収斂だと思っていたところ、どこか感覚的であり、大胆にも主観を先行させている。これまでにはない面白い辞典だなとちょっとビックリだった。それでいて、ズバリと本質をついているではないか。「合体したい」という表現も変っているなぁ………と。そこで「合体」と引くといろいろあって、中に「性交のこの辞書におけるえんきょく表現」とあった。なんだ!こんなのあり?辞書編纂のタブーじゃないの、もしかしたら婉曲なジョークかと楽しい思いで読んだものだ。さらにまた恋愛は「かなえられない」のが常態としている、この著述の責任者は失恋ばかりの人だったに違いないなどと余計な想像までした。ちなみに三浦しをん『舟を編む』はここで恋愛を「異性」に限定したことに疑問を投げ、「大渡海」は「同性愛」も恋愛として認める新語釈を試みている。そのうんちくが愉快なやりとりのシーンになっていた。
    「新明解国語辞典」については結論から言えば「恋愛」という言葉を「調べるため」に引いたのではなく、楽しく読める辞書、このうたい文句である魅力の核心部分「言葉の本質に迫った語釈!」「数多くの使用例から帰納し、深い内省と鋭い分析を加え、一層磨きがかけられた語釈!」を確認したかったのだ。これはケースカバーの宣伝文句なんだが、凄い。「深い内省」だとさ。
    辞書編集って面白いなぁ。

    私は言葉にある重みを意識しているほうなので、自分の思っているところのものを他人に伝えることがいかに難しいことかと、つねづね感じている。ビジネスの上でもそうなのだが、むしろ親しいもの同士、親子・夫婦のほうがもどかしさを痛感する場合が多い。文字にすればあとあとあまで残るのだからなおさらである。だからピタリとあてはまる言葉に気がついたときにはおおいなる喜びがあるものだ。
    言葉をそのまま言霊に直結させるのではないが、使い方ひとつで取り返しのつかないハメに陥る時だってある。ネットや携帯でのやりとりには怖いところがあるものだが、沖縄防衛局長も「犯す」の語彙に「深い内省」をもってあたるべきだったのだ。
    ことほどさように、精妙なる言葉の働きには畏れ多いところがたくさんにある。

    『舟を編む』、表紙帯とカバーをはずしたところの表紙はコミック漫画であって、馬締→まじめ→真面目の駄洒落を延々とし、不器用な真面目青年が恋を告白するまでのもどかしさというまったくの定番シーンにうんざりするところもあった。いまはやりのライトノベルってこれかと、おもいきや………
    ムムムッ。
    精妙な言葉の世界を軽妙なタッチで描いた正調のガイダンスではないか。

    言葉は広く深く多様に変化している海だ。身近にありながらも広大な未知の世界であり、ちょっと踏み込んでいくと、そこには驚きがあり、発見があり、神秘がある。だからどのような権威ある辞書の語釈であっても絶対ではない。………とぼんやりとは感じていたが、この作品を読んでいるとその微妙なところに向かって、それぞれに奇人変人ともいえそうな個性的ヤカラがごく普通の人をまじえて、具体的にしかも奇妙奇天烈に突っ込んでいくものだから、なんどもハタと膝を打ったものだ。なるほど辞書編纂というのはこういう仕事であったのか。
    先ほどは冗談めかして述べたところだが
    「言葉の本質に迫った語釈」
    「数多くの使用例から帰納し、深い内省と鋭い分析を加え、一層磨きがかけられた語釈」
    これは『舟を編む』の人たちの目指していたそのものであったし、辞書編纂の極致であることがよくわかった。

    言葉を愛するものたちが「大渡海」の完成に向け、情熱を燃焼させる。幾多の困難にもめげない。世にあって隠れたヒーローたちの熱い思い。NHKの「プロジェクトX」型、感動もの企業小説の一種といってもよい。ただし、障害があっても深刻に悩むことはなく、軽い乗り乗りの気分にあふれ、スリリングで爽やかである。
    本物のユーモア小説である。
    才気煥発の三浦しをん、いまや絶好調といったところか。

    「辞書」は「言葉という大海原」を航海するための「船舶」であり、その辞書を編集するものたちで「舟を編む」との意味を持たせるタイトルである。どうして「船」ではなくて「舟」なんだろうね。「舟」は竿や艪や櫂で漕ぐ小型という一般的解釈がある。スーパー大辞林によれば「多く小型のものを『舟』、より大きなものを『船』と書く」とある。大海原を行くのなら少なくとも帆船級が必要だと思うんだが、「船」ではない。
    なぜだろうかと考える。
    「編む」のほうに重心をかけたのだ。「編む」の語釈を新明解国語辞典に頼れば「糸・竹・針金・髪などを互い違いに組み合わせて、形あるものをつくる」とあった(つらつら見れば<形あるものを作る>なんて表現を始めて発想した人はとても可笑しい人だね)。編むとなればこれは手作りだ。編むことで作られた水をわたる乗り物といえば、エジプトのパピルスを束ねた舟、動物の皮革で作られた皮舟、あるいは材木を縄や針金で編んだ筏である。となればこれは「舟」であって「船」ではない。しかも大海原に「舟」を人間の力だけで漕ぎ出だすという冒険心とロマン。
    なんてったって、言葉の大海は古代までも遡る。だから、不沈の航空母艦よりは葦舟を浮かべるのがふさわしい。
    いや、むしろ辞書に内在する不確実性という危なげな雰囲気を象徴しているのである。

    ここは三浦しをんにして考えに考え抜いたところなのだ。

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    紙の本

    言葉という大海を渡っていく

    2011/10/31 08:09

    3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る

     言葉というとんでもなく広く、深い海。
    常に形を変えていく言葉という名前の雲。
    それを、ひとつひとつ定義するのが、辞書です。
    古い言葉、新しい言葉、わかっているようで実は言葉で説明できない言葉・・・辞書というと
    機能ばかり重視されているようですが、無機質な言葉の羅列ではなく、言葉ひとつひとつをどう説明するか
    考えて考え抜いて、 選びに選び抜かれた言葉が網羅されたを目指す『大渡海』という辞書を作るという出版社の
    辞書編集部の執念ともいえる物語です。

     前半の主人公になるのは、とにかく言葉に興味があって大学で言語学の道を選んで
    出版社に入った、真締(まじめ)という青年です。
    長年、辞書『大渡海』の編纂をしていた荒木は、もう定年退職間際。
    辞書作りに必要な後継者人材と見込んで、真締を営業部から引き抜きます。
    真締は、まさに「まじめ」なだけが取り柄の青年。
    見なりは構わず、髪はぼさぼさ、いつもひとりで本を読んでいて、あまり人となじむことができない。
    流行に全く疎くて、同世代の人間とも、話がかみあわず遠巻きにされてきた真締。
    しかし「わからない事柄はいいかげんにしておかない根気と執念の持ち主」と
    いう辞書作りの基本の才能があるのです。それを荒木は見抜く。

     同じ辞書編集部には西岡という同世代の社員がいますが、これが真締と正反対の遊び人。
    ノリも軽くて、おべんちゃら、お追従なんてお手のもの。女の子ともおおいに遊んでいます。

     真締は、そんな世渡り上手の西岡を正直うらやましいと思いますが、西岡は最初は人の話を聞いて
    苦手なタイプだと思いますが、真締が「人の目など気にせず、やりたいことに専念できる。誰も
    真似できない真面目さと集中力の持ち主」であることに嫉妬のような、憧れのような複雑な気持を抱きます。
    お互い「自分にないもの」をうらやましがっているけれど、次第に「自分に何があるか、できるか」を
    見つけるという物語でもあります。

     話は真締の恋やその後、辞書が完成するまでの長い時間を描いていますが、なによりも
    辞書を作る人々という特殊な仕事の人々の会話が、もう「言葉づくし」です。
    「西行」をどう辞書で説明したらいいか、ただその人だけでなく西行という人から発生した
    いいまわしがたくさんあります。何をどこまで収録すればいいか?
    説明が難しい「男」「女」「愛」といった言葉は、性差別や偏見のない正しい 意味をどう限られた文字数で
    説明するか・・・などたくさんの言葉のうんちくがでてきます。

     ただ言葉は素晴らしい世界だ、というより三浦しをんさんは、様々なユニークな登場人物たち
    を自由に動かし、本来の言いたいこと「言葉って素晴らしい」に迫っていきます。
    三浦しをんさんの小説は、勝手に「取材もの」と呼んでいるジャンルがあるのですが、色々な仕事を念入りに
    取材してそれが何であってもやりがいを持つことの意味を問うていると思います。
    『神去なあなあ日常』の林業、『風が強く吹いている』の駅伝にかける大学陸上部・・・取材を
    した結果の仕事の世界ではあるのですが、それをうまく物語にすることができる人です。
    決して、安直に流れず、かといって重くもなりすぎず脱力ものの漫画的なお遊びの部分もしっかりおさえています。

     真締の「辞書作りへの執念」というのはどんなに年月が経っても衰えることがありません。
    西岡が嫉妬するのはその部分なのです。仕事が好きだ、またはこれがやりたい、と「なりふりかまわず」になれないのが
    西岡なのです。

     出版社も辞書作りには消極的で人員削減、経費削減の中、真締はとにかくまっすぐに愚直に
    言葉の海を必死で泳ぐ。
    ちやほやされたい、褒められたい、認められたいという計算や高慢さからは縁遠い人。
    なんとか業績をあげよう、儲けようと必死になると計算というものが働きます。つまり「よく見られたい」という虚栄心。
    西岡は計算高いのでしょうが、真締は、真締で、最初は「ぽんぽん言いたいこと言っている」西岡も、
    人を傷つけるような事を決して言わない人物であることに気がつきます。

     そして、最大の山場は、もちろん辞書の充実した内容ではあるのですが、もうひとつは、紙。
    真締は「ぬめり感」が大事と言います。 薄くても決して指につかず、他の頁とくっつかず、指に吸いつくような
    ぬめり感。電子辞書にはありえない辞書の紙のぬめり感。
    最近買った辞書も無意識に開いて、指で紙がどうかな、めくりやすいかなと触っていました。
    これは頭ではなく指先が記憶している感触でしょう。紙媒体の素晴らしさもここでわかるのです。

     デビュー作、『格闘するものに○(マル)』は、三浦しをんさんの出版社就職活動がベースに
    なっているのでしょうが、主人公が「本と漫画が好きだから、出版社に勤めれば好きなだけ
    本と漫画が読める」という動機だったのにくらべ、作を重ねるごとに成長といいますか、
    仕事に対する真摯な気持を描くようになってきました。
    とにかく仕事というものに三浦しをんさんはつきない興味を持っているようです。

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    紙の本

    テーマは辞書編集部!!

    2012/02/06 11:04

    3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:平祐 - この投稿者のレビュー一覧を見る

    この作品で特筆すべきはテーマだろう。「辞書」なんともマイナーなテーマでありながら1つの辞書が完成するまでの情熱を描き切った素晴らしい作品だ。

    辞書に会社人生を注いできた荒木公平・・・玄武書房辞書編集部に籠りがちであるため一般女子社員からは外部の人だと思われるエピソードもあり変人。

    辞書に一生を捧げた松本先生・・・外部協力者だが寝ても覚めても辞書一筋。やっぱり変人。

    元営業部の馬締光也・・・辞書編集部に異動になり才覚を発揮する。15枚に及ぶ難解なラブレターに項羽の詩を捩った愛の詩を詠み込んでみたり、やっぱり変人。

    女版健さん林香具矢・・・馬締光也の思い人。月の晩に出会い思わず「かぐや姫」と勘違いされるなんてエピソードは安直ではあるが面白い。

    意外と真面目な西岡・・・軽薄そうに見える辞書編集部員。後に広告宣伝部に異動になるが、辞書編集部に手紙の爆弾を仕掛けて異動。

    無愛想!!佐々木さん・・・契約社員として辞書編集部に在籍。事務能力に優れており、ちょっとお茶目なエピソードも。

    と、前半はこんなキャラクター達が繰り広げる辞書編集物語。ウィットと魅力に溢れている作品で個人的には一押しだ。

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    紙の本

    辞書には驚きと感動が詰まっていることを教えられました。

    2012/01/28 17:10

    2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:さあちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

     このタイトルからこれが辞書作りに携わる人々を描いた内容だとは想像もつかないと思います。勿論三浦しをんさんの新作なので通り一辺倒なものではないだろうとは思っていました。しかしまさかこんなにまで感動的で涙するようなものだったとは!
    まさに嬉しい驚きでした。
     これは15年もの間優れた辞書を世に出そうと奮闘する人々を描いた作品です。中心になるのは辞書編集部主任の馬締光也。
    名前の通り真面目で少し変わっている。ぱっと見ははっきり言ってあまり関わりたくないタイプ。しかし本が好きで言葉に対する感性と情熱は飛びぬけている。そんなちょっと変わった彼を支える同僚や部下それぞれの視点から描かれています。
     辞書。考えてみれば誰もが1冊はもっているはずだと思います。そう思えば大ベストセラーですよね。何だか所謂お偉い先生がつくっているというイメージを持っていました。勿論それが間違ったイメージでは無いでしょうがそれ以上に特別な勉強や知識を持たない一般の人々が仕事として関わり長い年月をかけて作り上げていくものだということを教えてもらいました。この仕事に情熱を傾けた多くの人々。ものを作り出すという仕事の素晴らしさが描きだされていると思います。
     私達がこの世で生き自分のあるいは人の想いを感じるためには言葉が必要です。そんな言葉のの持つ力を大切にするために今日も名も無き人々が力を注いでくれている。そんな思いを強く感じさせてくれる作品だと思います。

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    紙の本

    とっても地味だが深い本

    2012/01/23 17:43

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    投稿者:ひととき - この投稿者のレビュー一覧を見る

    紙の辞書が好きな私は、その帯の紹介に惹かれて手に取ってしまいました。
    読み始めたら、止まらない面白さです。

    辞書作りというのは、それは膨大な数の言葉を吟味していかなければならないので、まあ時間はかかるだろうな~と思っていましたが、そんな軽い「時間」ではありませんでした。
    常に模索して一つ一つの言葉を受け止めて考えるその姿勢に、敬意を表したいです。
    そのこだわりには脱帽です。
    …と、オタクのようなうんちくだらけの内容かと思われがちな辞書作りですが、きちんとそこに絡めたロマンスもあり、「いつの時代の恋愛なの?」とつっこみたくなるほどのじれったさですが、三浦作品にありがちな「ナナメ目線の感覚」がいい味を出しています。

    言葉を大事にする辞書づくりの本だからか、思わずこの本もじっくりと言葉に気を付けながら読んでいました。
    なので、いつもよりもこれまた時間のかかる読書となるわけです。辞書作りと同じですね~。

    主人公のほかに、部署にいる3名の視点からも描かれていますが、それが自然に移行しているので、まったく違和感はありませんでした。

    今の教育産業は電子辞書におされて、紙の辞書の出版は少なく感じますが、これを読むと今まで以上に、紙の辞書が愛しく思えてきます。

    辞書が好きな人、言葉が好きな人、本が好きな人、さらに紙が好きな人は、それはとっても楽しめる小説です。

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    紙の本

    辞書はこうして作られる!感動!!

    2012/04/11 17:16

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    投稿者:ゆこりん - この投稿者のレビュー一覧を見る

    定年まであと2ヶ月と迫った荒木が後継者にと決めたのは、ひとりのまじめ(?)な青年だった。「辞書を作る!」その青年を中心に、言葉に対し並々ならぬ情熱を持った者たちが、膨大で気の遠くなるような作業に取りかかった!!

    子供の頃から辞書を引くのが大好きだった。辞書は、私の身近にいつもあった。でも、どんなふうに作られるのかなんて想像もしなかった。地道で根気のいる作業を10数年も続けなければ、ひとつの辞書は完成しないのだ。また、言葉は生き物なので、完成しても改定という作業がこの先ずっと続くことになる。見も心も磨り減るような大変な仕事だけれど、出版社にとってあまり割りのいい仕事ではないことも初めて知った。それでも彼らは辞書作りに没頭する。それは、小船で大海に、しかも荒れている海に、挑むようなものではないのか。風雨にさらされ、波にもまれ、彼らはひたすら「完成」という目的地をめざす。こんなに苦労して作り出される辞書。今までとは違う目で見るようになった。我が家にある辞書も、より愛しく感じられる。ラストは感動的で、そして泣けた。私も「大渡海」という辞書がほしい!手に入れられないのがとても残念でならない。

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    紙の本

    期待はずれ

    2012/08/04 17:05

    3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

    投稿者:ちまこ - この投稿者のレビュー一覧を見る

    前評判がよく期待しながらページをめくりました。私も辞書が好きですが、最近のものは調べたいことが載っていなくがっかりします。あまりに古くなって捨てた中学時代のものが懐かしくなります。漢和辞典の方が面白い、つきることなく深いと思います。舟を編む・・・タイトルにもひかれ図書館で予約をしたら半年待ち、これではと思い購入したけれど漫画を読んだというのが実感です。あとに何も残らない一冊でした。

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    紙の本

    舟を編む

    2012/04/21 21:44

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    投稿者:いずみずき - この投稿者のレビュー一覧を見る

    いろんな意味でこの本に思い入れがある私です。
    まず、読者として……
    しをんさんの本の出逢いは、駅伝の本(しをんファンにはこれだけで通じてますよね)。なんといいますか、登場人物、正月イベント「駅伝」に魅了された1冊でした。駅伝の下調べをことこまかにされた作者が、今回ターゲットにしたものが「辞書」ときて、「ここにきたか!」と思ったのは私だけではないのでしょうか。
    編集者として……
    辞書編集という、ほとんど知る人のいない分野。一般人が読む雑誌の連載で理解できるエリアなのかと思っていましたが、よくぞ!しをんさんは描ききりました。
    私事ですが、結婚するまで教科書編集をしており、4年周期で本作りをしておりましたので、辞書編集のように、何度も何度も刷りを出し、時間をかけて校正をしておりましたので、とても共感する部分が多かったです。
    編集とはなんぞや、少しでもこの本でわかってくださる方がいたら光栄です。
    最後に、
    しをんさんありがとう♪ これからも期待しています。

    表紙の美しさもぜひ味わっていただきたいと思います。

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    紙の本

    ひたすら「西岡!西岡ぁ…!」ってなもんである。

    2012/07/08 12:19

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    投稿者:ばー - この投稿者のレビュー一覧を見る

    2012年本屋大賞受賞作。
    ビブリアかなあと思っていたが、良い意味で裏切られた感じ。
    辞書作りの人々を描いた物語。

    三浦しおん自体は「まほら駅」、「神去」と読んでいて、若干ラノベ寄りの、ドラマ性のある面白い本を書く人というイメージ。職業系小説が得意なのかなと思えるのだが、作者はライフワークにしつつあるのだろうか。

    それにしても辞書作りとは渋いテーマだなあと思う。
    今まで余り関心が無かったカテゴリの話なので、何も知らない人間として素直に勉強になった。こういう専門的な職業に関する話は、畢竟誰も知られずに済んでしまうケースが多いだろう。辞書作りの現場を通して、人々の熱意、執念、情熱を感じることが出来たのは、作者の功績だ。

    辞書作りということから、言葉に関する薀蓄が多い。
    まともに辞書をひいたことが無い私としては、ただうすらぼんやりと抱いているだけで、その言葉の正確な意味を知らなかったものが多く、辞書をめくるとは、言葉の海を航海することであり、辞書を編むとは、まさに舟を編むことだと改めて感じた。
    また、そういう観点を踏まえると「船」ではなく、「舟」であることも意味合い深い。

    主人公の馬締が辞書編集部に配属になり、辞書『大渡海』の編纂がスタートするところから物語は始まる。この一冊かけて『大渡海』は完成され、それと並行して一人の辞書人である馬締の半生が描かれる。
    主人公の馬締は俗に言う「ちょっと変な人」であり、そういう彼が辞書作りに抜群の才能を持っており、そういう意味では人の才覚に関する成功譚としても読める。
    また、馬締を支える人々も個性的であり、一般的に閑職と言われる辞書編集部での働きを通して、そういった「ふつうの人」の悩み、職への想い、葛藤などが描かれている。
    私は特に西岡が好きだ。
    見た目も性格も「チャラい」西岡だが、交渉事や営業に才能があり、彼は辞書編集部での己の立ち位置に悩んでいる。
    馬締が配属され、周囲の期待の目を一身に浴びる彼を見て、西岡は悩む。
    自分より「ふつうの人」としては明らかに劣っているように見える彼が、ここでは貴重な人材となり得る。
    一方で、普通の職場では仕事が出来る西岡は、ここではそこまでの期待をされない。
    彼のジレンマと葛藤から、馬締の言葉への嗅覚の鋭さ等の馬締の長所が描かれる仕組みになっており、つまり西岡はある意味かませ犬的なポジションになっている。
    しかし、私は西岡に共感を覚える。
    普通、馬締のような人間はそうざらにいない。
    つまり、一部を除いて、一般的な我々は西岡である。
    彼が感じる職への悩みは我々の共通の悩みであり、苦しみなのだ。
    と、すごく偏見がちなことばかり書いたけど、つまり、西岡と馬締の友情は、胸が熱くなる、ということである。
    描かれ方にも起因するが、この本読んだら、誰とでも仲良くなれるぜ!みたいな気持ちになる。
    読んでいて、ひたすら「西岡!西岡ぁ!」って涙ながらになっていたけれど、やはり物語後半の「大渡海」完成の折には「やったな、馬締」なんて思わず保護者面してしまう。
    一人の人間の成長譚としても、気持ちいい読書体験が出来ると思う。

    終わることなき辞書編纂。人間には欠かせないものである言葉にまつわる物語、読んでいて損は無いと思います。

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