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さあちゃんさんのレビュー一覧

投稿者:さあちゃん

112 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本おひとりさまの老後

2007/12/29 01:15

目から鱗がポロポロ落ちます

28人中、23人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 結婚してようとしていまいと子供がいようといまいと結局最後にはおひとりさまとなっている可能性が非常に高い女性に贈る暮らしかたから死に方までの知恵と先輩達からのエールが詰まっている。
 高齢化社会になり平均寿命が延びるにつれてみんな最後には一人になる。長生きすればするほどその確立は高い。そして家族に囲まれている=幸せであるという思いこみはもはや幻想である。少子高齢化社会である現代において子供達が背負う負担は増大する一方である。もはや老後は家族に面倒をみてもらうという幻想は捨てるべきであろう。つまり家族があろうとなかろうと頼るべきは自分だけなのである。
 「ひとりでおさみしいでしょう」そう何気なく使うこの言葉本書では大きなお世話と切り捨てている。一人=孤独=寂しいという固定概念は止めるべきだ。家族と一緒にいても寂しい人もいるし一人でいても孤独を愛せる人もいる。世間一般の常識に囚われない発想を持つべきだと作者は教えてくれる。そんな目から鱗が落ちるような話が次々に展開されている。特に老いと死の理想とされるピンピンコロリつまり死の前日まで元気でいてそれで次の朝にはコロリと逝くという考えをファシズムとまで呼んでいる。つまり介護を要する人間は社会のお荷物だという思想だというのだ。そう言われればそう。私達はできれば自分は介護される立場にはなりたくないと思っている。特に女性にはこの感情は強い。それは女性はお世話する性として今まで親や世間から教えを刷り込まれたためである。そしてその呪縛に囚われているためという。つまりまたしても常識というやつに振り回されているのだ。
 とにかくこの本にはおひとりさまになった時の暮らし方や人との付き合い方やお金の心配から最後の迎え方まで細かく先輩としてのアドバイスに溢れている。ひとりで暮らす老後を怖れるよりひとり暮らしと向き合い楽しめるための知恵と助言がいっぱいである。老後なんてまだまだだと思っている人も是非一読をお勧めする。これだけは着実にやってくるものだから。

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紙の本

紙の本青い鳥

2007/10/24 00:59

村内先生に会いたくて

10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 村内先生は中学の国語の教師。言葉がつかえて旨く喋れない。吃音である。だったら人前で話す職業を選ばなければいいのにと生徒には馬鹿にされている。とくにカ行とタ行と濁音は全滅。だから授業も解りづらい。でも一生懸命話す。たいせつなことだけを話す。たいせつなことしか話さない。そんな村内先生が登場する9つの短編集だ。
 中学生は難しい。半分大人でまだまだ子供。そして学校という特殊な場所で一日の大半を過ごしている。一クラス三十何人が一つの方向を向いて座っている不思議な場所。そしてみんなが同じ方向を向いて過ごすことが当たり前とされている。何の疑問も持たずに過ごせる者もいる。しかしみんなと同じ方向を向けない者、当たり前のことが出来ない者ははじかれていくのだ。そんな子供達のそばにいるために村内先生はやってくる。ただそばにいるために。ひとりぼっちじゃないんだよと伝えるために。
 たいせつなことを人に伝える。ほんとうに伝えたいことをちゃんと伝える。この頃こんな簡単なことができていないんじゃないかなと思う。どうでもいいことはペラペラ喋っているのに本当にたいせつなことを伝えていなかったんじゃないかなと思う。たいせつなこと気持ちを伝えるのは難しい。でもゆっくりでもつかえながらでもきちんと思いをこめれば伝わるのだと村内先生は教えてくれる。
 「正しくなくてもたいせつなことだってある。でもたいせつじゃないたいせつなことはない。たいせつなことはどんなときでも絶対たいせつなのだ。大人でも子供でも。僕は正しいことじゃなくてたいせつなことを教えるために教師になったんだ。」こんな村内先生に出会えて心からよかったと思う。
 

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紙の本

紙の本国のない男

2008/02/12 22:52

同じ星の上で偶然にも重なる時代を生きてこれたということに感謝

8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 表紙からの真ん中から鼻眼鏡で貴方の顔をじっと見つめてくるおじいさんこれがこの本の作者カート・ヴォネガット。これは84歳で亡くなった彼が82歳の時に書き上げた遺作である。
 人間80年以上も生きていると大抵のことは許されるのではないかと思う。辛いこと悲しいこと嬉しいこと楽しいことかけがえのないこと。多くのことを乗り越えてきたということはラッキーなことではなかろうか?そして彼は人間について文明について芸術について社会について痛烈に愉快に語っている。なかでも母国アメリカについて語るときは辛辣さが増す。
 
 アメリカが人間的で理性的になる可能性はまったくない。なぜなら権力がわれわれを堕落させているからだ。
 うちの大統領はクリスチャンだって?ヒトラーもそうだった。

 人間というものがいかに愚かでありそして破滅へと着実に向かっているかということをスバズバと言い放つ。こんな口の悪いおじいさん親戚に一人はいるよね。でも作者がどんなに辛辣な批判をしてもそのユーモアに溢れた語り口から伺えるのはやはり人間に対する愛情ではないだろうか。この命に溢れた星をばかばかしいお祭り騒ぎで滅亡に導きつつあることへの警鐘も勿論ある。しかしこの世界で生きていくことを幸運と感じさせることがまだまだたくさんあるってことの素晴らしさも教えてくれる。
 この素敵な本にこの時代に巡り会えてよかった。
 ありがとう。

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紙の本

紙の本あかんべえ 下

2007/05/15 22:38

危険です

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 深川に新しい料理屋ができた。名前は「ふね屋」店主は太一郎と多恵というまだ若い夫婦。応援してくれてる人達の為にもこの店をなんとか軌道にのせようと一生懸命である。この夫婦の一人娘がおりんという12歳のこの作品の主人公である。おりんには不思議な力がある。この世に存在しない亡者、つまり霊が見えて話ができるのだ。そしてこの「ふね屋」にはなんと5人もの亡者が住んでいることを発見する。しかし彼らが何故ここにいるのか亡者となった5人にも理由がわからない。おりんは彼らが亡者になった訳を解き明かそうと奮闘する・・・・
 なんといってもおりんがいい。健気でひたむきで誰に対しても真っ直ぐにぶつかっていく。まさに清々しい。そして常に前に向かって進んでいく勇気を持っている。亡者達もまたいい。粋な侍艶やかな美女、按摩の得意なお坊さん、刀を振り回して暴れる侍あかんべえをする少女。それぞれの造形が素晴らしい。他にもおりんを孫の様に可愛がる老夫婦やなぜか意地悪をする少年、住み込みのお手伝いさんや隣に住む貧乏旗本などきら星の如くでてくる登場人物がみんな懸命に生きている。人間だもの善い部分ばかりではない。妬みや嫉みなど暗い部分も沢山ある。しかしこの作品の登場人物達はみな善くあろうと生きている。その姿勢に惹かれるのである。そして思わず涙するラストが待っている。
 この作品を開いたら最後まで読まずにはいられなくなる。この世界に引きずり込まれそして心地よく堪能しよう。決して後悔はしないはずだ。ただこれから他の予定が入ってる貴方には危険な作品である。ご注意あれ!

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紙の本

拝啓 ステファニー・プラム様

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ご活躍楽しく拝読しました。
今回はバウンティハンターのあなたにとってかけがえのないない導師ともいえるスーパーマンであり超超セクシーな男レンジャーに偽者現るということで大混乱でしたね。
それにしてもあの神秘のベールに包まれたレンジャーになんと・・・
貴女もびっくりされたでしょうが読者の私にも驚きの展開でした。
比べて幼馴染のこれまた超カッイイいい貴女の恋人モレリの影が少し薄かったような気がします。
またご家族のみなさんやお仲間もみなお元気な様子で安心いたしました。
特に貴女が「マドンナの格好をしたトリガラ」と評されたメイザおばあちゃんの姿には大笑いいたしました。いつまでも新しいものに挑戦していくあのパワーと恐れ知らずのバイタリィティにただただ脱帽。年をとったらメイザおばあちゃんのようになるのが私の目標です。
本当に貴女の活躍を読むとパワーをもらえます。それは貴女が決してスーパーな活躍をするわけではなく普通にビビったりためらったりしながらそれでも前向きにがむしゃらに自分を見失わずに進んでいく姿に勇気をもらえるのだからかな。
それにしてもレンジャーとモレリ一体どちらを選ぶつもり?
どちらも甲乙つけがたいセクシーさで迷うのは当然ですがみんなヤキモキしているはず。もっともどちらを選んだとしてもみんな納得できないかも。二人の間でみんなが「んまああああ」と卒倒するような状況でいてください。
長くなりましたが今回も満足できる作品でした。個性的な登場人物たちとユーモアあふれる語り口そして想像を絶する事件の連続まさに読んでいる間顔が緩みっぱなしでした。
次回はいつお会いできるのでしょうか?
今から待ち遠しくてたまりません。
では次回作を楽しみにしております。


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紙の本

紙の本わたしを離さないで

2008/05/23 23:09

私達が見ない振りをしているいくつかのこと

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 もし私が提供を受ける側にいるとしたらキャシー達のことを気にかけるだろうか?そんなことがふと心に浮かんだ。
 キャシーは優秀な介護人。提供者と呼ばれる人々の介護をしている。そんな彼女が産まれ育ったのは全寮制の施設ヘールシャム。そこは奇妙な場所だった。保護管と呼ばれる教師達により管理され部外者が訪れることはほとんどない。そして健康に異常に気を遣い授業は芸術活動に力が注がれる。親友であるルースとトミーも一緒に育った仲間だ。彼等が共に過ごした懐かしい日々の思い出がキャシーにより語られると共にヘールシャムの真実の姿が明かされていく。
 ヘールシャムで育った人々の未来は一つしかない。例外はない。その未来に向かって生きると言うこと。その姿は痛々しい。しかしキャシー達はその未来に疑問を持つこともない。嘆くこともない。ただ淡々と生きているように思える。その中で大事にしているのがヘールシャムで過ごした思い出だ。大事な大事な思い出。そうキャシーが持っているのはヘールシャムで過ごした仲間との思いでのみ。他には何もないのだ。仲間達が家族であり友達であり恋人であり人生のすべて。他には誰も彼女の存在すら知らない。抱きしめる人も抱きしめられる人もいない。そんな仲間とも別れなくてはならないという孤独。だからこそ彼女はその記憶を抱きしめるように大切にしているのだろう。空想することさえ許されない世界でただ一つ慈しむことができる物が愛する人との記憶なのだ。
 この物語の世界はいずれ私達が迎えるかもしれない世界だ。けっして空想ではないと思う。いや私達が知らないだけで現実におこっているのかもしれない。医学の発達によって昔は治療が不可能と思われていた病気も治る時代になってきた。自分や愛する人が病に倒れたときもし治療可能であればどんなことをしてでも治して欲しいと願うのは当たり前だろう。しかしその影でどんなことが行われているか知ったときに命と引換にしてそれを拒めるだろうか?
 この世界は私達の知らない色々な犠牲で成り立っていてそして私達はそれらを直視できずにいるのではないだろうか。そんなことを感じた。
 

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紙の本

紙の本ウォッチメイカー

2007/12/17 01:15

期待を裏切らない作品です

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 リンカーン・ライムシリーズの七作目にあたるこの作品はウオッチメイカーと呼ばれる時間や時計に異常な執着をもつ殺人犯との熾烈な頭脳戦を描いている。
 一晩の内に2つの殺人。いずれも残忍な手口でその現場にはアンティークな時計が残されていた。そして被害者にはなんの共通点も認められない。やがて犯人は同じ時計を10個購入したことが判明する。あと8人標的がいる。いつどこで誰が?ライムと彼のチームは殺人を阻止しようと奔走する。
ライムのパートナーであるアメリアは彼と共にこの事件を追いかける一方で念願の刑事となって初めて任されたある会計士の自殺事件も調べていく。やがてその事件は巧妙に偽装された殺人事件と判明しどうも汚職警官が関わっているらしい。そして調査の課程において今は亡き敬愛する父親の衝撃の事実を知る。それはライムとアメリアとの関係をも大きく揺るがす事態になっていく・・・・
 本作ではキネシクスの専門家キャサリン・ダンスがゲストとして登場する。キネシクスとは証人や容疑者の態度や言葉遣いを観察し分析する科学。
要するに嘘か真実かを見分ける専門家である。最初は彼女のことを胡散臭く思っていたライムがその実力を目の当たりにして次第に信頼していく。常に新しいものを作品に取り入れていくディーヴァーらしい登場人物である。また前作で登場したルーキーの成長ぶりも楽しめるし何よりもライムチームのいつものメンバーがそれぞれの立場を超えて一丸となって犯人を追いつめていく課程が巧みに描かれている。
 さすがデイーヴァー。ジェットコースターのような展開は健在である。とにかく一瞬も気が抜けない。ページをめくるごとにどんどん先か゛読みたくなる。どんでん返しのどんでん返しのどんでん返し。まさに予測不能である。ある程度予想をしていても見事に裏切られてしまう。その緻密な計算にはまさに脱帽である。
 この作品少なくとも3度は楽しめる。最初はストーリーに次に情景にそして作者の仕掛けた様々なトリックに。とにかく最後の一文を読むまで油断出来ない作品である。ファンには特に。そうでない人には更に。

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紙の本

紙の本ぼくには数字が風景に見える

2007/11/30 01:03

人と違うことは素晴らしい

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 学生時代数字が苦手だった。特に数字が羅列してあるものをみているだけで頭が痛くなったものだ。挙げ句の果てになにやらこんがらがってしまい訳がわからなくなってしまう。
 ところがこの本の作者ダニエル・ラメットにはなんと数字が風景みたいに色彩や質感や動きを伴って見えるというのだ。それも一つ一つ異なった個性をもったものとして。数字は彼にとってかけがえのない友達だという。何故彼がそんな感覚を持っているのか?それは彼がサヴァン症候群でアスペルガー症候群であるからなのだ。
 この聞き慣れない言葉の意味することはこれが脳の発達障害であり、生まれながら世間の大多数の人々と脳の発達の仕方が異なるということらしい。ずばぬけた才能に発達することもあるが、一方社会生活が困難になる場合もあるという。作者はこの障害の為数学と語学の天才ではあるが一方他人の心の動きが判らないので対人関係が上手く築けず一つのことに強くこだわり新しい環境にはなかなか馴染めないといった一面ももっている。
 そんな作者が自分の生い立ちから現在に至るまでを淡々と素直に語っている。そこには幼い頃よりてんかんの発作を繰り返し苦痛と孤独の中で世界が不思議な色彩にみちた風景に見えていたこと。人とは違うことでいじめや差別を受けながらそれでも友達を求めてたった一人で外国にでて新しい世界へと向かっていったこと。そして現在のパートナーと出会い自分の障害を世界に知って貰うためにさまざまな活動に挑戦をしていることなどが綴られている。そしてさまざま人との出会に感謝し自分を愛し支えてくれる家族や知人に対する深い感謝と愛情を綴っている。また彼の描く世界は私達の持っている固定観念を揺さぶり全く未知な異なる世界をみせられるようで非常に興味深かった。
 人と違うことを障害と呼ぶのなら私達はみな障害者だ。人と違うことを差別するのではなくきちんと向き合う。そろそろそんな社会になっていってもいいんじゃないかな。

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紙の本

紙の本風が強く吹いている

2007/01/18 00:46

お正月といえば箱根駅伝でしょ

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 というわけで毎年欠かさず箱根駅伝を観ています。でもチャンネル権を握ってる私に対する家族の目は冷たいものがありました。
 でどうしたかというとこの本を読ませてみたのです。最初はあの分厚さでしょ。渋っていたのですが、いざ読み始めるとなんと一日で読んでしまいました。途中でやめられなかったんですって。普段読書する方ではなかったのでこれにはこっちがびっくりしました。つまりそういう人でも夢中になれるほど面白いのです。
 ありきたりの展開にありきたりの結末。でもハイジが竹青荘の住人をぐいぐい引っ張って行った様に、箱根の山を駆け抜けたいという気持ちにさせられるのです。まるで自分も一緒になって走っているような感覚です。
 学生時代の持久走。あれは苦しかった。できればもう二度と走りたくない。でもこの本を読んで走るのも悪くないかもと思いはじめた自分かいます。走のハイジのジョージ・ジョータ・キング・王子・ムタ・神童・ユキ・にこちゃんの見た景色をみてみたい。彼らの見た世界はどんな世界なのか、そしてそこに何をみいだせるのか。
 走ることが好きな人も苦手な人もちょっと走ってみようかなという気持ちにさせられる作品です。
 今年の箱根駅伝。勿論家族みんなで盛り上がりました。駅伝ファンの人も、そうじゃない人も是非一読を。来年からは駅伝の見方が変わります。

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紙の本

紙の本獣の奏者 外伝 刹那

2010/11/21 01:05

刹那の意味が心にしみます

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本編では描かれなかったエリンとイサルとエサルの物語。それぞれの視点で語られた物語はどれも心に染み入るようだ。
 「人生の半ばを過ぎた人へ」あとがきで作者はこう述べている。人生というものがどれほど早くあっけなく過ぎ去ってしまうのかということを実感し始めた方たちに読んで欲しいと。これはエリンやイサルやエサルの物語であるだけでなく読者の物語でもある。彼らが感じている刹那の喜びや悲しみや人を愛したり想いやったりするその感情の揺らめきが読者の中に入り込みそして浮かびあがってくる。その刹那の積み重ねが生きることの喜びであり悲しみでもある。良きことも悪しきことも後悔もすべてが人生に織り込まれていく。選ばなかった事を後悔するよりもつまづきながらも不器用に前に進んでいく3人の物語はまさに生きていく姿を描いている。
 年齢的にも一番近いエサルの物語に一番心惹かれた。その時は夢中で気がつかないことも歳を重ねると見えてくることもある。そしてその頃の自分が恥ずかしくもあり褒めてやりたくもあり叱ってやりたくもある。自分の生きて経験してきた様々な断片が浮かび上がってきて切なくなる。それぞれの物語の中に生きていくということの意味を改めて問い掛けてくるような作品だと思う。

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紙の本

紙の本森に眠る魚

2009/05/04 13:01

ざわざわと泡立つような心地悪さ

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 読後に何とも言えないざらつきを覚えたのは自分の姿を見たからかも知れない。
 同じ私立幼稚園に通わせることで親しくなった母親たち。今流行りのママ友と呼ばれる付き合いは最初のうちは楽しかった。誰もが本当の友人を見つけたと思っていた。友情は続くと思っていた。しかし小学校受験をきっかけに歯車が少しずつ狂いだしていく・・・
 学歴なんて関係ない。子供はのびのび育てればいい。小さいうちから習い事ばかりさせるなんて可哀想。登場する母親たちもみんな最初はそう思っている。しかし受験という現実的な問題に直面したとき同じ考えだと思っていたママ友は突然他人だと気が付く。そして子供たちが試されているのではなく自分が試されていることを。
 母親の深い孤独感。それは決して癒されない。夫とも分かち合えないこの感情を誰かに吐き出すことができたならと強く願うが誰にも打ち明けることはできない。その絶望感と敗北感。作者はこれでもかというほど鋭くえぐりだしていく。幼いわが子のためという錦の御旗が次第に自分の人生を肯定するためにすり替わっていく。それに気付かずにひたすら突き進んでいく。そうまさに暗闇の森に突き進むように。しかしふと築いたときには周りには何も見えない。手を繋いでいたはずのわが子の姿もなく一人ぼっちでどうやってここに来たかも何処にいけばいいのかもわからず立ち尽くしている。そんな姿が痛いほどに描き出されている。
 これほどまでに心揺さぶられるのは自分の通った道だからだろうか?誰しもわが子の幸せを願う。それは社会的に成功するかどうかは決して問題にはしていない。しかしよその子と比べてしまうことは必ずある。自分の中でいくら打ち消してもそういう感情はなくならない。そしてささやかな満足感や敗北感を抱きそういう自分に嫌悪する。他人と比べることがなくなればどんなに穏やかに過ごせるだろう。しかしその気持ちは決して消えないのかもしれない。森の奥深く眠る魚のようにひっそりと。

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紙の本

紙の本人質の朗読会

2011/05/18 23:53

語る人

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 語る人と聞く人。世の中はこの二つに分けられるのではないだろうか。そして作者は静かに語りかける。しかしその圧倒的な物語の前に私たちはただ耳を傾けるばかりだ。
 ここで語られているのはどれもありふれた日常の物語。静謐だけれども奇妙な物語だ。しかしそれらの物語はどれも私たちの心の奥深くに入り込んで握りしめる。それは今は亡き者たちの声だがらか。それとも私たちの過去に観た風景だからなのか。いずれにしてもその世界に足を踏み入れたなら戻ることは許されない。ただ作者の語る声に身をゆだねるしかない。
 とにかく作者の世界にただただ脱帽しそして恐れおののく。もはや語るべき言葉はない。ただ聞こう。語るべき言葉もない私達は。

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紙の本

紙の本赤朽葉家の伝説

2008/01/08 00:55

夢中で読みました

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 赤朽葉家。製鉄業で財をなした鳥取の旧家である。そこに生きる三代の女最後の神話の世界を生きた祖母万葉、発展と狂乱を駆け抜けた母毛毬、そして何者でもない瞳子を軸とした一族の姿を描いた大河ドラマである。
 とにかく面白い。一つ一つのエピソードがまるで騙し絵のように散りばめられていて最後に一つの大きな絵が浮き上がってくるそんな感じだ。くるくる回る万華鏡のようだ。
 背景となっているのが戦後から現代にかけての近代史である。私達は何をしてきてそして何処に向かおうとしているのか。戦後男達は汗水流して働き女達は家を守ってきた。一生懸命働けば豊かになれる。繁栄という新しい神話の基にみんなが同じ方向を向いていた。しかし豊かになりみんなが同じ情報を共有できるようになったことが私達の価値観を変えていく。そして繁栄の影に生まれた闇にからめとられていく。そんな時代を三代の女達の生き様と共に丹念に描いている。
 しかしいつの時代にあっても人々が目指すのはビューティフルワールド。不器用に流れのままにしか生きられない人間の未来が今までのようにそしてこれからも謎めいた世界であればいいという作者のメッセージが込められていると思う。

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紙の本

紙の本エルデスト 宿命の赤き翼 下

2007/10/30 00:47

夢中になります

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 毎夜一日も終わり家人が寝静まった頃そっとこの本の表紙を開く。するとたちまち私はアラゲイジアの世界の虜となってしまう。エルフのアーリア・ドワーフのオリク・魔女のアンジェラ・従兄弟のローランなど魅力あふれる人々そして誰よりもエラゴンとサフィラが私の心に語りかけてくるのだ。
 前作の最後のファーザン・ドゥアーの戦いで帝国の敵ダーザを倒したものの自らも背中に深い傷を負ったエラゴン。ドラゴンライダーとしての使命を貫くためエルフの国に向かう。そこで彼らを待っていたのは数百年を生きた嘆きの賢者オロミスと彼の黄金のドラゴングレイダーだった。真のドラゴンライダーとなるため彼らは厳しい修行に耐える。
 一方エラゴンの故郷では従兄弟のローランに帝国の手がのびる。どうして俺までも?混乱するローランだが帝国から村を守るため反撃を開始する。しかし圧倒的な兵力の前で情勢は絶望的になっていく。そんな中最愛のカトリーヌがさらわれてしまう。復讐を誓ったローランは村人達と共にヴァーデンを目指す。帝国と戦うために。一方ヴァーデンでも新しき指導者ナスアダのもとで着々と帝国に反旗を翻す準備を進めていた。
 とにかくこの壮大な世界に酔いしれてしまう。その創造力に圧倒される。今回はエラゴンとローラン、それぞれの立場から交互に話が展開される。それがまた物語に変化を与え読者を飽きさせずにぐいぐいと引っ張っていく。 エラゴンはサフィラというドラゴンを得てライダーとして少年から大人へと成長していく。ローランはカトリーナとの愛を得て逞しい大人へと成長していく。この二人の対比も見事だとおもう。そして最後にあかされる衝撃の事実。ますます目が離せない展開になっている。
 前回夢中になりすぎて家の用事をほっぽりだして読みふけった私。今回はその教訓を生かし夜読むことにした。お陰で毎夜夜更かしをし寝坊続き。ま一週間だから家人には我慢してもらうしかない。今私は次作がいつでるかと熱望し家人は恐れている。

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紙の本

紙の本楽園 下

2007/09/18 22:34

宮部みゆきの引き出しには一体どれだけのものが詰まっているのだろうか?

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 16年前に起こった家族内での殺人事件。娘の遺体が埋められているその上で時効が過ぎるまで生活していた家族。両親が自首するまで誰も知らなかったはずの秘密が12歳の少年の絵に描かれていた。しかも彼は交通事故ですでに帰らぬ人となっていた。何故?どうして?少年の母親から依頼をうけた前畑滋子はこの謎に迫っていく・・・
 親が子を殺す。たとえどんな事情があろうとも許されることではない。しかしなにがその一線を越えさせたのか。自分が産んだ子である。長く苦しい陣痛を乗り越え無事に生まれたその瞬間を泣き声をしわくちゃな赤ら顔を心底愛おしいと思ったその子をどうして手にかけることになってしまったのか・・・
 親は子供のためならどんなことでも出来る。しかしもし自分がこの立場におかれたらどういう選択をしただろう。ごく普通に育ててきたはずなのにどこがどう間違ってしまったかわからない。明らかに道を踏み外してしまった我が子を切り捨ててしまうのか。それとも最後まで支えてやるのか。
 人はみな幸せを求めている。己の夢見る楽園を求めている。誰かを排除しなければ得ることが出来ない幸福だとしたらどうするのか?作者の鋭い問いかけがあると思う。
 人間の暗部をえぐり出しているので重苦しい主題だがサブストーリーでもある敏子と等親子の描き方がとてもいい。対照的にほのぼのとした優しさで描かれていると思う。特にラストは思わず涙してしまった。善なる人間を描く事によってこの世界に楽園を築く救いをみせていると思う。
 一体宮部みゆきは私達にどれだけの世界をみせてくれるのか。その底なしともいえる力量にただただ感服!

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