紙の本
アメリカを動かす人びと
2009/03/05 01:19
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカでは「類似の思想や主義主張をもったグループの数だけ」異なった正義がある。しかし、それはアメリカにかぎったことではない。また、アメリカでは「人間の数だけ」異なった正義がある。これもアメリカだけの専売特許ではない。
しかれど、こういった傾向が他国以上に顕著であるのがアメリカ社会に特徴的なことであるとはいえそうだ。
そんな自分たちの正義や利益を実現するための方法として、アメリカではロビー(議員への誓願)やアドボカシー(政策提言)といったものが定着している。
複数の正義や利益がぶつかりあう世界で合意や結論を得るにはどうするのか。それは「みんなで決めた」ことを正義とすることで決着をはかる。
そのためには選挙と裁判がカギになる。基本になるのは選挙で、著者は《「なんでも選挙」というシステム》であるとソフトな言いまわしで表現している。アメリカでは選挙で選ばれる公職がことのほか多い。郡(カゥンティ)レベルなら裁判官や検事、保安官や会計検査官なども選挙で決まる。連邦最高裁判事は直接の選挙で選ばれるわけではないが、上院が承認権をもっているので民主的コントロールが効いている。陪審制にみられるように裁判にも「みんなで決める」要素がある。
こういった切り口から、著者はアメリカ人と政治との関わりを解明しようとしている。
第1章では裁判を題材にしている。たしょう強引な説明もあるし、途中から裁判とは離れていってしまうが、おおむねわかりやすい記述でいいと思う。
第2章と第3章は、「アメリカン・デモクラシー」の歴史背景について、その起源から9・11以降までの系譜を追っている。ここは、さほど独自的な視点はないかな。
著者の研究領域が生かされているのが、最後の第4章だろう。
まずは保守派の台頭。彼らは、IRS(内国歳入庁)コードで501c4団体や501c3団体として登録されたグラスルーツ団体やシンクタンクなどからなる運動体をつくりあげる。ソフトマネーを活用するなど選挙戦術も巧みである。その勢力を結集して、ついに保守派は2002年に「頂点」に立つ。
しかし、ヒラリー・クリントンもこれらの力に気がつく。保守派を参考にして対抗策を練る。ヒラリーもやるが、その上をいくアイディアを考えたのが、当時のバラク・オバマ上院議員と選挙参謀のディヴィッド・アクセルロッドだ。こんどは、このWeb2.0を使った組織の構築に共和党側も関心を示す。
最後にネット社会が生みだす新しい政治社会の展望が語られる。
本書は、脈打つアメリカ政治のダイナミズムを気軽に「体感」できる新書だ。
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アメリカの政治の成り立ち、正義などを分かりやすくかいています。
また、アメリカのシンクタンクとかネオコンとか
日本の政治ではでて来ない用語について
説明があるのでアメリカの政治について
ちょっとわからないなと思っている人の入門書だと思います。
アメリカ人の政治の考え方が歴史ごとに異なっている様子も書かれているので、
アメリカ人がどうして現在のような考え方になったのだろうかという過程が分かって面白かったです。
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アメリカが振りかざす「精神・正義」という根本的な部分から、話題になった08年大統領選挙&オバマさんまで、興味深い内容が詰まってました。
「ミランダ警告」は海外ドラマでもよく観る場面だから今更ながら「へぇ~」て言っちゃった。
大統領選挙を「ヒラリー、マケイン、オバマ」の領域からもう一段掘り下げて考えたい人にはオススメの一冊。
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[ 内容 ]
アメリカの弁護士の好きな言葉に、Our Town,Our Court,Our Lawyer(われわれの町、われわれの法廷、われわれの法曹)というのがある。
さらに、その次に、Our Justice(われわれの正義)とつなぐこともある。
日本人にしてみれば、なんと傲岸な、と思うかもしれないが、その昔、移民たちがアメリカにやってきて自分たちで町をつくり、ルールをつくり、保安官を雇い、治安を守ったのだという自負がそうさせるのである。
その考えは当然、政治に反映される。
共和党と民主党、この二大政党は国民の対立する主張の受け皿であり、アメリカ人が譲ることができない正義、つまり自由と民主主義(その原理である平等)に対する考え方の違いを表している。
中絶と銃規制が、なぜ大統領選挙において大きな争点となるのか?
なぜならアメリカ人にとって、自分たちが生きていくうえでの信条にかかわる重大問題だからなのである。
本書を読まずしてアメリカ政治を語ることなかれ。
[ 目次 ]
第1章 アメリカ人の正義(コーヒーで火傷して三億円の賠償請求 弁護士はなんのために企業を訴えるのか ほか)
第2章 アメリカ精神の源流(民主と共和、二つのアメリカ 仕事にいそしむのは救われる証 ほか)
第3章 アメリカ外交の系譜(政府が社会に介入しだした 世界に目を向けはじめたアメリカ ほか)
第4章 アメリカを動かしているのは誰か(アメリカ大統領は世界一の権力者か アメリカ社会に根を張る「鉄の三角形」 ほか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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アメリカ人はアメリカは地球上のあらゆる人の人権を守るという正義を掲げて、世界中で戦っているのだ、と信じている。
白人の中でも階層のトップに立つのは先祖がイギリスからやってきたWASPで、以下北欧系、ドイツ系のプロテスタント、アイルランド系やイタリア系のカトリック、東欧系、ユダヤ系と序列がある。
レーガンは保守を確固たる思想あるいは中傷的な理論として主張することを避けた。
南部では冷房がないと家中が湿気でやられてしまう。1970年代にようやく冷房が完備されて、今までの綿花産業から工業へ移行できた。
チェイニーは歴史上最も影響力が強い副大統領といわれた。それは下院議会共和党と密接な関係を持っていた。
リベラルはもっぱらアカデミズムに政策や人材を求めた。それに対して保守はシンクタンクこそが知の拠点と考えた。
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680
企業の経済活動の自由を尊重するなら共和党、消費者の権利を重視するなら民主党、キリスト教の価値観を重視するなら共和党で、多様な文化を認めるべきだというなら民主党という具合だ。そして、共和党を支える思想が「保守主義」であり、民主党を支えるのが「リベラリズム」で
ただし、アメリカにおいて「保守」という言葉のもつ意味には、経済における自由以外に、人工妊娠中絶や同性婚に反対するような道徳的・倫理的な側面がふくまれている。ではなぜこうした保守的な雰囲気が、アメリカ社会を包み込むようになったのか。 その背景には、一九八〇年代から九〇年代初頭にかけて、「アメリカ的価値観」が揺らいだこと、さらに経済不況によって生活環境が悪化したことで、主に南部や中西部に住む白人中流階級が、強い怒りと不満を抱くようになったことがあげられる。その結果、九〇年代には、それまでアメリカ政治の表舞台に現れてこなかったグラスルーツ・ムーブメント(草の根運動)が、アメリカの政治を大きく揺さぶることになったので
レーガンは、保守を確固たる思想、あるいは抽象的な理論として主張することを避けた。保守をイデオロギーにしてしまえばマルクス主義と同じだ、と考え、次のように断じたので
「小異を捨てて大同につけ」というわけだが、この呼びかけが功を奏し、レーガンは宗教保守勢力から穏健派まで幅広い支持を獲得し、さらに南部で黒人に対する優遇措置(アファーマティヴ・アクション)にいらだっていた白人労働者層を取り込むことに成功する。レーガンに投票した民主党員を「レーガン・デモクラット」と呼ぶのは、この南部の労働者層は、それまで民主党の地盤だったからだ。一九八〇年の大統領選挙は、レーガン大統領が描いた保守の大連合の勝利であっ
あらゆる人びとが自分たちの正義を声高に主張するようになり、黒人にとっての正義、白人にとっての正義、白人のなかでも虐げられてきた女性にとっての正義、同性愛者の正義、消費者の正義、環境を保護する正義……と、正義は無数に増えていった。やがて彼らは、自分たちの正義=シングル・イシューを政治に認めさせるために、草の根の活動を始め、訴訟やアドボカシーによって社会に訴えるように
これまで、インターネット上に公開された情報は、発信者によってしか書きかえることができなかった。しかしいまでは、ネットの情報は、発信者、受信者の垣根が取り払われ、インターネットを利用するすべての人の手によって、随時書きかえることが可能になった。これがWeb2.0と呼ばれるネットコミュニケーションで、情報は二四時間年中無休で、あらゆる人の手によって更新されていく。だから有益な情報が付け加えられることもあれば、悪質ないたずらによって信憑性の低いものになったり