欧州共通通貨ユーロが暴落する中で、よくもこんな本を出したなあ(笑
2010/05/23 13:01
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投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を読むと、あたかも米国のドルが、その基軸通貨の地位から滑り落ち、長い歴史と知恵の宝庫、欧州(EU)に米国から世界の中心が移るかのごときことが書いてある。改めて本書の奥付を見ると2009年10月出版とある。PIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)の崩壊が危惧され、とりわけヘタレ国家ギリシャの国を挙げた粉飾が明らかになって欧州共通通貨ユーロが崩壊の瀬戸際まで追いつめられ、その価値が文字通り暴落する中で、よくもこんな本を書いたものである。出す方も出す方だ。いくら反米のためなら何でもありの朝日新聞とはいえ、こんなウソばかり並べた本を出すのは、ほとんど犯罪に近いのではないか。
例えば、本書には確かに欧州の不動産は暴落したが、その傷はアメリカに比べ遥かに浅いとしている。これは完全な誤りである。欧州の諸政府、とりわけスペインは、いまだ国をあげて不動産の暴落を隠している。スペインの諸銀行が抱える莫大な不動産がらみの不良債権を隠している。その規模とインパクトは日本のバブル崩壊を遥かにしのぐ規模だというのになのである。なんでこんなことが起きているのか。それは欧州経済の構造そのものにある。
この10年、欧州はバブルにまみれた。ユーロの導入で何が起きたか?それは壮大な規模のバブルだった。そのバブルは2段階あって、第一段階が欧州共通通貨ユーロに絡むユーロバブル。二段目が、それに伴って起きた壮大な不動産バブルだ。説明しよう。まず、ドルに次ぐ第二の基軸通貨らしきもの?が登場したことで、ユーロを準備通貨として持つところが増えた。基軸通貨は準備通貨として退蔵される運命にあるから、基本的にその通貨は高値誘導される運命にある。ポンドもドルも基軸通貨として諸外国に退蔵され、為替相場が高騰して製造業が衰退し、資本が海外に流出したのはそのためだ。欧州でも同じことが起きた。しかし、欧州はその経済構造で、かなり自給自足色が強い。だから当面の間、欧州ではユーロの高騰で輸入物価だけが下がって物価が「下落」し、ドイツなどの輸出国も域外への輸出は減少したが、それを補ってあまりある「輸出」が欧州域内で起きたので、ちっとも困らなかったのだ。どうして欧州域内経済でバブルが生じたのか。それは国際的な資金移動が「新自由主義(ネオリベラリズム)」の恩恵で非常に自由になったことと密接な関係がある。新しくユーロに加盟した諸国は、どこもかしこもふしだらで間抜けな財政運営しかしてこなかったおバカな国ばかりだった。ギリシャ、スペイン、ポルトガルは、それまで全く信用されていなかったので、そもそもこういう国々にお金を貸そうという国は無かったし、貸す場合も二ケタ超の高金利でしか貸さなかった。それがユーロ加盟で一変する。ユーロに加盟したことで、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、イタリアに対し、信用力の高いドイツとフランスが事実上の金融保証を与えたと世界の銀行は見做し、莫大な量の資金が流入するようになったのである。ギリシャやスペイン、ポルトガルが調達する資金の金利も大幅に下落し、これらの国は、にわかに莫大な額の資金を自由に調達できるようになったのである。それで奴らは何をしたか。ここがバカは所詮バカなところなのだが、製造業やその他産業の育成には使わずひたす不動産につぎ込み手軽な金儲けに走ったのである。スペインなどでは国内のいたるところに投資用マンションが林立し、「年利8%で家賃が回ります」式の日本でおなじみの不動産広告が英国その他の新聞に氾濫して、これまたおバカな欧州人が「金儲け」に目がくらんで、日本のワンルームマンション投資家よろしく借金して投資用マンションの購入に励んだのである。
バブルとは崩壊して初めてバブルだとわかるものだ。その最中にいる人たちは自信と活力に満ち溢れ、いくら忠告しても聞こうとしない。かつての日本人がそうだったし欧州人も例外ではなかった。それがリーマンショックの一変する。
欧州のバブル経済を支えていたのは、要するに止めどなく欧州に流入する資金そのものだった。それが止まったのである。資金が止まった途端、不動産バブルは崩壊する。不動産とは、それに誰かが住んで家賃を払わないかぎり、何の役にも立たない代物である(自宅は自宅で住んでいる本人が「見做し家賃」を払っている)。気がつくとスペインの人跡未踏なクソ田舎に広大な別荘群がたっている不自然さに、ある日一斉にみんなが気がついたのである。日本の熱海や越後湯沢と変わらないバブルの廃墟が、南欧のいたるところに出現したのである。しかも蓋を開けてみると、いまやヨーロッパの豚野郎どもと蔑まれる諸国にせっせと金を貸しこんでいたのはドイツ、フランス、英国の銀行屋たちであったことが分かったのである。さあ大変だ。
最初に行き詰ったのがギリシャだがギリシャなんか、実はどうでもよい存在である。人口わずか一千万人。経済規模も小さい。こんな国が破たんしても実はたいしたはない。問題は後ろに控えているスペインやポルトガルである。これらが破たんした場合、そのインパクトはギリシャの比ではない。問題の解決方法ははっきりしている。ユーロを守るためにドイツとフランスがドイツ国民やフランス国民から集めた税金でギリシャやスペイン、ポルトガルの作った不良債権を処理することである。ただ安易にこれをやれば、借金踏み倒しに成功したギリシャ、スペインは恐縮するどころか、逆に増長して頭に乗る可能性が高い。そうなったとき、おバカな南欧のクソ野郎どもに税金をだまし取られたドイツ人が黙っているかどうか。英語で真実の瞬間(The moment of truth)というが、これがもうすぐ訪れようとしている。
欧州共通通貨ユーロに加盟している国は現在22カ国もある。この通貨は過大評価されていた。それは欧州に旅すればすぐわかったことで、一物一価の原則からするとユーロは半分に下落して当然という感じだった。それが今起きている。22カ国が使用する通貨が実際の倍に評価されていたということは、経済も実力の倍に評価されていたということで、そのあおりで日本のGDPは過小に評価されていたことにある。押しも押されぬ経済大国であった日本が、いまや1人当たりGDPで世界の第25位にまで下落したと騒ぐバカが経済産業省を筆頭に大勢いたが、今年の年末には世界における日本の地位は跳ね上がっていることだろう。
反米というゆがんだプリズムで世界を見ようとすると、かなりの頻度で大前や朝日新聞のような大間違いをすることになる。その見本が本書だ。
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EUの大国ではなく小国の情報が多く盛り込まれており、非常に参考になった。
どこまで正しいことがかかれているかが判断できないので、情報がなく確認が大変ですが、、、
確かにEUは加盟国も拡大し、力も十分につけてきており、可能性は非常に高いと思う。
なので、もう少し日本はアメリカや中国だけでなくEUを意識したほうがよいですね。ニュースもほとんど目にする機会がないし。
まあ、あまりEUが日本を相手にしていないのかもしれませんが、、、
それにしても、EUにとっては日本は20年前に終わってしまっている国だと思われている、と断言されていましたが、ほんと?
韓国より終わっている???
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国家と国家をつなぐ超国家という概念。EUの試みは人類の英知を結集した偉大なる社会実験であるという点、非常に興味深く感じた。ギリシャの問題でEUはその真価をまさに問われているが、この問題を乗り越えるなかで、一層EUの連帯がつよくなるのでは。今こそEUは”買い”だと思う。
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大前さんが通貨統合を果たした「超国家EU」について書いた本。
以前からEUを高く評価していたかと思いますが、本書では巨大経済圏としてのEUについて改めて分析評価を加えています。『東欧チャンス』や『ロシアショック』からもつながる内容です。
ギリシャの財政危機が大問題になる前に書かれているんだと思いますが、これを読むとそれも何とか大丈夫なんだろうなと感じます。
1993年夏、壁が崩壊してしばらくした東欧をまだ学生のときにギリシャからブルガリア、ルーマニア、チェコ、ハンガリー、東ドイツ、ポーランドなどを一人で周ったときのことを時々思い出しながら読みました。何とはなく、そのときの東欧を見ておかなくては、と思ったからなのですが、その頃と比べるとやはりずいぶんと変わっているんでしょうね。もう一度行ってみたいですね。
また、その当時は内戦で通過すること叶わなかったユーゴスラビアから独立したスロベニアがEU加盟で成功していたり、クロアチアが高く評価されているのを読んでも隔世の感があります。
「紛争の原因とされる民族対立や宗教対立は解決不能なほど高い壁に見えるが、グッドライフが手に入る状況が目の前に来れば、誰でもそんなものはほうり捨ててしまう」
この100年間で2回もその地で大戦争を起こし、さらにはつい20年前まで高い壁で分断されていたヨーロッパがEUの旗の下で統合されていくのを見ると、正にそうなんだなと思います。世界の紛争問題でまず解決すべき課題は貧困問題なのかもしれないですね。
* まだアラブ連合「AU」を作るべき、と主張していますが、「AU」はアフリカ連合なのでそろそろ大前さんは使うのをやめた方が...
* 『ロシアショック』のレビュー http://booklog.jp/users/sawataku/archives/4062150263
* 『東欧チャンス』のレビュー http://booklog.jp/users/sawataku/archives/4093875855
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EUの強さ=ユーロの強さだと思う。
厳しい条件(マーストリヒト条約)を守り続けているからこそ、ユーロの信頼は揺るぎないものが“あった”。(今はないのか。。。w?)
上手に東欧などをEUに取り込んで、EU域内での経済を強くしようとする方向性は間違ってないと思うけど、今後も一枚岩でやっていけるかの一番の課題は「イスラム教国家」を取り組むかどうかの判断にかかっていると思う。
トルコなんかを上手にEUと融合させることができれば、この本で主張していることはもっと真実味が持てる気がする。。。と書いているときにギリシャの財政赤字が問題視されているけど(笑)
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世界を米国中心で見てしまう事を反省。まさにボーダーレスなEUは日本の島国的考え方からすれば、教訓となる所が多い気がする。しかもボーダーレスでありながら自分達のアイデンティティーは失わない。こういう話を知ると日本はまだまだ鎖国の国なのではと思ってしまう。移民の受け入れすら十分でなく、人口減少、GDP減少、1500兆円の金融資産をかかえながら、その金が市場に出てこない。
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私も、日本として魅力のあるマーケットはEUだと思います(サービス以外は)
特に最近ギリシャの債務超過の話題がホットだから興味深かった。
自分はオーストリアに1年住んでいて、ドイツ系思考に触れる機会が多かったから、
特にトルコ人に対しては(低賃金労働者の流入で自国の失業者を増やすという観点から)一種の差別意識みたいなものを植えつけられた気がします。
一方で、トルコ人っていうのは本当に日本人と似ていて、他のヨーロッパ人がWe Europeansという認識の元Uniteしようとしているのに対して、「トルコ人」という枠から外れられない人が多い。
「日本人としての~」「トルコ人としての~」ではなく、「私として」というのが本当は先にくるべきものなのだろうけど、相手を”自分とは違う人・理解してくれない人”と無意識に認識してしまうと、
(私はこんな大きなコミュニティに属していてね、そこでは普通なんだけど、)「日本人としては、こうしたい」
とかいう発想になってしまうのだろうな、と思ってる。
特に、EUの法律の授業のときに、
キプロスの話題になったとき、トルコ人きまずそうだったな。。
ギリシャ人ってキプロスのこと、あまり自分の島って認識していないけど、
トルコ人って(当たり前かもしれないけど)キプロスに希望を託しているから凄く意識している。
そんな昔の記憶がよみがえった本w
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ギリシャ問題で揺れるEU。そもそも経済格差がある国々が一緒になることに無理がある、という論調も最近は聞かれるが、本書を読んで認識を改めた。このような短期的な危機は繰り返される可能性はあるが、長期的にみたら、EUという塊が経済圏として、また政治的安定をもたらすものとして、世界の中でなんと大きな存在感を持っていることか。最終的にはロシアをも含めることを意図しているというEU。もしそうなったら日本にとっても隣国となることを考えると、EUとの付き合い方はもっと真剣に考えるべきだろう。
また、最近はTPPの議論が高まっているが、EUのような大きな経済圏と比較して考えると、日本が単独で生き残る道は、大局的にはやはり自由貿易圏に参加することなのではないかと思う。現在の日本は内向きで、どことなく孤立化の道を選択し続けているようにも見える。経済はやはりグローバルな視点でも考えなければいけないとあらためて認識。
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中国そして東欧と自分で足を運ぶ事で、その地域の将来の発展性を主張されてきた大前氏が、今回は満を持して拡大ユーロの欧州圏が栄えるという内容の本を書かれています。
サブプライムローン関連の被害を最も受けているのは欧州であるとか、ユーロは依然として他通貨と比較して過大評価されている、拡大とは言うものの貧富の差が激しすぎて団結出来るのかという意見が出ている中で、この本のタイトルに目が留まりました。
第一次世界大戦が終了してから、世界中がブロックしたように今回もそうなるのでしょうか。いずれにせよ欧州は団結する方向で動いているようなので、その将来性を探る上でも興味ある一冊でした。
以下は気になったポイントです。
・リスボン条約の発効には全27加盟国の批准が必要、残っていたアイルランド、ポーランド、チェコも批准するので、2010年初めに条約が発効し、初代EU大統領が誕生する予定(p28)
・経済発展途上の国々(ルーアニア、ブルガリア等)を加えたことで、EU企業は中国と同程度のコスト(ルーマニアはドイツの10分の1で、欧州内で工業生産ができることを発見した(p32、123)
・EUにはひとつの加盟国で認めた資格は他の加盟国でも認めなければならないという相互主義原則があるので、医者や弁護士は他国でも活用できる(p63)
・経済危機になってもユーロがドルのように崩れない理由は、世界で唯一、規律(財政赤字GDPの3%以下、債務残高同60%以下等)のある通貨だから(p72)
・2003年に日銀総裁に就任した福井氏は、在任中に準備通貨の30%をユーロへシフトした、これは最大の功績(p92)
・EU企業の場合、域内貿易が65%、すべてがユーロ決済なので為替レートを気にする必要がない、ユーロが強くなっても企業は悲鳴をあげる必要なし(p87)
・ドルは円に対しては長期的には高くなるトレンドにあるが、ユーロに対しては安くなるトレンドにある、日本円に対してユーロは強くなる傾向か(p90)
・2008年10月、アメリカは金融安定化法によって、7000億ドルの公的資金で不良債権買取、預金保護上限を10から25万ドルへ引上げを決定した(p94)
・EU関連の集まりは当初は、ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・英語の5ヶ国語で行っていたが、最終的には英語になった(p110)
・シェンゲン協定にはアイルランド、イギリス以外は全EU加盟国が加入していて、税関でトラックがとめられることなく物流の一元化が可能になった(p122)
・生産拠点を東方へシフトしていく一方で、本社機能やR&D機能は西側シフト(ベルギー、オランダ、ドイツ、イギリス)となってる(p125)
・イタリアのおもしろい取り決めとして、どこで作ってもイタリアに持ち込んでパッケージ輸出すれば「イタリア製」と認めている(p127)
・2009年1月、ポルシェへVWの株式過半数を持って子会社化したとしたが、金融危機発生、ポルシェ本体の売上激減のため、2011年半ばま��に逆にVWのポルシェの完全統合となる予定(p131)
・マイクロソフトは、アメリカにおいては20年がかりの法廷闘争の結果、「ウィンドウズが排他的である」という闘争には勝ったが、EUでは負けて2000億円程払った(p137)
・日本企業は、国別に出荷価格を設定して国ごとに価格を変えていたが、これはEUやアメリカでは許されない、パイオニアは1979年に435万ユーロを課せられた、2年後のパナソニックは捜査協力をしたので10分の1(p142)
・2008年に松下がパナソニックというブランド名に変えたのは、国によってブランドが違うことによる混乱を収めるため(p145)
・欧州で成功する可能性が高いのは、完成品メーカよりも、矢崎やイビテンのような部品メーカ(p159)
・ドイツで太陽光発電が広まったのは、政府が多額の予算をとって補助金をだしてきたから(p162)
・円キャリー取引が縮小される過程では、為替市場での円買いが増えて、円高圧力となった(p169)
・現在中国では、大都市部での人件費は月額300ドルの賃金水準、2008年から施行された中華人民共和国労働契約法下で解雇が非常に難しくなってきた(p187)
・ロシアが国外に売る天然ガスの価格には4段階ある、1)西欧諸国向け(最も高い)、2)旧ソ連のCIS諸国(半額)、3)バルト3国(1と2の間)、4)ウクライナとベルラーシ(3より少し安め)である(p223)
・ヨーロッパにはデンマークやスウェーデンのように法人税率が高い国もあるが、持株会社にはほとんど税率がかからないといった抜け道もある(p244)
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EUは民族独立に同情的。分離独立を宣言した際、本国郡がそれを阻止しようとしても、EUの世論を味方につけていれば手を出すことができなくなってしまう。
人類は民族紛争、宗教戦争を繰り返しているが、その根本では、幸せになりたいということが共通の目的である。
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EUを新しい時代の一つの国家として捉えることから、その巨大な影響力について書かれた本です。
現在のギリシャ問題についてのカギがないかと思って読んだのですが、、、「ギリシャの加盟時に詐称したという噂が流れた・・・」という程度の触れ方でしたね。この時点ではそれ以上書けなかったってのは良くわかります。
一番衝撃的なのは、ロシアがEUへの加盟する可能性が高く、加盟した瞬間にEUが日本の隣国になるということでした。そうなったら、どうするんだろうか?経営者や政治家は、今から考えていかないといけません。
アメリカ、中国、EUの間で、等間隔の距離を置く外交が必要なわけですが、国際関係でバランスをとるのって日本人は下手ですからねぇ・・・。(汗)
現在の世界観を広げるには必読です。