紙の本
鳴り物入りで登場した理化学研究所の草創期から敗戦後までの栄光と苦難の道を描いたノンフィクション小説です!
2020/06/20 11:17
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『毒ガス開発の父ハーバー』で科学ジャーナリスト大賞を受賞された医学・科学ジャーナリストの宮田親平氏の傑作ノンフィクション小説です。内容は、大河内正敏所長の型破りな采配のもとで鈴木梅太郎氏、仁科芳雄氏、湯川秀樹氏、朝永振一郎氏、寺田寅彦氏、武見太郎氏といった傑出した才能が集うことになり、「科学者の自由な楽園」と呼ばれたこともある理化学研究所について、その草創期から敗戦までの栄光と苦難の道を描いた作品です。同書は、「ロンドンの邂逅」、「国民科学研究所を」、「危機」、「明治天皇のお膝」、「合成酒の匂い」、「理研の三太郎」、「ねえ君、不思議とは思いませんか?」、「理研コンツェルン」、「科学者の自由な楽園」、「殿様と少年」、「ケンカ太郎」、「ニ号研究」、「カタストロフ」、「原子力とペニシリン」、「大輪の花」といったテーマで話が進んでいきます。とっても興味深い一冊です!
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ビタミンを発見した鈴木梅太郎、「うまみ」成分であるグルタミン酸を発見した池田菊苗、戦時中「二号研究」と呼ばれた核兵器開発計画を担った仁科芳雄、彼の元で学びノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎など多彩な才能を生んだ理化学研究所とは如何なるものだったのか。
創設者であり、所長も務めた貴族議員の大河内正敏の信念が、朝永振一郎から「科学者の楽園」と言わせた、理化学研究所の自由な気風と、基礎研究を重要視しつつも、その応用と事業化にも力を入れて、社会貢献も果たす組織をつくを上げた。
田中角栄まで関係していたというのには驚きました。
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「後進国であるアジアを脱し、ヨーロッパ列強の一員となる
のだっ!」
明治政府は脱亜入欧をスローガンに、日本の近代化を進めた。
それは学術の世界にも影響を及ぼした。
お雇い外国人を日本に招いて教育に力を入れ、優秀な若者たちを
欧米に留学させた。この戦略は成功した。留学から帰国した者たち
は大学教授として次世代の人材育成にあたることとなる。
しかし、大学は研究機関としての機能を十分に果たしたとは言え
なかった。このままでは日本の科学技術は欧米の模倣を脱する
ことが出来ない。優秀な科学者たちが存分に研究の出来る機関が
必要なのではないか。
そこで誕生したのが理化学研究所である。ただ、理化学研究所も
設立から資金難に見舞われ、なかなか軌道に乗せることが出来ない。
のちに錚々たる研究者を輩出する理研も、3代目所長となる大河内
正敏の登場を待たねばならなかった。
本書では理化学研究所の創設から第二次世界大戦後までを、大河内
を中心に描いたノンフィクションだ。
年功序列や職制をとっぱらい、研究室ごとに予算はつけるが使い方は
各研究室に一任。研究内容にも制限を設けない。正に「研究の自由」
を追及した場所だった。
大河内の掲げた研究理念や、研究成果を産業化して研究費を賄う発想
も面白かったが、無名時代の田中角栄がこの大河内と絡んで来る部分
が興味深かった。
戦後、大河内はGHQから公職追放の処分を受け、理研も解体寸前にまで
追い込まれた。そこへ角栄が絡んで来るのだから、面白くないはずがない。
日本人がノーベル賞を受賞すると必ず日本国の首相が祝福の電話をして
いる映像がテレビニュースで流れる。だが、受賞した科学者たちが揃って
口にする「基礎研究が大切」という言葉を、この国のエライ人たちは
まったく聞いちゃいないんじゃないかと思うのよ。
だって、大学を研究機関じゃなくて、企業の人材育成機関にしようとし
ているのだから。アメリカから言い値で武器を買うよりも、基礎研究に
予算をつけた方が賢いやり方なのではないかしらね。