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ほのか はこの春、小学一年生になる女の子。
お母さんのおじさん「権じい」の営む居酒屋さんの側の古いアパートに、お母さんと二人で引っ越してきた。
知る人のいない町、お母さんと二人だけの暮らし、働きに出るお母さん、カオの怖い権じい。
馴染めない新しい生活に淋しくて泣いてばかりの ほのか が、一番最初に気を引かれたのがその町のボス猫。珍しい三毛のオス猫で、その雰囲気とチョビ髭から「ノブナガ」と呼ばれている。
とまで聞くと、
「ああ、その後は少女と猫が仲良くなって、少女の淋しい心が癒されていくのね」
って思うでしょう?
半分アタリで半分ハズレなんです。
ノブナガはそう気安く近寄らせてはくれません。
威厳とプライドが大事なボス猫ですからね。
野良猫仲間、特にみそっかすのちび三毛には優しいけれど、人間には媚びません。
でもそのノブナガの、まさに猫そのものの距離感がすごくいいんです。
ノブナガの物言わぬ優しさ(もちろん猫は人語は話さないけれど)が、すごくいいんです。
初めて ほのか にノブナガが触れたところでは、思わず「くぅっ」と声が。
癒される、というのも少し違うように思うのです。
ノブナガは毎日、町のそこここにいて、ほのか の毎日は「心細くて寂しかった毎日」から、「いつもの毎日」になり、ノブナガと腰掛けるベンチが一番好きな場所になっていく。
そこにあるのは「癒し」ではなく「日常」なのです。
町に現れた冬の日と同じような雪の中、旅立ったノブナガ。
ほのか が落ち着くのを見計らったように……いえ、きっと猫らしく、気の向くまま本能の赴くまま、旅に出たのでしょう。
だから気が向いたら、またこの町に帰ってきてくれるかもしれません。
季節は一巡り。
春の日差しの下、ほのか とちび三毛は、いつもの毎日の中ノブナガを待ち続ける。きっと、明日もあさっても。
わたしも同じベンチに腰掛けて、ノブナガの帰りを待ちたいと思います。
やわらかい色使いも優しく、素敵な本でした。
ほんわか空気に包まれたまま書いたので、いつになく「です・ます」調になってしまいました。
レビューとしては慣れない口調で、文字なのに舌をかみそうです(笑)