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紙の本
稀代の投手とその周辺の人々を語る
2002/08/25 08:51
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
206勝158敗193セーブ。最優秀防御率1回、最多勝2回、最優秀救援投手5回、セパ両リーグにまたがるMVP。これが江夏豊が18年間の現役生活で残した記録だ。
本書は、江夏が阪神タイガースに在籍して159勝をあげた1966年から9年間、昭和でいえば40年代にしぼって、戦歴と人物を描く。
記録に見られるように傑出した投手だった。高卒1年目に225個の三振を奪った。2年目には401個と倍増する(沢村賞を受賞した)。しかも、当初の球種は直球だけだった。カーブを覚えたのは入団2年目のシーズンなかばである。剛速球に加え、抜群のコントロールの持ち主だった。綿密なデータに基づく頭脳的な投球をして、打者との駆け引きは一級だった。
並はずれた投手は、個性的なパーソナリティの持ち主もであった。損得を度外視して好き嫌いをはっきり示し、ことに上にへつらう者を極端に嫌った。当然、上の者からは煙たがられるだろう。事実、これが阪神を追われる遠因となる。当時の監督、吉田義男はトレード話を知りながらとぼけ通し、しこりを残した。
他方、いったん信じればとことん信じぬくのが江夏の流儀であった。報知新聞の蔦行雄もこうした一人である。報知新聞は巨人よりの新聞だが、江夏は所属よりも人物を重視した。阪神在籍時、チーム内では特定の者を除いて付き合いはなく、浮いた存在だったらしい。しかし、「人間・江夏豊への本質的な不信は皆無だった。江夏がグランドの外で牙を剥いた相手は監督であり、球団幹部であり、マスコミだった」。
本書は、江夏の周辺、彼と密接にあるいは表面的に関わった人についてもていねいに記す。著者がいうほど江夏が時代を表現しているかどうかは疑問だが、ともかく一つの時代を共有した人々が綴られている。時代を共有した一人に著者自身がいた。その意味で、本書は江夏を語ると同時に著者の青春をも語っている。
紙の本
2002/03/25
2002/04/18 22:16
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投稿者:日経ビジネス - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ああいう本物の仕事師には二度とお目にかかれませんよ。疲れる人ではあったが、サラリーマン世界にいると、ことさら懐かしいねぇ」。不世出の天才左腕投手、江夏豊と深く交わった報知新聞社のOBが、本書の中で漏らした印象的な一言である。
「反乱と反体制」の時代を潜り抜けてきた著者は、江夏という同世代の野球人の不器用な生き様を通じ、人間が人間として輝いていた頃の職業野球を活写する。
かつて阪神には、組織の不条理や人事の軋轢を超えて、マウンドに立てば目の前の敵に全力で牙を剥く「プロの中のプロ」がいた。暗い世の中である。企業や官庁の壁を超えて、あらゆる組織に1人でも2人でも「江夏」が現れてくれれば、と願わざるを得ない。
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