紙の本
明治美人が一杯
2010/02/01 16:33
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うみひこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
このところ、古い雑誌を読むのにはまっている。
昔の雑誌を読んでいると、
挿絵、表紙絵、広告や
奥付にある発行所の住所表記だけでなく、
表紙や各頁の紙の質など、
全てがその時代を語ってくれるのに気づく。
雑誌というのは、時代を表す情報の宝庫なのだ
という気がしてならない。
本書は、そんな古い雑誌、
明治の『婦人画報』(何と、編集長は、国木田独歩!)や
『『女学世界』『婦人世界』などの
グラビアページに現れる上流階級の人々の生活や姿を中心に、
明治後期の令嬢達の姿を描いたものだ。
例えば、この本の表紙絵をよく見ると、
『婦人画報』に載っているこのお嬢さまが
いかに裕福なのかが読み取れてくる。
一人のお嬢さまの絵は、立って、
箪笥の上の花瓶に挿した花を見とれている、
かと思ったら、箪笥ではなく、ピアノだった。
片手には楽譜を持っている。
1907年にピアノ!
どれくらいお金持ちだとピアノが買えたのだろうか。
もう一枚の絵は、イーゼルに立てかけられたキャンバスに向かって、
パレット片手に屋外で絵を描いているお嬢さまの姿。
油絵を描くというだけで、
どれだけ普通の人からはかけ離れているかが分かる。
こちらは、1900年。
『青鞜』がでるのが、1911年だから、
長沼智恵子よりももっと前に、
既に油絵を学んでいたお嬢さまの図なのだ。
それは、本当に信じられないような不思議さに満ちている。
自由で裕福なお嬢さまの姿を感じさせ、
読者に憧れの気持ちを抱かせる。
だが、本当にそうなのだろうか?
彼女たち、明治のお嬢さまは、幸せだったのだろうか?
作者は、信じられない程豪奢な生活を送る上流階級の姿と
そこに潜む矛盾を見事にユーモアを込めて描いてみせる。
豪華で信じられない程広大な屋敷に住み、
大勢の召使いに傅かれながら過ごす生活。
でも、それは、逆に、
台所が遠すぎて、おつゆもおかずも冷めてしまい、
いつも冷たい食事を食べる生活を生むという。
お陰で熱いものが食べられない、
貴族独特の猫舌の体質ができあがるのだ。
いつでもどこでもお付きの女中が傍についていて、
お金にさわることは一度もないまま成人するお嬢さま達。
女学校へは行きも帰りも馬車や車で、寄り道はなし。
学生同士の交遊も学内止まりだという。
孤独で、籠の鳥の生活。
年頃になると、結婚が待っている。
上流階級であればある程、多くは政略結婚で、
お嬢さまには何の選択の自由もない。
話が決まるとさっさと女学校を退学させられてしまう。
今とはかけ離れた豪奢の裏にある
不自由で孤独な生活には本当に驚かされる。
作者は、明治の上流階級の成り立ちや構造を優しく説明しながら、
豪奢な家の中で行われていた、
家存続のための「妾」問題に、読者の目を向けさせる。
妻妾同居や子供の地位などの家庭内における差別的な構造が、
多くの女性を政略結婚の道具とし、人権を奪ったことだろう。
悲劇の女性、九条武子や柳原白蓮を生んだ発端が見えてくる。
それにしても、この本に載っている数多くのグラビアや、
写真を見ていくと、江戸時代から何年もたたないうちに、
明治は、まるきり美人の基準を変えてしまったという事に気づく。
数多くの写真は、現代においても美人と呼んで差し支えない
令嬢たちの姿を写している。
そして、そんな美の追求にとらわれていくお嬢さま達
―痩せたい、美顔術を施したい、最新のカタログの商品が欲しいー
というお嬢さま達と同じ思いで、
今の女性が雑誌を見ている事にも気づかされる。
そんな姿を雑誌の中に見いだしながらも、
作者は、美しくたしなみにたけ、
いざ戦争が起これば凛として、武士の娘として、
血を見る事も厭わず、看護の奉仕に馳せ参じた
明治の上流のお嬢さま達の姿も描き出してみせるのだ。
矛盾と混沌に満ちた時代の中、
生き抜いてきた我らが曾祖母や祖母の姿を求めて、
明治のお嬢さまの麗しきお姿に満ちたこの書物の中を、
是非、彷徨ってみて欲しい。
電子書籍
興味深い
2021/05/21 11:48
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投稿者:えぬ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ぼんやりとしたイメージの「お嬢さま」in日本を雑誌や資料から読み解く本。明治から近代までの女性の価値観の移り変わりとか、明治ぐらいから変わってない女性の目標とか偏見とか、面白かった。文章も読みやすい。
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黒岩さんらしい丁寧な仕事。
お嬢さま(セレブ)に特別な関心がないから斜め読み。
明治の上流階級に暮らす女性は行動も言動もその存在すら軽んじられていて不自由極まりない。
妻妾同居も違和感なく畜妾率(すごい言葉!)70%だったなどのレポートには驚きを禁じえない。
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セレブと呼ばれる人たちに興味を持つ一般人とか、オシャレや美を追求する気持ちとか、今も変わらないところはあるんだなあ、と。桁違いな生活状況やあまりにも自分の意思が無視されている(そもそも意思を通そうという発想さえなかったんだろうな)な人生にもビックリだけど。
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維新後の華族(旧宮家・公家・大名家)のお嬢様について書かれた本
正真正銘の純お嬢様は、日常生活・恋愛・結婚
身につけて置かねばならぬ嗜みの多さ等々
何から何まで大変としか言いようがない!
さぞや不自由だったと思われる。
仮に自分が山ほどの富と名誉と引き換えにお嬢様生活をしろ、と
言われても断る。人生楽しくなさそうだし。
けど…このお嬢様たちはきっとそんなことは当たり前で
つまるとかつまらないとか、自由とか不自由とか
考えたことなかったんだろうな。
本物は幼いころから「ノーブレス・オブリージュ」の精神が
躾けられていて、そのように在ることは当然と思っているらしいので。
あと今でもこういう純お嬢様って存在しているのか
どうかが気になる。
「ノーブレス・オブリージュ」=
・身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ
社会的責任と義務があるという、
欧米社会における基本的な道徳観。
・高い地位や身分に伴う義務。
・もとはフランスのことわざで
「貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いを
しなければならぬ」の意。
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明治時代の環境と生活、ついでにお嬢様の様子も少し、といった内容です。
明治時代の知識が皆無に等しい私としては、明治の説明が多めで、とてもよく理解できました。ただ、途中でふと「お嬢様情報はどこ?」と我に返ったりしたので、「明治のお嬢様」情報がメインでがっつり、という目的の方は肩透かしをくらうかもしれません。
当時の写真もあり、読み物としてはとっても楽しめました。明治に木造12階の塔で8階までエレベーターがあったってすごい!
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華族・皇族を中心としたお嬢様の実態を描いていく。
実際のお嬢様の日記などが出てきたりして、本人たちがどのように考えていたのかも描かれている。
おもに、結婚の道具として育てられ、そのように生きるお嬢様たち。果たして幸せだったのだろうか。
妾腹にたいする認識が今と違うのはだいぶ面白かった。しかし、妾腹でも本妻の子として育てられ、そのあとを継ぐことが可能なのはよいのだけれど、妾のほうは、生涯めかけのまま、自身の生んだ子に蔑まれなければならないのはつらい。。
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P30~
乃木希典 学習院女学部教育方針
一、凡そ徳操の中でも、質素と云ふ事が、最も能く守らねばならぬ事である。
一、質素は価の多少にあらず。
質素といへば、単に価を多く費やさねばよい、人に貰つたものだからよい、安く買入れたものだからよいといふ訳ではない。たとひ廉価なものでも、質素の精神に叶はないものは、高価でも質素の精神に適つたものに比べて、遙かに劣るのである。
一、最も卑しむべく恐るべきもの。
無理に品物を廉く買はうとし、また貰うべからざるものを人から貰つて喜ぶやうなことは、最も卑しむべきである。又質素とは金銭のみの事ではない。特に彼の正しからぬ贈与を受け、又は価をねぎつて得た品を喜ぶやうあん、節義もなく節操も無いのは、最も卑しむべく恐るべきである。
質素を守る心のあるものは、不義のものをみかへりもせぬのが其の徳である。
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初黒岩比佐子作品。読みやすい。膨大な資料を当たっているにもかかわらず、非常によく整理されている。フェミ目線が入ると、もっとどぎついものになるのだろうが、その辺りのさじ加減が絶妙で、読みながらにたにたしてしまった。
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私は明治時代に生まれなくて、本当に良かった。
自由な恋愛も許されず、旦那は妾を持ったり娼妓と遊び歩いても当然なのに、女の不倫は姦通罪で逮捕されるとか、ありえない程の男尊女卑。
でも、女が人として扱われるようになったのなんて、人類の歴史の中でもほんの最近のこと。。。まだ女が人間扱いされていない地域だってたくさんある。
そんな世界では、到底生きていける気はしないな。
この本で、一番驚いたのが、妾を蓄える、という意味の「畜妾」という言葉・・・。ちくしょう、と読むそうです。
同じ家の中に、妻と妾が同居!とか、女中として雇っておいて主人が手を出す(拒む権利ないんだよね・・・?)とか、お給料を払って妾にする、しかも10代の女の子を!とか、そんな一方的なハーレムを堂々と作れたんだから、現代の男性たちがぶつぶつ文句を言うわけだ。
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「良妻賢母」たることを求められ、美貌を磨いて玉の輿に乗る事が最大の目的だった明治のお嬢様。明治のお嬢様に自由は無く、結婚は家格で決められ美しく淑やかであることを求められていたようでその生活はなかなか大変だったようだ。使用人を何十人と雇って、家族と過ごすのも少なくひたすら花嫁修業に励んで、冷えたゴハンを食べる。世間の噂になって傷物になったら大変だから徹底的に世間から隔離された籠の鳥。お嬢様も楽じゃないなあ…ああ…それに比べてホント庶民って気楽だ!
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両国には震災記念館?っていうのがあって以前は関東大震災の写真がたくさんあったので九条武子さんが とってもきれいな人だということは知っていたのですがそれに 九州に 柳原白蓮のだんなが建てた 建物があり 若者と駆け落ちしたのも 知っていたのですが二人がものすごく かわいそうだった というのがうわーーーん でした今の方が ぜってー いいって。ごろごろしながら キャラメルコーンの幸せ。
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家系の存続と家産の継続のために妾をもつという日本の風習は、諸外国との不平等条約改正のための文明国入りを目的に撤廃を目指したのであって、決して女性の人権を考えてのためではなかったのである。あくまで国益が優先されたのである。
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籠の鳥は嫌だなぁと思いました。
お屋敷が広すぎて、台所から100m移動するうちに冷える料理しか食べないので猫舌であるエピソードとか
茶・琴・花・歌を幼少よりマスターしていないといけないとか
お箸は先から1cmしか汚さぬように食べねばならぬとか
私には無理ですし人権無くて嫌です
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皇族・華族・上流階級の奥方様やお嬢様の生活を知る事が出来る一冊。
どちらかというと鹿鳴館デビューした母を持つ娘さん達の時代(明治中期~後期)の話。
明治の世になり、西洋諸国の文化がどんどん入って来て意識改革もどんどん進む。妾を持つのが当たり前の父と、一人の妻だけを愛する息子。世代によって考え方が異なってくるのが良く分かって面白い。
大正天皇の皇后様、徳川慶喜の娘、三菱財閥に嫁いだ官僚の娘さんなどなど、旦那様やお父様はよく本で読むけれど、その家族である女性達に目を向けたこの本は新鮮で面白かった。
参考文献も豊富で面白そう。読み倒したい。