紙の本
悪に立ち向かう強い心を育てる。
2011/09/22 19:39
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
しゃぼん玉 乃南アサ(のなみ) 新潮文庫
舞台は九州です。でも、犯罪者である主人公の伊豆見翔人(いずみしょうと)は、自分が連れて行かれた場所を四国だと勘違いしている。旅行を自主的に企画して行ったことがある人でないと大人でも地理を知りません。県庁所在地の地名を言えない人はたくさんいます。
この作者さんの特徴は、犯罪を加害者の立場から描くところです。翔人は、家庭に恵まれませんでした。彼は23歳にして人生の落伍者です。作者は彼に「再起」を賭けます。でも彼は逃亡を図ろうとするのです。消えてなくなるしゃぼん玉になるのか。
宮崎県の山奥の田舎暮らしは確かに記述にあるとおりでしょう。村人たちの反応は、都会における台本どおりの暮らしではありません。彼の周囲に集う年寄りたちが、彼の「再起」のために彼を「教育」していきます。最後は「宗教」すら感じます。「老人と坊」というタイトルでもよさそうです。「むぞう」という言葉がキーワードになりますが、その意味は最後まで説明されません。人がもつ「悪」を指すのでしょう。
ラスト付近、警察登場、翔人は逮捕になると予測しましたが、あてがはずれました。作者さんは、この話をどう落とすのか。興味深深でした。そして最後は、いい結末でした。平家の落人(おちうど)は翔人に重ねてあるような気もするし、がまん強い椎葉村の人たちを表しているようでもある。翔人の言葉「関係ない」は、他者との関係を絶って孤立する言葉であることも表している。いろいろな要素をからませながら全体を仕上げてあります。
父親に対する攻撃があります。翔人は父親に死ねばいいという感情をもっています。すべておまえ(父親)のせいなのです。同じ男として、父親の気持ちもわかるし、息子の気持ちも理解できるのでせつない。
母親に対するゆがんだ感情もあります。原因は母親から差別されたからです。兄弟・姉妹間における親の差別が記されています。書中で、差別は2種類あります。翔人の家族間のもの、そして、おスマばあさんの家族間のものです。戦後の日本人の暮らしぶり、貧困から高度成長期における富の取得で失っていった交流に関する記述もあります。現実にどこにでもある破滅しそうな日本人ファミリー像でした。
紙の本
とても良かった!!
2016/09/25 21:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
話のあらすじだけみると、ありがちな題材ではあるんだと思う。通称「いずみ」を家にあげ、あれこれ世話を焼くことになったおばあさんの心の動きや思いを乃南さんは間合いや行間で書ききっていると思った。とても良かった!外で読んだから号泣はまぬがれたが、家でひとりだったら声をあげ泣いてしまっていたことだろう。「いずみ」の心根は、まだ生き残っていた。それがこんなにも嬉しいなんて。過去は過去として水に流し、ありのままの「いずみ」を受け入れたおばあさんそしてシゲ爺。再会のシーン。ぐっとくる。また大切な1冊に出会えた。吉日。
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通り魔事件やコンビニ強盗をした主人公がとある田舎に逃げつく。
そこから田舎の人々とのコミュニケーションで生まれ変わってく・・・。
翔人の心のどっかが抜けてる感じがすごくわかる。
田舎の人々もいい人ばっかだし、婆ちゃんがかっこいい!!
そんでもってちょっと実家に帰りたくなる本。
気がついたら、自分が泣いていたのでちょっとびっくりだった。
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100%ではないにしても、大きな事件を起こす若者の背景には何かしらの問題があると思う。
親や家族、そして学校や友人・・・育まれたり、世話をしたり、そんなささいな幸せも感じない思春期。
この小説の主人公の翔人もそんな不遇な生活を送り、他人に対しては常に憎しみの感情だけを持っていた。
しかし、山村のとある村で180度違った生活を送ることになる・・そしてだんだんと変化していくのだ。
老婆に「ぼう」と親しみを持って呼ばれ、他人から頼りにされること。
そんなことから、過去の行動を反省し、後悔し、人間らしさが取り戻されていく。
タイトルの「しゃぼん玉」・・これは翔人が自分のことを例えている。
人生は「しゃぼん玉」のように、儚く消えるのだ・・それでいいのだ。
・・・しかし、そう思い込んでいた彼は、だんだんと「しゃぼん玉」ではなくなっていく。
それが何となく胸に染み入る感じだった。
人間は根っから悪人はいない。
そんな「性善説」を信じてもいいかな・・と思える小説。
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小説なのに、人々がホントに生きている気がした。翔人とおスマ嬢のその後の暮らしも、ぜひ読んでみたいと思った。
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通り魔や強盗を繰り返していた若者が、逃亡の果てにたどり着いた山村で出会った人々の優しさに触れ、立ち直っていくという物語。
犯罪を犯してしまった主人公の心の葛藤が見事に描かれていて、心の奥に潜む悪意が表出してくる瞬間は、ハラハラさせられます。
冒頭の作品イメージと、読み終わった後のイメージがかなり違います。
最後はハッピーエンドで、じーんと来ます。
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先の読める話・・・でも、わかっていてもどんどん読み進めていきたくなる。
大人でもこういう童話チックな教訓めいた本あってもいいね。
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ベタベタな更正物語…なのだが、感動してしまう
おばぁちゃん子の僕には直撃
正直サスペンスとは思わないが、良作ではある
ちょっとクサイかもしれない
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小説に登場してくる九州・宮崎県の椎葉村。人口4000名。人口密度1KM平方メートルに6名という完全な過疎。ただ、日本の子孫、原点がある。一度退職後行ってみたい。そこに登場してくる人物は、日本人が忘れていたほのぼのとした人情味あふれている。泣かせる、思わず引き込ませる肉厚の本である。もう一度読みたくなる一冊。080501
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内容(「BOOK」データベースより)
通り魔や強盗傷害をくり返す伊豆見翔人は、逃亡途中で偶然、宮崎の山村にたどり着く。
村の老人たちと暮らすうち、少しずつ心を開いていく翔人だったが……。
安易に犯罪に走る若者の心の闇に深く切り込む傑作長編サスペンス。
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この本は、読んでもらいたい1冊です。
家庭環境からおこるものなのか
荒んだ時代からなのか。。。
逃げることばかりを考えて来た翔人。
犯罪を繰り返し、人を刺しても罪悪感を持たない翔人。
逃げ延びた山村で老人と出会い変わってゆく模様が
温かい・・・
スマ婆さんやシゲ爺とのやりとりや
シゲ爺さんの
「自分のことだけの奴は、人の心が分からねえ」
「自分の生き方について諦めたらそこで終わりばい」
「諦めたら、人生なんてやり直せねえ」
「ようするに大事なのは心根ばい」
という言葉が妙に心に残った。
読んでいく途中に「しゃぼん玉」というタイトルの意味も分かりました。
思わず、読後に号泣しながら読んでしまいました!
読み終えた後は、温かい気持ちになれる1冊ですw
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そんなに期待しないで読んだけど、なんのなんのさすが乃南アサ。
コンビニ強盗やひったくりをくりかえしている若者が、警察から逃れるために流れ着いたとある村(あとで宮崎の椎葉村ってわかるんだけど)でふとしたことで知り合ったおばあさんと共同生活を送る中で、自分自身そして今の暮らしに陥るきっかけになった父親との確執を前向きに考えるようになる…。
って書くとなんか陳腐な感じだけど、すごく自然に若者の心が変わっていくところを描いてるから違和感なく読める。
最後は涙出ました。
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翔人に同感しすぎてちょっとやばかった
こんなにしんどい思いをして
1日1万円にもならないのかと思うと馬鹿馬鹿しくなってくる
その通りだ嗚呼辞めたい
しかし翔人は最後には立ち直って
人生と向き合うから偉いぜ…!
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前半は読むのが大変でしたが、後半…いや、終わり近くになってやっとスムーズに読めた話でした。
いい話でしたが、けっこう読むのに時間がかかったな…
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犯罪をおかして逃亡する若者がたどり着いたのは山奥深いある村。
そこで出会った老人や村人達との交流が、荒んだ若者の心を変えていく、というストーリー。
よくあるハートフルな小説と思いきや、終盤になるとなぜか涙があふれて止まらなくなりました。
読めばわかる感動の一作です。
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解説にも書いていたけど、シンプルなテーマほど作品を説得力あるものにするのは、非常に困難なもの。下手をすれば、そのテーマを壊してしまうこともしばし。
しかし、この作者は全く違うわ。
人物造形と挿話を積み重ね方が秀逸。
これは、作者の類稀な描写力と観察力がなせる業。素晴らしい。これぞ小説です。
内容はある少年が、人の温かさに触れて、過去の罪を清算するまでの様子を描くとても心が温まる内容。
やっぱり、人っていいわ。都会って怖いわ。
星は3.5なんだけど今回は4つで。
ちなみに帯は・・・若干陳腐だわ。