投稿元:
レビューを見る
残虐性だけがクローズアップされるイスラム国だが、本著を読む事でなかなかどうして現地ではそれなりのインフラ整備や教育、医療の普及などにも手をかけていることがわかる。
また、その残虐性についても。
今まで同様の事をやっていた組織もあるが、それがインターネットというツールを経て世界に知られることになったという指摘にも納得した。ようは我々は知らなかっただけなのかもしれない。
そして中東がもつ複雑な歴史は、アメリカを始めとした欧米諸国の政策上の失敗が今日の混乱をもたらしている。
彼らは被害者である反面もあるのだ。
しかし、その排他性(異教徒、女性)についてはまさに許し難き事であり、また我々と共存できないのは明白である。
本著はこの値段の割にはボリューム感にはかけるが中身はよくまとまっており、全体を俯瞰するには良いと思う。
また、イスラム国の戦闘員に豊かで宗教的な背景もあまりない先進国の若者が混じっているとも聞く。
まるで村上龍の小説「希望の国のエクソダス」のような話だが小説の中の
「この国には何でもある、ただ『希望』だけがない」
という台詞について思いを馳せてしまう。
投稿元:
レビューを見る
彼らは単なる前近代的狂信的テロリストではなく、カリフ制国家の成立を明確に企図し、テクノロジーとプロパガンダを巧みに利用しながら、地政学的国際政治的に戦略を練り上げた武装集団である。このモンスターを生み出したのは、アメリカの失政であり、さらに遡ればサイクス−ピコ協定、つまり英仏を始めとする利己的な帝国主義的中東政策であると言える。
投稿元:
レビューを見る
ユダヤ人が嘗てイスラエルを建国することを目的としたように、スンニ派のムスリムの建国への目的を果たすため結成されたというのが「イスラム国」と、この本では記されています。自前の財政基盤を持っているなど、嘗てのテロ組織とは全く違う自立性を持った連中の活動にはこれからも注意しなければなりません。
投稿元:
レビューを見る
「イスラム国」のとる各種の異常・残虐な行為を表面的に批判するのではなく,彼らの内在的な論理に沿いつつ,分析をしている。『イスラームの衝撃』とともに,「イスラム国問題」について,まずは読まれるべき1冊。
投稿元:
レビューを見る
イスラム国には、その他ジハード集団と異なる点が多くある。代理戦争による支援を素早く自らの基盤を整えることに費やし、決算書を持ち、ソーシャルメディアを活用し、制圧地域におけるインフラを最低限整えることで住民のコンセンサスを得ようとしてきた。
メディアでしか情報を得られない私達は、それが真実であるかを自ら確かめようとせず(現実的には確かめることは不可能に近いが)、メディアから流れる映像とプロパガンダで、架空の国家のイメージをそれぞれ作り上げている。
1日単位で状況が変わっている今、ニュースで得られる情報からは、すでにイスラム国が「国」として樹立するのは非常に困難なほどに世界を敵に回してしまった様に思える。
しかし、現場で起きていることは事実と異なることが多いため、私には何が正しいのか分からない。
テロリストが生まれ、それを叩くことで、また新たなテロリストが生まれる。
この負のループを止めるには、社会基盤の安定、有能な政府、安定した収入などが必要であるかと思われる。そのために、まずは教育、正しい知識が必要である。
余りにインフラが整っていないため、戦後の日本のような対応が必要かもしれないとも思うけど、危険過ぎて誰も自ら介入したくない。ものすごく難しい問題ですね。
投稿元:
レビューを見る
面白かった。知らないことを知る喜びを感じる1冊であったが、中東の複雑さを考えさせられる本でもある。
「アラブの春」がシリアに押し寄せた時に何が起こったのか?
ここに全ての要素と原因が凝縮されている。
「アラブの春」がシリアに押し寄せた時、サウジ等はスンニ派の擁護という宗教的な建前から、欧米は民主化(あるいはもっと露骨な資本主義?)という大義名分のもとにシリア反政府側へ資金援助・武器の供与を始める。
一方シリア・アサド政権はイランやロシアの支援を得て、反政府側を圧迫。
この混乱を巧みに利用し勢力拡大に繋げ、漁夫の利を得た勢力があった。それが「イスラム国」(以下IS)である。
ISは当初イラクでの反政府組織「イラクのアルカイダ」からスタートしたが、米軍の反撃にあい成果を出せなかった。そうした時に、隣国シリアでの内戦が始まり、指導者「アル・バクダディ」は少数の偵察隊を派遣し、情況偵察を行わせた結果、そこに自分達の活路があると判断したのだ。
彼らはスンニ派であることによりシリアでの反政府軍を装い、サウジ等のスポンサーを獲得し、資金・武器を蓄え、ある日突然、アサド政権ではなく、本来見方のはずの反政府側を攻撃し占拠を始めた。恐らくアサド政権側を攻撃するより、簡単に出来たのだろう。
シリア内戦を巧みに利用した彼らは油田地帯を押さえ、原油の密輸で潤沢な資金を稼いだ後に、次に米軍の撤退したイラクに再攻撃をかけ、次々とイラクを占領していく。
そしてシリア・イラクのかなりの地域を占拠し、2014年6月にはカリフ制イスラム国の樹立を宣言するに至る。
「アル・バクダディ」は、アルカイダの失敗はアメリカという余りに遠い敵と戦線を開いたことだとし、敵はイスラム教のシーア派はおろかライバル関係にあるスンニ派への攻撃も辞さないという、内ゲバの論理を取る。シリアの混乱から、領土をとり、石油を確保し、経済的に自立し、そして占領地では、電力をひき、食料配給所を儲け、予防接種まで行なう。その最終目標は、英仏が決めた「サイスコ・ピコ協定」の国境線を廃止し、失われたイスラム国家の建設だと言う。
こうした状況の中でのカリフ制国家の再興と新カリフの登場を多くのスンニ派の人々は、新たな武装集団の出現ではなく、数十年に及ぶ戦争と破壊の末にとうとう頼もしい政治主体が出来たと感じているという。
国家や宗教のエゴが寄せ集められ、その犠牲となった中東という地域に、我々は簡単に答えを出せることではないというのが、この本を読んでよく理解できた。
また、この地域に欧米流の民主主義が育つのか、あるいはそれが適しているのかと考え込んでしまう。
投稿元:
レビューを見る
「イスラム国」関連書籍はこれが初。
「スンニ?シーア??」「イラン?イラク??」
どっちだっけ?レベルの身なので用語集が頭についてて助かった。
「イスラム国」の成り立ちと性質と目標とが短いトピックスでさらりと書かれている。諍いと混沌の世界で立ち回り、アメと鞭を使い分け、強かで手強い組織の姿。文章は読みやすいが中身は根深い。
争いを断つには社会における教育・機会の平等・寛容と融和が重要であるとする最後の主張が耳に痛い。
読み応えがあったけど重い本。重いけど読み応えのあった本。
投稿元:
レビューを見る
「イスラム国」の呼称がいろんな意味で問題となっているが、著者によれば、多頭型代理戦争の間隙をつき、領土をとり、いち早く経済的自立を達成し、まさしくテロリストが史上初めての国家を作ろうとしている点が、従来のテロリストや単なる過激派とは相違するとの指摘が重たい。
投稿元:
レビューを見る
「イスラム国」を生んだのはグローバリゼーションと最新のテクノロジーである。前身はイラクのアルカイダであり、シリアやイラクの難民は「イスラム国」の支配をタリバン時代と同じだと語る。征圧地域内に残る住民は、過激なサラフィー主義(宗教的に極めて厳格で初期のイスラム指導者の教えに字義通り従う)に改宗するか、でなければ処刑されるという一種の宗教的浄化を行っていると見られる。ここだけを見ればいわゆるイスラム原理主義で中世の世界観のように思えるのだが。
タリバンやアルカイダとの違いで言うとイスラム国は明確に領土の拡大を目的にしている。テロを手段としながらも先の2つとの違いは近代性と現実主義にある。シリア内戦では国際的な協調介入がうまく働かないことを見抜き、当初はスポンサーの資金を得て代理戦争をする組織だったのが油田地帯を抑え自前の資金源を獲得した。これまで中東の武装集団で自ら新しい地域支配者を名乗るに至った集団は一つもなかった。宗教的な弾圧(ムチ)だけでなく支配地域の道路を補修し、食料配給所を設置し電力(アメ)を供給した。イスラム国のメッセージはカリフ制への回帰とそのカリフの下で作られる新しい国家でスンニ派住民の支持を得ることにも熱心なようだ。イスラム国はスンニ派ムスリムにとってのイスラエルになろうとしている。さらには自爆テロ1件ごとの収支計算を行い、決算報告書を作成している。
第一次世界大戦後にイギリスとフランスが結んだサイクス=ピコ協定がオスマン帝国の領土分割を決めた。このときに出来たシリアとイラクの領土を獲得することをイスラム国は最初の目標にしており、反欧米や親米イスラム国家に対するメッセージを発している。テロリストは国家を作れるのか?イスラム国が領土を拡大しているカギの一つがテロ・ビジネスによる収入源の確保でありスポンサーの影響を受けなくなったことだ。歴史的に見ればPLOのアラファトは年間80億から100億ドルの予算を運営するようになる頃にはその政治文化は汚職や賄賂や横領にどっぷりつかり組織も幹部もすっかり評判を落としている。PLOとイスラエルもお互いに暗殺や誘拐などのテロ行為の応酬を繰り返しておりPLOもテロ組織と見ることが出来る。今では国連加盟国でパレスチナを国家承認していない方が少数派になっている。PLOがイスラム国のモデルの一つであることは間違いない。イスラム国の資産総額はまだ20億ドルとPLOに比べてはるかに小さいがGDPで20億ドルなら世界160位相当になる。
イスラム国が自らのテロ行為をSNSに流すことは他のテロ組織から学んだ「恐怖のプロパガンダ」の一環であり暴力行為のニュースの価値もわきまえている。またアメリカによるイラク侵攻時の神話にも学んでいる。元々イラクのアルカイダの指導者ザルカウィが力を持つに至ったのもアメリカがイラクを攻撃する理由としてフセインとアルカイダをつなぐ正体として彼を指名したことによる。コリン・パウエルの発言によりザルカウィはジハード戦士のスターとなり資金を集めるに至った。イラク侵攻の正当化がイスラム国と言う形をとって跳ね返って来たのだ。
2000年の時点でザルカウィはビン・ラディンからのアルカイダの一員になると言う誘いを断わっている。対イラク侵攻の時点でザルカウィは対シーア派のテロを始めていたがビン・ラディンの標的はあくまでアメリカでスンニ派とシーア派の離反には乗り気ではなかった。ザルカウィの死後「スンニ派の覚醒」という出来事が起こり長老達はスンニ派の人々にジハード集団と袂を分かつように説得した。「アルカイダ」ブランドは地に落ち、そこに出て来たのが現在のイスラム国指導者バクダディだった。2010年にイラクのアルカイダの指導者となったバクダディはシリア内戦の混乱につけ込み勢力を拡大した。バクダディ自身は正規の教育を通じて神学を学んだ指導者でありながら、2005年にアメリカに拘束され5年間服役した間は目立たなくしていた。カリフに選ばれたバクダディの演説はこうだ。「私がまちがっていると思ったら、私に教え、正しい道に戻してほしい。私があなた方の中の神に従う限り、あなたがたも私に従ってほしい。」イスラム国内部ではバクダディは厳格な宗教指導者として振る舞っているということだ。フセインの残党が合流する前からバクダディは国家の運営を目指していたと考えるべきなのだろう。
イスラム国に対抗するためにはどうするべきなのか?これまでのアメリカの手法ー対向組織に武器や資金を提供するーと言うのはこれまで見た限りその資金や武器が自身に跳ね返ってきている。手段としての空爆はともかく、すでに行われているように資金を断ち切り、支配地域の住民と指導者を離反させる必要が有る。(それをやるにはアメリカは嫌われ過ぎている様に思えるが)少なくとも例えばサウジへのカリフ制国家の革命の輸出を防がないといけない。シーア派はイスラム国の敵であり、スンニ派国家の指導者からしても反政府組織を勢いづけるイスラム国は敵だろう、ただ共同戦線を組むところには行ってない。著者は元々の原因をアラブ諸国がイスラエルを認めたことに遡ると言う。そしてこの本であえて「イスラム国」という呼称を使うのも、「国家ではなく武装集団だ」と言うメッセージが現実の脅威に直面するには役に立たないからだと言う。個人的には単純接触効果のため「イスラム」に対するイメージの悪化が起こるのでISIS等でいいのではないかと思うが。単純にアメリカの対テロ戦争にのると言うのは過去の経緯を見る限り賛成できない。
投稿元:
レビューを見る
126p:
どちらの軍隊も、自分たちの行動を正当化するために大義を掲げている。すると、次の疑問が湧いてくる。かつてのイスラム帝国の領土に過激なサラフィー主義を奉じるカリフ制国家を建設するという約束は、民主主義を広め、その過程で欧米の多国籍企業による市場経済植民地をつくるという意思表示よりも、はるかに訴求力があるのではないか。
投稿元:
レビューを見る
ISIS、ISIL、イスラム国 様々な呼称で呼ばれている、アル・バグダディが率いる武装集団。なぜ、色々な名前で呼ばれるのか、それすら私にはわかっていなかった。
アルカイダは、その主たる戦場を海外に求めたが、イスラム国はシリアをベースに、イスラム国家を作ろうと活動をしている。
武力、テロという形で土地を占領し、占領地域内では経済活動を行う。国を運営する。そして、さらにその勢力(国土)を獲得するために、武力による攻撃を積極的に進める。
国土の獲得方法こそ、欧米的視点からみたら異常ではあるが、自分たちの土地を勝手に分割されたと信じる彼らにとっては、武力に訴えた土地の獲得(そして、そこに彼らの国家を作ること)は自然でさえある。
そして、だからこそ欧米的視点では、彼らを国家として認めず、ないテロリスト集団として捉え続けようとしている。
イスラム「国」についてのニュースに接するときに、基礎知識として頭に入れておいたほうが良さそうな情報でした。
投稿元:
レビューを見る
ソーシャルメディアを活用して主張を拡散し、その経済的自立性と統治力を見れば、もはや中東地域ではISを国家と認めざるを得ない様相だ。アル・バグダティのひきいる組織は、明らかにIRAやPLO、そしてアルカイダといった従前のテロ集団とは違い、大いなる近代的進化を遂げている。その残虐極まる行為は許しがたいものの、今日にいたる歴史において彼らに犯してきた欧米の行為ははるかに残虐であったし、現在なお利権により彼らを蹂躙していることは確かだ。自らを正当化し合うなかで、対する側の目から己を見つめる大切さを思う。
投稿元:
レビューを見る
第一次世界大戦以降、初めて「フランスとイギリスが線引きした中東の地図」を書き換えているのがイスラム国だ。彼らの前身はアルカイダだが、戦術は最新鋭であり、その成長は「グローバリゼーションと最新テクノロジー」と切り離せない。
「イスラム国の指導者は、グローバル化し多極化した世界において現代の大国が直面する限界を、驚くほど明確に理解している」。そのため、彼らはシリア内戦を巧みに利用し、ほとんど誰にも気づかれないうちに、どこからも資金提供を受けずにみずから新しい地域支配者を名乗る、初めての集団となった。
イスラム国の戦士は言う「アルカイダは1つの組織に過ぎないが、われわれは国家だ」と。彼らの目的は欧米へのテロを成功させることではなく、カリフ制(ムスリムの最高権威者が支配する)国家の再興だ。そのために経済的自立を果たし、SNSなどを巧みに利用して世界中から戦士(国民)を集め、制圧地域を「統治」してる。彼らは単なるテロリストではない。
9.11以降、欧米がイスラムに対して取った不実な強硬策の数々が、イスラム国に結実したのは疑い得い。「テロリズムの歴史における新しいシナリオ」に直面させられた近代国家は、どう動くのか。
投稿元:
レビューを見る
【132冊目】ゲロ吐くんじゃないかと思うぐらい面白かった。イスラム思想や、"IS"の前身・成り立ちに関する事実関係を知りたいならば、池内恵先生の「イスラーム国の衝撃」が良いと思う。他方、中東を含む現代国際政治環境、そしてスンニ派v.シーア派の宗派間対立という視点からは本書も負けないと思う。また、"IS"の戦略面についても池内先生の本とは少し違う視点もあるように思う。"IS"が近代国家システムへの挑戦であるという解釈については両者に共通しています。なお、池内先生の本の参考文献リストには本書が載っていることも申し添えておく方が公平でしょう。
既存の主権国家及びそれが作り出す環境がいかに"IS"を創造したのかという本書の視点は、国際政治学で言うところのrealismに分類されるものであると思います。各国政府への批判をするのであれば、こうした視点の取り方も十分納得の行くものです。そして、だからこそ、「まずはこの地域における新たなパワーの誕生を認識」しなければならないという一文は奇異に思えます。「パワー」と言ってしまうと、realist的な理論の一貫性がなくなってしまうよ。不満といえばそれぐらいか。
投稿元:
レビューを見る
シリア→ロシア
イラク→アメリカ
その狭間で勢力を拡大するイスラム国。
内部からの証言があるわけではないが、トップのバグダディと組織成立の軌跡を解かりやすく追っている。
一定の秩序を作れていることと、欧米に受け入れられなさそうであることはフセインを彷彿とさせるけれど、さらに不安定だろうな。