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"事故処理屋"星名五郎を主人公とした森村最初期の異色サスペンス連作集9編。星名は"事故処理屋(「トラブルエイジェント」と読む)"を名乗るが、その実体は殺し屋である。「退屈で仕方がないので自分をむごく静かに殺してほしい」なる特殊な依頼もあるが、多くは恨みを晴らしてほしいというもの。この男、虚無的でビジネスライクではあるが、金さえ貰えば誰でも殺す冷血漢とは必ずしもいえない。端々で義理堅さや人間味も垣間見せる。殺さずに依頼を遂行することもあるし、その逆に依頼主の求めに応じて、手間暇と費用をかけて残酷に葬ることもある。当世風にいえばアンチヒーローといったところか。現実味より娯楽性を重視した作品であり、漫画原作でも通用しそうだ。
ヨットの専門誌『スタッグ』に連載され、昭和44年に単行本が刊行された。本作のような病的な登場人物ばかりの暗色調の小説が、健全なスポーツ誌に連載されていたのは不思議だが、当時としては普通だったのかも知れない。第七章「白鳥焼身」はヨット乗りが登場する。後年『人間の証明』などによってベストセラー作家となり、本作の文庫化を勧められた際、作者には一縷の逡巡があったという。初期の荒削りの作品だったからだろう。だが実際に文庫化されるとたちまち100万部を突破。読者と作者の評価の乖離に驚かされたという。同じく角川によって後押しされ、超人気作家となった横溝正史も同様の経験をし、同様の感想を漏らしたりしている。当時の森村の人気度と角川文庫の隆盛が窺える。