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いけ花「未生流」の会報誌に連載された幻想小説を集めたもの。花にまつわる瀟洒な短編が並ぶ。モンゴル帝国の伝騎兵と百姓娘の恋を描いた「蒙古桜」が切ない。氏のキャリア初期の作品で、初出は本名の福田定一名義。まだ産経新聞の記者だった。
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司馬遼太郎には珍しい幻想小説。今まで数々の司馬氏の歴史小説を読んできたが、このジャンルは初めてである。それもそのはず、司馬遼太郎がまだ、司馬遼太郎でなかった頃の、いや紛らわしいか、本名の福田定一の名前で執筆した、新聞記者時代の作品なのである。
本書は、花にまつわる男女の悲しい小編恋物語を10篇集めたもの。舞台は古代ギリシャ、漢、宋、清、モンゴルのチンギスハンの時代、日本の大和時代、戦国時代など様々。「幻想」であるため、どれも私好みではなく、流して読んだ感じだった。やはり司馬遼太郎作品はリアリティあふれる作風の方が好きである。司馬遼太郎ファンとして、こんな作風もあるのかと分かっただけでも良かったかな。
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これは 短編であるが 花にまつわる話が うまく描かれている。
司馬遼太郎と名乗っていない「福田定一」の頃の作品である。
言葉の運び方 使い方など 妖しいほどに うまい。
「森の美少年」を読んで・・・
インスピレーションがわいた。
花にまつわる話が 歴史を深く掘り下げていくのが楽しい。
こういうジャンルの 物語を紡ぐ必要がある と感じながら
最初から 再び読み返した。
司馬遼太郎は 短編で十分の そのチカラを発揮する。
私は 『睡蓮』 が一番よかった。
そのタクミな広がりは 衝撃を与える。
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歴史の中のある一瞬に存在した人物または存在したかもしれない人物に、花の妖しさをからめて描いた短編集。
項羽の最期を描いた「烏江の月」は、司馬さんの作品としては珍しく叙情的。痺れた。もともとある謡曲を下敷きにしているためか。
シンプルで勢いのある「睡蓮」も好き。
「蒙古桜」に出て来た、”信じるという心の力み”、”奇跡の起こるひたすらな原始の心”という言葉が印象的だった。
この文庫版は文字が大きくて読みやすいです。
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司馬遼太郎、になる前の作品。
読み慣れた文章とは違う、詩文的な表現が楽しめた。
平凡で平坦な人生を願うからこそ、小説の世界で味わう妖艶な世界。
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長編は敷居が高いので短編から、と思ったらこれは異色だそうで。
説話調で幻想的でとても気に入ったんだけれども。
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【本の内容】
清の八十翁・松齢の庭に突如咲いた一茎の黒い花。
不吉の前兆を断たんとしたその時に現われたのは(黒色の牡丹)。
人間稼業から脱し、仙人として生きる修行を続ける小角がついに到達した夢幻の世界とは(睡蓮)。
作家「司馬遼太郎」となる前の新聞記者時代に書かれた、妖しくて物悲しい、花にまつわる十篇の幻想小説。
[ 目次 ]
[ POP ]
本の帯に<幻の初期短篇、初の文庫化!>とあるが、文春文庫が、司馬作品を「幻」と銘打って出すのは初めてではない。
2001年刊の『ペルシャの幻術師』は<幻のデビュー作>、03年刊の『大盗禅師』は<幻の司馬文学、復刊!>。
「幻」をうたうことで読者の目をひこうとする商魂が見え見えとはいえ、今回の「幻度」は高い。
収録作品は、司馬が1960年に『梟の城』で直木賞を受賞する以前、本名・福田定一で雑誌「未生(みしょう)」に連載したもので、まさに作家・司馬の誕生する以前。
しかも、作品は花にまつわる10の幻想小説である。
堂々の「幻」だ。
愛やエロスをロマンチックに描くウブな作品もあり、清新さにあふれる。
自らの故郷に近い奈良の葛城山で育った役(えん)ノ行者を描く「睡蓮」には、すでに司馬節が健在。
<美しいものへ放心できるこころ、これこそ世尊の説く正覚というものではあるまいか>
「竜馬がゆく」を髣髴させる明朗でおおらかな語りが魅力だ。
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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司馬遼太郎になる前、福田定一時代の花にまつわる幻想短編集。花の香りは妖しく、歴史の心象風景に欠かせないものだったのだな。
花を知っている人間になりたい。間違いなく、花を知っている人間は本をたくさん読んでいる。そう感じる。
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「水仙」 … ナルキッソス。美しい。どこもまでも美しい。美しいという言葉はいかにも妖しい。
「チューリップ」 … 別所長治の自害した遺骸の側に生けられていたという奇譚。チューリップは明治になってから日本に入ったはずだろ?
(別所長治:織田家臣だったが、信長が上月城を見捨て秀吉を取り立てたことで離反した。荒木村重のように三木城に籠城して対抗したが、秀吉に敗北。別所家一族の自害で開城)
「牡丹」 … 『聊斎志異』を著した清の蒲松齢の死に様。美人局で死ねるなら本望だろ。
「雛芥子」 … 虞美人草という所以。美女の死には華がある。芥子ってアヘンだよな。やはり妖しい…。
「沈丁花」 … この作品の一節がスゲーいいんだ。
-まぁ恐ろしい言い分。まだ、わからないのね。ね、お聞きなさい。あなたがどんなに間違った人生をしているか。科挙の試験なんて悲しい執念。どうせ通りっこないわ。そんなものに、人生で一番楽しい十年を、惜しげもなく磨り潰しちゃうなんて、どういう了見かしら。人生に未来なんてない。あるといえば死だけじゃないの。たしかに実在しているのは、死と、そして瞬間の生だけよ。わかる?
瞬間瞬間の集積だけが人生なの。
その瞬間瞬間を楽しめば、やがて人生をちゃんと楽しんだということになるんじゃない?たとえ通ったところで、どれほどのこともないわ。さ、楽しむのよ。-
そして子青は沈丁花の花咲く沼に飛び込んで、科挙の試験から解放された。
「睡蓮」 … 役小角(えんのおづぬ)は修験者の祖。司馬先生の別の本でも出てきた。不二の山は小角にとって大した山ではない。しかし、麓の沼で出会った睡蓮は、彼を惹きつけ、無我の境地へいざなった。彼は睡蓮に出会って、悟りを開いた。
「菊」 … 菊は美しすぎない。匂いも良いというわけではない。甘さというよりも青臭い生々しさがある。そこにエロスがある。そんな臭いのする女が菊の典侍だった。室町の貴族武士たちの複雑な政争に花を添えている。
「椿」 … 椿は山茶ともいう。病は気からという作品。君はこの花だ。チョッ キン!はい、きみ死んだ。
「サフラン」 … 笑。まったく花が出てこない。花言葉は「歓喜」「度を慎め」だと。強すぎるアブル=アリの切ない話に思った。自分を殺すのも自分しかいないなんて、どこまでも孤独。強さとは、孤独なのだろうか。
『ペルシャの幻術師』の布石か?読まなきゃ。
「桜草」 … ユーラシア大陸全域に迫ったモンゴル帝国。欧州遠征に出たバトゥが二代皇帝オゴタイ=ハンの崩御を知ったのは、死後たった十日後だった。
連絡役のエルトム=バートルは元で最高の伝騎である称号「鷲の羽」を持つ男だった。彼は休むことなく駅ごとに馬を乗り継ぎ疾走した。そんな乗馬に人体が耐えられるわけがない。しかし、彼は走りきった。内臓をつぶし血反吐を吐きながらも。
彼を影で支えたのは、恋人サラの祈りだった。森の精霊に教えてもらった、エルトルの命を具現した「桜草」を抱きながら、祈った。桜草が生気を失いそうになったとき、サラは自分の太ももに刃を入れ、桜草を突き刺した。サラの血を吸い桜草は息を吹き返した。
バトゥのもとにたどり着き、エルトルは訃報を告げ血を吐き死んだ。サラは森の中で真っ赤に染まった土の上で、草のように青くなり死んだ。
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まぁ、全体的に美人局が多い。花の妖しい香りは女のフェロモンに喩えるのがイチバン!!
こういう短編集を読むと自分も執筆したくなるよね。花と歴史はいいなー。
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日本の国民的作家 司馬遼太郎が新聞記者時代に福田定一の名で発表した花にまつわる不思議な話。
洋の東西を問わず様々な花を主題とした怪異で美しい話が語られる。
非常に興味深い趣向の物語で、司馬遼太郎の作り出す幻想的な世界にすっかり魅せられてしまった。
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司馬遼太郎が小説を発表した1950年(昭和25年)、作者名は福田定一だった。本書は司馬遼太郎への移行する前の記念すべき作品である。
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司馬遼太郎のデビュー作ともいえる「ペルシャの幻術師」と同時期に、本名・福田定一で華道の雑誌に掲載された連作短篇です。
花にまつわる伝奇、縁起、幻想譚。大活字にもかかわらず一篇わずか10ページほどの小短篇です。
初期に司馬さんが得意とした幻想小説であり、どこか中島敦を思わせる作品群です。
どの作家であれ、初期の作品には幻滅することもあり、余り期待せずに読んだのですが、それがかえって良かったのか、十分に楽しめました。もちろん生硬さは見え隠れしますが、流石は司馬さんと思わせるものがあります。
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司馬遼太郎がまだ福田定一だったころの作品。
華道流派の雑誌に掲載されたものなので、花でテーマが統一されているが、かなり習作っぽい感じ。
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国民的作家“司馬遼太郎”の最初期、本名の「福田定一」の名で華道の機関誌に掲載された、花をモチーフとした幻想譚10編を収録。ほとんどが10㌻前後の短い作品で、古代ギリシア神話のナルキソスのエピソードをはじめ日本、中国、モンゴルの歴史や伝承がベースになっており、どれも20㌻に満たない。後の司馬作品の代表作を愛読する人からすれば物足りなさを感じるかもしれないが、若書きで硬さはあるものの簡潔で歯切れのいい文章は、やはり読みやすい。
収録作中で怪奇幻想味がより濃いのは、農夫が項羽らの最期を幻視する「烏江の月」、『聊斎志異』を著した蒲松齡の自宅の庭に咲いた妖しい花「黒色の牡丹」、元禄期の(今でいう)催眠療法士の逸話「白椿」など。
個人的に司馬作品の有名どころの長編は読んだことがなく、既読は『果心居士の幻術』1冊のためか、かえってすんなりと馴染めたのかもしれない。
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幻想譚。
最初の方は、さまざまな形でよく知られてきた逸話が多いし、書きぶりもエッセイに近い感触で、なんだこんなものかと思っていたが、後半は展開の緩急がいかにも作家という趣になり、最後の一編の疾走感には興奮した。