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鎖国した近未来の日本が舞台。何故鎖国ってそりゃあ東日本大震災および原発事故の関係で日本を忌避する働きがあったり、各国の諸問題を他国に広めないようにとかさまざまな要因があって徐々に閉じて行ったらしい世界。放射能により老人は死を奪われいつまでも元気に、逆に若者は立って歩くこと、普通にものを咀嚼することも一苦労。いつまでも元気な老人が働いて、子供孫ひ孫を看取る。ディストピア小説だからか多少説明的な部分が多く、私はもう少し多和田さんの感覚にびんびん割り込んでくるような言葉を期待していたからやや残念。
しかし「献灯使」以外の短編4編も何れも同じ設定ながらに短編ゆえのびしばしっとした感じがあり、特に「韋駄天どこまでも」と「不死の島」が良かった。
「韋駄天~」は習い事のあと友人と喫茶店で大地震に見舞われ、そのまま避難生活に入る話。「不死の島」は空港にて、日本の取り扱われかた的な。
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たぶん、少し未来の世界を描いたデストピア小説。
過度に優しい世界の仕組みや、刈り取られて植え替えられた言葉の意味や、ところどころに滑稽とも思える描写があったりするのだけれど、それがいかにも「ありそう」なことに思えてしまう。
それから、行間に漂っている「生き物」の気配。
具体的な動物の名前がいくつも現れるのは勿論のことだけれど、動物は死に絶えたはずの世界なのに、寧ろアニミズム的な生命力というか息遣いというか、そういう「不気味さ」に近い気配を強く感じた。
そう考えると、『動物たちのバベル』のラストシーンがなおさら意味深に思える。
収録されている5篇はどれも設定を共にしているけれど、どう繋がっているのだろう。
具体的な年代設定がいつ頃なのかは分からないし、そんな設定はどうでもいいことだろうと思う。
けれど、義郎が今の私たちと同じ世代の人間に思えて仕方ない。
「荒唐無稽な予言」とみることもできるけれど、それらの「予言」を見落としたせいで今の世界が在るのだということを、きっと忘れてはならない。
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いわゆるディストピア小説に分類されるのだろうけど、どこか静かな印象のある、静謐、という言葉が似合いそうな一冊。
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消化するのに時間はかかりますが、面白かったです。
諦めムードが全体に漂いつつ、とても静かで詩的な雰囲気。
見開きの挿し絵にびっくりしますが、それもまたよし。
好きな作品順は
不死の島
献灯使
韋駄天どこまでも
彼岸
動物たちのバベル
不死の島の冒頭が好きです。そしてこれがないと全体がつかめない気がする。
献灯使は曾孫の無名が可愛い。無名のために頑張るひいお祖父ちゃんもすてき。飛藻と天南はあんまり。
他の登場人物は前向きで好きです。
韋駄天は私の中では普通。彼岸は…国会議員がどうしようもないの一言で済みます。
動物たちのバベルは私には難しかったです。でも演劇にして見てみたい気もする。
きっとこの作品では最後に日本はなくなるでしょう。
でも静かに終わっていくから、あまり悲しくはない。
にしても原発事故を扱ってるのに問題意識を感じない私は、どっかおかしいのかしら。
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15/07/26
本屋で表紙のインパクトに惹かれて読みたくて図書館で予約。内容はなんかむつかしそうだなあと思ってたけど案の定。わたしには難しかったです。こんな未来はこわいなあ嫌だなあという陳腐な感想しか出てきません。
・襲われる危険の全くない世界。怖いという気持ちを古い上着みたいに脱ぎ捨てて、サングラスをかけましょう。平和が明るすぎて目眩がするから。(P262 動物たちのバベル)
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短編が4つと少し長い表題作.「動物たちのバベル」は人間が滅んだ後、イヌ、ネコ、リス、ウサギ、キツネ、クマなどが人間を批評するシナリオだが、動物たちの立場からのコメントが面白かった.表題作の「献灯使」は高齢の義郎と曾孫の無名のやりとりが中心で、元気な高齢者とひ弱な子供たちが出てくる将来の日本が舞台だが、様々な成約があるようだ.例えば、日本が鎖国状態に在るとか.結局、何が言いたいのかよく把握できなかった.
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原発政策への批判の小説。
健康被害、メタモルフォーゼ。現実離れしていると一蹴できない。それは筆者が日本の現実に危機感を持って描いたと思われるから。
だだ、気持ちが強すぎるのか風刺のようにも見えてしまう。
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無名は青い絹の寝間着を着たまま、畳の上にべったり尻をつけてすわっていた。どこかひな鳥を思わせるのは、首が細長い割に頭が大きいせいかもしれない。絹糸のように細い髪の毛が汗で湿ってぴったり地肌に貼りついている。瞼をうっすら閉じ、空中を耳で探るように頭を動かして、外の砂利道を踏みしめる足音を鼓膜ですくいとろうとする。足音はどんどん大きくなっていって突然止まる。引き戸が貨物列車のようにガラガラ走り出し、無名が眼をひらくと、朝日が溶けたタンポポみたいに黄色く流れ込んでくる。無名は両肩を力強く後に引いて胸板を突き出し、翼をひろげるように両手を外まわりに持ち上げた。
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著者のようにドイツで(非漢字圏で)生活していると、漢字自体をおもしろく眺めながら作文する、という感覚になるのだろうか。そこのところはおもしろかった。内容についてはピンとこなかった、としか言いようがない。
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大災厄に見舞われた後、鎖国状態の日本。死を奪われた世代の老人・義郎には、体が弱い曾孫・無名をめぐる心配事が尽きない。やがて無名は「献灯使」として海外へ旅立つ運命に…
93年の芥川賞作家の作品を初めて読んだ。新造語が多く、設定の奇抜さにも慣れず、読み辛かった。どうやら私の性には合わないらしい。
(D)
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献灯使、韋駄天どこまでも、不死の島、彼岸、動物たちのバベル。震災後の鎖国、長寿で元気な老人とか弱い若者。
背景の明確な説明はなく、断片的な記憶や描写で何となくの出来事を知る。なるほど、泉鏡花賞の詩人、と思いました。
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「口ばかり開けていると日が暮れて、いくら大きく目を開いても何も見えない夜が来ますよ。闇の中で花が見えますか」
(P.169)
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http://tacbook.hatenablog.com/entry/2016/02/10/185802
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ディストピア文学の傑作とか現代文学の最高峰とかやたらと評価の高い作品だけに期待するものは大きかったのだが…つい先日お亡くなりになられた津島佑子さんの「ヤマネコドーム」と同様に私の読書力ではいまひとつ理解に苦しむ結果となった。
現代詩には馴染みがないわけでもなく言わんとすることはわからぬではない、しかしこのテーマに限って言えば「どこを向いている?」と思ってしまうのだ。
これだけの感性があり言葉を縦横無尽に操る才に恵まれた人たちなのだからこんなときこそもっと視線を下げて欲しい、そこにいる私たちのために
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ものすごく不吉な小説だ。すべての編で、原発の爆発のために国土が汚染され、廃墟と化した”日本”の姿が浮かび上がる。
表題『献灯使』は、老人は放射能で死ねない体となり、若者は食べることさえ危険を伴う体になっている。かといって、食べなければ死ぬのだから、どちらにしても待つものは”死”ということか。
一世代の人間の人生の間に、人間の在りようがこんなに変化してしまう、というのは、どういうことだろう? その急激さと、変化の大きさ。