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社会の穴に落ちた者の叫びであり、自分もいつか同じ穴に落ちるかもしれない恐怖を感じた。圧倒的なリアリティが突きつけられる。ミステリーとしては、最初から犯人も手口もわかっているのにどんなトリックがあるのかと思ったけれど、終盤、おおっ!ときたね(笑)そうきたか!ってね。でもこの本はトリックより、もっと大きな社会問題がテーマなんだと思う。
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介護問題を取り巻く様々な問題に鋭く斬り込んだ社会派ミステリー。
日本ミステリー文学大賞新人賞作。
久々にお気に入りの作家を見つけた。真山仁・日明恩あたりが好きな人には是非お勧めしたい。
社会への問題提起としても、ミステリーとしても良かった。随所に出てくるキリスト教の考えもスパイスになっていて良かった。
“なぜ人を殺してはいけないのか?” この問いに対し、誰もが納得できる答えがあるだろうか。
主人公は性善説を支持する検察官だが、「善」とは何なのか。
生=善、死=悪。本当に?
生きること。それだけで苦しくてたまらない人もいる。生きているだけで図らずも他者の生活を脅かしてしまう人もいる。生きることを誰にも望まれてなくて、自分でも望んでいないなら、死んだっていいじゃない。
《彼》が言うように、“死を与えて救済する”ことは絶対的な悪と言えるのだろうか。
増え続ける高齢者。減り続ける働き手。分かりきった未来に何ら対策が打てない国政。
“安楽死”について議論を深めなければ、国が滅んでしまうと本気で思った。
*以下引用*
つらくない、つらくない、つらくない。本当につらいのは、母さんの方よ。私はつらくない。私は母さんの介護を嫌がるような薄情な人間じゃない。(p39)
人が死なないなんて、こんなに絶望的なことはない!(p45)
俺は自分が受けたサービスに見合った対価を払うよ(p51)
この世で一番えげつない格差は老人の格差だ。特に、要介護状態になった老人の格差は冷酷だ。安全地帯の高級老人ホームで至れり尽くせりの生活をする老人がいる一方で、重すぎる介護の負担で家族を押しつぶす老人がいる。まあ、介護保険が施行されても『家族介護という日本の美風』は残ったわけだ。未だに多くの家庭で介護が原因のノイローゼや鬱が生まれ続けている(p56~57)
「介護」と「ビジネス」。相容れようのないものを掛け合わせてしまったキメラのようなグロテスクさ。(p57)
母さんが死んだ、地獄が終わった。半ば無意識のうちに顔面の筋肉がほころび笑顔を作り出していく。
ああ、これでもう、母さんの世話をしなくていいんだね。もう、母さんになじられることもないんだね。もう、母さんをベッドに縛り付けなくてもいいんだね。もう、母さんのお尻を拭かなくてもいいんだね。これで、もうー。
ーもう、拭いてあげられないんだね。
不意に湧きあがるその感情に、胸が詰まった。小さな、しかし誤魔化しようもない染みのような、喪失感。(p72)
介護の世界に身を置けば、誰でも実感する。この世には死が救いになるということは間違いなくある。(p81)
誰に教えられなくても、人は人を慈しむことや愛することを知っているし、人は人を殺してはいけないと思う。人が倫理と呼ぶものは、全てこういった人が生れながらに備える善性の先にあるのだと俺は思うんだ。この善性は君の中にもある。なぜなら、そうでなければ『なぜ人を殺してはいけないのか?』という問いは立てられないからだ(p102)
介護企業は報酬を減らされた分、人件費や事務経費を圧縮・効率化して、利益を確保しようとした。しかしそうして利益が出るようになると、次の改正でまたその分、報酬が削られたのだ。(p108)
「お婆ちゃん、ごめんなさいね。散歩の付き添いはできなくなっちゃったのよ。だから今日から独りで行ってね。どうしても付き添いして欲しければ、その分は実費でお金を貰うことになるの。保険が利かないから、普段の十倍になるわーって言えっていうの?」(p115)
聖書に誓うことのない日本の裁判は、しかしきわめて宗教的で道徳的だ。法律上の犯罪(クライム)だけでなく、人としての罪(シン)も裁く。(p125)
そう、人間は不完全な存在だ。分かっていてもつい悪事を働いてしまう。知らず知らずのうちに他人を傷つけていることもある。そんな不完全さを罪だと考えることは、やはり善なるものを求めるからなのだろう。(p127)
なぜ人は悪をなすのか?なぜ悪をなしてはいけないのか?問うことがすでに答えだ。善を求めている。(p128)
彼女は害意や悪意を持って罪を犯しているのではない。彼女が人間らしく生きられる場所が刑務所しかなく、そこへ入るための手段として罪を犯しているのだ。これでは罪を罪として自覚しようがない。もし真に彼女を裁くというなら、この社会で彼女が罪を犯さずとも人間らしく生きる術を示さなければならない。(p158)
狂っている。金儲けなんて言語道断?無欲無私の精神で人様に尽くせる人しかやっちゃいけない?
彼らはこれを本気で言っているのか?それを良識だと思っているのか?
金ももらわず、無欲無私で、他人の尻を拭ける人間がどれだけいると思っているのか?恐るべき想像力の欠如。(p170)
もう生まれた時代を呪うのはやめよう。どんな時代、どんな立場だって、やるべきことがあるはずだから。(p180)
ビジネスであれば、合理化は当然だ。不採算部門は凍結したり廃止したりする。しかしその一方で介護は福祉でもある。儲からないという理由で一度始めた事業を止めてしまえば、その利用者、特に介護に頼って生きている者は、生存権が脅かされる。(p198)
殺すことで彼らと彼らの家族を救いました。僕がやっていたことは介護です。喪失の介護、『ロスト・ケア』です(p316)
母の死によって洋子が救われたのは間違いない。そして身も心も自由を失い、尊厳を剥ぎ取られたままに生きていた母にとっても、やはり救いだったのではないだろうか。(p329)
かつて私は自分が母を見捨てるような酷い人間ではないことを証明するために、本当は逃げ出したい介護から逃げずに耐え続けた。同じように今、私は自分が母の死を望むような酷い人間ではないことを証明するために、本当は救いだった死を無念と言い換えるのだ。(p330)
たとえ年老いて身体機能が衰え自立できなくなっても、たとえ認知症で自我が引き裂かれても、人間は人間なのだと。ときに喜び、ときに悲しみ、幸福と不幸の間を行き来する人間なんだと。そして、人間ならば、守られるべき尊厳がある。生き長らえるだけで尊厳が損なわれる状態に陥っているなら死を与えるべきだと。(p340)
もしも死が救いでなく諦めだとしたら、諦めた方��ましだという状況を作っているのは、この世界だ!(p347)
「絆」という字に「絆し(ほだし)」という読みもあることを知った。これは馬をつなぎ止めるための縄のことで、転じて手枷足枷、人の自由を縛るものという意味がある。(p370)
絆は、呪いだ。それでも。それでも、人はどこかで誰かと絆を結ばなければ生きていけない。(p371)
たとえ行く先が地獄と分かっていても、人はつながることから逃れられない。ならば、つなごう。せめて愛する人と。絆でなく絆しなのだとしても。呪いなのだとしても。つないで、生きてゆく。(p372)
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介護問題、介護する側される側、家族と国、企業と自分ならどうすると正解が出ないまま重たい気分になった。犯人を割り出すまでの過程で統計が全面的に出ているのが、新鮮でした。年齢や性別による抽出はしないのか、その数値でいいのかという突っ込みは野暮ですね。
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面白かった。
題材がとても重たいけど、誰もが避けて通ることが出来ない話。
もちろん、葉真中さんの作品は始めてでしたが、とても読みやすくてよかったですね。
ミスリードの仕方もうまかったのか、犯人の1人にに挙げて読んでましたが最後はあれ?という感じで楽しむことができました。
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なんとも言えない読後感だった。
今後日本では、介護の問題はより深刻になっていくだろうし、この物語が物語ですまなくなるんじゃないかと思う。
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自分の身にそう遠くない未来にやってくる介護の現実。する側、される側のどちらか、又は両方。ほんのひと握りの人しか行くことが出来ない『安全地帯』には自分は無理だと思う。ならばその現実を受け止めていくしかない。それこそ絆でしかないかもしれない。
ミステリー小説ではあるが、他人事ではない内容で現実問題として、いろいろ考えさせられました。
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これは、えぐられた。序盤から丁寧な描写で一気読み。最後のちょいどんでん返しもバランス感がよかった。すごい。
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ちょっと前に読んだ「廃用身」とテーマは同じく老人介護なのかな、と思います。
なかなか面白い作品でしたが、テーマを考えるなら「どんでん返し」は要らなかったんじゃないかな、という点が唯一の不満。テーマ性を考えるなら、このどんでん返しでそれ——読者である私たちに、本作を読んで何を、どのように感じてほしかったのか——がボケてしまったように思いました。
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高齢化社会、介護問題の闇をリアルに描いた社会派ミステリ。
普通にミステリとしても面白くて唸る。
ミステリ読むのほんとに下手だから、ネタバレしたシーンで誤植かと思ってしまった。てへ。
一番のテーマは現代介護の闇、なんだけど、他にもドラッグやら詐欺やら地震やら放射能やら官僚やらが盛り込まれてて読み応えがあった。
性善説やキリスト教の話もちらほら出てきてよいアクセントになってる。
盛りだくさんだけど、そんなに散逸的でもなく読みやすい。
私はやっぱりメインの介護問題の所が気になった。
一見豊かなこの社会では、そこに穴が開いていることになかなか気づかない。
フリーターでもそれなりに生活していける。
でもそれは穴の縁ギリギリを歩いていたようなもので、父が倒れ、介護という一押しが親子を穴に落としてしまった。
一度落ちてしまえば、その穴からは容易に抜け出せない。
一度家を失ってしまえば生活保護すら申請できないようなこの社会。
その穴がどこかに存在するらしいということはなんとなく知っている。
でも私はその穴に落ちてしまった人々がもがき苦しんでいるということを実感として捉えることができていただろうか。
その絶望は私たちの想像をはるかに超えている。
「検事さん、あなたがそう言えるのは、絶対穴に落ちない安全地帯にいると思っているからですよ。あの穴の底での絶望は、落ちてみないと分からない。」(p339)
「もしも死が救いでなく諦めだとしたら、諦めた方がましだという状況を作っているのはこの世界だ!
もしも僕が本当は父を殺したくなんかなかったとしたら、殺した方がましだという状況を作ったのは、この世界だ!」(p347)
穴が開いていない世界に少しでも近づけるために。
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介護、推理、聖書、性善説、どれをとっても、最高のストーリー展開、作者の意思、思想を感じ、共感できる。
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ミステリー小説としての枠組みを超えた小説。
2015年8月から介護保険制度が変わる。
その直前に読んだのもあり、物語の面白さも相まって、のめり込んで読んだ。
介護については、制度含めて決して他人事ではなく、一人一人が真摯に考えなければいけないと改めて、思わされる作品。
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葉真中顕『ロスト・ケア』(光文社文庫)読了。
読了といってもすでに3週間ほど前に読み終わってました。しかし紹介できませんでした。
なぜか。
あまりに圧倒されすぎて、うかつに感想が書けませんでした。
小生にとっては、『ジェノサイド』(高野和明)以降に読んだ本の中で一番面白かった一冊です。もしかすると今年の最高の一冊になると思います。
ロスト・ケア。意味深な言葉です。社会派ミステリーとしては、あまりに重い、身につまされる内容でした。
題材は介護ビジネス。
介護ビジネスといえば、コムスン事件を思い浮かべますが、この小説でもそれを題材にしています。しかも、大量殺人事件(何と43人!)に発展します。それを暴く熱血検事。圧巻は殺人が起きた時間帯から犯人を特定する推理。
実は犯人は冒頭から想像が付くので、推理は結果論でしか過ぎないのですが、登場人物の人間関係に引きずられて『あれ?』と訝しみながら読むことになります。
主人公は熱血検事でクリスチャンです(とはいえ敬虔というほどではありませんが)。ですので、検事の独白では聖書が引用されます。
冒頭で引用されるマタイによる福音書7章12節。
「だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である。」
これは小生の勤務先でもしばしば語られる聖句ですし、性善説的に用いられます。しかし『ロスト・ケア』では、もしこれを逆説的に捉えるとすれば、という発想で使われています。
心に残ったモチーフは、今の高齢社会が訪れることが予見可能であったにもかかわらず介護という言葉を作り出し、何とか理屈を付けて「介護」と「ビジネス」を結び付けてしのぎながら根本的な対策を先送りしてきた役人と、介護をビジネスと割り切って高齢者を抱える家族を食い物にしてきた事業家という構図です。
現実には、それに乗ったコムスン(事業者)は一時は介護業界の救世主とみられていたにもかかわらず、あっという間に役人(厚生労働省)とマスコミに粛正され市場から退場させられてしまいます。『ロスト・ケア』を読みながら「介護」と「ビジネス」を結び付けることが果たして正しかったのかを改めて考えさせられました。つまりは介護を市場として捉えることは間違いではなかったのかと。
親を殺された家族にとって犯人はもっとも憎い存在のはずなのに、この小説では犯人を憎むという感情とは別にホッとしたという感情も描かれます。実に残酷です。
しかしこれが現実なのかと思わずにもおれません。
犯人はいいます。
「そうです、殺すことで彼らと彼らの家族を救いました。僕がやっていたことは介護です。喪失の介護、『ロスト・ケア』です」[p.316]
幸せとは何なのか。とりわけ高齢者を持つ家族にとって幸せとは何なのか。
介護に関する制度的な問題とは別に、家族のあり方に一石を投じる小説でした。
この小説は、もちろん、小生のゼミ生にも推薦しますし、大学で会計やビジネスを学ぶ学生さん、社会福祉とりわけ老人介護を学ぶ学生さん、現在介護施設で働く皆さん、人を裁く法律を学ぶ学生さん、そして年老いた親がいるすべての人々に推薦します。
きれいごとでは済まされない時代に直面した我々はどうすべきなのでしょうか。
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介護現場をテーマにしたミステリーを何気なく探したときに、どこでもすぐに目に入ったのが本書。社会派の肩書きにそぐわない圧倒的な現実味が持ち味で、具体的な数字がぽんぽんと出てくるのもその特徴。とにかくリアルを描くことに突出して秀でているのがよくわかる。登場人物も個性がありすぎるほど豊かで、共感できる者も少なく無い。
介護現場についてイメージが湧いていない方には、具体的な事例があるのでとても参考になるはず。介護の世界を目指し学んでいる方や、今直近でそれに直面してる方、身内が介護をしないなんてとあからさまな批難をする人には是非とも読んでみてほしい。
ただし、完全に好みの問題で、私にはあまり合わなかった。ミステリーとしてはオススメできない。謎が殆ど無いのだ。
本編で人物の視点が一周すればことの全貌がわかってしまうので、犯人が追い詰められていく様を眺めるつもりでいたらサスペンス性も無い。トリックやら殺害方法よりも、動悸やその事件にまつわるストーリー性が重要視されるのが最近のミステリーの特徴なのかもしれないとしみじみした。だいたいのことが科学の力でわかってしまう今、新規の謎を製作するにも限界があるのかも。
あと一点、単純な誤植なのか。探偵役と思しき人物が、友人が死んだ事を電話口で知らされた時に、友人とは異なる名前の人物が「被害者」と報告され、さらにその「被害者」の身柄を拘束したとまで言われ、かなり混乱してしまった。ここで何故加害者と思しき人物が被害者と言われていたのかがとにかく気がかりでならない。私の読解力の問題なのだろうか…。
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う~む。イマイチ入っていけなかった・・・。犯人は最後までわかりませんでした。犯人あての推理したい人にはいいかも。
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これは他人事じゃない・・・
いくら大好きな親でもつらい。
ミステリー慣れしてる人は犯人はすぐ予想がつくかと・・・