興味深いものの、やや物足りなさも残る分析。
2005/02/22 23:29
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投稿者:子母原心 - この投稿者のレビュー一覧を見る
Jリーグは1993年の発足以来10年以上過ぎた。わが国ではプロ野球に続き、プロスポーツとしての地位を獲得しているといっても(すなわち「成功している」ということ)過言ではない。この10年間での国際大会での躍進振りは国民を熱狂させているが、その原動力はこの「Jリーグ」というサッカーのプロ化にあるようだ。
本書の分析の前提となるキー概念がある。プロスポーツにとっての「商品」とは、「試合」という異なるチーム同士の対戦である。この試合の「品質」は、(野球を用いて恐縮だが)「10−0」のような試合は面白くなく、逆に(かのルーズベルトが喝破したように)8−7の試合が一番面白い—したがって品質が一番高い—わけだ。だから、リーグ内に一チーム他のチームより強すぎるチームが存在すると、10−0のような面白くない試合すなわち「品質」の低い商品しか生産されない。これではスポーツ産業として成り立たなくなってしまう。テレビ放映権料の一括管理と(勝敗に関係ない)一定配分システムや、ドラフト制度のような「戦力均衡制度」が存在するのはそのためである。要するに通常のビジネスと明らかに異なる形態である。評者は、日本のプロスポーツの発展のためにはこの論点がいかに一般的に認識されるかがポイントにあるのではないかと思う。
Jリーグは、その制度設計に携わった当事者たちが、まさしくこの上述した点を十分に認識し、なるだけ上に述べた「個と全体」のバランスを考慮したようなガバナンスを実行しえるような組織(「社団法人Jリーグ」)を作り上げたのだ。これは日本プロ野球と雲泥の差であることはいうまでもないだろう。一般的にはJリーグというと「地域密着」やら「百年構想」などの理想を体現できたからと思われがちだが、上に述べたことが肝要でかつ一般的に見過ごされている点ではないかと思う。
しかし、著者の分析の力点は上述のキー概念よりはむしろ、「制度設計」がいかにして行われたか、という点にあり本書の第1、2章が当時の関係者のヒアリングとその分析である。評者は一読して、当事者たちがいかにBEST ADN BLITEST だったか、という読後感しか残らなかった。そりゃ、設計者たちがスバラシイ優秀な人々だったんだから、Jリーグだって成功するべくした、としか本書の読者にしか読後感が残らないような気がするのだが。また本書が強調している「マネジメント」にしても、本書に述べられていないが、Jリーグ発足後10数年の出来事—例えば、1998年の横浜マリノス、フリューゲルスの合併問題など—の諸問題にどのように対処したか、についてのマネジメントのありようも検証するべきである。著者には是非第2、第3弾の研究を期待したいところである。
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有力クラブによるカルテル発ではなく、システム発----Jリーグが、欧州プロリーグと比較してもいかに特殊な組織形成のプロセスを踏んだかがわかる。川渕さんはスゴイ人です。若干報告書的な文体なので読みづらい部分もあるけれど、内容は面白い。
あと、画像には載っていないけど帯のデザインが良い。
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スポーツビジネスに関する本自体が少ないので「良本」はもっと少ない。そんな中、この本は良くできている。流行のカレントトピックに終始せず、発足当時の裏側や具体的なビジネスモデルまで精緻に解説がされてあるり、読み応えがある。
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記録としての完成度の高さとスポーツビジネスの最前線の臨場感を伝えたという意味で、ノンフィクションとして楽しめます。学生ながらビジネスが行われる現場を覗き見できた。
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難しくて分かりづらい部分は多々あります。
でもわからない部分を読み飛ばしても、おもしろさは伝わりそう。
とにかく川渕さんが実はものすごい人だったんだと初めてわかりました。
マネジメント的観点から見たJリーグ。結構面白いもんです。
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他国のプロサッカーリーグ、または自国のスポーツ団体からリーグ運営の成功例Jリーグにおける運営方法について網羅的に述べられていて、資料として歴史を感じる大変価値のあるものであると思う。
巻末に載せてある集客数や各チームの収入などの1次データは特に貴重。本書で述べられているが、問題を把握するうえで「データを取る」ことから開始し、「思い込み」をベースに会議をすることなく進めたJリーグの伝統。データによる「正確な事実把握」と「事実認識の共有化」が問題解決への第一歩であるということを本書より学んだ。
統計って重要な武器!
また、スポーツにおいては一般の自由競争と違って、一つのチームだけが勝ち続けるのではなく、リーグ全体として盛り上げ、かつリーグ全体としてのコンテンツをいかに利益に活かすかということが大切であることがわかる。そのためにはW杯、オリンピックなど、過去の例から強力なトップダウンの仕組みが有効に働いていたこともわかった。
テレビ放映が少なくなり収入の面では衰退していると思っていたJリーグが、巻末の資料により、観客人数や収益などが堅調に推移し、確実にサッカー文化として根付きつつあることがわかった。
また、Jリーグの視点からではなくプロ野球の視点からも感じることがあった。プロ野球はここ数年「フランチャイズ」に対し、「野球教室」や「学校訪問」などを通し、マネジメントの中で積極的に地域社会にアプローチしている。これまでは企業スポーツとしてのプロ野球であったが、それが変化してきている。それは本書で述べられているような、マネジメント・スポーツ文化に対する新たなとらえ方を「Jリーグ」が見出したからに他ならないだろう。
そんなプロ野球は一時の下火が嘘の様に、「指定管理者制度」を利用した新しい楽しいスタジアムの創出などで、盛り上がりを見せている。
特にパリーグの顧客満足度は高いらしい。
元来、地域だけでなく、日本国民全体へのアプローチがうまかったプロ野球。
これからは「Jリーグ」が「プロ野球」から学ぶべき時代が来ているのではないかと、本書を読みながら感じた。
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Jリーグの「リーグ」としての制度設計の経緯、制度自体の説明を非常に丁寧に過去の資料をさかのぼってまとめた良書。リーグとしての思想、ビジョンがとてもはっきりしており、その上でいくつかの幸運も重なってJリーグは創設された。
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Jリーグはいかに緻密な制度設計がなされて産声を上げたのか、時代背景や関係者のインタビューを交えて当時を振り返った、資料的価値の高い一冊。日本のプロ野球をはじめとする他のスポーツ、また世界のサッカーリーグとの違いを改めて知れただけでなく、Jリーグが掲げる理念の重みも知ることができた。
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元電通会社員で日本サッカーに関わってきたものの、Jリーグ発足時にはライバル博報堂がマネジメントをすることで発奮して、Jリーグの創成期に活躍した筆者の執念がわかるような本。
あとがきにあるように、Jリーグ発足10年目に発足時の記憶があいまいになったり、その時には語れなかったことを川淵チェアマンにお願いして、資料を再構成した本。サッカーが、JSLの運営でノウハウを蓄積していたことや他のスポーツでは学校の教員が多い運営者にビジネスマンが多かったこと、思い込みではなくデータ重視の計画を立てられたこと、バブル期などであったことなどの多くの必然と偶然が重なってあれほどのブームを呼び起こせたのだと思う。
スポーツの形としてはめったにない談合型ではなく、先に理念を持ち出し、理念に賛同したチームが参加することで、新しい地域に密着したスポーツとして始められたことなどが挙げられると思う。
書籍中のデータもよくまとまっていると思う。スポーツやマネジメントに興味がある人は必読の本だと思う。
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これはサッカーというスポーツの本というよりも、90年代に500億円以上に上る新しいマーケットを作ることに成功したアーキテクト、マーケティング、マーチャンダイジング、そして川淵二郎という個人のリーダーシップを分析している優れた経営学(マーチャンダイジング)ともいうべき本です。それは「人の和、地の利、天の時」に恵まれたということが、84年のロス五輪以降のスポーツジャーナリズム、プロ化の流れの中でタイミングに恵まれたということもよく理解できます。最後に近鉄問題に発したプロ野球について触れているのですが、自然発生的に生まれた野球と15年にも亘る周到な企画・準備を経てスタートしたJリーグの違いを見るときに、野球界改革の困難さに同情する思いです。確かに新しく始めることは大変な勇気とエネルギーを必要としますが、設計はし易いわけであり、改革することはもっと難しいですね。