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投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
幼い頃観ていたアニメの次週予告は、こう叫んで終わることが多かったように記憶している。冒険ものなどは決まってそうだったような。それを「乞うご期待」と変換できるようになったころには、もう。そんなアオリ文句はすっかりすたれてしまっていた。
経済学の入門書に何度かチャレンジしてみたのだが、「合理的期待形成仮説」という言葉に一番面くらわされ、しかし、強い印象を受けた。数式とグラフに囲まれた「期待」という二文字は、いつもそこには似つかわしくなく、でも、そこには重要な何かがあるんだろうなあと「期待」させる魅力を放っていた。しかし、なかなかその「期待」が満たされることはなかった。生来の数学嫌いの歴史好きの上、「期待」の二文字が経済学の入門書に登場するときは、いつも決まって数式とグラフがガードを固めている。いつもそこで投げ出すか、読み飛ばすか。
本書は、そんな私の「期待」を呼び起こしてくれた。
徳川家斉、田沼意次、井上準之助、高橋是清、大戦後のウィーン、果ては「管鮑の交り」の管仲の唱えた売りオペ・買いオペ等の金融政策(『管子』原文より)
これらの歴史上の人物・実例を題材に、とことんわかりやすく整理された命題で、現代の視点から、しかし、現在の「常識」をいったんとりのけてゼロから、分析し、今私たちが直面している経済の諸問題を受け止めるのに有効な考え方を、手取り足取り教えてくれる一冊である。本書「おわりに」のタイトル、「歴史が現実と理論をつなぎ、理論は歴史を解読する」という著者の目指すところが、ずんと胸に響いた。
ヴィクトリア朝英国、一次大戦後のオーストリアのハイパーインフレ、同時期に始まる昭和(日本)恐慌を題材に「貨幣数量説」とその展開を見据えて、貨幣と物価の基本的関係を整理する第一部。そして「為替レートの悲劇と喜劇」と題された、第二部では、異なる貨幣間交換比率、としての為替レートをめぐる諸学説を、戦前日本の金解禁論争、戦後吉田内閣の経済政策、97年アジア通貨危機を意識したかとも思える「途上国」のケース、そして幕末日本からの「金流出」を題材に、いきいきと語りおろす。
第三部「金融政策―マネーとは結局何なのか」においては、上記の第一、二部での解説を踏まえて、十八~十九世紀江戸幕府の「改鋳令」を中心に、現代にも通底する金融政策の理論と実際を解説する。
数少ない数式も、ほとんど四則演算程度までおさえられていて、脚注も簡潔かつわかりやすい。各部ごとのまとめがが、末尾に一ページにまとめられているのも有難かった。
通読して、痛感したのは数字が数字だけで動いて、経済が成立しているわけではないという、シンプルなイメージに尽きる。数字と数字の間には人がいる。そしてその人々をつらぬいて、経済を動かしているのは、人々が願い、祈る、「期待」ということである。
本書第一部で、著者がとりあげている、「昭和恐慌」、「オーストリアのハイパーインフレ」においても、沈静化させたのは、自国政府あるいは諸外国が、その「状況」を収めることができる実質性のある政策を打ち出すことへの、人々の「期待」であったことを、著者はていねいに解き明かしている。しかし第二部で、補強されているように、実質のない政策は結局「期待」を集めえず、事態を悪化すらさせる。
「人事を尽くして天命を待つ」至極まっとうなこんな言葉を、ていねいかつ精密に強化してくれる本書。
乞うご期待。
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著者買い。飯田氏の著作は大好きなんだけど今回は別物。
だって僕が歴史が大っ嫌いだから。飯田氏が悪いんじゃない。僕が悪いのさ。すいませんでした。
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本書には、現代経済学にあっての「期待」ーー将来と現在との対比によってほとんど変わらないのか、あるいは、インフレになっていくだろうという漠然とした予測ーーーーの重要性が歴史的な事象(昭和恐慌、江戸時代の各改革、幕末期の金流出な、第一次大戦後のハイパーインフレ)に照らして論じられる。歴史経済学のおもしろさを啓蒙してくれる意味で、マクロ経済学の意義と金融政策について解説してくれるので面白く読ませてくれる。特に、一部の1920年代のオーストリアのハイパーインフレーションの終焉に果たしたインフレについての「期待の転換」によるインフレの終焉の論証は、格別なものがあった。マクロ経済「素人」には活目してみるだけの価値がある。また、飯田の著作には、定義の掲載があるのがうれしい。インフレ率=マネーの増加率ー実質経済成長率+マネーの流通速度変化率である。こうした定義によって経済事象を分析さてくれるように読者を仕向けてくれるのも読んで理論や定義によって考えることが出来るので、「論理」のから周りが起こらない。そこが、理論書の必要条件だろう。以下に本書は3部構成になっているが各部のまとめを掲載。詳細の理論と具体的事象は本書で確認されたい。きっとスリリングな論証過程が堪能できる。理論によって事象を分析し、十分条件を満たしてみたい人向きの歴史経済本。
「第?部「貨幣数量説の栄光と挫折」まとめ
・物価はマネーの価値の逆数である
・したがって物価は広い意味ではマネタリ1な現象である
・原始的な数量説では、今日の物価が今日のマネーの量から決まると考える
・新古典派的な数量説では、インフレ率はマネーの量の増加と、経済成長から決まると考
−える
・現代的な理解では、現時点の物価やインフレ率は過去から今日のマネーの量ではなく、
将来のマネーの量の予想から決定されると考えられる
・将来のマネーの量が予想できない状況では、原始的な数量説や新古典派的な数量説が「結
果として」正しいことがあり得る
第?部「為替レートの悲劇と喜劇」まとめ
.為替レートは両国の貿易可能な財の価格が一致するように調整される
・第?部の物価理論から、2国間の為替レートは両国の将来のマネー量予想に影響される
・固定相場制は国際間取引の収支を一致させるように国内経済が変化するという調整機能
を持っている
・固定相場制下では各国の中央銀行はマネー量を決定することはできない(マネーの量は
国際取引の動向から決まってしまう)
.変動相場制下ではマネーの量は中央銀行がコントロールすることができる
・実体経済とかけ離れた固定相場制の維持は、投機アタックやキャピタルフライトの温床となる
第?部「金融政策 マネーとは結局何なのか」まとめ
・政策の評価は「その人にとって得か否か」に左右される
・損得は所得の絶対的水準だけではなく、相対的水準にも左右される。身分制社会ではその傾向が顕著である
・貨幣改鋳政策への批判は、今日的な意味からは批判とはいえない場合がある
・江戸時代の経済政策は、景況・一般物価水準の安定・米の���対価格の上昇、さらには財政再建という複数の使命の間で揺れた
・政策目標は明確でなければならないが、例外的にうまくいったかもしれない金銀複本位制のような事例もある
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図書館にて借りる。
?マネーと物価
?為替レート
?金融政策
について分かりやすく記載されている。
特に、歴史(過去の事象)を使い、経済理論を説明している事においては秀逸。
?マネーと物価
貨幣数量説
原始的:物価は貨幣価値の逆数である。物価はマネーの量に比例する。
新古典派:インフレ率=マネーの増加ー経済成長率+マネーの流通速度の変化率
現代的(動学):現時点のインフレ率・物価は将来のマネー量の予想から決定される。
?為替レート
購買力平価説=国際的な一物一価の法則。為替レートは購買力平価レートと等しくなるとは限らない。
日本のサービス業価格はなぜ高いのか。製造業(貿易財)の生産性向上がサービス業に比べて高いため。
マネタリーアプローチ=為替レートは両国の為替供給量から決定される。
将来のマネー量予想に影響される。ソロスチャート
固定相場制:国際間取引を一致させるように国内経済が変化する調整機能を持っている。
中央銀行はマネー量を決定する事ができない。→マネー量は国際間取引の動向で決定。
実態経済とかけ離れた固定相場制の維持(特に自国通貨高)は投機アタックやキャピタルフライトを招く。
?金融政策
グレジャムの法則:悪貨は良貨を駆逐する。
良貨が保有され流通しなくなる。悪貨は保有されないので流通する。よって良貨が姿を消し流通される通貨は悪貨となる。
例)江戸時代の南鐐二朱銀。実際の金銀交換比率より少ない銀しか含有されていなかった。(悪貨)
幕末期の金流失につながる。日本と国際的な金銀交換比率が異なることによって生じる。
上記銀貨は、銀の含有される量が少なかった為、厳密な金銀複本位性ではなく。管理通貨制度とも考えられる。
管子:江戸時代の金融政策の基。
金融政策の評価:評価は統一されない。金融政策は富の再分配が必然的にもたらされる為。
所得の絶対的な水準だけでなく相対的水準にも左右される。
インフレの経済刺激効果:経済成長だけではデフレとなる。潜在的な成長率を上回るマネーの増加が必要。
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発売当初に読んで以来の再読。
初めて読んだときは、ややっこしいなあという感想しかなかったと記憶しているが、あたらめて読んでみて、勉強になったことが多く、もっと早く再読しておけばよかったと後悔した。
特に貨幣数量説の正しい面と間違っている面、重商主義がなぜ当時受け入れられたのか、なぜ発展途上国は固定相場制を採用するのか、など多面的な説明がされていて、小難しい貨幣の理論を頭の中で整理することができた。
ただ、わかりやすく書いているかというと、そうでもない。主語が省略されていて何のことを話しているのかわかりにくかったり、突然話が変わったりするので、理解するのに手間取るところが多かった。
あと、P.154からの江戸時代後期のマネーの話は、かなりややっこしい。正直、丁寧に読み進めるのは断念してしまった。
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カネの意味、モノとカネの関係がなんとなくわかるようになる本。古典的な貨幣数量説があてはまった時代から、新古典派の数量説とその限界を経て、「期待」を重視する動学的な理解へと。マネー理論の進展を、実際のヨーロッパや日本における実例をもとにしていくので、頭に入りやすいし、理解しやすい。
第1部は、議論のベースとなっているのでそこだけを整理すると……
・原始的な貨幣数量説では、「価格はマネーの量に比例する」。つまり、ある閉鎖的な経済体制の国で金がざくざくとれて、そのぶん貨幣が増えて2倍になったら、みかんの価格は2倍になるはずだ。
・しかし、19世紀イギリス(ビクトリア時代)を通じて、マネーの量は増え続けたのに、物価はデフレ傾向だった。これは、マネーの量が増えても、産業革命で財の量も増えたせいだ。
・しかしハイパーインフレが起こる段階になると、古典的な貨幣数量説はあてはまらなくなってくる。ハイパーインフレは、モノとカネとの釣り合いだけではなく、“これからもっとインフレになるに違いない”という人々の「期待」こそが現時点でのインフレを生み出しているからだ。この「期待」が、「静学モデル」と「動学モデル」の差である。
・たとえば第1次世界大戦のバブルがはじけて、1920年代の日本は深刻な不況に陥った。1923年の関東大震災の打撃がさらに追い打ちとなった。当時の日本では、不況の原因を「震災手形」(債権のモラトリアム)に求める声もあった。効率の悪い企業が救済されたことにより経済全体の効率性が低下した、不良債権の影響により貸し出し停滞がおこった、繊維産業の中国進出による空洞化現象、中国からの安価な工業製品によるデフレ化……などが取りざたされた。まさに「平成不況」と同じ状況だ。
・しかし、このときの長期デフレの原因は、本質的には政府の政策にあった。第一次世界大戦機に、日本は大幅なインフレーションを経験した。一時的に金本位制を停止していた日本だったが、旧平価による金本位制度復帰のために、政府はデフレよりの政策を推し進めた。このような政府の基本姿勢が民間に認知された結果、デフレ「期待」が起こり、デフレとなったのだった。
ということになる。
この調子で、第2部では「カネとモノ」の交換からさらにすすんで、「カネとカネ」の交換である「為替」について取り上げる。固定相場制のもとでは、重商主義にはそれなりの根拠があったこと。固定相場制の下でキャピタルフライトが起こるメカニズム。幕末の日本が実は世界でも抜きんでて近代的な制度である「不換紙幣」を実現していたことなどが、実例をもって語られる。続く第3部では、幕府の「不換紙幣」を議論のベースにして、金融政策とは、マネーとは何か、という総論になる。
いやもう全部まとめてるとすごいことになるのでやらないけど。きちんと順を追って読んでいけば、ちゃんと「歴史」が「経済理論」で説明できるんだなぁというのが気持ちよい。「そりゃうまく説明できるところだけ説明してるんだよ」と言われればそれまでかもしれないけど。経済史に興味がある人……と言われてもソレ何人ぐらいよ、と思うけど。理屈っぽい人、江戸時代の経済や貨幣制度に��味がある人、は読んで損はないと思う。と書きながら、「オレこの本読んで、何の役に立つんだろう」……いいんだ、読んでる間がおもしろかったから。娯楽だから。
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経済理論、その中でもお金(マネー)に関する話を歴史的事例を中心にして解説する本。
第一部、貨幣数量説の栄光と挫折
第二部、為替レートの悲劇と喜劇
第三部、金融政策
解説は丁寧だし用いられるのが歴史的事例なだけに説得力があるはずなのだが用語などを噛み砕くことは不十分でやや硬い印象。
体系立てた説明などではないし話もあっちこっちに飛びがちで全体像をつかみにくいのもしんどい所。
そのせいか我田引水っぽいなーと個人的には感じた。
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貨幣の存在は経済活動の当たり前の前提になりすぎていて、その本質について考察するのは経済学の素人からすると言語を使って言語を考察するような難しさがある。そこで本書のように、今とは貨幣を取り巻く状況や性質が異なる歴史上の事件を使って経済について考えるのは面白い。
本筋からは外れるのだが、現代のような継続的なインフレーションは歴史の中では例外的な局面であると言うのは興味深い。本書では経済成長論には触れられていないが、適切な水準での成長通貨の供給ということから、経済成長そのものと密接に関連しているのだろう。
著者は、消費や投資のニーズがあるところへ資金が供給されやすくなるインフレに好意的である。
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昔は金本位制が当たり前だったことから、金本位制を中心とした貨幣の関する話が殆どで、何となく思ってたイメージと違う本だった。
"悪貨は良貨を駆逐する"という有名な言葉について、本で指摘されている通り自分も間違った意味で覚えていたので目から鱗。
まあまあ面白かった。