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前二作刊行時にはミステリーだ、いやいやゴシックホラーだ、などと様々にジャンル分けされてきた著者がさらにジャンルからはみ出す作品を生み出した。
そこに残ったのは純粋に“小説”という形式だけで、それはまた純粋な美しさを放っている。
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すべての始まり、物語の結末。巻頭の登場人物紹介が上巻と下巻で異なるのが興味深かったです。分かれてしまった人間関係の元ある繋がり。現在の状況が最初に提示されていることで、いっそう深みを帯びる繋がりに思えました。
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1947年、44年、41年と3段階に遡っていく構成。戦後間もない頃の平和だがまだどこか戸惑っているような時期、戦争末期の思い詰めた危機感と高揚、その前の時点でまだ皆がうら若い時期に物事が始まるきっかけという展開になるんですね。
登場人物の意外な絡み具合と人生の中の一瞬のきらめきに味があります。すっきり解決というのではないんですが、哀しみがしみじみと胸に広がります。
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過去へと遡る物語っていうのは、そんなに珍しいスタイルではないと思うけど
この物語はこの語り方によって素晴らしい味わいになってる。
素晴らしく切なくほろ苦い味に。
だけど決して読後感は悪くない。
それは物語が遡ることで現在閉塞してる彼等彼女等の関係の始まりがラストになっているから。
いまでこそぐずぐずになっちゃってるけど、始まりはこんなにも輝いていたんだって。
それは一つの救いであると同時に、切なさを加速させるものでもあるのだけれど。
今まで高度な技術でもって「物語」を書いていた著者がついに「人間」を書いた!
とかあおってみる。
良質なセピア色の名画を観る感覚で読んでいけます。
日本語タイトルも秀逸。
あ、読んだことある方はご存じとは思いますが割と同性愛的表現が多いので
(というか今回結構直接的…)生理的にダメだという方はご遠慮ください。
でも食わず嫌いはもったいないとおもうな〜
…いや本の話ね。
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図書館の本
内容(「BOOK」データベースより)
1944年、ロンドン。夜ごと空襲の恐怖にさらされながら、日々の暮らしに必死でしがみつく女たちと男たち。都会の廃墟で、深夜の路上で、そして刑務所の中で、彼らの運命はすれ違い、交錯する。第二次世界大戦を背景に、赤裸々に活写されるのは人間の生と業、そして時間の流れと過ぎゆく夜。大胆な手法を駆使して、人間という存在の謎に迫る、ウォーターズ渾身の傑作。
The Night Watch by Sarah Waters
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たぶん、ストーリーを語るだけだと何の変哲もない物語。でもちょっと変わっているのは、時系列が逆なんですね。結末が既に分かっている物語を逆に読む、というのは面白いんだろうかどうなんだろうか、と思うのですが。むしろはっきりと描かれない「過去の出来事」ってのは案外気になるもので。スムーズに遡って読めました。
戦時中の暗い雰囲気もありますが、その中でそれぞれに生きていく登場人物たちの姿が、やや頽廃的な美しさで描かれています。格別大きな事件が起こるわけじゃないけれど、入り込めればぐいぐいと読まされました。
やはりメインになるのは、女性たちの姿ですね。しかしそれにしても、いつの時代にも腹立たしい男っているものですね……っていうかいい加減別れろよ!と突っ込みっぱなしでした。どの時点をとっても、レジーにはむかつきました……最低だ~。
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1947年のロンドンの人々を描いている。そして、物語は時間をさかのぼっていく。
読み始め、うーーん、ウォーターズもあかんか、と思っていた。とにかく出てくる人間が皆暗い。人間関係もわけわかんない。
ま、それでも読み進めていけたのは、やっぱりウォーターズだからなんだろう。結構ポイントポイントで、上手いんだよね。
戦争によって、狂わされている人生を描いているのであろうけど、反戦を声高々に訴えてるわけでも、戦争を描いているわけでもない。ただ地道に普通の(っても同性愛者がいるので心底普通とはいえないかもしれないけどね)人の生活を描いているあたりの気風のよさ。
うむ。ウォーターズは気風の作家だったのかもしれない。
物語はさかのぼっていく。
登場人物が出会い、縁が語られていく。
そして、最後のシーン。
時間をさかのぼる構成は、なんだかなと思っていたが、このシーンで全ては氷解した。このシーンのためには、どうしてもさかのぼらなければならなかったのだ。
それぐらい印象的なシーンだ。
そして、そのシーンが呼び起こす登場人物たちの現状(小説の冒頭部分というべきか)
切なさが、押し寄せてくるような読後感。
いい作品なのか、どうかはよくわからない。
けれど、やっぱりウォーターズはウォーターズで、彼女のほかに彼女のような作家はいないだけは、確かなのだ。
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結局、私レスビアンに興味が無いのです。これがこの本を面白く読めない原因かもしれない。異性と付き合う恋愛は死にそうになるし散々ででもあるが、同性となら世間の偏見に負けなければ、危険は無いのだろうか。孤独は引き受ける必要があるが。戦争中のロンドンの話は、結構面白かったのですけど。
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上巻だけ一度読んだことがあるが、冗長すぎて挫折してしまった。今回数年ぶりにリトライ。
戦後の1947年、戦時中の1944年、さらに1941年と時が遡っていく構成。ミステリーと言われているが、特に謎めいた事件が起きるわけではない。
戦時下という状況がなくとも成り立つような話かもしれないが、戦火かまびすしい極限状態だからこその盛り上がりなのかもしれない。
本の紹介文から各種のレヴューまであいまいに濁しているものが多いが、そう書かざるを得ないような感慨がある。
最後のラストシーンが美しいがその余韻を読者に残す為にあえて、この構成にしたのだろう。一巡して最初の章に戻ったときに、とある人物の視点から読みなおすと実に切なくなる。
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結末(と言っても、年をさかのぼって書かれているため、時間的には始まり)が一番キラキラと光っていました。出会った二人の行く末をわかっていても、なぜか幸せな気持ちになりました。全編をとおして薄暗く重苦しい空気がたちこめているのですが、読後感は澄んだ気持ちになれます。特殊な事情を抱えた人物ばかりで共感を得られるような人はいないのですが、一番好きなのはケイです。揺るぎない信念を持っていて、それを曲げられないがために自分を苦しめているように見受けられますが、最近の草食男子よりもずっと男らしいです。描写があまりにも生々しくリアルな部分があるので、読み飛ばした箇所もありましたが、読む価値のある作品だとは思いました。
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レビューを書いていて、改めて感じる。
何と読み終わるまでに3週間を要している。
久し振りに難解な小説を読み終えた気分。
戦争に翻弄される女性を中心に書かれているのだけど、
主人公はケイなのか、ヴィヴなのか、それともダンカン?
「何か面白くないよな」と思いつつ読み終えたのだが、
読み終えた瞬間、もう一度最初から読み始めたくなる。
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普通の小説では、禁じ手とされる手法を用いていると思う。
いや、禁じ手ではないんだけど、小説を読みなれた人ならば「ああ」と言いたくなる類の手法。
けれども、登場人物が魅力的だからか、あるいは、作者が物語を愛し、それを描写し続けるからか、最後まで惹きつけられながら読んだ。ラストの1行にときめく。くそう。やられた。
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1944年。ヘレンは福祉援助局で働いている。爆撃で家を破壊された人々が再建にあたって政府から補助をもらえるように申請する窓口で。ヴィヴィアンは食糧庁でタイピストとして働いている。ケイは救急隊で救急車を運転して、爆撃で怪我をしたした人や遺体を運んでいる。現在から遡るように人の過去を描く。それは戦火の日々の生活を思い起こすことだ。
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第二次大戦後の英国で生きる人々の人間関係の変遷を、1947年に始まり、1944年、1941年と、時間を遡るかたちで描いていく。この6年間位のあいだに小さな人間関係サークルの中が激動する。読み終わった時に、この形式で書かれたことにそんなに重要な意味というか意義があるのだろうかちょっと考えてしまった。美しい希望を持って始まったある出来事が短い時間であっという間に無意味な物にかわってしまう虚しさだろうか。