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紙の本
考える人の名言
2015/10/22 07:20
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人は時に運命的な出会いをするものだ。
もし、開高健が谷沢永一と出会うことがなかったら、果たして作家開高健は誕生していただろうか。
若い頃の開高にとって谷沢と谷沢が所蔵していた書籍の山は知識そのものだったはずだ。谷沢の家を訪れ、風呂敷いっぱいの書籍を抱えて帰る開高にとって、至福の時間だったといえる。
もし谷沢がいなければ、食の飢えだけでなく、知識の飢えにも陥っていたはず。
そんな開高の姿を目の前で見ていた谷沢にとっても、同じことがいえる。
そして、そんな二人にもたくさんの水が橋の下を流れた。
平成元年、開高健が亡くなり、平成23年谷沢も亡くなる。
しかし、谷沢は開高が亡くなったその時間に開高の文章をこうしてなぞる幸福な時間を得たのだ。
この本の「まえがき」に、そしてこの「まえがき」は開高健小論にもなっている、谷沢はこう言い切っている。
「開高健は誰にも似ていなかったし、誰もまた開高健に似ていなかった」と。
そして、「(開高健は)考える人であった」と。
つまり、この本は単に開高健の膨大な作品群からその名言となる一言半句を掬い取るのではなく、その言葉から浮かびあがってくる「考える人」開高健を論じた、開高健論になっているのだ。
谷沢はここでは「開高健全集」22巻から小説群を除いた13冊をテキストにして、「名言」を選んだ。
周知のように開高は優れたノンフィクション作家でもあったわけで、その称賛を開高自身歓迎したかどうかはともかく、その世界に酔った読者も多いだろう。
開高のノンフィクション作品の素晴らしさを谷沢はこう分析している。
「彼は本質的には無骨者で、常に調子をおろす呼吸を知らず、純文学とエンターテインメントを書き分ける手法を遂には知らなかった」。
つまり、私たち読者は開高のノンフィクションに喝采をおくりつつ、純文学の気高さに酔いしれているという贅沢な時間を持つことができるのである。
開高がいまなお評価されるのはそういう点だろう。
開高健と谷沢永一なら天国でいまも喧々諤々の論を交わしているにちがいない。
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