紙の本
ソローキンにしか書けない
2024/02/24 23:47
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
ジャンル分けするならSF小説ということになるが、これだけではこの作品とはいかなるものかを伝えることはできない。ロシア、ソ連史、ロシア、ソ連文学史をふまえたソローキンにしか書けない小説であるだろう。
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文庫化により再読。
単行本が出たときも話題になっていたが、まさか文庫になるとは思っていなかったので驚いた。
ソローキンのはちゃめちゃっぷりがこれでもかと爆発した1冊。色々とぶっ飛んでいるし、かなり突き抜けちゃってるが、このまま行って欲しいw
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想像していた内容と良い意味で違った本。ロシアの作家や歴史的な人物が登場したり、パロディが成されていたりする。それに加え、SF要素がある。初めのうちはもう何が何だか分からない。登場人物たちも新ロシア語で話しているし。しかし、読み進めていくうちに不思議と何を言っているかが感覚で理解できるようになります。それに1954年が舞台になると普通の言葉で話すようになるので、言葉だけは理解できるようになります。物語中で起こることは、私の理解の範疇を超えていましたが。
2068年の作家たちのクローンによる作品は、その作家っぽく書かれていて、作者のの手腕が光っていると思います。
ところで、結局「青脂」とは何だったのだろう。どうして青い脂はスターリンの脳を肥大化させるような力を持っていたのだろう。スターリンが2068年まで生きながらえているのも、もしかして青脂の力? 青い脂は作家が作品を執筆することで生成されるということだったから、文学によって生まれる目に見えないものを可視化した物質なのか? このような疑問は解決されぬまま終わります。
色々考えられる作品ですが、序盤を読み進めるのが苦しかったので、個人的にはしばらく再読したくありません。
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1999年に出版された
ロシアの作家ウラジーミル・ソローキンの長編SF小説。
2068年、酷寒の地に建つ遺伝子研(GENLABI)18に、
七人の文学者のクローン体が運び込まれた。
クローンたちは新作を書き上げると
焼け焦げて仮死状態に陥り、
超絶縁体の《青脂》――青い脂――を体内に蓄積させる。
研究所員の一人、
言語促進学者ボリス・グローゲル曰く、
防衛省が月面にピラミッド型をした不変エネルギーの
反応器を造っており、
その原料になるのが第五世代の超伝導体と《青脂》で、
それは軍事用ではなく、毒性もなく、
分解可能だが燃えることもない――。
物語の鍵を握る謎の物体が
次から次へと人の手に渡っていく様は
さながら河竹黙阿弥『三人吉三廓初買』のようだと
思いつつ、ニヤニヤしながら読み進めたが、
次第にボルヘスの名言が頭を擡げ出した。
> 長大な作品を物するのは、
> 数分間で語りつくせる着想を
> 五百ページにわたって展開するのは、
> 労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。
※『八岐の園』~「プロローグ」
(岩波文庫『伝奇集』p.12)
様々なテクストを織り込んで諷刺を利かせているのは
理解できたが、
後半のエログロ描写ですっかりお腹いっぱいに(笑)。
ただ、《青脂》が製造される2068年のロシアに
中国語・中国文化が浸透しているらしい叙述について、
解説(p.604)には、
> すでに疲弊した西洋に代わって中国が勢力を増し、
> やがてその文化が
> ロシア文化を侵食するだろうという
> ソローキン独自の未来予測
とあり、中国のパワーが増大して、
ロシアに限らず世界中を席巻している現状を鑑みるに、
前世紀末時点での作者の予見は
的中していたと言えるのでは……と、
その点には深く頷かされた。
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現代ロシア文学のスター、いや、スターと言うよりはモンスターと評される若手作者の長編小説。こーれーはヤバイです。ヤバ過ぎて、何度も挫折しかけてやっとの思いで読み終えました。人生で一番読むのに苦しんだ作品と言っても過言ではないかもしれない。前衛アート?奇怪なスラング、文豪のクローン、エログロスカトロ何でもござれ、極め付けはスターリンとフルシチョフの濃厚な濡場。読むのに並々ならぬ体力が必要です。
你好、私の優しい坊や。やっとお前がくれた書を読み終えた。正直に言おう。一文字目から腐っている。これを書いたのはどこの醜悪な気狂い野郎だ?おかげで私はMバランスを7ポイント失った。マイナス=ポジット。後はただ乾いたカッテージチーズになるしかない。なんてことだ。リプス ・你媽的 ・大便 !
引用という訳ではないのですが、上記のような文体で第1章が開始(『時計じかけのオレンジ』のスラングはまだ解読の余地があったけど、それ以上の難しさ)。近未来、雪に埋もれたシベリアの遺伝子研究所で働く多国籍チーム。彼らはトルストイ4号やナボコフ7号を始めとしたクローンを創り上げ、各個体が執筆活動の後に蓄積する謎の物質「青脂」を集めていた。しかしそれも強奪された後に様々な者の手に渡り、最終的にはタイムマシンで1954年のスターリンに送られる。それを手にした最高指導者は…。
好きか嫌いか問われれば大っ嫌いだけど、まるで卓に置かれた礫死体のように、どうしても視線を外す事ができない作品。クローン達が書き上げたとされる作品群は各文豪の文体模写とソローキンの個性の合わせ技が炸裂。また、その他にも短編として独立した挿話が数多くあり、それぞれスタイルも違い、美術館の展覧会に足を踏み入れたようで大変面白かったです。「水上人文字」と「青い錠剤」が特に好き。鬼才ソローキンが放つ猟奇の世界に、勇気を振り絞って身を投じてみては。
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ロシア発エログロナンセンス問題小説。一部の人に熱狂的支持を受けるタイプの本。ロシア文豪をクローン化(全然似てない)したり、謎宗教団体が大地と性交したり、スターリンとフルシチョフが性交する。
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2068年。シベリアの遺伝子研18に所属するボリスは、かつての恋人へ猥語だらけの手紙をクローン伝書鳩で送りつける。その文面から明らかになるのは、ロシアの偉大な文学者のクローンを造り、彼らが作品を書いたあとに体内で生成される反エントロピー物質〈青脂〉を取りだすという計画。だが全てのクローンから青脂を採取した日、パーティー中の遺伝子研をシベリアの地下に拠点を持つカルト教団のゲリラが襲う。未来のインテリが操る中国語とロシア語のチャンポン言葉、プログラム言語のような猥語、クローンが書いた文体模写小説、歴史改変された1950年代ロシアの狂乱などで組み上げられた、鮮烈なヴィジョンと嗤いの書。
なーんもわからん(笑)。ボリスの手紙に始まり、受取人の姿が明らかになって閉じる構造は美しいのだが、そのあいだには全く違う物語が語られるので、読後はカタルシスというよりポカーンとしてしまった。でもソローキンを読むのは初めてだけど、"この人にしか書けない"という強烈な個性を持つ書き手なのはよくわかった。
造語まみれの手紙からスタートするのはかなりハードルが高いけど、登場人物の言葉遣いから未来の世界像を明らかにしていくSFは、小説が言語芸術であることに正面から向き合っているので好きだ。同性愛者であるらしいボリスが駆使する猥語と罵倒語だらけの文章はロシア語と中国語と英語のチャンポンで、わかりそうでわからないところが好奇心を唆られる。原文は中国語を音に変換したロシア語で書かれているらしいけど、こうして翻訳されたものを読んでいると、〈漢字表記にルビ〉という必殺技を持たない言語でこの小説が書けるなんて不思議だ。
本作には場面転換で何度も驚かされたが、最初のビックリは遺伝子研が襲われ、視点が地下のカルトに移る場面。私はこのパートが一番面白かった。ゲリラ兵は末端なので青脂について何も知らず、神秘の物質がリレーのように手渡されて地下深くへ進んでいくのがオカルティズムそのもののパロディになっている。(ところで、青脂=精子で童子=同志?とか思ったけど、これは日本語読者の穿ち過ぎ?)
2番目のビックリは、なんとこの教団がタイムマシンを持っていること。しかも青脂と技術的な関係はない。なんなんだ(笑)。まさかの展開で物語は1954年のソ連へ移るが、そこはスターリンが独裁を続け、ヒトラーの第三帝国と手を組んでヨーロッパを牛耳っているパラレルワールド。
このパートは私が近現代のロシア(ソ連)史に無知すぎるので、注釈と名前を照らし合わせるだけで目が回ってしまった。スターリン政権は徹底的にカリカチュアライズされ、非スターリン政策を進めたはずのフルシチョフはスターリンと非常に親密な愛人関係になっている。それ自体は強烈なブラックユーモアなんだけど、二人のベッドシーンは意外と愛に溢れていて困惑。
歴史パートと同じく、クローンが書いた設定のロシア文学パロディ小説も、ナボコフくらいしか読んだことのない私には充分に味わいきれていないと思う。でも決まり文句やそれっぽいメタファーを繰り返す文体模写のスタイルは、「AIのべりすと」に書かせた小説に近いものを感じて面白かった。クローン作の設定ではないけど、「水上人文字」が一番好き。と思ったらこれは独立した短篇としても発表された作品だそう。
結局青脂はマクガフィンで、スターリンも使い道を知らず、カルト教団パートをなぞり直すような情報リレーは秘密結社や陰謀論のカリカチュアめいていくが、そこから衝撃のラストを迎える。スターリンの脳が世界の半分を潰していく描写は映像的だが、前半にさりげなくボルヘスへの言及があるし、もしや「アレフ」のオマージュ? 平和の象徴である鳩が最後に殺されるのも示唆的だけど、こういう解釈学をこそ嗤っている小説なんだよな。
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太宰治3号や、夏目漱石2号にも書かせてみたいぞ、なんてのんきに考えていたら、
スターリンとフルシチョフのくんずほぐれずな濡れ場の登場に、私のLハーモニーやMバランスは崩壊しました。
前半パートを読んでいる間、ついつい日常的に「リプス・小便!」とか口に出してしまいそうになりますが、確実に変な人に思われるから皆さん気を付けよう。
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未来から過去へ、そしてまた未来へ戻る時系列に少々体力を使った。
ソ連時代の社会的リアリズムと実在したあらゆる人物たちが、ドストエフスキーよりも多く出てくる。
注釈でロシアの歴史の勉強になった。
歴史や人物などかなり詳しく書かれていた。
エロ・グロ・ナンセンスなので、サド的要素があり好みが別れると思うけど、愛が好きなので大変楽しみながら読めた。
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ストーリーがある分『テルリア』よりスリリングに読めるが、ロシア文学史に疎いので作品の価値の半分も味わえてない気がする。昨今の生成AIの問題にも通じるテーマ。