紙の本
今日なをも続く海賊事件。歴史は繰り返す、しかし進化している。
2011/07/11 09:49
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史のターニングポイントには必ず中心となる人物が存在し、勝てば官軍。「勝利側」であった彼らは後世に結果として誉れ高い名を残すものだが、現在の日本でエンターテイメントを賑わしているヒーローは誰か?
映画館では興行成績ダントツ1位に「パイレーツオブカビリアン」が登場している。
著者が本文でもその人気を語っている以上、本書執筆中から出版後までその人気が続いていることが伺われよう。ハリウッドに興味が無い人でも国民的?大人気漫画「ONE PIECE」は誰もが知っているだろう。
海賊=大冒険=宝探=下層出の主人公たちが一躍成長し成功する物語。
そんな夢物語的イメージが西洋の海賊には付されており、日本の山賊や倭冦のような残虐で犯罪者的イメージはそこにはない。漫画ワンピースだってパイレーツオブ…だって「日本の海賊」では無いし、山賊であれ海賊であれ、日本史および日本の物語で活躍した英雄は皆無と言っていいだろう。
この違いはどこにあるのか?そして海賊が「世界史をつくった」ほどに大ヒーローとなり得たのはなぜなのか?その英雄たちが後世に残した文化や影響はどのようなものか。
それを国家的大海賊の発祥地、エリザベス女王統治下の英国から解き明かしたのが、本書である。
やや前ぶりが長くなってしまったが、つまりこの本に描かれている海賊たちはたんなる野蛮な盗賊ではなく、「航海家」「探検家」「冒険商人」という言葉でもって国家の財源を作り上げた英雄なのである。
工業革命によって大発展を遂げる前の16世紀イギリスは貧しく、海上貿易でもスペインやポルトガルに大きな遅れを取ったエリザベル女王は、イギリス人で初めて世界周航に成功した海賊フランシス=ドレークにナイトの称号を与え、スポンサー組合(シンジゲート)とともに海賊マネーに国の財政を頼った。
表向きは知らぬ顔で、女王の側近や官僚をはじめ国家ぐるみで海賊をバックアップし続けたのである。
強力なスパイによる情報戦は他国の船や積み荷の情報だけでなく王室の継承問題にも加担したという。
海上貿易で最も珍重されたスパイスの強奪戦がスペインやフランス、オランダ等と繰り広げられた。
スペインの無敵艦隊を破ったことで大英雄となったドレーク、女王に黒人奴隷貿易を提供したジョン=ホーキンズなど大海賊は名誉をかちとりステイタス(称号)を得て英国の発展に大きく貢献した訳だ。
そうした海賊たちの誕生と国の中心にまで入り込んだその活躍ぶりが本書前半をしめる。
後半はその海賊マネーが何から出来ていたかということだ。
スパイス戦争に始まる海上貿易の品は、やがて珈琲、お茶、紅茶、奴隷貿易へと多様化する。
海賊を国が支援していた、ということに今更驚かない読者も、この辺りから「目から鱗」的な発見にであうのではなかろうか。
そもそも教科書的には肉の保存や味付け用にスパイスが必需品だったため高騰した、と教えられていたし、イギリスといえば珈琲ではなく紅茶というイメージが主流だし、密輸で買われた奴隷たちはどこで何をさせられたのか、とか。 そうした貿易の「根拠」が、教科書丸覚えの頭には入っていない。
そう、新書の醍醐味。読書の喜び。
それは通り一遍等の教科書や授業では教わらない「プラスαの情報」や、全く新しい「発見」や「知識」を身につけることが出来る、まさに新しい出会いの場であるということだ。
つい先日、(2011.7.8.)日本政府は安全保障会議と閣議で「アフリカ・ソマリア沖での海上自衛隊による海賊対処活動」の1年間延長を決定した、というニュースが流れた。
ニュースで「海賊」という言葉・・・今時海賊なんているの?と 隣の知人は目を丸くした。
どのような被害が出て、日本他被害にあっている商船および企業はどう対処しているのか観ていくと
何のことは無い、うまく逃げたり遠回りしたり袖の下を渡したりと、結局本書に紹介された過去の海賊事情となんら変わりないのである。
ただそれと違い厄介なのは国(英国女王)が支援する、ある程度読みの出来る統制の取れた物ではないと言うことだろう。
歴史は繰り返す、しかし被害も戦法も悪徳商法もオレオレ詐欺のように日々「進化」している。
私たちは読書を通じて、歴史を鑑みて、学ぶべきことは多い。
しかしそれ以上に「進化」した事例に柔軟に対応していかなくてはならないと 改めて思う。
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最近読んだ本の中でかなり面白かった一冊。エリザベス女王はイギリスを強国にした一人だが、貿易でスペインやオランダに負けを取っていた同国は、女王の名の下に、海賊を使って他国の貿易船を襲撃し、戦利品を横取りしていたという。東インド会社も彼らを中心に作られ、彼らの指示によってケンブリッジの学生がスパイとして各国に散っていたらしい。尖閣諸島でトラブルを起こした中国の船長も、国とは関係ないとしながらも、明らかに国がバックにいると思われるので、同じような状況か。エリザベス女王にはそんな卑怯な手を使ってほしくなかったが、これが世界政治の現状といったところだろう。思えば大国と呼ばれる国の中で、今まで卑怯な手を使ったことのない国なんて一つもないのだから。ちなみに、海賊は海上で真水が手に入りにくかったことから、腐らない水としてお酒を常に持ち歩いていたので、アル中が多かったとか。まさにパイレーツオブカリビアンの世界。
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16世紀、貧しい二流国家イギリスが海賊行為という手法で豊かさを追求し、一流の国家へと変貌していく過程を描いた本。
イギリスでは、国家戦略として海賊が機能していたことがわかります。
学校の教科書とはかけ離れた印象(ただ私がちゃんと勉強してなかっただけかもしれませんが)を受けました。
第一章 英雄としての海賊―ドレークの世界周航
第二章 海洋覇権のゆくえ―イギリス、スペイン、オランダ、フランスの戦い
第三章 スパイス争奪戦―世界貿易と商社の誕生
第四章 コーヒーから紅茶へ―資本の発想と近代社会の成熟
第五章 強奪される奴隷―カリブ海の砂糖貿易
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イギリスの海賊は全てエリザベス女王の後ろ盾があった。最大の敵、被害者はスペイン。イギリスがあれだけ繁栄したのも海賊が世界中の財宝をイギリスに持ちこんだから。それをエリザベス女王が影でバックアップしていた。
イギリスは海賊のスパイ養成としてケンブリッジの優秀な学生も活用していた。
奴隷貿易と海賊による略奪でイギリスは物凄い富と反映を手にしていた。
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ヨーロッパ、殊イギリスの発展のウラ事情が書かれている本。歴史を紐解いてみると、いまの世界の形とその起源のギャップに驚かされる。
・海賊が王家と密接に繋がっていたこと
・略奪と貿易という2つの機能を海賊が果たしていたこと
・スパイス、コーヒー、お茶、砂糖と黒人奴隷、という貿易の大きな流れがあったのがメインの学び。
そこから派生して、
・奴隷貿易を含めた貿易でも受けたお金から、蒸気機関を発明したワットへの投資となっていた可能性というのは、今後の世界の動きというところで見ると、考えておかないといけないテーマだと思う。
・スパイス、コーヒー、お茶、砂糖と黒人奴隷、のどれもが、先進国ではない国々に起源があるということも、考えさせられる。ついつい今の世界のイメージでモノを見てしまうけれど、世界にはそれぞれの国の誇りがたくさんある。
・実はヨーロッパの新興国などに対する寄付文化や貢献活動は、過去のアジア諸国、西アフリカなどに対する罪に対する償いという側面もあるのだろうかと思ったり。
・イギリスがそもそも弱い国だったこと、スペインとポルトガルが大国だったこと、現状と反対で驚いてしまった。
・そしてイギリスという国が這い上がっていく、その始まりとしての16世紀は最高に面白い時代だっただろうと思った。やっていることが犯罪とは切っても切り離せないけれど、限られた資源でどうやって勝っていくかという考え方は、ビジネスでも大切なことで、ワクワクする。こんな昔から、国の外に飛び出していくひとたちがいたのも感激!スケールが小さくても、ドレークやホーキンズのように一旗上げてやる!という気持ちになった。
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ってゆーか女王も堂々と海賊さんたちに肩入れしとったんかい!!
なんて強か!なんて合理的主義!そこに痺れる憧れるぅぅぅ!!!
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某マンガと言うよりは「そして船は行く」の世界。
留学経験の賜物か、日本の学者としてはかなり読みやすい本を書ける人だ。
イングランド(イギリス)ひいてはヨーロッパが中世からどれだけあくどかった事か、お人よしの日本人が太刀打ちできるはずもなし。
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船乗りになりたかったな~職選び間違えたかしら、とか最近思ってるのだけどwオモシロイ本でした。イギリスが資源がないなか、大国にのし上がって行くために海賊をどのように利用したのかがよくわかる。イギリスの諜報活動というのはこのときから盛んなのね。007とかが出てくる背景が理解できた。最近、佐藤優とかがインテリジェンスについて色んな本を書いてるけど、この時代から既に高度な活動が行われてたのね、と感心。歴史の授業では東インド会社がインド支配のために作られたみたいな語られ方がされるけど、ホントは純粋に利益を得るための海賊集団だったのね、ということが分かる。オモシロイ。
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現代の海賊をテーマにしようと思ってたら,なぜか16世紀の海賊の本になってしまったらしい。現代のって「海賊戦隊ゴーカイジャー」とか「ワンピース」じゃないよね…。
海賊と言えばイギリス。エリザベス一世の庇護のもと,スペイン船やポルトガル船を略奪しまくったフランシス・ドレーク,ウォルター・ローリー,ジョン・ホーキンズたちの活躍をまとめている。大航海時代に遅れてきたイギリスが,産業革命を経て栄光の大英帝国を打ち立てるには,海賊の貢献が欠かせなかった。16世紀の終わり頃,スペインの無敵艦隊を撃破した立役者も海賊たちだった。
海賊をやったのは,香辛料とか黒人奴隷の貿易で出遅れてしまい,船ごとかっさらうのが手っ取り早かったから。とはいえ乱暴だな…。ま,海賊だからしょうがないか…。というより乱暴だから海賊なのか。奴隷なんか単にアフリカに行っても何百人も捕まえられない。先行者ポルトガルは,奴隷海岸を拠点に,地元の部族長と結託して効率よく集めてた。そういうのをひっくるめたシステムがものをいうから,新参者はまともな手では勝ち目がない。(人身売買自体まともな手ではないが…)
なので,イギリスの海賊は奴隷船ごと拿捕して,砂糖農場で猫の手も借りたいカリブの島々に奴隷たちを売りさばき,船はわがものにして次の海賊行為に利用する。それがカリブの海賊。著者も執筆のためTDLに足しげく通ったとか(必要か?)。イギリスは,当初略奪をこととしてたが,返り討ちにあって拠点の必要性を痛感し,ジャマイカを分捕る。アフリカー奴隷→カリブ・新大陸ー砂糖・煙草→イギリスー銃・毛織物→アフリカ,という三角貿易。
海賊の活躍で国力をつけたイギリスは,次第にまともに貿易で儲けるようになってくる。香辛料が値崩れしてくると,コーヒーが,その後は茶が重要な貿易品になる。コーヒーと茶,それぞれに一章が割かれて受容史がつづられる。紅茶だけでなく緑茶も人気だったらしい。へぇ。
内容もおもしろく,著者がおちゃめなのもよい(テーマ変更とかTDLとか)。いい本だった。
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16世紀、エリザベス女王時代のイギリス海賊=「女王陛下の海賊」の話。現代の海賊のイメージはいかにして作り上げられたのか。
章によって時代を前後するので、時折前後が繋がらずに首を傾げましたが、イギリスが国策として行った、海賊ビジネスの概要を知る格好の一冊かと思います。
資源の少ない島国が大国へのし上がるため、大国スペインによって作り上げられたヨーロッパのカトリック秩序に対抗するため、イギリスは国策として海賊を使ってのビジネスに乗り出します。
海賊と言えば粗野なイメージが先行しますが、富裕層から貧困層まで、海賊の出自はさまざまです。
大海賊は女王からナイトの爵位を賜っていたし、ただ単なる略奪だけではなくビジネスをする上での交渉術にも長けていました。新大陸からジャガイモやタバコを持ち込んだウォルター・ローリーという有名な海賊は、オックスフォード大学出身のエリート海賊だったそうです。
イギリスに富をもたらした遠洋航海と貿易も、「冒険商人」という名の海賊の功績です。東インド会社なんかは学校の世界史でも習いますが、彼ら商人は海賊です。
そうやってイギリスへ富をもたらし、自らも富豪となった海賊たちが、現在までも続く有名企業の創始者である例はいくつも見られます(「リプトン」や「ロイズ」など)。
国家と密接な関係を保ち、「女王陛下の海賊」として国家の繁栄の先兵となった海賊たち。
現在まで語り継がれる冒険者としての海賊の裏には、そのイメージを作り上げた国家の強かな政策がありました。
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大航海時代あたりに活躍?暗躍?した海賊達についての本。比較的読みやすく書かれていて、面白い。イギリス繁栄の裏話的な感じ。ちょうど学校の授業内容とかぶったこともあり、世界観にのめり込めた。
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大航海時代、世界最強の海賊とうたわれたフランシス・ドレーク。探検家であり女王陛下エリザベスの祝福を受けたかれがどうやってスペインの無敵艦隊を滅ぼしたか。その他、東インド会社の貿易振興も海賊がやってのけた功績。世界史に大きく影響を馳せた海賊たちの歴史に迫る。
海賊の視点から世界史をつく、ユニークな本。
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海賊ブームもあり、海賊の資料本はたくさん世に出回っていますが、そのほとんどがチャールズ・ジョンソンの「イギリス海賊史」と、フィリップ・ゴスの「海賊の世界史」を下敷きにしたもので、あまり目新しいものはありません。
そんな中、この「世界史をつくった海賊」は海賊と世界経済の関係から切り込んでいます。
ジリ貧国家イングランドが海賊を使って大英帝国に成り上がるまでの道のりをドラマティックに描いています。
海賊が国家を救った〈アルマダ海戦〉から始まり、スパイス、コーヒー、紅茶、奴隷などの密貿易、コーヒーハウスから世界初の保険会社が誕生した経緯まで、実に興味深いお話が満載されています。
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女王エリザベス1世の時代、発展途上だったイギリスがスペインやポルトガルのような強国にどうやって対抗していったのか? 「海賊」をキーワードに様々な取り組みが紹介されています。 それにしても現在だったら考えられないような乱暴なやり口だけど、意外と今でもやってることは変わらないのかも。 その他にはスパイスやコーヒー、紅茶の話などが興味深かった。
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子供の頃、テレビドラマで「キャプテン ドレーク」という番組があった。もちろん、このような冒険に満ちたドラマは大好きだったので欠かさず見ていたもの・・・・そんなことを思い出しましたね。
竹田いさみ「世界史をつくった海賊」、掛け値なしに面白くて一気に読んでしまった。もちろん、フランシス・ドレークはイギリス海賊史上のもっとも有名な海賊だと云っていいのだろう。二番目のために余り知られてはいないが世界周航を成し遂げた人物であり、そして何よりも世界の海を股にかけてスペイン船を襲い、銀、胡椒、などの財宝をイギリスに持ち帰ってエリザベス女王の時代をつくった海の英雄、というのはイギリスの歴史の話。スペインの歴史から見れば、スペイン没落の張本人、悪党の中の悪党というべきかも知れない。
それにしても、エリザベス女王というのも本当に「ワル」な人物だといわなければならないだろう。スペイン、フランスなどのカトリック教国に囲まれ、スコットランドからも脅威を受けるという四面楚歌の中で、貧しい小国イングランドが生き延びるにはこれしかないという国策。ヨーロッパ中にスパイの情報網を張り巡らし、裏で海賊を操ってスペインを疲弊させ、ついには無敵艦隊を破って世界の海に覇権を唱えるほどの強国の基礎をつくってゆく。イギリスの歴史は海賊によってつくられた!? と云ってもいいくらい。ホントにひどい国? だったんだなあ、と今更ながらに驚くようなことだ。とは云っても歴史とはもともとそのようなものに違いない。下克上は当たり前だし、大虐殺の歴史なども枚挙に暇がないほど。でも、イギリスとしてはあまり暴露はしたくない話ではあろうね。
そうそう、トレビアの話が一つ。イギリスと云えば現在は紅茶の国だが、17-18世紀はコーヒーが全盛でロンドンにはコーヒーハウスが8000もあったのだとか。変われば変わるものだね。