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紙の本
クールで透明なひとりへ。それは水晶の光に似た、
2007/10/08 20:16
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ねねここねねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「いつも一人の女の子のことを書こうと思っている。
いつも。たった一人の。ひとりぼっちの。一人の女の子の落ちかたというものを。
一人の女の子の落ちかた。
一人の女の子の駄目になりかた。
それは別のありかたとして全て同じ私たちの。
どこの街、どこの時間、誰だって。
近頃の落ちかた。
そういうものを。」
『「ノート(ある日の)」』より
岡崎京子のことば。 彼女の言葉には表現者の確たる美しさが感じられる。
不遜と大いなる思い込みを承知で述べてみるなら、僕のなかにある似たものに、それは触れてきて振れる気がする。
一人の女の子はわたしたち、そして僕たちのものである。
(アニマ、アニムスの例えなくとも、「僕たち」に拡張することを許して欲しい。程度の強さはそれぞれでも、こころに住まうものとして少年少女はともにある)
客体と主体でそれぞれ見つめるものならば、鏡のもの、そして人形を僕は思う。人形作家の作品が低い温度で重なる気もする。
どこかほどけて溶けるように、つれづれ感じる、淡い、確かな。
それは瞬間を垣間見せ、一足の軽やかに見えるステップの中にすべてを映す。
その魅力をこうして活字で示そうとすると、そのものはとても難しく感じられる。
なんというか、取り止めがないのだ。
はぐらかされるようでそれでいて、切っ先鋭く入られるような。
純粋なものとくだらない(という岡崎の主張に思える)、他愛のないものを共に持つ。
そのものは、だから複数の角度の魅力を持つ。傾ける角度で色が変わる、水晶の石を通した光のような。涼しい気配と驚きの、夢を一瞬見せるような。
しかしその夢はすぐ醒める。それに加え夢の着色は資本主義、現代の現実の欠片に満ちてもいる。
夢を見て見ない。クールでドライな儚い希望。
稀有な才能を持つ女性漫画家岡崎が、書いた活字の話たち。
なんと表したらよいのだろう。まるで本ではない本のようだ。
そしてこのものには、こころのなかに住まうものの深いところにある魅力がある。
クールでドライな生活と夢。虚無というものをとつとつと、ゆらり語られている感じを受ける。
岡崎京子の魅力は、突き放しのものにもある気がする。
ただあるだけ。そのものはとても刹那的だ。
そしてその刹那、それは空虚でもありえるのだ。その空虚を彼女は「何いってるの? そんなのあたりまえじゃない」そう言って、ありのまま、すべてそのままに突き放してくる。
付属するものはとても薄い。
夢見ることに線を引く、それがひとつの夢であるよう…。
全能の観察者である瞳を持ち、彼女は助けることをしない。落ちていくだけのものたちを彼女はそうして書いていく。
すべてありのままに…。見つめる客観と、僕たちそしてわたしたちの主観と現代の「ひとり」を持って。
助けがない、という状態。そのものは現実をどこか映している。至って個人的なものでありながら、とある社会をも映している。
しかしながら、それは冷酷とはまったく異なる。冷酷というものの温度すらありはしない。刹那の日常と「普通」であること。狂気や光があったとて、そのものは至極あたりまえに転がるものたち。殊更価値を見出して、声高に訴えかけることをしない。
そのことに、ある種の安心も感じてしまう。何より誠実なものを、どこか思える感じもする。
儚さの中にすべてはあり、消えてしまうものをただ見送る。とても刹那的な美しさ。
客観の傍観者として存在すること。そしてそのものに喜びも嘆きも殊更思わないこと。
突き放すクールなものだけそこにある。ただ吹き抜ける風のこと。客観の「もの」としてすべてが位置していること。それはまるで、かくのごとく言の矢を放つようにも感じられる。「価値なんて求める行為はナンセンス」だと。
しかしながら、それでも表現してしまう。
物を表し、そのものの反映として、何かを絶えずに見せていくこと。そのものの意識は、もしかしたら、深遠にある原初の衝動に始まるような…。
価値なんてすでにないことを知っている。クールに行くのよ。クールにね…。
されど残るのはなぜだろう。
僅かだが熱を出さねばならぬ思い。落ちていく過程に人は煩悶する。
すべてが刹那、価値もない。されど表し、動かねば、生きることすら困難になる。
水晶の光に良く似た言葉がある。
双極のものを纏いつつ、岡崎が落とした言葉の美しい光。