紙の本
切れ字だけでなく俳句そのものについて関心を持つようになりました
2016/12/31 20:05
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:miyajima - この投稿者のレビュー一覧を見る
まずはこの著者の「古池に蛙は飛びこんだか」(中公文庫刊)というタイトルを見て即座に購入。「む? 飛び込んでないの? そうなの?」ということで。
でもそもそも俳句についての知識が無いので「入門」と書かれた本書を合わせ購入。
いや、面白い。
内容としては俳句の定型・切れ・季語という三つの約束について書かれています。
まずは俳句の定型について。
俳句には「一物仕立て(いちぶつじたて)」と「取り合わせ」という2つの型があります。一物仕立てとはその名のとおり、一つの素材(一物)を詠んで仕立てた句。AはBであるという仕立て。
行く春を近江の人とおしみける
というのがそう。
取り合わせとは2つの素材を組み合わせたもの。
旅人と我が名よばれん初しぐれ
というのがそう。「旅立つ私を人は旅人と呼ぶだろう」という芭蕉の思いと、「初しぐれ」を取り合わせているわけです。
次いで「切れ」について。「切れ」の働きはそもそも何なのか?
切れの部分に何かが省略されていると考える人がいます。そんな人は俳句を「省略の文芸」などと呼んだりしています。あるいはまた強調だという人もいます。
どちらも間違い。
切れと切れ字の働きは強調でも省略でもなくて、その名のとおり句を切ることにあるんです。その効果は、「間」を生むことにあります。絵画で言えば余白、音楽で言えば沈黙。
もし切れの働きを省略と考えると、俳句の解釈や鑑賞は省略されたものを復元する作業になってしまいます。しかし、俳句の切れはそうではないんですね。言うべきことだけを切り出しているんです。言いたいけれど言わないことなど存在しないということです。そこで、登場するのが、
古池や蛙飛びこむ水のおと
です。
この句は古池に蛙が飛びこんで水の音がしたと言っているのではないんです。蛙が水に飛び込む音を聞いて古池を思い浮かべたという句なんです。この古池は現実世界にあるのではなく、蛙が水に飛びこむ音によって芭蕉の心の中に出現した幻なのです。この句を一物仕立てと解釈するとまったくつまらない句になってしまうわけなんですね。ここでこの句の説明臭さを払い去っているのが切れ字の「や」。これにより「古池に」の持つ理屈が切断され、大きな「間」が浮かび上がる、ということなのです。
ということで、俳句を解釈する際に理解しておくべき「切れ」と「定型」について詳細に説明がなされています。この二つの重要性を理解するのに芭蕉の「古池や~」の句が大変に参考になるということなんです。
この二つがわからないと、「古池に蛙が飛び込んだ時に音がした」という凡庸な句になってしまうわけなのです。
こんなこと学校で教えてくれませんでした。俳句と「切れ字」と言えば、『ぞ・や・かな・けり』→この字がついているところが俳句の「句切れ」で、この字がついている言葉が「作者の感動の中心という程度の知識しか教わりませんでした。これでは芭蕉の句は決して解釈できないですよねえ。
とか言っても2冊ばかり読んだくらいで上からモノを語るのも間違いだと理解しております。ということで著者の他の本も読んでみることにした次第。
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俳句を勉強中です。
ほぼ例文は松尾芭蕉で、
古語は使うべきだしルールも遵守すべきなんだが、
今の気持ちを(気持ちを込めようとする時点で間違いなのかもしれないが)、
詠おうとするとむつかしくなる。
思った以上におべんきょうだった。
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俳句が俳句である証しが、「五七五」「切れ」「季語」この三つの約束事です。自由自在に俳句を詠むためのただ一つの道は、約束を鵜呑みにせず、約束が生まれた理由を知ること。約束の理由を知っていれば、どんなときに守らなければならないか、逆に、どんなときに破っていいかがわかる。理由を知れば俳句が自在に詠める。と、いいます。約束事に汲々していたけど、こんどはいけるかな。
何度目かの俳句ブームのようです。20年ほど前に発行された俳句の本がひとかたまり出てきました。そして、またまたこうして俳句本を求めています。ブームにすぐ乗る、そしてあきっぽい私の証し。でも日本人は俳句がすきですよね。基本的に。
俳句は難しい。奥が深い。決まり事が多い。ある程度作っていくと思っちゃうんです。一文字くらい許してェ。季語がなくてもいいじゃん、そうすりゃあと5文字も使える。そして俳句は崩れ、むなしくまた遠ざかる。
二つ季語があってもいいみたい。季語がなくてもあり? 字余り字足らずも? 縛られていたものから解き放たれるような、なんか、気持ちが軽くなってきましたよ。
古希近し 与えらるることの 多かりき
季語はなく、ひどい字余り。でも、この言葉が一番気持ちが入っているような気がしているんですが、どう解決してくれるでしょうか。(H)
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俳句を詠むうえで必要な知識である、定型や切字や季語等について解説した本。解説に、松尾芭蕉など多くの俳人の俳句を例に挙げながら、丁寧に解説しています。(2010.2.21)
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現代俳人を代表する一人でもある長谷川さんによる俳句入門書。俳句の構造から始まり、「切れ」や「季語」といったものに関する解説、果ては類句の問題や文体・表記に関する問題まで、広く浅く説明をしてくれます。
すごくわかりやすい講義を受けている感じ。まず、アレが説明されて、コレが説明されて、ここでアレの伏線が回収される……というような、うまい講義の流れを体現しているかのような本ですた。
もう、ほんとにこれ読んだら俳句を始めたくなっちゃったよー。っていうことは、以前かいぶつ句会編『日本語あそび「俳句の一撃」』をレビューしたときも言っているんですけどねー。やっぱりワタクシ、熱しやすく冷めやすいタイプみたいです。
わかりやすく、広い説明がされているので、良い「教科書」のような印象を受けるわけですが、「教科書」というには長谷川さんの考えが強く入りすぎているという難点はありますな。果たして、ここに書いてある俳句論を普遍的なものとして受け取っていいのかは悩むところ。それはさておいても良い本であることは間違いないですが。
【目次】
俳句をはじめる人へ
第一章 俳句の音楽
第二章 一物仕立てと取り合わせ
第三章 切れと切字
第四章 一物仕立てと取り合わせの見分け方
第五章 一物仕立てと取り合わせの詠み方
第六章 季題と季語
第七章 無季と季重なり
第八章 循環する時間
第九章 日本語の構造
あとがき
俳人別俳句索引
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正岡子規や寺田寅彦の影響で、俳句を始めてみたいなーなんて思っていたところ発見。新書ということもあり気軽に手に取った。
最初の一冊として、なかなかによかったと思う。「五七五」「切れ」「季語」などの俳句の約束事について、「なぜその決まりが存在するのか?」という観点から掘り下げて説明してくれるのは初心者にとって大変ありがたい。名句とされる作品を実際に鑑賞しながら話が進められるので、観念的になりがちな論の中でも著者の意図が伝わってきやすいのがよかった。一文字違うだけで名句が駄句になるなど、例を上げて説明されると全くそのとおりだと腑に落ちた。このような確かな実感をもって俳句を鑑賞できたのは初めてかもしれない。大きな収穫。
改めて振り返ってみると、今までは俳句の味わい方というものがよく分かっていなかったのかも。散文を読むときのようにざっと字面を追うばかりで、一語一句を揺るがせにしない姿勢が欠けていたのかなと反省。俳句って今ひとつピンと来ないなーと感じていたのもそのせいかもしれない。本書の内容を自分なりに消化しながら、少しずつ色々な句に触れていきたいと思えた。
俳句を読みたい、そして自分でも俳句を作ってみたい。そんな気持ちが膨らむ一冊。
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俳句作りの入門書ですが、ノウハウ本ではなく、俳句とは何かを考えさせてくれる好著でした。俳句は17音ではなく、17節。切れと季語が二つの特徴。など、恥ずかしながら改めて知りました。芭蕉の句をふんだんに紹介しつつ、切れが生み出すリズム感、一物仕立てか取り合わせか、季語がなぜ1つなのか、芭蕉が季語なし、重季語の俳句を作っているなど、興味深い記述です。「古池や 蛙飛こむ 水のおと」「柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺」がなぜ名句なのか、説明に説得力があり、私も創ることができそうな気持ちがおこりました・・・
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第1章 俳句の音楽
第2章 一物仕立てと取り合わせ
第3章 切れと切れ字
第4章 一物仕立てと取り合わせの見分け方
第5章 一物仕立てと取り合わせの詠み方
第6章 季語と季題
第7章 無季と季重なり
第8章 循環する時間
第9章 日本語の構造
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まだ俳句始めて3ヶ月ほどだが、ちょうど悩んでいたテーマに上手く答えてくれていて助かった。
・韻文と散文
・一物仕立てと取り合わせ
・切れについて
自分が作れるのは一物仕立てばかりだなあ(その単語は知らなかったが)と思っていて早くも限界を感じていたので。散文に近いから取り組みやすいが、内容にはっとする驚き不可欠と、まさに納得。取り合わせのスタイル、切れを有効に入れる、を意識しようと思った。
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なぜ切字を使うのか。
なぜ季語が必要なのか。
この2点に集中して解説してくれます。
特に切字のところが良かったのですが、それは俳句の型の4分類が明快だから。
1 一物仕立て 生きながら一つに冰る海鼠哉
2 一物仕立ての変形 山も庭に動き入るゝや夏座敷
3 取り合わせ 菊の香やならには古き仏達
4 取り合わせの変形 さまざまの事おもひ出す桜かな
私は以前から俳句には初見でやたら意味がとりにくいものがある、論理の飛躍について行けないものがあると感じていました。
既知のはずの日本語なのに、どのように読めばいいか混乱してしまうのです。
本書の4分類のように有限個のパターンのどれかだというなら、混乱のおそれはずいぶん少なくなります。
しかも、①切れはあるかないか、②一物仕立てか取り合わせか、の2通り×2通りだというのですから、なおさら分かりやすい。
ページ数も少なく、基本的な原理に絞ってあるという感じ。
この原理を足がかりとして、これまで読み飛ばしていた作品を読み直してみたくなりました。
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何となく読了。俳句素人には難しすぎる部分も多かったんですが、音より拍で考えるとよいという話や字余りは勢いや切迫感が生まれるという話は感覚として納得いきました。ほぼ確実にパクリじゃない・後発の句の方が優れていた実例から考える類句どうする問題も面白かった。