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大たんなアイデアを実現した建物や複雑な課題を乗り越えた設計者は、どのように関係者を「説得」したのだろう。
取材を通して分かったことは、彼らは決して建築主を「説得」しようとプレゼンしているわけではなく、建築主とのコミュニケーションを通して「共有」できる価値を見つけ出そうとする姿勢である。
◆アオーレ長岡 1階にガラス張りの議場を設けた市庁舎 隈研吾建築都市設計事務所
海外などの先例を示すとともに、メリット説明を行う。
使い勝手などユーザー要望は譲って、こだわりポイントは貫く。
◆あべのハルカス 竹中工務店
事業者が多く、調整が難航する場合は、各事業者ごとに設計担当を設け、各事業者ごとの最適解を出しあい、ぶつける。
模型を青空背景に撮影。青空を背景に建物がそそり立つ写真は、模型のイメージを超えた迫力を持つ。
基本設計書を小冊子17.5㌢角にまとめ、手軽に計画コンセプトを確認できるように。小冊子を身近に眺めていれば、計画に対する愛着もおのずと増し、PJに対する求心力も高まる。
◆千葉商科大学 the university DINING シーラカンスK&H
プレゼン資料の特徴①
設計者が最良と考える案を「推薦案」として示す姿勢。
もちろん発注者から出てきた要望等は整理検討するが、「なぜその案を選んだかを明確に説明する」ことで、発注者の理解を得ていく。
プレゼン資料の特徴②
内装や家具を担当しないにも関わらず、初期段階からテーブル配置を具体的に検討している点だ。
どの段階でも大学側が求めるフレキシブルな利用が可能であることを示し続けた。
プレゼン資料の特徴③
初期段階でのイメージの共有。
発注者からの多様な要望に逐一対応していると、当初のコンセプトを失いがちになる。
模型やパースを作ることで、発注者と目標とする気持ちよさを共有しておくことは重要。
北区立田端中学校
学校カルタを使ったワークショップ。
利用者を対象としたワークショップを行う場でK&Hが留意するのは、「形の好き嫌い」へと話が流れないようにすることだ。利用者側には建築の「使い方」に対する要望を聞き、「形」という答えは設計者が出す
という設計者と発注者の役割分担を明確に意識している。
模型では人によって視点が一致せず、見てほしい部分を必ずしも見てもらえないという弱点もある。その点、同じ視点から見る3次元のCGは、論点を集約しやすいのがメリット。
例えば病院であれば病室から見える風景が気になる。特に、「個々」の空間の在り方から全体の構成を組み上げるタイプのケンチクではCGが有効。
CGのプレゼンテーションは、図面や模型だけでは理解できない空間の疑似体験により、発注者や利用者の気持ちを盛り上げる効果を持つ。相手の想像を超えたものを提案し、期待感を抱いてもらうことも大切。そうすれば、建築は設計者に任せておけばよいという方向に意識付けできる。
◆Ribbon Chapel NAP建築設計事務所
問題解決を起点に攻めの「練り直し」
プレゼンは、クライアントと設計者が問題意識や目標を共有できれば勝ち。
���計画では、近隣造船所の騒音、ホテルの庭やプールの一般利用者による音、ホテル庭からの視線。
◆関東マツダ目黒碑文谷店 サポーズデザイン
形が否定されても思考過程で共感を得る。
道路に対して、緩やかな曲線を描くことで通行中のドライバーからの視点性を確保しながら、内部の車をぼとよく見渡すことができる。
単純化した図面が効果的に。
ポイントを1つに集約した上で単純化して描くので、計画の骨子が一目で理解できる。最初のコンセプト図を共有できれば、軸をぶらすことなく計画を進められる。
◆座・高円寺 伊東豊雄
プロポーザルで勝つための秘訣「提示されたプログラムを否定すると振い落されるが、プログラ厶通りに設計しても当たり前の建築になってしまう。提示された条件を守りつつ、いかに新しい活動を編み出していくか。そのために、審査要項に書かれた「機能」を利用者の「行為」に読み替えて発想するようにしている」
◆大分県立美術館 ARUP城所竜太
発注者を納得させる簡潔な構造表現
説明する相手に応じて心構えを変える。
設計者に構造を提案するには、計画の可能性を広げていくことを意識。
発注者に対するプレゼンでは、「相手は安心感を求めている場合が多い。課題や不安を残さず、検証した最適解を示すことが大切だ」
例 行政担当者は、正しい判断をしたと納得し、危害や市民にきちんと説明できるようにしたいのだ
複数の関係者に理解してもらうために、シンプルな説明に徹している点。特に、手書きの図は、一般の人がとっつきにく構造の話を身近に感じさせる。
利用者は暑さ、寒さなどら心配している点ばかりに意識が向かい、他の良さに気づかないことが多い。そこで、心配事にいったん目をつぶり、広い視点で全体を見てもらえるように仕向ける。完璧な環境はありえない。悪い点を完全になくすのではなく、良い面をいかに引き出すかという視点が大切だ。
◆戸畑図書館 青木茂
リファイング建築は法規の解釈について行政と折衝したり、建築審査会への申請を検討したりすることも頻繁にある。
法規の内容を分かりやすい言葉で簡潔に説明、大事なポイントはしつこく繰り返す。