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西郷は、武士であり政治家では無かったのだろう。
2018/06/28 17:01
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投稿者:気まぐれネット購入者 - この投稿者のレビュー一覧を見る
たしかに、功労者である事に異論は無いだろう。しかし、反逆者という面も否定できない。おそらく、本書は反逆者というイメージを否定したいのだろう。西郷ファンなら面白く読めるのではないだろうか。
維新のスクラップアンドビルドにおいて、西郷はスクラップを大久保はビルドを担ったことから、西郷には革命児という印象が、大久保は実務家という印象がある。やはり、西郷は最後まで薩摩武士であったのだろう。そして、大久保は政治家になったのだろう。すなわち、政治家になれなかったのが西郷であると換言できるだろう。
だからこそ、士族という人材の活用に最後まで拘ったのではないだろうか。近代化する日本における中央専制は是認できるものの、地方自治の観点から分権も必要であっただろう。ここに国を憂う気持ちがあり、この抵抗の精神が後に西南の役を招くことになる。おそらく、西郷が薩摩武士から政治家になっていれば回避できたと思われる。
基本的に肯定的な見解で西郷を捉えているので驚くような主張は無いが、なぜ西南戦争を招いたかを考えるにも有用な書籍だろう。
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西郷びいきの学者による西郷賛歌
2013/05/25 17:39
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投稿者:キック - この投稿者のレビュー一覧を見る
西郷隆盛を中心に据えた明治維新史で、最新の研究をもとに、従来の西郷像の修正を試みたものです。はしがき(7ページ)に、「幕末から明治維新にかけてわれわれが漠然と抱いていた西郷像は、まったくの虚像だったのである。西郷隆盛の実像を再現することが、本書の目的である。」とあり、大いに期待して読んだのですが・・・。
確かに「西郷隆盛は、攘夷論者からも慕われていたが、自身が攘夷論者であったことはない。『征韓論』で有名な西郷は、実は1875年の江華島事件を、小国を見くびった卑劣な事件と非難していた。(中略)しかし西郷が議会制導入の必要を覚ったのは、1864年のことであり、先の3人(伊藤博文、板垣退助、坂本龍馬)よりはるかに前のことである(205ページ)。」といった事実は、本書を読むまで認識していませんでした。
また『「開国」の必要を確信していた井伊が、これら保守的な「攘夷論者」を一掃したのが、「安政の大獄」であるというのは「俗説」(47ページ)。「安政の大獄」は「開国派」による「開国派」の弾圧であり、本当の対立は第13代将軍の跡目争いだった(48ページ)』という事実は新鮮でした。特に、処刑された橋本左内が開国を支持していたということは驚きです。「安政の大獄」は攘夷論者への弾圧ということで、テレビドラマでも学校の授業でも扱っているのではないでしょうか。歴史はそんなに単純ではないということが、分かりました。
一方西南戦争について、「政府の挑発に乗った桐野ら私学校急進派が、砲兵属廠を占領する挙に及んだ時、西郷も決起せざるをえなかった(202ページ)。」つまり、西郷は大義が存在しない反乱に意図せず巻き込まれたという結論には、何の驚きもありませんでした。
また全体としては、西郷びいきの学者による西郷賛歌です。常に西郷を絶賛する姿勢には辟易しましたし、他の人物の過小評価にも繋がります。何よりも時代を見誤るのではないでしょうか。期待が大きかった分、残念な内容でした。
なお、本論からはズレますが、「250年余にわたる江戸時代は、極端な格差社会だった上に、無数の格差間の流動性がまったくない、とんでもない社会だった」とし、昨今の江戸時代に郷愁を抱かせるような風潮を批判していることには、全く同感です。
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研究者がここまで個人的好き嫌いを表明しながら書くというのが驚き。内容的にはあまり新しさを感じなかった。征韓論の辺りは面白かった。板垣の台湾出兵論や黒田のロシア対策などを抑える為の、穏健な韓国使節派遣論だったとのこと。ただ何故、岩倉がそれを潰したのかがわからない。廃藩置県後の西郷をみると、やはり彼は思想家でも政治家ではないと思う。思想は島津斉彬や橋本左内、横井小楠、佐久間象山の受け売りだし、政治家としては自身の新国家像を描き出せてなかった。ただ、斉彬の考えを現実に行動して成し遂げたという意味では、軍人であり革命家なのだろう。より生き方が刹那的だが、高杉晋作が近いのかも。
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去年、日本近代史を読んで面白かったので・・・
坂野さん2冊目・・・
今回は明治維新の元勲筆頭、西郷隆盛・・・
西郷隆盛のイメージっちゅーと・・・
まずは上野公園か江戸城無血開城、征韓論、西南戦争あたりでしょうか?
チョイと込み入ると、征韓論と西南戦争から軍部独裁やアジア侵略の元祖とか、士族反乱の中心人物ちゅー感じになってるみたいです・・・
そこで・・・
坂野さんが意義有り!ちょっとそれは違うんじゃない?と出したのがこの本・・・
征韓論とは言うけれど・・・
征韓の急先鋒は板垣退助で、西郷は征韓ではなく、朝鮮への使節派遣を求めたまでで、むしろそれによって急先鋒の板垣を説得、制することにしたまで、というのが実情・・・
征韓論で下野した2年後の同じ朝鮮に対する江華島事件では、日本海軍の遣り方に、いやいや、そんなコスイことするなよ、と文句言ってるしね、と・・・
しかも征韓論の他に、桐野利秋の台湾出兵論や、黒田清隆のロシアと一戦辞さず、っつー他の強硬意見を制することにもなっていた、と・・・
西南戦争も・・・
(わずかな)勝算がまったくなかったわけではないけども・・・
そして政府に不満がないわけではなかったろうけども、西郷自身が吹っかけたものではもちろんなく・・・
特に桐野利秋たちが暴発して、それを止められなくて・・・
担がれて仕方がなく、というのが実情・・・
征韓論の話にも通じるけど、もともと西南戦争のだいぶ前から、一緒に戊辰戦争を戦い抜いてきた部下たちは、内戦があらかた片付いて以降、みんな働き場が無くなってヤキモキしていたようで・・・
やれ、台湾だ、やれ露西亜だ、やれ朝鮮だ、とみんなウズウズ・・・
そのウズウズを抑えるのに苦心なさっていたみたいですよ、と・・・
さらに西郷自身は元々、攘夷なんてあんまり関心がなかったよ、と・・・
攘夷か開国かに拘らずに、幕政改革のために有力大名同士と有力家臣同士の合従連衡を計っていたよ、と・・・
ここは驚き・・・
幕末というととにかく攘夷か開国かで二分された時代なもんで、当然西郷もまずは・・・
と思いきや、そんなこたぁなかった、と・・・
そんなことより島津斉彬悲願の幕政改革でごわす!だったんですね・・・
征韓論や西南戦争のイメージが強すぎて、尊王倒幕、王政復古、そして維新後の超絶大改革である廃藩置県を先頭に立って断行し、頼朝以来700年間続いた封建制度を終わらせたというスッゲーところが薄まっちゃってるよ!もっとちゃんと評価しようと!と・・・
西郷を尊敬しまくり、西郷が大好き、って熱い思いが伝わってくる本・・・
西郷登場から西郷退場までの、西郷の構想や目的、そして動向が概ね掴める形になっております・・・
あんまりいないと思うけど、西郷隆盛のことちょっとでも興味ある人はゼーヒーで・・・
いや、西郷スゲーよ・・・
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著者の「日本近代史」が、時代の分類など、うまく整理がされている良著だったこともあり本著も読むことに。
西郷隆盛に焦点を当てているとはいえ、基本的には「日本近代史」での論説に沿うもの。
・西郷は攘夷を唱えたことはなく、合従連衡により幕府に代わる新体制構築を考えていた。
・藩兵の合従連衡が先行し、武力のトップとしての存在が大きくなり、士族の不満を一手に引き受けざるを得なくなってしまった。
・西郷は必ずしも「征韓論」を唱えてたわけではない。
司馬遼太郎曰く、「西郷隆盛ほど説明が難しい人物はない。それは、この時代でしか登場し得ない人物であるから」。
本著を読んでも本当の「西郷隆盛」が明らかになるわけではないし、知れば知るほど謎が深まるところもある。
それを考えながら幕末維新を深めることも意義あること。
著者自身が西郷隆盛の大ファンであり、批判的な視点が欠けているところは却って消化不良。
以下引用~
・1842年にアヘン戦争で清国がイギリスに敗れた時の幕府の対応も、ちぐはぐもいいところであった。本来なら「異国船打ち払い令」を強化して、それに加えて「大船建造の禁」を廃止するのが、幕府の採りうるべき途だったはずである。・・・しかるに幕府は正反対の処置に出た。
・西郷が久光の命令を知りながら、「尊王」論で有名な平野国臣と会談したのは、「尊王攘夷」論者をも味方につけるためであり、平野が西郷に会見を求めたのは、薩摩藩を嫌う彼ら「尊王攘夷」論者の間でも、西郷だけは別格扱いだったためである。
・西郷の新体制構想と勝の科学技術立国とが結びつかないかぎり、明治維新は実現しない。
・西郷は「義」を最重視する政治家でもあった。・・・そのような西郷には、将軍に大政奉還を迫る薩土盟約に調印したからといって、武力行使しても長州の冤罪を雪ぐと誓った薩長盟約の方を反故にする気はまったくなかった。
・旧薩摩藩兵が、いわゆる征韓論の急先鋒だったわけではない。征韓論の急先鋒は、旧土佐藩兵を率いる板垣退助であり、旧薩摩藩兵でも西郷隆盛でもなかった。
以上
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西郷隆盛は「攘夷」論にあまり関心を持たない「国民議会」論者であり、特に「征韓論者」として名を馳せているのだが、明治8年9月の江華島事件を朝鮮を弱国と侮って、長年の両国間の交流を無視した卑劣な挑発と非難しているのである。幕末から明治維新にかけてわれわれが漠然と抱いてきた西郷像はまったくの虚像だったのである。本書では実像に迫るのだが、私には渡辺京二著『維新の夢』で語られている西郷像のほうがおもしろく感じられた。
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勝てば官軍。
権力を握った側は、自身の出自を正当化しなければ、統治できない。
所謂、征韓論なるものに敗れた西郷は、賊軍として処遇せざるを得ない。
しかしながら、史実は史実として厳粛に残存する。
西郷にまつわる史実を丁寧に読み解けば、新たな仮説を立てることができる。
日本近代史の第一人者が近代国家に導いた人物の実像を解き明かしてくれた。
若い時から慣れ親しんだ司馬史観を離れるてみるのも楽しいものである(笑)。
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史上の人物に関しては“有名”な“度合い”が高い程に色々な型で取上げられ、“多面的”に、換言すれば「好い面と同時に、その限りではない面も」含めて語られているように思える。他方、「○○でお馴染み」という“部分的なこと”の印象が余りに強い場合、色々な型で取上げられる他方で、“部分的なこと”に関連性が高い“一面”ばかりが注目される場合もある…
そういうことに想いを巡らせながら考えてみて…例えば…“西郷隆盛”は如何であろうか?本書はそのような問題意識から出発して綴られたもののように見受けられる。
なかなかに面白かった!!
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西郷隆盛=征韓論という「虚像」が大いなる誤解に基づくものである、というポイントは理解できた。右翼にも左翼にもその「虚像」が利用されがちな人物だけに、彼らを論破する武器としても有用だ。最期に西南戦争に至ったのも、著者自身その目的は不明としながら、最終的にそうなってしまった理由は推測できる気がした。
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本書を読んで、かつて司馬遼太郎は「翔ぶが如く」という小説のあとがきで、西郷隆盛という人物について「日本にはこの様な人物の類型がなくわかりにくい」という趣旨のことをつづっていたことを思い起こす。
本書は、そのような「幕末から明治維新」という混迷と動乱のわかりにくい時期を、現代の政治の知識から考察している興味深い本であると思った。
「尊王攘夷」という当時の政治スローガンを、「尊王」「攘夷」「開国」という思想内容にまで踏み込んで、当時の各藩におけるそれぞれの政治勢力の動向と変転を詳細に考察する本書の内容は、実にわかりやすい。
混迷の時代には、常に「保守派」「革新派」と分かれて争うのは歴史の常であるが、当時は「幕府」や「各藩」がそれぞれ内部で多くの「派閥」が、くんずほぐれつの争闘を繰り広げていた。
この混迷の時代の「西郷隆盛」を「攘夷なき尊王論者」と捉える本書は、説得力があるとともに時代状況も詳細に知ることができる。
「安政の大獄」についても「開国派による開国派の弾圧」との視点は興味深い。
なるほどこのようにみると理解しやすいが、この時代に現代の視点からのこのような分析が通用するのかとの思いも抱く。
また本書は「西郷隆盛は征韓論者などではではなかった」とし、西南戦争についても「一時的な自力優勝の可能性は十分あった」と考察しているが、この内容は一般的な知見とは落差がある。
以前「勝海舟」の詳細な本で「勝海舟は晩年になってから西郷隆盛は征韓論者ではないと語りだした」とあったが、当時の関係者の残した文書記録をより深く読み込めばまだまだ新しい知見が得られるのかもしれない。
事実のみをつづる歴史書は、「教科書」のようで読んでもつまらないが、本書はいろいろ読者の思考を刺激する良書であると思った。
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歴史学者の坂野潤治さんの本。
西郷隆盛の生涯を史書をもとに描く。
特に新しい発見も納得もなかったな。
それ以上でもそれ以下でもない。
それでいて史書の現代訳がないのでわかりにくい。
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【要約】
・西郷隆盛と言えば征韓論。しかし、彼は決して征韓論を支持していたわけではなかった。征韓論を声高に主張したのは板垣退助で、西郷隆盛は海軍の朝鮮挑発を卑劣な振る舞いだとして非難していた。だからと言って西郷が非戦論者だったというわけではないが、やるんだったら相手は中国という意識を持っていた。朝鮮には特使を派遣して交渉しようと考えていたのを、岩倉具視に歪曲されて天皇に上奏され、征韓論者的な立場に仕立て上げられてしまった。
征韓論者ではなかった西郷が、なぜ最後に挙兵することになったのか、それこそが本書の重大トピックであると冒頭で著者によって宣言されている。しかし、彼の勝算への目配せまで検証しながら、肝心の動機の部分については、自身の力量不足として突き詰められないと告白して終わりになってしまっているのは、やはり消化不良感が残る。
【ノート】
・幕末から明治にかけての薩長土肥、そして朝廷と幕府の重要人物の動きを書簡などからの引用を数多く見ながら著者と一緒に紐解いていく西郷隆盛の動きは予想以上に面白かった。
・西郷隆盛はもちろん、勝海舟、木戸孝允、岩倉具視などの書簡などからの原文引用が多い。読み慣れないので最初は一字一句ちゃんと追っていかないと意味が分からないので億劫だったが、慣れていくと当時の雰囲気が分かって面白くなってきた。
・著者は、何度か本文中で明言している通り、西郷隆盛萌えである。だから、例えば嶋津久光や大久保利通、岩倉具視の描き方は、西郷擁護の観点から描かれているが、逆からの見方もあるはずだ。
・未読の松岡正剛「日本という方法」の出だしは西郷さんから始まる。「『なぜ西郷隆盛が征韓論を唱えたのかの説明がつかないかぎり、日本の近現代史は何も解けないですよ』といったことを口走りました。(P7)」とのことだが、この時と今の松岡正剛さんの考えは、本書の見立てと通じているのだろうか。
・図書館の講談社アラートで知った。
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「攘夷」にあまり関心を持たない「国民議会」論者としての西郷を描く。特定の人物を取り上げるのは著者にしては珍しく、異色作にも思えるが、幕末から戦前昭和の80年の間に活躍した政治家の中で最も尊敬するのが西郷との事。近現代の大家である著者のこういう発言には少々イガイ感がある。内容的には新しいとまでは言えないが、通説というか俗説を修正する論考にはなっているように思える。
ただし、やはり西南戦争は著者にとっても不可解らしく、歯切れが悪い。「大儀」が存在しない反乱ではあったが、それなりの勝算はあったと。ただし、川村純義と樺山資紀の裏切りに期待していたというのはあまりにも他力本願であり、時節を読み誤ったとしか言いようがない。