紙の本
新作求ム
2002/03/08 09:08
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投稿者:modern - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず、表紙が良い。ノベルスなのに指紋が付かない。これは大事なことだ。もちろん、内容も良い。これはもっと大事なことだ。イスラム教とミステリ。こんなにかけ離れたものもないだろう。まず推理小説にとっての大前提、「犯人の追及」という指向からして、ムスリムの性格に反している。しかし、作者は凄まじい離れ業でもって、この二つを融合させてしまう。しかもそこに論理の破綻は無い。これは見た目より遥かに凄いことだと思う。文章も格調高く、新人とは思えない香気に溢れている。まさに「言うことなし」である。
ただ、新作が出ない。1年半も待っているが、まだ出ない。デビュー作が偉大なだけに、それに縛られているのではないか? などと余計な心配をしてしまう。メフィスト賞の未来の為にも、第二の殊能将之になってくれることを望む。
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深い内容をミステリに詰め込んだ作品
2000/10/17 23:37
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投稿者:ひで - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨今の作品はページ数を増やし、とにかく蘊蓄を語ればそれでいいといった風潮があるような気がする。まるでページ数を争っているようなそんな風潮とは逆に本作は、手に取った瞬間の薄さが頼りなく、少しばかり凝った装丁と併せ何か違和感を感じる作品である。しかしながらその内容は宗教的とも哲学的ともいえる難しいテーマを、本格ミステリのコードに従ってコンパクトにまとめ上げた力作である。
12世紀の中東。ファリードはアリーと名乗る男の下を訪ねる。アリーが語り始めたのは、4人の修行者と影しか見せない導師が住まう山中での不思議な出来事だった。導師に穹廬に住まう先輩格の修行僧カーシムを訪ねることを指示されたアリーは、中から紐で綴じられた穹廬の中で殺されているカーシムを発見する。密室と化した穹廬でどのようにして彼は殺されたのか。そして起こる次なる事件。修行僧ホセインは穹廬の上に載せられその命を絶たれていた。どのようにして何のために彼らはは殺されていくのか。そしてすべての真相が明らかになる。
本作は、日本人にはなじみが薄い中東、しかもイスラム教を中心においている。こうした珍しい世界を舞台にした作品では、読者を作品世界に容易に引き込めないという弱点がある。しかも、その弱点をカバーするために説明的な文章が中心を占める例が多々ある。しかし本作では意外なほどそれを感じさせない。確かに冒頭部ではそんな弱点が露呈した感もあるが、それを過ぎたとき展開される世界には、弱点を簡単に吹き飛ばしてくれる疾走感にあふれている。
反面こういった作品の特徴でもある世界観の大きさは、本作でも十分に感じることができる。イスラムの教えを守り真理を掴もうとする主人公。そんな彼に降りかかる連続殺人。誰が何のために殺人を犯していくのか。そんな本格ミステリの定番ともいえる展開。そしてその後に待つ真実は、ミステリ的な謎解きと、哲学的、宗教的とも言えるテーマの両者を一気に解決へと導いてくれる。無駄を省き、本格世界を演出した本作。その作品は、ページ数の薄さとは裏腹に大きな世界を描き出している。
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イスラム教ミステリー
2022/02/10 08:06
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投稿者:どら - この投稿者のレビュー一覧を見る
宗教とミステリーの融合
とにかく使われている言葉が難解
僕みたいなもんには難しかったなハハハ
初心者にはお勧めできないかと
ただ明かされた真実とくに動機は一見の価値ありです
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イスラムを舞台にした異色ミステリー
2001/03/31 23:01
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投稿者:太田コロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
イスラム教に詳しくない人は「スーフィー」あるいは「スーフィズム」という言葉は聞きなれないかもしれない。スーフィーとはイスラム教の神秘主義者、修行僧のことである。
いままでミステリーではなかったスーフィーが探偵役となる異色のミステリー。
舞台は十二世紀の中東。聖者たちの記録編纂を目指す作家ファリードはアリーという男を訪ねる。アリーが語ったのは姿を現さぬ導師と四人の修行僧だけが住む、閉ざされた土地の殺人の話だった。
舞台をこの時代のこの地域に設定したというのも変わっていて魅力だが、謎解き自体もイスラム教の教え、教義に深く関わりがある。本当に変わったミステリーである。
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言の葉を射よ
2000/10/31 18:12
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投稿者:竹井庭水 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノベルスなのに表紙がザラザラなこの本は第17回メフィスト賞受賞作。帯には「かつて誰も見たことのない本格推理」の文字。むしろ「かつて誰も見たこのない講談社ノベルス」と言わんばかりの表紙カバーの凝り様。しかも200Pという薄さ。
十二世紀の中東。聖者達の伝記録編纂作業を志す作家・ファリードは、取材のため、アリーと名乗る男を訪ねる。男が語ったのは、姿を現さぬ導師と四人の修行者たちだけが住む山の、閉ざされた穹慮(きゅうろ)と呼ばれるテントの中で起きた連続殺人だった。犯人を問うアリーに導師は言う。「つまらない問いだ」と。
とにもかくにもイスラム教。冒頭から解説と蘊蓄が続き、いつまで読まされるか不安だったけど、物語が核心に迫るにつれて速度アップ。巧みな雰囲気作り、冷静な視点、熱におかされそうな文体。もう蝋燭の匂いがしそうなくらい。引き込むなぁ。そして肝心の事件は解決と共にイスラム教との絡みを見せるんだから器用このうえなし。炸裂する茶褐色のイメージの中、幻惑させつつ現実へ落とす。この世界観は一読の価値ありと見た。
奇蹟の発生とその理由付けとか、ちょっと横暴な点もあり。しかしそれも「メフィスト賞だし」の一言で終わるという、なんとも悲しい利点もあり。百人一首や自衛隊など材料一発勝負的なものが多いメフィスト賞。このテンションで次回作ができてこそ本物なり。本作が満足いく出来だけあって期待大。
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の雰囲気がよい。イスラム教の入門書としても楽しめたし、本格としても楽しめた。しかも謎が解かれた後にもう一度新たなる事実が浮かび上がってくるってのがもう驚き。論理的な解決の外側の更なる解決って感じかな。最後に明かされる真相はかなり興味深い。
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第17回メフィスト賞受賞作。イスラムの世界をテーマにした幻想的な雰囲気が漂う作品で非常に面白かったです。でも舞台はイスラムなんだけど、どこか禅的な感じをうけましたね。
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メフィスト賞だっつーから読んだのですが、なんつーか、うーん、コレって何?何気に評価が高いのですが、端的に言えばイスラム教という馴染みの薄い題材が功を奏したのかもしれないですね。その思想に価値は無いし、ミステリとしても不十分と思いました。作者のその後の方が興味がある。むしろ何故この後作品を発表しないのか、その辺りが気になります。
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メフィスト賞受賞作。
あまり馴染みのないイスラム世界を取り上げているのが面白い。言葉での伝達が必須である本という場において、このテーマを扱うのは私には刺激的で目眩めく爽快感があったのだが…。作者の次回作が読んでみたい。(2007/07/26)
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第17回メフィスト賞受賞作。
イスラーム教文化における話であり、やや独特な雰囲気ではあるが、明快な論理展開で推理がなされる点、知識(この本ではイスラーム教に関するもの)が多く得られる点等において、ミステリのお手本ともいうべき作品である。
しかし、最後はメタ的な回収がなされており、読後感が不思議なものとなる。
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これは凄い。
読者をトランス状態に引き込ませるかのような
圧倒的な文章力。
イスラムの難しい単語がバンバン出てきますが
慣れればそれ程苦にはなりません。
日本にこんな作品を書ける人間がいたとは。
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民俗学とか、歴史とか、神話とか…日本のモノを絡めた
ミステリって良く読むけどイスラームってはじめてだ。
そもそも。文芸全般でなじみなかったイスラム教。
世界史じゃなく日本史選択者の私は浅い知識しかない。
ムハンマド、アッラー位は知ってますが、
スーフィーだのタウヒィードだの神秘家だの
専門(?)用語の数々に引くかと思いきや、
どんどん手繰っていってしまいそうな不思議な引力がありました。
だけど、説教臭くならないのは秀麗な言葉たちのせい。
文学性より娯楽性と思われがちなミステリにしては珍しく、
アイテム(例えば見立て殺人とか)・設定に頼らず、
"語り"の言葉と風景描写による荘重な空気を出している。
ジャンルをいっそ、幻想小説といっていいくらい。
森厳な雰囲気にのまれて事件の顛末も
夢か現実かわからないような不思議な読後感でした。
気になる作者さんだけどこの作品のみしか出版されていないよう。
本業は研究者なのでしょうか、もったいない気もする。
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[ 内容 ]
十二世紀の中東。
聖者たちの伝記録編纂を志す作家・ファリードは、取材のため、アリーと名乗る男を訪ねる。
男が語ったのは、姿を顕わさぬ導師と四人の修行者たちだけが住まう山の、閉ざされた穹廬の中で起きた殺人だった。
未だかつて誰も目にしたことのない鮮麗な本格世界を展開する。
第十七回メフィスト賞受賞作。
[ 目次 ]
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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なかなか手を出せなかった積ん読本。第十七回メフィスト賞受賞作。
まぁ、内容がね、イスラム教関係だし。宗教色満載だし。
はじめをちょっと読んで、なかなか続きを読む気になれなかったけど。
ところがどっこい(古)結構面白かったんだ、これ。
登場人物の宗教観に関する薀蓄は辛かったが。
推理に関しては特に妙な部分も見つからず。むしろ理に適ってて、良。
ラストのオチも非常に好みだ。気付いたときに「ああ」と思わず声を上げてしまう、そんなオチ。
「――言葉とは、騎士を失った空しい馬にすぎぬ」
偶像崇拝を厭うイスラム教。「言葉」も突き詰めれば偶像の一つである。
……これってネタバレ?
03.12.22
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「二度と会うことがないならば、離別と死別は等価である」
byマロイ・キャンベル
ボクにとっては天啓の一冊。
だが万人にはすすめない。
表面的にはイスラム神秘主義とミステリの融合なのだが、
ボクはここから1つの信仰すべく宗教観を見出した。
ボクは自分の死に方を考えている。
同時になぜ死は悲しいのかという疑問もずっと持ち続けている。
生物には等価に生死が訪れるにも関わらず
なぜ生は喜びで死は悲しみなのだろうか。
なぜ反対であってはいけないのだろうか。
ボクはそれが幼少からの教育や道徳ですりこまれた
結果誰も疑問を持たず同じ感情を共有しているのだと思う。
ただ単に別れるということが悲しいならば、
遠くへ旅し2度と会うことがない人との別れも
同じではなかろうか。むごたらしい死体や
正視できない苦痛が悲しみを誘うのだろうか。
喜びや祝福に囲まれた死というものがあっても
よいのではないだろうか。
ボクは、近い将来に死を求めている。
現在の状況が苦しく生きていてもつらいことが多いから
というのではない。喜びに満ち足りた仕事に出会い
すでに十分幸せであり、これ以上何も望むことがないからだ。
いつ死のうとも全く後悔のない人生であった。
そこで考えるのが死に方である。
周りの人に迷惑をかけることなく、
むしろ喜んでもらえるような
そんな死というのはありえるのだろうか。
特攻隊や自爆テロのように玉砕したいというのではない。
それでは一方の側が多いに悲しむことになる。
1つ考えたのは、全ての知人友人との縁を絶ち、
1人静かにこっそりガンジス河に流れるというものである。
天涯孤独なら誰も悲しむものはいない。
死体処理にわずらわせる手間もない。
がしかしこれではあまりにも後ろ向き過ぎる。
誰か、もしくは何かの生物の食料になるというのは
どうだろうか。
藤子F不二雄のSF短編「カンビュセスの籤」に
あるように、全く腐臭や死肉をともなわず
オートメーションで、人体からカロリーメイトのような
食品を製造する機械があったとしたらどうだろう。
さらにそれが、世界の貧しい子どもたちのその日を
生きる食料になるというのなら、
墓よりも進んでその機械に入りたい
という人は多いのではないだろうか。
ただ残念ながらそんな機械はまだ開発されていない。
倫理的にも法律的にも合法となるのは遠い未来のことだろう。
そして3つ目の死に方を提示してくれたのがこの本であった
前置き長くてすいません。
偶像崇拝を禁じたイスラム教の中で、
コーランの文字や師の存在さえも
偶像と考え排斥する超異端である
スワイフ派について語られている。
(実在しているかどうかは不明)
詳細は説明しづらいが、
スワイフ派の考える究極の掟というのが、
師を殺し、また自らも弟子によって殺される
というものである。
自分が師の命を絶つことで教義を達���し、
また自分も命を奪われることで、
弟子と自分の至福となり悟りを得るというものだ。
もしそんな信仰が本当に実在するのだとしたら、
覗いてみたい
そしてそこで死ぬのもありかもしれない。
とこの本を読んで考える人はまずいないだろうと
思うので他の方々にはおすすめはしない。
ちなみに冒頭の一句はボクの造語